著者
別所 遊子 長谷川 美香 細谷 たき子 出口 洋二 安井 裕子 吉田 幸代
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

目的 在宅痴呆症高齢者の,基礎調査後10年間の死亡率,死因および死亡の場所を調査し,また存命者とその介護者に対して生活の状況の調査を行い,痴呆症高齢者に対する地域看護援助のための基礎データを得る。対象と方法 1992年に福井県K市において,在宅高齢者全員を対象に実施した生活基礎調査,および二次調査により,精神科医が痴呆症と診断した201名について,死亡の状況を人口動態調査死亡標等により調査した。また,存命者とその介護者に面接し,ADL等の状態を調査した。結果 (1)痴呆症コホート201人のうち,10年後の死亡者は170人,転出者は3人であった。(2)痴呆症コホートの実死亡数は,K市の同年齢層の高齢者について算出した期待死亡数(年齢補正)の,1.42倍であった。(3)Kaplan-Meier生存曲線による平均生存時間は4.32年で,死亡関連要因として,男性,後期高齢者,鑑別不能型,中等症・重症,寝たきり,歩行障害,食事障害,等が,またCox比例ハザードモデルによる分析では,性別,年齢階級,寝たきり,歩行障害が抽出された。(4)痴呆症高齢者は脳血管疾患で死亡する割合が高く,脳血管性痴呆では全死因の約半数であった。(5)在宅者は入所者よりもADLの自立度が高かった。(6)在宅継続の要因として,痴呆症高齢者のADLが高く,寝たきり度が低い,介護代行者がいる,介護者に被介護者に対する愛情があり,介護継続意思が強い,などがあげられた。考察 本研究の対象者は,一市における全数調査において医師により診断された集団であり、死亡状況を人口動態調査票から把握したので,データの信頼性が高いといえる。本研究の結果から,痴呆症の発症および予後のために脳血管疾患の予防が重要であり,痴呆症高齢者の生活の質と生命予後のためには,歩行能力の維持,寝たきり予防が重要であるといえる。
著者
村田 哲人
出版者
福井医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

曹洞宗の僧侶20人(修行歴10〜40年の10人と修行歴5年未満の10人;それぞれM、D群)と坐禅の経験のない医師10人(C群)を対象に、坐禅中の脳波およびP300の変化を検討した。視察脳波では、坐禅を開始すると開眼のままでalpha波が出現し、さらに瞑想が深まるにつれ、より遅いalpha波あるいは前頭部に優勢なtheta波が観察された。alpha波の変化が、修行歴に関係なくすべての群の大部分に認められたのに対し、theta波の出現はC群にはみられず、M群の6人とD群の4人に観察された。脳波定量分析では、坐禅開始前の開眼安静状態、坐禅開始5分後、25分後の各記録時期の脳波を解析した。修行歴とstateについて、2元配置ANOVAを行い、相互作用がtheta2(FP1,F3,T5)、theta3(FP1,F3,T6)、theta2(FP1)に認められた。さらに下位検定より、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅が深まるにつれ、theta2、theta3が著しく増加し、alpha2の増加の程度が抑制されることが示された。theta波は傾眠・睡眠期以外にも、暗算・想起など課題遂行時の精神作業中に起こりやすく、無課題でも考え事に没頭した時や問題解決の時などに出現すると報告されている。坐禅は静坐して雑念を追わず、注意を内部へ集中させる努力を続け、無我の境地に自然に達するような修行である。本研究で観察されたtheta波は、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅の時間的系かにつれて多く出現し、修行によってもたらされた坐禅の本質、すなわちリラックスしながらも過度な緊張の保たれ、かつ意識の集中の高まった精神状態を反映していることが示唆された。さらに、坐禅中の認知機能・注意力の高さなどについて、認知機能の客観的指標として注目されているP300を用いて検討した。瞑想を妨げずに坐禅中にも適用が可能と考えられる受動的課題(sequence課題)を用いた。P300の潜時と振幅は、3群とも坐禅前と坐禅中で差がなかった。以上により、P300の結果は、theta波が有意に増加した坐禅中にも認知機能は低下することなく、坐禅前と同じ一定のattentionが保たれることを反映していると考えられた。
著者
藤井 豊
出版者
福井医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

