著者
小田 豊 秋田 喜代美 芦田 宏 鈴木 正敏 門田 理世 野口 隆子
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度から18年度までの3年間に渡って採択された科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))「幼児教育における教師の保育観の日米比較文化研究:ビデオ刺激法による検討(課題番号16402042)」において、まず、多声的エスノグラフィー法を援用したビデオ再生刺激法の開発が挙げられる。その研究方法に基づいて、以下の2点を主たる研究成果としてここに記す。◆良質の保育を保育実践に照らし合わせて検証する本研究を通して、日独米の保育者それぞれが考える【良い保育】の要素が導き出された。「保育者の持つ"良い保育者"イメージに関するビジュアルエスノグラフィー」(質的心理学研究第4号/2005/No.4/152-164)では、日本の保育者を対象に"良い保育者"イメージを明示化することを試みた。その結果、"良い保育者"イメージは『子ども中心』志向と密接に結びついていることが示唆された。◆保育実践文化における保育者の暗黙的実践知・信条を描き出す海外での発表を数多くこなすことで、色々な分野や文化背景を持つ研究者から教示を得ることができたが、研究協力者であるドイツ人研究者からは色々な刺激を受けた。彼らと共有し合ったデータを用いた「多声的エスノグラフィー法を用いた日独保育者の保育観の比較検討一語頻度に注目した実践知の明示化を通して一」(教育方法学会掲載)では、ビデオ映像を用いた多声的エスノグラフィーの手法によって、日独の保育者の暗黙的な実践知として作用している保育観を明示化し、比較検討することを試みた。ビデオ視聴における保育者の語りを語頻度を軸に分析し、3つの共通点「子どもたちの自主性、主体性の尊重と、指導することへの抵抗感」「社会性の育ちを重視する視点」、そして「安全への視点」を見いだしたが、その内部構造は日独で異なっているという知見が得られた。
著者
小塩 允護 肥後 祥治 干川 隆 佐藤 克敏 徳永 豊 齊藤 宇開 竹林地 毅
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、国内外の知的障害のある人の生涯学習の展開について、法制度の変遷、文化的背景等の社会的要因、参加者及び保護者のプログラムに参加した経緯、これまで受けてきた支援や教育のヒストリー等、支援者の障害に関する認識とプログラムの内容等の個人的要因を検討し、わが国における知的障害のある人のために有用な生涯学習プログラムや支援方法等を開発することである。本研究の成果として,海外の生涯学習のプログラムの開発を行うための資料を整理し,生涯学習における支援プログラムの開発に寄与することができた。研究最終年次である平成18年度は、年度当初に研究協議会を開催し、3年間に得られた結果を整理し、報告書の項立てと執筆分担などを決めて、平成19年2月までに報告書を作成した。アメリカのシラキュウス地区では、シラキウス大学とシラキウス学区との提携で行われているオン・キャンパス・プログラムについて、プログラム参加者、支援者、企画責任者との面接調査を行った。また、障害のある人の自己権利擁護運動と生涯学習との関連についてシラキウス大学の研究者から情報収集した。イギリスのロンドン地区では、イギリスの自閉症協会が運営する自閉症学校2校(初等教育学校、中等教育学校)、ハートフォード州立の初等教育学校1校、特別学校2校(初等教育学校、中等教育学校)を実地調査するとともに、自閉症協会の教育部門責任者、自閉症協会運営の高機能自閉症に特化した就労支援機関(プロスペクツ)責任者、ハートフォード州教育委員会のスベシャリスト・アドバイザリー・サービス担当者との面接調査を行い、イギリスが推進する教育改革やインクルーシブ教育、自閉症協会が推進するSPELLに代表される支援理念が自閉症のある人の生涯学習を進める上でどのようなインパクトを持つかについて資料収集した。報告書では,知的障害のある人の成人教育の概略,北米における知的障害のある人の高等教育機関での生涯学習の展開,オーストラリアにおける知的障害のある人の生涯学習,フィンランドにおける特別ニーズ教育と障害のある人の生涯学習,ニュージーランドの知的障害のある人の生涯学習,イギリスにおける特別な教育的ニーズに応じる教育と生涯学習の項目で,分担執筆した。
