著者
湊 翔平 辻 健 野口 尚史 白石 和也 松岡 俊文 深尾 良夫 ムーア グレゴリー
出版者
物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.509-520, 2009-10

地震波海洋学において,海水中の微細な温度構造を推定するために,高速波形計算法と焼きなまし法を組み合わせたフルウェーブフォームインバージョン手法を開発した。焼きなまし法を利用することで,初期モデル依存の少ないインバージョンが可能となった。このインバージョン手法を,紀伊半島沖黒潮流軸周辺で取得された反射法地震探査データに適用した。この反射法地震探査データは,南海トラフの内部構造の解明を目的とした3次元探査の一部であり,黒潮の流軸を横切るように取得されている。インバージョンで得られた海水中の2次元音波速度構造から,海水中に高速度層と低速度層が互層状に分布し,これらの互層構造が海岸から黒潮の流軸に向かって傾いていることが判明した。経験式を用いて音波速度を温度に変換することで,最終的に海水中の2次元温度構造を得た。しかし結果の一部では,これまで知られている観測結果よりも層厚が薄く,層間の速度変化が大きい構造が卓越した。この原因を調べるために,インバージョンに対するノイズの影響を検証した。有限差分法で計算した擬似観測記録にホワイトノイズを加えてインバージョンを実施した結果,S/N比が小さい場合,速度変化が現れる深度はほぼ正しいものの,その速度コントラストは真のモデルより大きくなる傾向が認められた。シミュレーション結果の検討から,今回の紀伊半島沖のデータをインバージョンして得られた音波速度構造が,ホワイトノイズの影響によって実際の構造よりも音波速度コントラストが大きく解析されている可能性が示唆される。