著者
伊藤 操子
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.36-41, 2010 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

日本におけるクズ(Pueraria lobata Ohwi)は,万葉集にもよく歌われているが7~8世紀にはかなり広がっていたようだ.また,季節の風物というだけでなく,古来,生活必需資材として様々な形で利用されてきた,塊根から採る葛粉は食料として,つる繊維から織る葛布は衣類などに,茎葉は家畜の飼料や肥料になり,葛根は貴重な薬であった.しかし,近年利用されなくなった人里のクズは,列島改造計画による土地造成で形成された都市・市街地の多くの解放地に侵入し急速に拡がった.河川敷,鉄道敷,高速道路では最優占種であることが報告されており,造林地,果樹園等も含めその被害は深刻である.米国では,土面保護植物や第2次大戦で荒廃した放棄畑の土壌改良用として政策的に普及したクズが,現在では制御不能な強害草に指定されている.クズの植物体は3出複葉を着ける当年生茎,多年生茎,節から発生する節根,これが伸長・肥大した主根(塊根)で形成されている.当年生茎は,4月上・中旬に1,2年生茎の腋芽から発生し,地表を這い進むものと立ち上がるものとがあり専有面積・容積の拡大に働く.クズの種子繁殖力は低く,繁殖は主に多年生茎が昆虫幼虫の食害や老化で分離することによると考えられる.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.9-20, 2011

今日,日本人の多くは,二酸化炭素濃度の上昇や温暖化が地球環境に影響することを知っていても,身の回りに生育する雑草がこの環境変化にどのように反応し,私たちの生活にどのような影響を与えているか気づくことはない.雑草は,人々が環境を変えることによって始めて生まれる生物である.そして,雑草は,'ふえる''ひろがる''変化することを特徴とし,これを食草とする昆虫・鳥類・哺乳類も同時に増える・広がる・変化する.今日,都市の二酸化炭素濃度の上昇と温暖化は,雑草のバイオマス量を劇的に増大させ,その直接的・間接的環境および経済的被害を拡大させている.この数10年間気づかないうちに,雑草は生活圏の活動の場を征服しかねない脅威的な生き物に変貌しているのである.それにも関わらず,雑草の繁茂やその被害に対する研究機関,国や地方自治体,そして企業などの無関心や無神経さはいったい何に原因しているのか.雑草の変化に原因する経済的,社会的,環境的被害リスクについて考える.
著者
黒川 俊二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.31-38, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
21

アレチウリは北米原産の一年生ウリ科植物で,つる性で旺盛な生育をするため世界各地の強害雑草となっている.しかし,原産地では大豆の雑草として問題となるものの非農耕地での問題は報告されていない.日本では各地の河川敷や堤防法面,農耕地で問題となっており,生態系等への悪影響から特定外来生物に指定されている.河川敷や川に近い氾濫原が主な生育地となるが,日本では山間部の畜産飼料畑でも多く発生している.これは輸入飼料を介して侵入しているためと考えられている.侵入・分布拡大メカニズムについては,輸入飼料を介して畜産地帯にまん延した後,水系で拡散し,河川敷や水田地帯に流れ込んでいると考えられる.対策に関しては,一旦まん延させると防除が難しいことから,侵入防止を優先する必要がある.そのため,輸入飼料依存型の畜産からの脱却や輸入検疫体制の整備など,侵入源を絶つ対策が求められる.また,最初に到達する飼料畑での対策によって拡散源を絶つこと,水系での分布拡大メカニズムに基づいたリスクマップづくり,リスクが高い場所における集落全体での管理体制の構築などが必要である.
著者
小西 真衣
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-35, 2010 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

セイタカアワダチソウが分布を急速に広げたのは戦後であり、その分布は人間生活圏の周囲に集中している。種子は非常に小さく軽く風で飛ばされ、根茎は地下の浅いところに水平方向に張り巡らされている。純群落の地上部は、高密度でバイオマスが大きく、相対照度が非常に小さいので他の草が入り込むことは不可能となる。ロゼットで越冬し、越冬ロゼットは4月に入ると急速に伸長する。種子からの生育は遅いため、速やかに地下部を発達させロゼットを形成し翌春の生長に備えることが、群落を形成・維持するうえで非常に重要である。刈り取りの効果には、時期によって異なる光合成産物の振り分け先が関係する。1970年代には本種の有害性や、時には善悪についての「セイタカアワダチソウ論争」ともいえる大論争が起こったが、この騒ぎがきっかけとなり多くの自治体で問題雑草の対策を義務付けるようになり市街地の雑草繁茂状況がかなり改善されたのである。