著者
川嶋 辰彦 西川 友美子
出版者
学習院大学経済学会
雑誌
学習院大学経済論集 = Gakushuin economic papers : The journal of Faculty of Economics, Gakushuin University (ISSN:00163953)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-25, 2002-04

A.レッシュは60年余り前、独自の空間経済学的パラダイムを展開した先駆的労作(DieRdumliche Ordnung der WirtschaLft, Gustav Fischer Verlag, Jena,1940)の中で,「N番目に小さな正六角形の市場領域(即ち,市場領域番号1V)」に対応する「同市場領域内に実質的に含まれる家計数n(即ち,ネット家計数n)」を考察し,Nとnの対応関係(即ち,「レッシュのN-n関係律」)を,前掲書第10章第b-1節の表7に拠り示唆した。同表は,市場領域番号N(前掲書英訳版は「Area No.」と表記)の各値に対して,つぎの2点を示す。 (a)ネット家計数n(前掲書英訳版は「number of・settlements」と表記)の値を求めるために必 要な計算式。 (b)同計算式から得られるnの値。 なお,同表でレッシュが考察の対象とした1V値は, N=1(このときn=3)からN=11(このときn=27)までとノ〉== 15(このときn=37)の,合わせて12のケースである。 本稿では先ず,レッシュのN-n関係律を用いて,N=1島13,14,及びN=16からN=2, 068までの1>値に夫々対応するn値(即ち,「レッシュ?〉-n対応値」)を試算する。次いでその結果に照らし,以下の3点を指摘する。 (1)n値の逆転現象:κ二1からN=17(このときπ=43)へN値が順次増加するにつれ,n値 も順次増加する。しかし,1>=18(このときn=49)からN=19(このときn=48)へN値 が増加する際,n値は49から48へ減少する。 (2)n値の重複現象:1>=18に対するn値(n=49)と1V=20に対するn値(n=49)は等しい値 を示す。 (3)n値の累次的な逆転・重複現象:1>値がその後(1>≧21)順次増加する過程で,n値の逆転 現象と重複現象が頻繁に現われる。 この新たな知見を受け,レッシュのN-n関係律に関する妥当性と改善を要すべき点をレッシュの市場領域番号Nに照準をあてて考察すると,以下のように要点を整理できる。 (1/レッシュのNは,1≦N≦18の値域に対して適切である。 (2)レッシュの1>は,1>≧19の値域に対して次の修正作業を要する。 (a)N値の入れ替え調整作業(n値の逆転現象に対処する作業)。 (b)N値の削除処理作業(n値の重複現象に対処する作業)。 上述の認識を踏まえ,N値に2つの修正作業を施して正確なN-n対応値(即ち,「新レッシュ1V-n対応値」)を求め,結果の一部(1≦N≦240の値域に対するnの値)を表とグラフで示す。
著者
白田 由香利 橋本 隆子 チャクラボルティ バサビ
出版者
学習院大学経済学会
雑誌
学習院大学経済論集 (ISSN:00163953)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.31-41, 2016-07

ベイズ推論は,文書のトピック分析を始め,画像のパターン認識のほか,画像を用いた服装コーディネイト推薦,買い物履歴情報からの消費パターン分析など,広い分野で活用されている。本稿では,ベイズ推論の手法を大学ブランドイメージ分析に適用する。我々は,マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)の代表的アルゴリズムであるギブズサンプラーの実装により,シンプルトピックモデルによるベイズ推論のクラスタリングの過程を可視化するツールを開発した。このツールにより,大学ブランドイメージという共通の知識を共有するデータを対象として,クラスタリングのマルコフ連鎖の変動のようすを可視化する。このような手法のポイントは,共有する知識に基づく分析事例を示し,その事例からその背景にある数学的手法を連想させ,理解させる,ことである。このMCMC における定常状態の連鎖プロセスにおいては,ある大学が2 つのクラスの間を頻繁に行き来するなどの興味深い変動が見られた。こうした可視化により,クラスタリングのツールをただ使って結果を出すだけではなく,その背景にあるギブズサンプラー,シンプルトピックモデル,などの数学プロセスを理解することが可能となる。そうした数学プロセスの理解は,的確な分析に必須であるので,こうした数学教育はベイズ推論において重要と考える。