著者
本田 敏雄
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.113-129, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
62

データ収集技術の飛躍的進歩により,説明変数の数pの非常に多い高次元データが得られるようになり,その統計解析が重要な話題となって久しい.そして代表的な解析手法であるLassoなどは,学部生向けのテキストにも紹介されるようになっている.またさらに,説明変数の数pが標本数nの指数オーダーと考えて差し支えないような超高次元データも,統計解析の対象になっている.この解説論文では,生存時間解析でもっともよく使われているといってもよいCox回帰モデルを中心に,(超)高次元の説明変数がある場合の生存時間に関する最近の研究について,著者自身の研究の観点から紹介する.
著者
大石 惇喜 白石 博
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-28, 2018-09-26 (Released:2019-04-02)
参考文献数
9

保険会社において,複合ポアソン過程に基づいた古典的リスクモデルを考えるとき,保険会社の余剰金がある境界を上回った部分に関して株主に配当として支払うという配当戦略問題がある.最適な配当境界は,破産時刻までに支払われる累積配当金現在価値の期待値を最大化するものとして与えられる.本論文ではまず,古典的リスクモデルを仮定し,サープラス過程(保険会社の余剰金を表す確率過程)のサンプルパスから最適配当境界の推定量をM-推定により構成する.M-推定量の一致性を示す際には目的関数の一様収束性が重要となり,それはGlivenko-Cantelliの定理として知られている.Glivenko-Cantelliの定理は関数の一様収束性を,関数族の大きさを測るエントロピーによって述べたものである.本論文では一様エントロピーの有界性を用いて関心のある関数の一様収束性を示すことで,構成した推定量の一致性を証明する.そのために,関心のある関数族が,関数の複雑度を表すVC-指数が3のVC-サブグラフクラスであることを示す.最後にシミュレーションを通して目的関数の一様収束性と,推定量の一致性について確認する.
著者
佐藤 忠彦 領家 美奈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-31, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
32

本研究は,同一説明変数に対する複数の異質な回帰係数を同時に推定可能にする階層ベイズ回帰モデルを提案し,その有効性を検証することを目的とする.提案モデルの有効性は,数値実験と実データを用いた解析で検証した.数値実験では,真のモデルを精度高く再現できるという意味で,提案モデルの有効性を確認した.また,POSデータを用いた実証分析では,提案した枠組みで市場反応を製品異質性と時点異質性に分解可能であることを示した.提案した枠組みは,反応係数の明示的な要因分解を実現し様々な社会科学現象のモデル化およびそのモデルに基づく意思決定で有効活用できる.
著者
塚原 英敦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.101-121, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
70

本稿では,21世紀に入り急激に注目が集まった接合関数モデルに関して,その本質的要素を簡単におさらいし,その歴史的展開を短く振り返った後,ファイナンス,保険数理,生存解析・寿命データ分析における応用例の検討を通じて,接合関数モデリングの特徴・利点・欠点を明らかにする.特に,2007–9年の世界金融危機において,接合関数モデルがどのような役割を演じ,どのような批判を浴びたのかについては,詳細に吟味する.
著者
劉 言
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.53-68, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
37

予測に基づく時系列の統計推測について考える.時系列の予測問題は調和可能安定過程を出発点として統一的に扱う.これにより,予測誤差と補間誤差はスペクトル密度関数の汎関数として表現することが可能である.スペクトル密度関数のモデルを当てはめることにより,予測誤差や補間誤差を最小にするコントラスト関数を導入する.多くの安定分布の確率密度関数は陽に表現できないため,時系列モデルの母数推定において最尤法を用いることが難しいが,コントラスト関数を用いれば,最小コントラスト推定量が母数の一致推定量となることが示せる.これに加えて,最小コントラスト推定量の漸近分布を示す.また,重要指標となる母数の仮説検定について,経験尤度比検定法を議論し,近年の理論的研究成果を与える.
著者
内田 雅之
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.245-273, 2022-03-03 (Released:2022-03-10)
参考文献数
105