I.カエル水晶体の含水率とクリスタリン組成 水晶体周辺部の含水率は70%前後でありゾル状態であった。中心部に移行するに従って含水率の低下が進み、ゾルからゲル状態への層の移行がみられた。最終的に核では20%前後と著しい含水率の低下がみられ、核は事実上鋼球体であった。水晶体構造蛋白質(α、β、ρ、γ-クリスタリン)の組成は含水率の低下即ち中心部に移行するに従って、α、β、ρ、-クリスタリンの減少とγ-クリスタリンの増加が認められた。さらに、中心部ほど不溶性クリスタリンの増加がみられた。II.水晶体の顕微鏡観察 水晶体の物性は周辺部と核では著しい相異があり、凍結切片を作製するさい核は粉状に粉砕されてしまう。他の方法による切片の作製も同様容易ではなく、顕微鏡観察による力学的ストレスの解析にはなお検討する必要が残った。III.熱力学的ストレスによる影響 加熱によ変性を調べると50℃より表面の白濁が進行し、その後完全に白濁変性する。しかし、この白濁は中心部では認められず透明な状態を維持している。一方、-80℃で凍結後、室温に戻すと、水晶体周辺部は依然透明であるが核は白濁変性を起こした。この傾向はトノサマガエルより食用ガエルでみられ、また大きい水晶体ほど白濁の程度が著しかった。変性の起こらない温度領域で低温高温の反復処理(0と40℃、それぞれ5分を一日反復負荷)を行ったが顕著な変化は観察されなかった。IV.超音波による影響 超音波(1MHz、8w/cm^2)処理を20℃で5分行うと周辺部と核の中間層に気泡形成が認められ、この中間層に最も強い振動の力学的ストレスの影響が現われた。以上、水晶体を核、中間層および周辺部の3層に分けて考察することができた。含水率の高い水晶体周辺部はゾル状態であり振動などの力学的ストレスに対して柔軟に対応できる反面熱に弱い構造となっている。中心部の核は含水率を極端に下げて蛋白質の高密度化を達成して熱や力学的ストレスに対処できる丈夫な構造になっている。ところが中間層は周辺部と核の両者の特徴を兼ね備えてはいるが、相反する性質が混在するが故にかえって力学的ストレスに対応しきれていない可能性がある。カエルの白内障はまさしくこの領域に集中していることから、力学的ストレスとの因果関係が示唆された。
著者
杉本 貴人 福谷 祐賢 佐々木 一夫
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、家族性アルツハイマー病(AD)のアミロイド前駆体蛋白717遺伝子変異(APP717)6例とプレセニリン1遺伝子変異(PS-1)7例、非家族性ADでアポリボ蛋白E(Apo-E)E4対立遺伝子の保有個数が異なる例(計33例)、正常対照6例で、海馬皮質亜野での神経細胞脱落と神経原線維変化(NFT)形成を定量的に解析し、これらの遺伝子変異と神経細胞死との関連について検討した。方法は海馬前額断でKluver-Barrera染色とGallyas-HE染色を行い、海馬体をCA4,CA3,CA2,CA1,subiculumの5亜野に分けて観察し、NFTを有しない核小体の明瞭な神経細胞、核小体が明瞭な神経細胞内の原線維変化(i-NFT)神経外原線維変化(e-NFT)の密度を測定し、罹病期間、神経細胞脱落の程度、神経原線維変化の程度との関連を調査した。その結果、APP717例ではCA2とCA1において非家族例よりもNFT形成が高度で罹病期間での有意差がなく、この部位ではAPP717遺伝子変異がNFT形成に強く影響していることが示唆された。PS-1例では、CA3とCA2、CA1で対照例や非家族性例よりも神経細胞脱落が強くNFT形成も高度で、PS-1がi-NFT(NFTを持ちながら生存している神経細胞)からe-NFT(神経細胞死)への過程に関与している可能性が示唆された。またApoE E4対立遺伝子ではCA2以外においてNFT形成に関与があり、特にCA1で強いことが示された。CA2は正常加齢ではNFTがもっとも出現しにくく、ADのNFTにもっとも脆弱性のある部位と指摘されている。本研究でもCA2はApo-E E4の影響をうけにくい部位であることが示され、CA2におけるNFT形成は特別な状況でAPPやPS-1遺伝子変異と関連をもっている可能性が示唆された。
著者
五井 孝憲 山口 明夫
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

