著者
中村 秀
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-17, 1987-12-25

本稿では,わが国においては今まで殆ど述べられていなかったゲシタルト心理学の創唱者Max Wertheimerの生涯につき,詳しく述べた。1)彼は1880年のプラーグのユダヤ系の家庭に生れた。母方の祖父が大きな影響を与え,10才のときこと祖父はすでにSpinozaの書物を与えている。幼時から彼はピアノに優れた才能を示し,母もバイオリンに巧みであった。父は独学で実学的な研究を積み,商業学校を経営して大いに成功をおさめ,その蓄えた財力が後に彼が永年にわたる各地への遊学を支えたと思われる。2)彼は学業にすぐれ,ギナジゥムでも,はじめ4年間はすばらしい成績を示したが,その後複雑な社会情勢の影響もあって学業が急に悪化し,家庭でも宗教的なしきたりに反撥して両親を怒らせ悲しませたこともある。この間,急進的なグループとも交ったらしい。3)大学はプラーグ大学,ベルリン大学,そしてヴュルツブルグ大学へと転々とした。この間,心理学,哲学,論理学,認識論のほか,広く音楽,数学などの研鑽を積んでおり,その範囲の広いことは驚くばかりである。その中でも彼にとってベルリンでの生活は最良のものであった。4)彼は父の要望もあって,早くPh.D.を取ろうとしてヴュルツブルグ大学に移り,直ちに1904年最優等の成績でPh.D.を得たが,その論文は,言語連想法を含んだ「事実診断学について」であり,その後もこの方面の研究を続行したがついに公刊を見なかった。彼はPh.D.取得後,就職するまでの間,各地の大学,研究所で生理学,精神病学の分野も含めて広く研究していたことは,何れもその結果が在来の理論への不満や批判となり,やがて新しいゲシタルト理論を醸成するのに与って力あったと思われる。5)早くから彼は音楽に関心があって,ベルリンの原始民族の音楽集録に関心をもっていた。またEhrenfelsやMarty教授の言及するところに影響をうけて,インドの哲学,論理学にも関心を抱いていたらしい。セイロンのVedda族の音楽や原始民族の数概念についての研究は早くからまとめていたらしいが,それらにはゲシタルトの考想が十分に認められる。しかし彼はこれをHabilitationのために用いなかった。大学教授資格認定の論文には適当でないと考えたからである。6)それよりも彼は科学的手法を用いて,誰もが納得せざるを得ない決定的な現象として運動視の実験的研究を行い,ゲシタルト説の根本理念を確立した。これによって彼はゲシタルト心理学の創唱者と呼ばれるに至った。7)彼はその初期の画期的研究があるにも拘らず,ベルリン大学の正教授には,彼より年少のKohlerが就任し,自分はその年1922年,員外教授に昇進しただけである。これは彼の寡作の故にということのほかに,反セミ主義その他が影響したといわれる。彼はフランクフルト大学で,おそらく1929年,教授となった。8)彼は1933年,ナチスの圧迫を逃れてアメリカに渡り,ニューヨークの新社会調査学校に迎えられ,1943年死去するまでそこで教え,生産的,鼓吹的な講義を行った。
著者
中村 秀
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-12, 1988-12-25

1)Max W.は1933年9月13日アメリカに到着してから間もなく家族はNew RochelleのThe Circle 12番地に落付いた。その秋から彼は新社会調査学校、別名「亡命者大学」Univ. in Exileの教授として講義した。それはドイツ語で行ったが早くも1934年春には英語で行った。最初2年間は英語で大いに苦労し、wholeとholeのちがいは発音で示すことができないので,いつもwholeという語を黒板に綴って示すほどであった。2)「新学校」では図書,設備,実験器具が不十分なため,それを補う努力をし,また研究方面もドイツにおけるよりも多方面に拡げた。しかし彼の教授態度にはドイツにおけると同じものがあった。彼に接する研究者,大学院生は彼からinspireされるものが少くなかった。彼の家には研究者,大学院生がよく集まり議論をよく行った。家庭では彼はこどもに献身的な父親であった。3)彼は真理,社会的正義,デモクラシー,自由に対して強い関心をもち,彼がアメリカで出したpaperは何れもこれらを扱ったものである。彼は解職された学者をアメリカで職につけるために,その方面の委員会に積極的に働きかけて努力したが,一般の空気は反ユダヤであり,経済的不況の影響もあった,十分な成果は見られなかった。4)彼は「新学校」の他に,コロンビヤ大学と密接な関係をもち,そこで講義もし,指導審査も行った。彼はアメリカ東部の諸大学のみでなく,中部,西部の諸大学にも出かけて講義し,亡命者の再就職への努力や学生への指導推薦にも力を致した。彼のこのような旅行,講演はゲシタルト心理学の理解に大きな助けとなり,彼は学者として,また鼓吹的教師としての名声を得た。そして1943年10月12日New Rochelleで死去した。63才であり,渡米以来10年の教授生活を送ったわけである。
著者
河南 恒子 三木 早苗
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.93-110, 1989-12-25