離散観測データに基づく確率微分方程式モデルのハイブリッド型推定法および確率偏微分方程式モデルの適応的推定法について考察する.離散観測データを用いて確率微分方程式モデルの最尤型推定量を求める際に,疑似対数尤度の最適化を成功させるためには適切な初期値が必要である.初期値として縮約データおよび間引きデータを用いた初期ベイズ型推定量を導出して,その初期ベイス型推定量を用いて最尤型推定量を求める.この推定量をハイブリッド型推定量とよぶ.初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近的性質について示し,数値シミュレーションによって初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近挙動について検証する.次に,高頻度時空間データを用いて微小撹乱パラメータをもつ2階線形放物型確率偏微分方程式モデルのパラメータ推定問題を取り扱う.確率偏微分方程式モデルの未知パラメータの適応的推定量を導出し,得られた推定量の漸近的性質について考察する.さらに,大規模数値シミュレーションにより,適応的推定量の漸近挙動を検証する.
著者
伊藤 伸介
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.109-138, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ヨーロッパ諸国の中で,北欧諸国を中心に行政記録情報に基づく「レジスターベース」の統計作成システムが確立されてきた.デンマークのような北欧諸国やオランダのような国々では,学術研究のための行政記録情報の利用サービスも展開されている.それに伴い,行政記録情報の1つである医療健康データへのアクセスを可能にするための仕組みも整備されてきた.本稿では,デンマークとオランダの事例をもとに,行政記録情報としての医療健康データの二次利用の展開方向を洞察する.デンマークやオランダにおける医療健康データの二次利用の特徴は,IDによって各種のレジスターデータをリンケージした上で仮名化された医療・健康に関するデータの利用が可能になっていることである.これらの事例は,わが国における行政記録情報の利活用のあり方を検討する上でも参考になる点が少なくないと思われる.
著者
木村 映善 大寺 祥佑 佐々木 香織 黒田 知宏
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.47-80, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
80
被引用文献数
1

我が国は超高齢化社会に伴う医療費の拡大を控え,政策に資するエビデンスを導出するために,外的妥当性が高いと期待されるReal World Dataを用いた研究に注目しつつある.次世代医療基盤法の認定事業者は2019年末に第1号が認定されたばかりであり,管理,匿名加工,データ提供の方法論を模索中である.一方包括的かつ悉皆的な医療情報の収集体制を制度的に実現したフィンランドは,オプトアウト方式で全国の医療機関から個人番号つきで患者情報を収集し,様々なデータソースから個人番号を用いた個人単位のデータ連結を行い,二次利用用途に匿名化したデータを提供している.まさに認定事業者が担わんとしている役割を先行的に実現しているところであり,同国の現状を知ることは 我が国における今後の医療情報に関する政策の方向性を検討する上で,有意義であると推察される.渡航及び文献調査にもとづいて,フィンランドの健康医療情報に関するレジスタ,制度環境,匿名加工に関するガイドラインならびに最近の動向を紹介する.
著者
佐々木 香織 大寺 祥佑 木村 映善
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-108, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
40

わが国では診療情報の二次利用を促進する「次世代医療基盤法」が2018年5月11日より施行された.この法律により「認定事業者」なる機関が,日本全国の施設から診療記録を収集・保管し,更に膨大なデータから医療統計を用いた研究を行う専門家に対して「認定事業者」が匿名加工を施したデータを供与することが可能となった.イギリスのEnglandでは我が国に先んじて,Care dot Data(2013–6)という医療データの二次利用を促進させる政策を実行したが,市民からの信頼を得られず逆に不信感をつのらせ,2015年に一時中断し2016年には正式に廃止する結果となった.ところが2015–6年よりNHS Digitalを中心として,新たな制度と基盤を構築し始めたところ,その政策は成功を収める結果となった.そこで本稿はEnglandにおいて政策的失敗後に,如何にしてより包括的でより正確な医療統計を可能とするような医療情報の二次利用の基盤や社会システムを整備し,政策的成功へと導いたかを議論する.その目的はEnglandの経験や知恵が日本にどのように活かすことができるかを考察し,我が国により良い制度が構築できるよう提言することである.なお本稿における論考は専門家と専門知が如何に現代社会を支えているかを論じたルーマン(1990),ギデンズ(1993),ベック(1998)に依拠し,医療統計をはじめとした様々な統計の社会的な役割を含め,専門家と専門知に支えられた今日の社会秩序の構築と,それらに対する市民からの「信頼」に関する課題を視野に入れて進められる.
著者
縄田 和満
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-94, 1992 (Released:2009-01-22)
参考文献数
25

