著者
村枝 ひろみ 干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.133-143, 2017 (Released:2019-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

本調査は、現在の特別支援学校〈病弱〉中学部に在籍する生徒の実態とそこで行われている支援を明らかにすることを目的とし、発達障害を背景にもつ不登校などの適応障害のある生徒への有効な支援について検討した。現在の特別支援学校〈病弱〉中学部に在籍する生徒の発達障害の内訳は自閉症スペクトラム障害が56.5%を占め、また一方では、この10年間で、発達障害などで適応障害のある生徒数はおよそ2倍になっている。通常の学校で不登校などの不適応を起こした生徒が転入学している状況は今も続いている一方で、特別支援学校〈病弱〉での支援を通して、7割近い生徒の登校状況が「ほとんど欠席なし」になり、卒業後も発達障害を有する生徒の約5割が良好な登校状況を維持していた。これらの結果をふまえ、特別支援学校〈病弱〉中学部の現状と生徒の実態、発達障害で適応障害のある生徒への指導上の課題、また、有効な支援のあり方や特別支援学校〈病弱〉中学部の役割について考察した。
著者
干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.261-273, 2015 (Released:2019-02-01)
参考文献数
67
被引用文献数
3

本研究の目的は、日本で標準化することを目指して、カリキュラムに基づく尺度(CBM)に関する研究動向を把握することであった。CBMは、米国では介入への反応(RTI)の流れの中で児童生徒の学習の進捗状況を把握するための有力な方法である。研究動向は、CBMの技術的な十分さの確立と活用とCBMの展開と限界の項目にまとめられた。CBMの活用としての研究動向は1)CBMの有効性とそのフィードバックのあり方、2)データ評価決定ルール、3)場による指導の効果の比較検討、4)通常の学級での取り組み、の観点から分類された。CBMの展開として、先行研究は新しい学習障害の認定の手立てと学級全体の進捗状況の把握の観点から紹介された。これまでの研究動向とわが国の現状を踏まえ、CBMの意義とわが国におけるCBMの標準化に向けた取り組みが提案された。
著者
干川 隆 Takashi Hoshikawa
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学教育学部紀要. 人文科学
巻号頁・発行日
vol.57, pp.213-218, 2008-12-19

The purpose of this study was to examine the effects of camera angle on feeling empathy with a character in a video. In the movement of special support education, the method to facilitate empathy with others was needed to develop in children with developmental disorder. The video of "Watermelon" was used in this study as a material, because the camera angle of the watermelon's viewpoint was used and intend to feel empathy for the watermelon. Eighty-nine subjects were divided into the Master Type (MT) group and the Edited Tape (ET) group that excluded the camera angle of watermelon's viewpoint.After watching the video, the subjects were asked to respond to the questionnaire about empathy and the recall of the story. The results were as follows; 1) the subjects of the MT group felt more emotional attachment for the watermelon, 2) they responded more negative on adjectives such as frightening, afraid, etc., and 3) they recalled more scenes than that of the ET group. These results indicated that the camera angle of the viewpoint of a character brought about empathy and suggested that the camera angle would be the useful intervention method to facilitate understanding of others, intention of children with developmental disorders.
著者
島岡 恵 干川 隆 本吉 大介
出版者
日本リハビリテイション心理学会
雑誌
リハビリテイション心理学研究 (ISSN:03895599)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.17-28, 2021-12-08 (Released:2022-01-17)
参考文献数
25

本研究の目的は,脳性まひのある生徒の身体の動きに及ぼす動作法とミラーセラピーの効果を検討することであった。23回にわたって実施された試行は,指導の内容からA期(動作法のみ),B期(動作法及び下肢のMT),C期(動作法及び上下肢のMT)に分けられた。指導の結果,対象児はB期から右足の背屈運動の改善があり,手指操作能力分類システム(MACS)による評価では,BL期に比べてC期に14.5点の改善が見られた。本研究の結果から,対象児が鏡を見ながら自己の運動に修正を加えていくことで指先の動きや足首の背屈運動が改善されたことから,ミラーニューロンシステムの活性化が行われたと考察した。結果は,脳性まひ者に対して動作法とミラーセラピーを用いることで,その両方の取り組みの相乗効果が期待されることを示唆した。
著者
干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.19-27, 1993
被引用文献数
2 5

