著者
階戸 照雄 加藤 孝治
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.14-30, 2020 (Released:2020-07-21)
参考文献数
14

現在、わが国の食品輸出は順調に拡大を続け、2020年度には1兆円を上回る勢いである。個別の食品を見ると、伝統的な加工食品の伸びが高いが、その中でも日本酒の伸びは高い。その一方で、輸出が拡大するにつれ、問題も明らかになってきた。本稿では、さらなる拡大を実現するために、ワインのグローバリゼーションの歴史やマーケティング手法などが参考に考えると、ワインに比べて製造手法が複雑であることや認知度向上のためのマーケティングを工夫することが必要であることがわかる。その一方で、作り手である酒蔵の多くはファミリービジネスであるが、廃業が増えていることも大きな問題である。今後の輸出拡大のためには、海外でのマーケティングに加えて、地方に多い酒蔵の事業継続に向けた活性化の取組が求められよう。
著者
井上 俊也
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.1-12, 2018 (Released:2019-09-12)
参考文献数
5

日本とフランスは20世紀末から21世紀初めの25年間にサッカーワールドカップ、夏季オリンピック・パラリンピック、ラグビーワールドカップというメガスポーツイベントを開催しているが、これらのメガスポーツイベントに使用する大規模なスタジアムの建設とその利活用については大きな違いがある。 日本では多くのスタジアムがサッカーワールドカップのために建設されたが、その後のメガスポーツイベントで継続的に使用されているものは少ない。一方、フランスでは一連のメガスポーツイベントでは継続して同じスタジアムを使用している。 また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場として建設される新国立競技場については設計、建設段階にも問題が生じたが、定常的に使用するクラブがなく、オリンピック・パラリンピック後の利活用についても大きな課題となる。フランスでもサッカーワールドカップのメイン会場として混乱の末にスタッド・ド・フランスが新設された。このスタッド・ド・フランスもサッカーワールドカップ後に定常的に使用するクラブがなかったが、どのように課題を解決してきたかを取り上げ、日本のスタジアムの建設と利活用について提言する。
著者
高津 竜之介
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.48-63, 2021 (Released:2021-09-20)
参考文献数
6

近年、様々な社会問題への解決策として市民社会を基盤とするソーシャル・イノベーションが注目を集めている。なぜなら国主導の発展モデルでは地域の持つ多様なニーズに対して画一的な行政システムしか実施できず、市場メカニズムに依存する新自由主義モデルでは、経済的便益をもたらさない限り社会的弱者を救済する仕組みが存在しないからである。本稿では、ソーシャル・イノベーションの視点から共有財産としての景観をめぐる地域のアクションについて考察する。まずフランスで生まれた景観保護運動がどのように日本に持ち込まれ適応されたのかについて、各国の協会で用いられている資格審査基準の比較を通じて検討を行う。続いてそれらの差異がどのような理由により生じているのかについて日仏の行政制度の違いに焦点を当て説明を加え、日本のトップダウン型まちづくりの限界を示す。最後にソーシャル・イノベーションに関する理論的考察をもとに、住民の自主性に基づいて地域の景観の価値を高める活動ついて示唆的な提案を行うことを目的とする。
著者
後藤 宏行
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.64-78, 2021 (Released:2021-09-20)

原価を計算すること、いくつかの決算データの評価基準を決定すること、損益を解明すること、費用・収益の予測を立てること、予測データと確認済データの差異を解釈すること。これらが企業の管理手段として考案された管理会計の目的である。 本書の目的は、図式・図表などを用いて管理会計(企業の管理手段)についての明瞭で構造化された総合的ビジョンを提供することであり、管理会計の仕組や企業にとっての意思決定支援手段としての有用性を理解するのに必要な知識体系(知識)が、全部原価計算、操業基準原価計算、その他の諸項目に割当てられるように構成された総括という形で提示されている。模範解答とともに提示された多数の設例、練習問題、適用例によって、更にこの分野についての実地経験(技術的知識・情報)を得ることが可能となる。 著者によれば、本書第16版(2015-16年)は法・経済学部の全学生、会計・管理・監査(CCA)の学士号・修士課程の学生、第三種上級技術者免状(BTS)を持つ学生、経営専門学校の学生を対象とするテキストである。
著者
水谷 公彦
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-25, 2022-07-30 (Released:2022-09-01)
参考文献数
30

日本の企業の96.9%が同族企業といわれているが、同族企業は非同族企業と比較して財務パフォーマンスが良いとの先行研究がある。その一方で、事業承継等において課題を有している企業が多く、企業数が減少傾向にある。同族企業が地方経済において重要な役割を果たしてきたことを考えると、各同族企業が直面する危機は、地方経済の衰退を意味すると言っても過言ではない。 一方で、フランスの同族企業は、日本に先駆けて同族経営から同族保有へと移行し、企業経営におけるコーポレートガバナンスと、同族としてのファミリーガバナンスの両ガバナンスを意識した対応をすることで事業承継を円滑に実施して存続・成長を図ってきた。フランスの同族企業における取組みを踏まえて日本の同族企業においても活用できる対応策を明らかにすることは、日本の同族企業の存続・成長に資するものと考える。
著者
後藤 宏行
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.26-44, 2022-07-30 (Released:2022-09-01)