In recent economic studies, Tobit models (censored regression models) in which the dependent variables cannot be negative are widely used. Although the Tobit models are usually estimated by the maximum likelihood method, the estimator is inconsistent under heteroscedasticity and nonnormality of the error terms.Powell [1984] proposed a modified least absolute deviations estimator which is strongly consistent under heteroscedasticity and nonnormality. One of the major problems of Powell's estimator is its computational difficulty. Since the minimand is the complicated form, we cannot use standard methods to caluculate Powell's estimator.In this paper, I consider a new algorithm and evaluate Powell's estimator by the Monte Carlo experiments.
著者
芦川 敏洋
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-45, 2020-09-30 (Released:2020-12-10)
参考文献数
23

日本経済の潜在成長力や成長可能性に関する先行研究は数多く取り組まれているが,県レベルでの(セミ)マクロ経済分析になると,データ上の制約もあって限定的となる.そこで,本稿では,資本ストックデータを独自に試算し,47都道府県それぞれの潜在GDPとGDPギャップの推計を試みる.さらに,その推計値を活用する形で,近年の市場経済における長期停滞の要因を解く「長期停滞論」の視点から仮説を設定し,地域経済圏域を分析対象にして検証を試みる.国内の多くの県において「需要不足による長期停滞」なのか,特に東京都を中心とした東京大都市圏はその傾向が顕著なのか,それとも,それ以外の地方圏では「供給不足による長期停滞」であるのかを,潜在成長率やGDPギャップの動きなどに関する実証分析を通じて明らかにする.
著者
澤 正憲
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.179-211, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
61

実験計画法の分野において,モデルの関数形やその関数の積分値を推定するために,与えられた標本サイズのもとで最適な点配置を求める研究がなされてきた.特に超球体の表面あるいは内部で定義された関数の積分値の推定に関して回転可能計画 (rotatable design) を用いる研究領域がある.回転可能計画やその類似概念の研究は,統計的観点のみならず,数値解析学における求積公式 (quadrature) や組合せ論におけるユークリッドデザイン (Euclidean design) の研究領域において独自に展開されてきた.本稿では,回転可能計画,ユークリッドデザインの研究領域を探訪しながら,高次元の(矩形)求積公式の構成理論を概観する.また種々の実験計画法を求積公式の枠組みで再構築する意義として,応答曲面モデルが多項式である場合に,Box-Behnken計画,中心複合計画,Doehlert計画などの古典的な応答曲面計画で表現可能な近似多項式の最大次数の上界が得られることをみる.
著者
浅井 学
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.215-238, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
52

Realized Stochastic Volatility (RSV)モデルは,金融資産のボラティリティ・モデルの推定において,収益率と実現ボラティリティの両方の情報を使うため,SVモデルに比べて効率的な推定を行うことができる.RSVモデルの推定には,ベイジアン・マルコフ連鎖モンテカルロ法やモンテカルロ尤度によるシミュレーション最尤法を用いる方法が主流であるが,本研究ではカルマン・フィルターによる疑似最尤法について検討する.特に,単純なRSVモデルについて,効率性の比較を試みる.またボラティリティのモデル化において重要な性質である,非対称性・長期記憶・裾の厚い分布という3点について,RSVモデルの拡張を紹介し,カルマン・フィルターによる推定方法を説明する.最後に,アメリカ・イギリス・日本の株価指数のデータについて,さまざまなRSVモデルを用いて実証分析を行った結果を報告する.
著者
大森 裕浩
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.177-198, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
21

本稿では,多変量の金融資産収益率のボラティリティ・モデリングのために,これまでの研究で提案されているいくつかの確率的ボラティリティ変動モデル・実現確率的ボラティリティ変動モデルを取り上げ, ベイジアン・アプローチを用いてマルコフ連鎖モンテカルロ法によるモデル・パラメータの効率的な推定方法について紹介する.
著者
金森 敬文
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.97-111, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
15