本研究は、脳性まひ児の方向概念の発達に及ぼす行為(姿勢の保持や移動)の影響を検討するものである。被験者は脳性まひ児55名(4〜22歳)であった。課題は坐位で自分にとっての上下左右前後の方向指示(自体課題)と、対面・同方向に立っている人形での方向指示(人形課題)、臥位での自体課題と、臥位にある人形での人形課題であった。数量化I類による分析では、年齢、動作レベル、知能レベルの項目が方向指示に大きく寄与することが示された。年齢では、A1(4〜6歳)群がA3(10〜12歳)、A4(13〜15歳)、A6(19〜22歳)群より臥位・坐位にかかわらず得点が低いこと、動作レベルでは自体坐位・人形立位で寝たきり群が立位・歩行群より低いこと、知能レベルでは臥位・坐位に関わらず低群が普通群よりも低いことが示された。本研究の結果から、方向概念の形成が、空間の中に自分のからだを位置づけたり、移動したりする行為によって促進されることが示唆された。
著者
雙田 珠己 干川 隆
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は3つある。 1.健常者がズボンを着衣する時の生理的負担を評価する 2.運動機能障害者の着脱動作を分析し、障害別に動作特徴を把握する 3.障害に応じてズボンを修正し、修正効果を確認する。その結果、ズボンの着衣動作は自律神経の働きに影響することが示唆された。さらに、脳性マヒ、二分脊椎、脊椎損傷の3患者について、ズボンの着脱動作を分析し、脳性マヒの症例についてはズボンの修正を行った。
著者
小塩 允護 肥後 祥治 干川 隆 佐藤 克敏 徳永 豊 齊藤 宇開 竹林地 毅
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、国内外の知的障害のある人の生涯学習の展開について、法制度の変遷、文化的背景等の社会的要因、参加者及び保護者のプログラムに参加した経緯、これまで受けてきた支援や教育のヒストリー等、支援者の障害に関する認識とプログラムの内容等の個人的要因を検討し、わが国における知的障害のある人のために有用な生涯学習プログラムや支援方法等を開発することである。本研究の成果として,海外の生涯学習のプログラムの開発を行うための資料を整理し,生涯学習における支援プログラムの開発に寄与することができた。研究最終年次である平成18年度は、年度当初に研究協議会を開催し、3年間に得られた結果を整理し、報告書の項立てと執筆分担などを決めて、平成19年2月までに報告書を作成した。アメリカのシラキュウス地区では、シラキウス大学とシラキウス学区との提携で行われているオン・キャンパス・プログラムについて、プログラム参加者、支援者、企画責任者との面接調査を行った。また、障害のある人の自己権利擁護運動と生涯学習との関連についてシラキウス大学の研究者から情報収集した。イギリスのロンドン地区では、イギリスの自閉症協会が運営する自閉症学校2校(初等教育学校、中等教育学校)、ハートフォード州立の初等教育学校1校、特別学校2校(初等教育学校、中等教育学校)を実地調査するとともに、自閉症協会の教育部門責任者、自閉症協会運営の高機能自閉症に特化した就労支援機関(プロスペクツ)責任者、ハートフォード州教育委員会のスベシャリスト・アドバイザリー・サービス担当者との面接調査を行い、イギリスが推進する教育改革やインクルーシブ教育、自閉症協会が推進するSPELLに代表される支援理念が自閉症のある人の生涯学習を進める上でどのようなインパクトを持つかについて資料収集した。報告書では,知的障害のある人の成人教育の概略,北米における知的障害のある人の高等教育機関での生涯学習の展開,オーストラリアにおける知的障害のある人の生涯学習,フィンランドにおける特別ニーズ教育と障害のある人の生涯学習,ニュージーランドの知的障害のある人の生涯学習,イギリスにおける特別な教育的ニーズに応じる教育と生涯学習の項目で,分担執筆した。