企業経営上の新たな要求を満たすため、活動基準原価計算すなわちABC(Activity Based Costing)法と呼ばれる新たな全部原価計算が提唱されている。この方式は、機能別原価分類よりもむしろ企業のさまざまな工程の横断面分析(価値連鎖)に立脚している。操業度と関連した費用態様の分析では、特定の経営構造において、企業の一部の費用は製造量または操業度に応じて増減するが、他の費用は操業度と無関係であることが認められるに至っている。操業度と費用の増減との関連を明らかにするため、費用を変動費と固定費に分類し、その増減を特徴づけて予測をするのに用いられる数学モデルを導出することが有用である。費用の可変性の分析では、操業度に応じて総原価または単位原価が増減することが証明されている。このような状況は全部原価計算の重大な欠点となる。合理的配賦法の原則は、固定費の全額が明示すべき正常操業度に対応するという事実に立脚している。原価に算入される固定費は正常操業度との関連で計算される。
著者
森脇 丈子
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.18-36, 2019 (Released:2019-07-22)
参考文献数
25

フランスの食品小売業界では、大規模スーパーの売上高が伸び悩む一方、大手小売業グループによるインターネット販売、そのなかでもとりわけ「ドライブ」「(drive:les drives, le driveと表記されることが多いが、本稿では‘Drive’と表記)が対前年度比での伸張に勢いが見られる。‘Drive’はインターネット注文した商品を登録している店舗に自分で取りに行く形が一般的であるため、「クリック&コレクト(click&collect)」の買い物方式の一つと考えられる。その他には、ここ数年で大都市での食品スーパーの宅配が増加している1)。この‘Drive’のように、2000年代後半以降のフランスの食品小売業界では、単一業態内部でのIT化の進展をめぐる競争が激しい。 本稿の課題は、買い物の不便さ解消の面で消費者の支持をうける‘Drive’の現状について整理すること、大手小売企業ごとに‘Drive’の設置形態や数に違いがあり、その違いが売上高の差に影響を与えていると思われることについてヒアリング調査をふまえて分析する。これらを通して、日本の流通・マーケティングの議論でほとんどとりあげられることのないフランスの食品小売業の競争の一端を示す。
著者
石井 竜馬
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.37-58, 2019 (Released:2019-07-22)
参考文献数
23

急激に変化する市場構造に対応するためには、「規模の経済」によるコスト低減や「範囲の経済」によるシナジー効果のみならず、市場の求める変化の方向性に対する新しい企業戦略を構築することが必要である。企業内における組織的な経営資源の組み合わせや、事業ドメインを超越した戦略統合によって、企業は市場の求める変化に対応した適合度を模索していく必要に迫られている。従来の低コスト化と合理化の追求にとどまらず、「共特化の経済」を中心にしたダイナミック・ケイパビリティーによって、市場の潜在ニーズに対応し逸失利益の最小化に努めることも肝要であろう。ルノー日産三菱自動車アライアンスをその事例として取り上げ、資本統合によるM&Aではなく、スピードと実効性重視の戦略アライアンスがダイナミック・ケイパビリティーによって構造的に機能しているプロセスを研究し、ダイナミック・ケイパビリティーが従来型のオーディナリー・ケイパビリティーとは一線を画した戦略的効果を挙げている点についても検証する。
著者
野口 麗奈
出版者
日仏経営学会
雑誌
日仏経営学会誌 (ISSN:09151206)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.31-48, 2020 (Released:2020-07-21)
参考文献数
35

本稿の目的は、多国籍企業の産業クラスター活用プロセスを、新規事業参入の観点から考察することである。これまで、産業クラスターの多国籍企業の参入は多くの研究がされてきたが、新規事業における産業クラスター参入についての研究は深化がみられない。そこで、本稿では、ルイ・ヴィトンが2002年に時計事業に参入後、ジュネーヴ・シールを取得するまでの、同社のスイス高級時計クラスターの活用を、企業の国際化の観点から検証した。結果、同社は時計事業参入後、OEM、自社工場設立、地域企業買収、そして工場の拡充と移設という4つのフェーズを経験し、「継続のための製造の礎」、「安定供給のための製造の礎」、「プレミアム化のための礎」、さらに「権威化のための礎」とクラスターの活用手法を変え、業界での地位を確立していった。また、同社はクラスター内で規範的な行動をとりながら、時計ブランドとしての地位を向上させただけでなく、高級時計メイカーとしての技術力を示す複雑機構の時計の開発、認証などを経て、クラスター内ならびに業界での地位を向上させていったことが判明した。