食に関わる諸因子を心理的な側面から分析し、食に対する順応性や弾力性をみるために、女子短大生400名を対象に嗜好因子テスト、料理のセンステスト、食欲因子テストを行い、次の結果を得た。1)嗜好因子テストの結果、女子学生の約半数が嗜好第2度に属し、献立や調理についての知識や技術を中等度身につけ、食生活に関する社会的配慮や生理学的・心理学的な諸反応においても中等度の傾向を示していた。2)専攻別における嗜好指数、料理のセンス指数、食欲指数は食生活2と栄養士1の学生が高く、食に対する順応性、志向性が強い傾向がみられた。3)料理のセンスの因子分析では、清潔や整理・整頓については約半数以上の学生が積極的に実行しているが、稽古については積極的な態度に欠け、創意する努力も少なく、季節感が乏しく、美的関心がうすい。生活環境の変化に対して敏感なものが少ないように思われる。4)保育専攻の学生は他の専攻学生に比べて各因子指数が低く、他の専攻学生と指数間には有意差(P<0.01)が認められた。5)食に対する教育環境の違いが嗜好や料理のセンス・食欲に大きく影響することが推察される。
著者
内田 直子
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.1-8, 2005-03-31
被引用文献数
1

日本と韓国、男性と女性の各々二者間のイメージの差の結果から、服装イメージの違いは、同じ文化の土壌にある男女間の性差より、異国間での民族文化や習慣の差のほうが大きいことが伺えた。つまり、全体として国民性やその文化の要因がかなり影響しているのではないかと考えられる。その相違には、ビビッド系の色使いのものに対しての捉え方が、日本は、かなり派手、華やかに捉えているのに対し、韓国はそれほどでもなく、これは、鮮やかな色彩のチマ・チョゴリなど、目に触れる機会が生活の中にあるからと思われる。民族衣装へのイメージも、それを着用する国の人と、それを評価する他の国の人とでは、必ずしも一致するイメージを持っているわけではないことが認められた。同じ日常着でも、男女共に着用しているものであれば、その服装の「使い方」「使う場所」の範囲との関連のためか、異国間だけでなく、さらに男女間でもイメージが異なることが明らかとなった。
著者
水野 千恵 入江 久代 高木 良助 大鹿 淳子
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-8a, 1989-12-25
被引用文献数
1

(1)ヤーコンは、水分が多く、食物繊維、還元糖量が高く、無機成分に富んでいた。(2)ヤーコンは、「揚げる」という操作により、食物繊維含有量が非常に高い加工食品ができた。この食品は食物繊維を供給するための機能性食品となりうる。また、でき上がったヤーコンチップは、外観、食感もよく、甘味、うま味もあり、塩分を添加する必要がなかった。(3)ヤーコンチップは、厚さ1.5mmの輪切り、水浸時間15分間、油800gに対してヤーコン50g(1.5mm厚さ16枚)を投入した場合、外観は160℃で3.5分揚げたものが適し、味覚は150℃で4.0分揚げたものがよかった。
著者
松村 冨美子
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.29-39, 1989-12-25

