著者
西郷 甲矢人 酒匂 宏樹
出版者
京都大学数理解析研究所
雑誌
数理解析研究所講究録 (ISSN:18802818)
巻号頁・発行日
no.2010, pp.1-23, 2016-12

本稿では、古典的な直交多項式の漸近挙動が逆正弦法則という確率論で重要な確率分布と普遍的なつながりを持っていることを示す。我々の議論の舞台は、量子確率論(非可換確率論もしくは代数的確率論ともよばれる)の基本概念のひとつである「相互作用フォック空間」である。相互作用フォック空間とは、端的にいうならば、一般化された正準交換関係をみたす生成消滅演算子のシステムである。「量子数無限」の極限において、この交換関係が「漸近的に消える」という現象が一切の核心にある。すなわち、「量子古典対応」の数理が、確率論と直交多項式の理論をつないでいると見ることができるのである。さらにこの「漸近的な消え方」を少し一般化してみると、一見逆正弦法則と似ても似つかない(しかし実は深く関連した)、ひとつのパラメータcで特徴づけられた離散的な分布が現れるが、これは量子ウォークという研究分野で知られていたものであった。本稿で概観するこれらの結果は、上に述べたような量子古典対応の数理が、数学の諸分野を横断する原理となりうることを予感させる。(省略した証明については論文[14] を参照のこと。結果もすべてこの論文に基づくものである)