著者
原 温久 北田 紀久雄
出版者
東京農業大学農業経済学会→食料・農業・農村経済学会 (121号-)
巻号頁・発行日
no.118, pp.41-51, 2014 (Released:2014-07-07)

本研究では,今日注目されている植物工場産野菜について,消費者の認知の現状と購入意識の程度並びにその特徴について明らかにした。消費者アンケート調査の結果,植物工場を「知っている」と回答した人は7割に上り,このうち購入経験のある人は2割と少ないことが明らかとなった。この理由として,「お店で販売していない」,「意識したことがなかった」との回答が得られた。植物工場産野菜を今後「買おうと思う」と回答した人は約7割に上った。また通常の露地野菜と比較した場合の植物工場産野菜のイメージ評価(項目)では,「見た目」,「安全性」,「栽培時の環境への配慮」,「高級感」などのイメージ評価が高い一方,「おいしさ」と「栄養価」については低いことが確認された。潜在クラス分析の結果,購入が消極的である消費者(クラスター)ほど,安全性や高級感,栽培時の環境配慮のイメージ評価が低いことが明らかとなった。また,おいしさと栄養価については,購入に意欲的・消極的な消費者にかかわらず,その評価は露地野菜と比べて同等か低いことが明らかとなった。今後,植物工場産野菜の購入を促進させるためには,植物工場産野菜であることの表示を明確にすることが必要である。また,植物工場産野菜の安全性や栄養価は露地野菜と比較して優れていることの情報を普及・定着させることで,今後消費者の購入する可能性(割合)も高まっていくものと考えられる。
著者
関口 覚
出版者
東京農業大学農業経済学会→食料・農業・農村経済学会 (121号-)
巻号頁・発行日
no.104, pp.27-41, 2007 (Released:2011-03-05)

群馬県藤岡市においては、水田灌漑用水不足対策として昭和初期国庫補助を受け県営事業により三名川を水源とする三名川貯水池を築造した。しかし、事業は計画から大きく乖離し、水田開拓が進むなどで水不足問題は一層深刻になっていた。戦後、三名川貯水池用水改良事業の補完と、更なる開田推進を目的として、昭和21年藤岡地域内を流れる鮎川に水源を求め国庫補助による県営「鮎川用水改良事業」に着手することとなった。当事業は、激しいインフレによる工事費の増嵩によって、改良区は金融機関からの借入金に依存する赤字経営に陥ると同時に、地元農民の負担金が過重になっていた。本稿は、国策食糧増産を至上命題とする社会経済体制下での土地改良事業と、インフレで工事費負担増に苦闘する財政不振の耕地整理組合(土地改良区に継続)の組織運営と地域農民の対応を実証的に考察した。
著者
田中 裕人 外崎 菜穂子 望月 洋孝 間々田 理彦 原 珠里
出版者
東京農業大学農業経済学会→食料・農業・農村経済学会 (121号-)
巻号頁・発行日
no.118, pp.73-83, 2014 (Released:2014-07-07)

本研究は,新潟県佐渡市の訪問者を対象として,AHPを適用して,トキの野生復帰に関する効果の評価を行った。トキの野生復帰によって期待できる効果として,「トキを中心とした生態系の保全」,「トキを活用した環境教育」,「観光客の増加」,「米などの農産物の販売増加」の4項目を提示した。AHPによる分析の結果,「トキを中心とした生態系の保全」の評価が最も高い反面,「観光客の増加」,「米などの農産物の販売増加」の評価が低く,その差も大きかった。また,本研究では,佐渡に関する有効な情報発信手段についての検討を行った。現時点において,訪問客は佐渡に関する情報発信において,おおむね満足している傾向が見られた。これらのことから,今後は,トキの野生復帰と環境保全型農業が結びついているということを含めて,トキの野生復帰に関する背景や現状も含めた適切な情報発信が重要になると考えられる。
著者
友田 清彦
出版者
東京農業大学農業経済学会→食料・農業・農村経済学会 (121号-)
巻号頁・発行日
no.106, pp.1-12, 2008 (Released:2011-01-27)

近代日本における勧農政策の本格的な展開は、明治6年(1873)11月における内務省の創設、および明治7年(1874)7月における同省勧業寮の設置をもって開始される。内務省期における勧農政策展開の担い手となった農政実務官僚のうち、最上層部を形成する官僚の多くは、明治4年(1871)から同6年(1873)にかけて行われた岩倉使節団の米欧回覧、および明治6年に開催されたオーストリアのウィーン万国博覧会に直接関係を有する人々であった。岩山敬義、田中芳男、佐々木長淳、池田謙蔵、関沢明清、前田正名、井上省三などであり、彼らの人的なネットワークこそが、内務省期における勧農政策展開の推進力となったのである。本稿では、彼ら内務省の農政実務官僚に焦点をあて、彼らによって勧農政策がどのように展開されていったのかについて明らかにした。
著者
岩本 博幸
出版者
東京農業大学農業経済学会→食料・農業・農村経済学会 (121号-)
巻号頁・発行日
no.124, pp.1-10, 2017 (Released:2017-08-03)

本稿の課題は,アニマルウェルフェアに配慮した畜産物生産の推進およびグリーン購入を通じた食品廃棄物・食品ロスのリサイクル推進の可能性について,豚肉を事例に消費者評価分析から検討することにある。豚肉の選択実験を実施し,ランダムパラメータ・ロジットモデルによる消費者評価の定量的な分析を試みた結果,以下の3点が明らかとなった。第1に,消費者はエコフィード(EF)表示,アニマルウェルフェア(AW)表示を肯定的に評価しており,消費者評価額はEF表示が18円,AW表示が22円となった。第2に,AW表示は,概ねどの消費者においても肯定的な評価がなされているのに対し,EF表示は肯定的に評価する消費者と否定的に評価する消費者に大きく分かれることが示唆された。第3に,AW表示については,普及啓発に取り組むことにより,WTPを高める可能性があることが示唆された。