密度比は2つの確率密度の比として定義され,さまざまな統計的推論と関連し,応用されている.本稿では,まず密度比の推定法について紹介する.また密度比を用いて,2つの確率密度の非類似度を測る尺度であるダイバージェンスを推定する方法について解説する.さらにダイバージェンス推定を2標本検定に応用した結果について述べる.理論的考察や数値実験を通して,提案法の優位性を示す.
著者
森岡 渉 岡部 篤行 貞広 幸雄
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.115-131, 2019-09-30 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

店の出店や閉店の戦略をたてる立地マーケティングにおいて,地域の店の盛衰状況動向を分析することは基本的な分析である.そこで,本研究では,盛衰動向状況の基礎的分析として,ジニ係数を活用した地域内の店舗立地集中度測定法を提案する.その方法は,基本的にジニ係数を踏襲しているが,新たに,順序統計量を用いて店舗の空間偏在度を統計的に検定する方法と,ジニ係数を求める際に用いるローレンツ曲線を活かして,店舗が集中している「ホットスポット」を検出する方法を開発した.それらの方法を,電話帳から得られる東京都渋谷区内の各4分の1地域メッシュ(250~mメッシュ)に含まれる各種店舗数データに適用し,渋谷区における店舗施設立地の全体的な集積度と局所的な集積度を測定し,方法の有効性を確認した.
著者
宮津 和弘 佐藤 忠彦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.113-146, 2019-03-29 (Released:2019-10-07)
参考文献数
34

心理会計のもとでは,経済学の原理である金銭の代替可能性が完全には成立しておらず,同じ金銭的価値の財でも,消費者の使用目的や購買状況に応じて,異なる価値基準を有する.本研究では,心理的状況の変化を心的負荷と在庫金額という二つの潜在指標で捉えてモデル化し,消費者の内面的要因が来店間隔に与える影響を解明する.これにより,一見非合理的とも思える消費者の購買行動を,行動経済学の観点から理解する.本提案モデルでは,心理的状況を閾値変数とした閾値型モデルに消費者の異質性を階層ベイズの枠組みで取り込み,マルコフ連鎖モンテカルロ法で推定する.小売店舗のID付POSデータを用いて実証分析した結果,消費者の購買行動には心理的状況が影響し,来店間隔の生起メカニズムに差があることを示した.
著者
近藤 恵介
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.69-98, 2015-09-30 (Released:2016-05-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

先行研究において日本の失業率の地域間格差は徐々に減少していることが指摘されている.そこで,本論文では,人口移動が地域労働市場間の調整としてどのように機能しているのかを1980年から2010年までの市区町村データを用いて実証的に明らかにする.本研究の特徴は,空間計量経済モデルを用いることで,人口移動の地域間の相互従属性を同時に考慮している点である.分析結果より,高失業率が人口移動のプッシュ要因として機能していたこと,また人口流出率と人口流入率がそれぞれ正の有意な空間従属性を示すことを明らかにしている.さらに,相対失業率の変化率と人口流出率の間には負の相関関係があることも明らかにしている.以上の分析結果から,失業率の高かった地域から失業者が流出することで翌期には失業率が低下し,一方で,失業率の低かった地域では失業者の流出が十分ではなく翌期には失業率が上昇していたことが失業率の地域間格差縮小の背景として示唆される.
著者
笠原 博幸 下津 克己
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.451-470, 2015-03-26 (Released:2016-02-12)
参考文献数
43

動的離散選択モデルを用いた計量経済分析では,観測されない異質性を適切に扱うことは重要な課題である.有限混合モデルは観測されない異質性を柔軟に扱うことが可能なため,多くの動的離散選択モデルを用いた実証研究において使用されてきた.しかしながら,近年までは,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別の可能性に関しては,研究成果が乏しかったこともあり,否定的な見解が一般的であった.本論文では,Kasahara and Shimotsu (2009, 2014a)の内容をレビューし,有限混合モデルを用いた動的離散選択モデルのノンパラメトリック識別を可能とする比較的現実的な(時系列の長さ・定常性・一次マルコフ性などの)十分条件を紹介する.また,有限混合モデルにおける要素数の下限値の識別条件とその推定方法に関しても議論する.