著者
中村 将人
出版者
北海道大学大学院経済学研究院地域経済経営ネットワーク研究センター
雑誌
地域経済経営ネットワーク研究センター年報 (ISSN:21869359)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.61-74, 2020-03-30

寿都鉄道は,大正期から昭和中期にかけて北海道後志地方に存在した局地鉄道であり,国有鉄 道に買収してもらうことを前提に,当面の輸送手段確保のために地元資本によって敷設された当座企業 であったと言われる。大正期の鉄道業では減価償却が実施されつつあったが,その根底にあるのは「継 続企業の公準」であり,換言すると安定的な減価償却は継続企業性を示す指標であった。寿都鉄道の減 価償却実務を分析すると,処分可能剰余金に感応的な計上額ではあるが減価償却を実施しており,未成 熟ながらも継続企業性を模索していたことが判明する。
著者
濱田 康行
出版者
北海道大学大学院経済学研究院地域経済経営ネットワーク研究センター
雑誌
地域経済経営ネットワーク研究センター年報 (ISSN:27580695)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.135-156, 2022-03-30

資本主義の弔鐘がなる,という150 年前のマルクスの言葉が聞かれるようになった。左翼思想の側からだけでなく,いわゆる体制派と思しき人々も,この世の終わりをつぶやくのである。こうした言動の背後には,人々の耳目を引きたいという動機もあろうが,それだけではなさそうである。株価を除けば,資本主義のほぼ総ての指標は衰退をしめしている。加えて,物質の豊富さとは裏腹に,多くの人々にとってこの世は住みにくくなっているらしい。幸福論という,やや,怪しげなものだけでなく,社会学の研究が示す様々な統計に,それは示されている。しかし,である。鐘が鳴り止んだ後の,経済・社会の姿が皆目,わからないのである。誰もそれを語らないまま,日暮れの鐘撞場から去っていく。予想が社会科学の任務でないことは,そのとおりだが,人々が不安に思っているときに,来たるべき社会の輪郭を科学的な考察に基づいて示すことは,必要だろう。存在意義という言葉はこういうときのためにある。私の専門は,ここにない,などと言ってはいられない。本稿は,こうした問題意識ではじめた研究会の二番目の成果である。ひとつ目は,社会学者との共同研究であったが,今回は近い将来の合流を意識しつつ,それぞれのテーマを設定した。対象は,株式市場である。最初の考察対象が株式市場なのは,それが資本主義の生みだした最大,最強の装置だからである。これがあってこそ,巨大な投資が可能となり,大きな生産設備,インフラがつくられた。では,鐘がなり終わった後,この巨大装置はどうなるのか?どうすべきか?ドイツの社会経済学者,G・コルネオ,日本の在野の研究者,平川克美,廣田尚久の主張を検討しつつ,マルクスの残した,否定の否定の命題に沿って,株式市場の将来を考えてみたい。
著者
濱田 康行 川島 一郎
出版者
北海道大学大学院経済学研究院地域経済経営ネットワーク研究センター
雑誌
地域経済経営ネットワーク研究センター年報 (ISSN:21869359)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.65-91, 2021-03-26

状況(2021年初頭)を見れば,まさに大災害:Disasterに見舞われている。世界のコロナ感染者数と死者数をみるだけで,それは明らかである。そして,経済は深刻な不況であり,2021年が明けて一段と深まる気配だ。しかし,2020年11月,あらゆる状況が悪化する中でダウ平均株価は“夢の3万ドル”を達成した。この状況を理論に基づいたフレームワークの中で,かつデータに基づいて分析するのが,一連の研究の目的である。課題は二つに分けられる。第一は,株式市場の繁栄が人々の幸福・経済の状況とあまり関係がないように見えるが,それはなぜか?国際決済銀行(BIS)のレポートの表現を借りれば,Disconnected(非関連)なのはなぜか。第二は,そもそも,この高株価を生み出した要因は何か,特に内的要因を探ることである。第一のテーマは,2020年8月に発表した論文が,そして第二のテーマを本稿が扱っている。第1節では,株価を決定するのは,基本的に当該企業の業績・収益の状況によるとする株価第一原則について解説する。第2節は,過去のデータから株価の算定式を導き,この式でダウ平均3万ドルを判定している。今回の株高がバブルなのかどうか,それを問う試論である。第3節では,株価第一原則だけで説明できなくなった時に浮かび上がってくる要因について述べ,さらに,この要因の説明力を強める状況を示す。ここで従来の株価理論へのいくつかの疑問も呈示している。第4節では,マクロ的視点から,以上展開したことを総括する。金融概念図を使って株式市場の概念的位置の移動があったこと,その原因のひとつが株式市場の巨大化であることを主張している。最後に,全体のまとめ,および今後の研究方向を示してむすびとしている。