著者
藤本 一男 山尾 貴則
出版者
作新学院大学 作新学院大学女子短期大学部
雑誌
作大論集 = Sakushin Gakuin University Bulletin (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.5, pp.385-409, 2015-03-15

概 要 本稿は、本学人間文化学部で開講されている「社会調査及び実習1」で実施された調査の報告である。調査のテーマは中学生・高校生の携帯電話利用実態の把握であるが、前回、前々回(2013、2012実習)と同様に、それらを踏まえながらも「携帯電話利用の中からどのようなコミュニケーション・ルールが見出されるか」を中心的な調査課題としている。今回は更にLINE利用に関する質問を追加し、対面/非対面コミュニケーションの選択が、性別や学年(年齢)といった回答者属性によるものと、LINEなどの利用/非利用によるものに区分できる可能性の示唆を得た。加えて、それを踏まえて、リテラシー教育の課題をさぐる手がかりを提示する。
著者
西田 直樹
出版者
作新学院大学 作新学院大学女子短期大学部
雑誌
作大論集 = Sakushin Gakuin University Bulletin (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.6, pp.81-93, 2016-03-15

2015年10月、作新学院大学において実施している「とちぎ学」の授業において、現宇都宮市(旧芳賀郡清原村)出身で太平洋戦争時に沖縄県警察部長を務め、沖縄県民の避難・保護に尽力した荒井退造(1900~1945)を「特別授業」の形で取り上げた。作新学院大学(高等教育機関)において行っている「とちぎ学」の取り組みと荒井退造についての人物学習及びその位置づけについて論じた。
著者
天尾 久夫
出版者
作新学院大学 作新学院大学女子短期大学部
雑誌
作大論集 (ISSN:21857415)
巻号頁・発行日
no.5, pp.311-334, 2015-03

[要約] 前民主党政権で交渉参加表明のあったTPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋戦略的経済連携協定)1)も現在最終局面を迎えている。地元メディアで注目されていないが、実は北関東地域の農業に大きな衝撃を与えると予想される。しかし、ミクロベースで見たとき、個々の農業従事者はそれほど騒ぐことも少なく、淡々と日常の農業に従事している。その格差に関心を持ったのが、本論文の執筆動機であった。 私の世代で「農業経済学」という分野は一昔前の旧いイメージが付きまとい、私もその誤った感覚から、この分野の議論・研究を控えていた感がある。TPP交渉の国内発表で、官庁の提示するTPPの参考資料を散見すれば、例えば、国内の農産物の需給推計の手法など、あまり経済学の知見は活かされていないように思う。これは、農業向けの給付や補助金を予算編成のため推計するので、逆算して数量の推計が行われたいたようにも思う。言い換えれば、数字に「政治・行政」の差配が色濃く表れている。そうした資料提出の姿こそ、現行の日本の農業政策の姿が色濃く反映しているのかもしれない2)。 さて、農業経済学の先行研究では、農業問題は経済学の議論として極めて簡明な施策を提示している。◦生産性の低い農業従事者とりわけ兼業農家をどう扱うのか◦農業の生産性をどのように向上させるのか(減反政策との整合性)◦主要産品の米の生産調整をどうするのか(減反政策) すべての農業従事者に手厚い助成を与える施策は、政・官に魅力的な利益を供与することにつながる。本稿では、今でも、農業政策の基本政策である「減反政策」が、零細農家に補助金事業を含め所得補償し、日本に永続的に小規模農家(小規模農業経営体)を存続させるという意味で有効な政策と指摘できる。本論で指摘する結論は、政策目的の経年変化を通じて、農業政策の抱える問題を明示することを目論んだものである。 さて、TPPの締結で農業問題が、急に大問題として浮かび上がったかのように錯覚を起こす者も多かろう。しかし、実際には、日本が自由貿易の利益を享受するため、国際間の貿易協定を締結する度に、日本の農業は協定に沿って変化しただけなのである。 本稿の結論だけを述べれば、減反政策は米の生産性、特に収穫減を引き起こすということにほとんど影響していないことが分かる。言い換えれば、日本国内の米の保護政策のため、食用米以外の目的の米を作れば、転作助成金が得られるため、減反すれど米の供給量は減らないだけでなく、規模の経済性による生産性上昇の妨げになっている。 本稿では、日本の農業政策の時系列の変化から3期間、1960年代から70年中盤、70年代後半~80年代、90年~2010年までに分けて、現在の農業政策で、「減反政策」が収穫量(生産)に及ぼす効果を簡単な計量経済学モデルで分析することにした。生産関数は、一般に土地という生産要素を考慮しないが、農業では「土地」は生産要素として重要な役割を担うので、作付面積を加えて生産関数を推計することにした。その効果の経済学的解釈については異論はあろうが、私は農業技術が土地の増産効果に含まれると解釈している。これについては更に研究の深化が求められる。 結論だけを述べれば、高齢化が進む日本の農業の姿がモデルにも現れている。労働・資本の投入により、農業の生産性(収穫量)はわずかだが上昇するが、その効果は近年落ち込んでいることが分かる。また、減反は生産性(収穫量)を押し下げる効果がある期間に顕著に現れている。なお、農業に係わるデーターは農林水産省の発表した数値(総務省のe-stat)から推計を行った。本稿では極力、日本全体の米生産に関する生産関数の基本的な形状を簡便に示すことに努めた。 私の従来の専門は地域金融機関の研究なのであるが、農業への資金の貸出、決済などの業務はJA(農協)の独占状態となっている。この研究の最終目的は、JAの考察にあり、このまま歴史的優位性と農業の特殊性に甘えて、独占的な立場であり続けることが、日本の農業にとっても、日本の金融にとって相応しいことなのかという疑問も心中に残っている。少なくとも、私は、JAが金融機関であるならば、国内の農業事業をどのように審査し、与信業務を行うかについて明確にすることが必要と考えている。それが農業に関わる金融の未来像を描くことになると考えているからである。最後に、あえて注意を喚起しておくが、本稿で私はJA組織を非難するといった意図は全くないことを、議論する前に述べておく。1) TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership AgreementまたはTrans-Pacific Partnership)は環太平洋戦略的経済連携協定と言い、日本国は2010年10月に参加を検討すると表明した。もともと、2005年シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヶ国間で始まり、調印し、2006年発効したものであった。2011年にアメリカ、オーストラリア、ベトナム、マレーシア、ペルー、カナダ、メキシコが加盟交渉国として、原加盟国との拡大交渉会合に加わった。そして、日本も2013年にTPPに参加し、現在、12ヶ国で交渉となった。この交渉は2014年内の加盟国で最終交渉、妥結を目指し、現在に至っている。これは性質上、多角的な経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)と呼ぶこともできる。2) 農林水産省[5]、[6]、[7]、[8]参照。これらの報告書は農林水産省のホームページより入手できる(2014年12月現在)。