TGF-βスーパーファミリーは細胞増殖、分化、細胞内輸送に関わる重要な細胞内シグナル伝達分子群と考えられている。そのなかの1つ、Smad分子はTGFレセプターからシグナルを受け、活性化された後、核内に移行して直接転写調節を司っている。近年この制御機構の破綻が様々な組織における腫瘍発生に関与することが注目されている。本研究ではTGF-βスーパーファミリー因子群の細胞伝達分子であるDPC4とMADR2遺伝子について、遺伝子異常および蛋白量の変化を大腸癌において検索し、発癌、浸潤および転移との関係を検討した。遺伝子異常についてRT-PCR,SSCPおよびDNA sequencingにて検討したところ、大腸癌29例中6例(20.7%)にDPC4遺伝子変異(5例point mutation,1例frame shift)が認められ、MADR2遺伝子では3例(10.3%)に遺伝子変異(point mutation)が確認された。さらに両遺伝子が位置する染色体18q21のLOH検索をMicrosatellite法にておこなったところDPC4遺伝子異常の認められた症例はすべてLOHが確認された。(informative症例)つぎにDPC4蛋白質に対するモノクローナル抗体を作成し、切除手術を施行した大腸癌64症例から原発巣および正常組織の蛋白を抽出し、Western blot法にてDPC4蛋白質の発現量を検討したところ、大腸癌組織におけるDPC4蛋白の発現量は、大腸正常粘膜と比較して有意に減少していることが認められた。DPC4蛋白量比(癌組織DPC4蛋白量/正常粘膜DPC4蛋白量)と臨床病理学的所見との検討では、肝転移陽性症例のDPC4蛋白量比は肝転移陰性症例の蛋白量比と比較して有意に減少していることが認められた。またDPC4遺伝子変異/欠損とDPC4蛋白発現量比の検討では遺伝子異常の認められた症例においてDPC4蛋白発現量比の減少は高度であった。以上よりTGF-β-DPC4シグナル経路は大腸癌の発生、転移などをはじめ、シグナル伝達解明に重要なpathwayであることが認められた。
著者
村松 郁延
出版者
福井医科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

ペインティング法により100〜150μmの小孔に脂質平面膜を形成し,膜電位固定下で種々の海洋毒の作用を調べた。その結果,イワスナギンチャク毒パリトキシン,サザナミハギ毒マイトトキシン,サンゴ毒のゴニオポーラトキシンやアネモネトキシンは脂質膜に対してチャネルを形成し得なかった。しかし、海綿から得られたポリペプチドトキシンであるポリテオナミドA,B,Cの3種がチャネルを形成することを見つけた。有効濃度は1pMと低く,1MCsCl液中でのシングルチャネルの電流の大きさは+200mV負荷で約0.7pA,-200mV負荷で約2pAであった。この電位依存性はポリテオナミドA,B,Cいずれにおいても認められたが,シングルチャネル開口の持続時間はB>A>Cの順であった。3種のポリテオナミドはD体とL体のアミノ酸約40ヶが交互に結合した同一のβヘリックス構造を中央にもつことより、チャネル形成と電位依存性にこのβヘリックス構造が関係していること,しかし,チャネル開閉のゲーティングにはC末およびN末の構造の違いが微妙に影響していることが示唆された。現在,C末およびN末を化学的に修飾して,ゲーティングに対する影響を検討中である。