This study is aimed at discovering a new sewing technique whereby Japanese yukata can be made safe from seam puckering after washing. The following experiments were conducted in this present investigation : Two yukatas, one sewn by hand, the other by machine, were made, using the same two types of thread. These samples were examined to study the phenomenon of seam puckering both before and after washing. Our findings are as follows : 1) There is no great difference in seam puckering observed between hand-made and machine-made yukata after washing. 2) However, it is clear that machine-made yukata exhibit a little less seam puckering than hand-made yukata. 3) Moreover, concering partial seam puckering after washing, our research shows that three parts of a yukata, namely, sode-guchi, sode-furi and eri-shita are more prone to seam puckering than the other parts of a yukata. Thus, this experiment demonstrates that it is clearly necessary to develop a new sewing technique that will guarantee that the three above-mentioned parts of a yukata are made safe from seam puckering after washing.
著者
森田 健宏
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では幼児期のメディア利用について(1)現行の幼児向けメディア機器のインタフェースデザインと操作性について、(2)一般的なPCがどの時期から利用可能かを、幼児向け機器からの移行教育のための基礎的研究を目的に調査している。まず、研究1では、現行の幼児向け機器としてS社製およびE社製の幼児向けコンピュータをサンプルに、デスクトップの構成調査とユーザビリティ検証を初期利用者を対象に行った。主な結果は、S社製については基本的にペンタブレットの操作スタイルであることから、初期利用者にとってユーティリティ性、習熟容易性に優れているが、モニタ画面と操作パネルの視点移動頻度は少なく操作パネルに長く注視しやすいことが確認された。一方、E社製については、マウス及びキーボードによる操作で各アイテムに子ども向けキャラクターデザインが利用されていることから長時間利用が好まれていたが、習熟までの視点移動頻度が高いこと、アイコン選択などのマウス操作にプレなどの誤操作が見られた。次に、入力デバイスの操作性について、マウス、ペンタブレット、および手描きによる円描写の操作内容を実験的に比較検討した。その結果、カーソルを始点へ同定させる所要時間がマウスはペンタブレットやクレヨンよりも多く要すること、円模写の軌跡からマウスとペンタブレットでは異なる部分で操作が困難となることなどが確認された。一方、研究2では、デスクトップ上のフォルダとファイルの操作、フォルダの階層性の理解について調査を行った。その結果、3歳児の場合、上位階層において階層性が視認できるデザインであれば内包される対象が特定できるが、フォルダの内包性が視認できず、かつ下位層でもフォルダデザインに変化がない場合、3階層以上のファイル特定は困難であるが、フォルダの色ラベリングの効果によりファイル特定が可能になるケースもあったことなどが確認された。
著者
中広 全延
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.51-63, 2002-03-25

セルジュ・チェリビダッケとカルロス・クライバーは、完全主義者である点が共通しているが、異なる点も多い。ここでは、両者を対比し差異を抽出して、彼らの病跡学的考察を前進させることを試みる。チェリビダッケは、完全主義ゆえに通常をはるかに超える練習量をオーケストラに要求した。さらに、彼が練習狂になった心理的側面として、自我における自信の欠乏も考えられる。その自信の欠乏による不全感は、彼に攻撃性を発動させた。それは、発揮方法も対象も平明であり、直接的な陽性の攻撃といえる。クライバーは、しばしば公演を正当な理由なくキャンセルする。彼のキャンセル癖は、完全主義に起因する退避行動と理解できる。キャンセルして、周囲の期待を裏切り失望させることが、彼の攻撃衝動を満足させると解釈される。この間接的な陰性の攻撃の標的は、常にクライバーの内面に影を落としている大指揮者であった父エーリヒではないかと思われる。また、自分がキャンセルしたことを無視するかのごとくであるのは、否認の心理が働いているためと考えられる。
著者
田中 恵子 池田 順子 東 あかね 入江 祐子 松村 淳子 杉野 成
出版者
夙川学院短期大学
雑誌
夙川学院短期大学研究紀要 (ISSN:02853744)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.1-11, 2004-03-17
被引用文献数
1

青年期女性のやせの者の生活習慣上の問題点を明らかにすることを目的として、15〜29歳女性住民415人を対象とした生活習慣調査を行い、やせと生活習慣との関連をFisherの直接法と重回帰分析により検討した。やせの割合は、15〜19歳、20歳代の順に31.3、23.0%であった。普通体型で自分の体型を太めに評価している者に、ダイエット経験者(現在ダイエットをしている者と過去にしていた者)の割合が有意に高かったことから、青年期女性において適正体重に関する健康教育が重要であることが改めて示された。15〜19歳では、食生活に関する幾つかの項目で、好ましくない習慣を有する者にやせの割合が高いという結果が得られた。やせの者に食品の組み合わせについての意識が低い傾向がみられたこと、ご飯、その他の野菜(緑黄色野菜を除く野菜)、牛乳・乳製品の摂取頻度の低い者にBMIが有意に低いという関連がみられたこと、さらに総合的な食品のとりかたの評価指標であるバランススコア平均値がやせで低い傾向を示したことから、10歳代後半のやせの者に対するバランスのとれた食事摂取という健康教育をおこなう必要性が改めて示された。20歳代においては、喫煙習慣を有する者ほどBMIが低くなる傾向がみられたことから、喫煙が体型および健康に及ぼす影響について正しい認識をもたせて禁煙教育を積極的にすすめていく必要性が高いと考えられた。食生活では、15〜19歳に比べて、やせと関連する問題となる習慣は少なかったが、バランススコア平均値が、普通に比べてやせで低い傾向を示したことから、15〜19歳と同様にできるだけ多様な食品をとることの重要性を示していく必要性が高いと考えられた。