著者
當島 茂登
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

養護学校等では車椅子は単なる移動手段として用いられている場合が多い。養護学校等で使用している車椅子の種類は、介助者が操作する介助型車椅子、本人自身が操作する自走型車椅子、電動車椅子である。特に肢体不自由養護学校においては、重複障害学級の在籍者が75%を占めているため介助型の車椅子を使用している児童生徒の割合が多い。このような実態を踏まえ、学校では車椅子を使用している児童生徒の抱えている様々な課題の検討が必要となってきている。本研究の第一の目的は、車椅子を活用している児童生徒の学習活動(自立活動を含む)に関連した調査及び健康的側面から姿勢、呼吸、疲労状態に関した調査を行い、学校生活での車椅子活用の実態を明らかにすることである。第二の目的は、調査により明らかになった課題に関し、Psychomotorik(精神運動:ドイツで行なわれている運動を用いた発達支援活動領域の一つ)の考え方を基本に据え、車椅子を活用した活動支援プログラムを開発・評価することである。第三の目的は、活動支援プログラムをビデオ・冊子として公表し、普及を図ることである。研究目的の1に関連して、車椅子活用に関するアンケート調査を作成し、北海道、神奈川県、鹿児島県内の肢体不自由養護学校及び本研究所の短期・長期研修員を対象に調査を実施した。質問項目の一部は以下の通りである。「体育、自立活動、特別活動等で車椅子を用いた活動プログラムとしてどのようなことを実施していますか。車椅子を使用している子どもの疲労に関する対応は十分であると思いますか。車椅子や車椅子を用いた活動プログラムに関して要望、質問等がありましたらご自由にお書き下さい」等である。この調査の結果は特殊教育学会及び研究報告書にまとめた。研究目的2に関連して、肢体不自由養護学校に在籍している児童と保護者に対して車椅子活用支援プログラムを試行してVTRに集録して検討した。また、小学校肢体不自由特殊学級に在籍している脳性まひの児童について車椅子活動支援プログラムをビデオに収録し、海外共同研究者のDr.Strohkendlと実践について検討した。19種類の車椅子活動支援プログラムを開発した。これらの研究成果を「研究成果報告書」としてまとめた。今後は関係機関の了解を得ながら、CDDVDを作成し、普及に努めたい。
著者
川住 隆一 早坂 方志 石川 政孝
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、重い運動障害と知的障害を併せ有し、家庭や施設で訪問教育を受けている児童生徒のためのコミュニケーション手段と探索手段(移動手段)の開発を行うことを目的とした。本研究で取り上げた対象児は、国立特殊教育総合研究所教育相談センターへの来談児5名と、重症心身障害児施設において訪問教育を受けている重度・重複障害児9名であった。いずれの子どもに対しても、継続的な教育指導を通して、個々に応じたコミュニケーション補助・代替手段が考え出されたり、市販の音声表出補助装置(商品名「ビックマック」「ステップバイステップ・コミュニケーター」等)を利用するための工夫が行なわれた。また、探索のための移動手段として、電動式スクーターボードの有効性も検討された。さらに、運動障害が重い子どもが機器を操作し易くするための入力支援装置や姿勢介助の工夫も重要な課題となった。最終報告書においては、教育相談来談児に対する取り組みとして、(1)探索活動の促進がコミュニケーション内容を豊かにした事例、(2)コミュニケーションの意欲と伝達手段の向上が図られた事例、(3)人の動きを選択的に見ることから探索活動を促した事例、(4)探索活動の促進に電動式スクーターボードの活用を図った3事例が紹介された。また、2つの養護学校の訪問教育の場での取り組みについても、グループ活動場面(「朝のつどい」)と個別指導場面を取り上げ、上記の検討課題の観点から教育実践経過を整理した。