著者
呉林 秀崇 木村 俊久 小畑 真介 佐藤 嘉紀 竹内 一雄 山口 明夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1285-1288, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
11

症例は25歳の男性で,原因不明の急性腹症にて当院救急外来に紹介された。当院での問診にて,エアーブロワーによる経肛門的な高圧空気注入後からの腹部症状と判明した。来院時の腹部理学所見では腹部は全体に膨満し,腹膜刺激症状を認めた。腹部X線検査およびCT検査では遊離ガス像および小腸から全大腸におよぶ腸管拡張を認めた。また下部消化管内視鏡検査において,S状結腸粘膜は断裂し,数条の縦走潰瘍様所見を認めた。消化管穿孔および汎発性腹膜炎の診断で,緊急開腹手術を施行した。手術所見では,直腸S状部,S状結腸,脾弯部,肝弯部に漿膜損傷を認め,特にS状結腸部には腸管壁全層に及ぶ壊死所見を認めた。拡大左半結腸切除術およびdiverting ileostomyを施行し,術後39日目に退院した。経肛門的高圧空気注入による結腸損傷は極めてまれであるため,若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
村上 真 森川 充洋 小練 研司 廣野 靖夫 五井 孝憲 飯田 敦 片山 寛次 山口 明夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1237-1243, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
20

消化器外科手術において汎発性腹膜炎などの創分類classⅢ以上の症例ではSSIは依然高値である。今回,消化管穿孔による汎発性腹膜炎手術でのincisional SSI(以下,I-SSI)予防に持続吸引皮下ドレーンが有用かをretrospective検討した。2006年4月から2011年12月までの期間で,上部消化管を除く消化管穿孔例97例を対象に,持続吸引タイプ皮下ドレーンの有無でI-SSIの発生率を比較した。全体における皮下ドレーン留置群のI-SSIは12.9%で,非留置群の37.9%と比較し有意(p=0.0097)に低率であった。特に大腸穿孔でI-SSIが54.5%から7.1%まで低下した。皮下ドレーンは,使用症例を創分類Ⅲ以上の汚染手術とし,ドレナージチューブの抜去時期,効果的な留置に留意すれば,I-SSIの予防に有効な手段である。
著者
新本 修一 林 泰生 土山 智邦 小林 泰三 片山 寛次 広瀬 和郎 山口 明夫 中川原 儀三
出版者
Japan Biliary Association
雑誌
胆道 = Journal of Japan Biliary Association (ISSN:09140077)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.245-252, 1996-07-25
参考文献数
13

悪性胆道閉塞26例にstentによる27回の内瘻化を施行した.使用stentは12Frのtube stentと,expandable metallic stentのうちZ-stent,Strecker stent,Wallstentである.Wallstentは肝内胆管から総胆管まで屈曲した走向でのstent,胆管と十二指腸の間のstent,Z-stent閉塞に対するstent in stentに使用した.stentの種類と留置場所により再閉塞や感染等の成績を比較した.24例(88.9%)で外瘻tubeを抜去でき,22例(91.7%)が退院できた.8例が1~24カ月間無黄疸で生存中で,9例が2~15カ月後に無黄疸で原病死した.再閉塞や感染は7例(29.2%)に認められ,胆管と消化管との間のstentに多く認められた.stentの種類別では,tube stentの50%とStreckerの33.3%に認めWallstentでは11.1%と有意に少なかった.悪性胆道閉塞の内瘻化に,屈曲した走向での留置や下部胆管閉塞の内瘻化にも適応でき再閉塞や感染が少ないWallstentは有用と思われた.
著者
泉 俊昌 藤岡 雅子 佐藤 嘉紀 恩地 英年 長谷川 保弘 岩佐 和典 北村 秀夫 山口 明夫
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.1225-1229, 2002-05-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
8

症例は1999年6月に左卵巣嚢腫に対し自動縫合器を用いた腹腔鏡下左付属器切除術の既往のある41歳の女性. 2000年9月28日,突然の下腹部痛・嘔吐にて入院となった.絶食・輸液にて経過観察するも腹膜刺激症状が出現したため, 9月30日緊急手術を施行した.開腹すると血性腹水を認め,腸間膜同士の癒着により形成された間隙に回腸が迷入・嵌頓し,絞扼性イレウスとなっていた.癒着を剥離するとイレウスは解除され,剥離部より自動縫合器の落下ステイプルが1個発見された.腹腔内にはこの部位以外に癒着を認めなかった.絞扼腸管は可逆的であり腸切除は行わず閉腹した.術後12病日に退院し,以後イレウスの再発は認めていない. 自動縫合器のステイプルが目的部位以外に落下・残存した場合は癒着が生じイレウスの原因となる可能性があり,余分なステイプルを落下させない工夫と落下ステイプルの丹念な回収の必要性が示唆された.
著者
五井 孝憲 山口 明夫
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

TGF-βスーパーファミリーは細胞増殖、分化、細胞内輸送に関わる重要な細胞内シグナル伝達分子群と考えられている。そのなかの1つ、Smad分子はTGFレセプターからシグナルを受け、活性化された後、核内に移行して直接転写調節を司っている。近年この制御機構の破綻が様々な組織における腫瘍発生に関与することが注目されている。本研究ではTGF-βスーパーファミリー因子群の細胞伝達分子であるDPC4とMADR2遺伝子について、遺伝子異常および蛋白量の変化を大腸癌において検索し、発癌、浸潤および転移との関係を検討した。遺伝子異常についてRT-PCR,SSCPおよびDNA sequencingにて検討したところ、大腸癌29例中6例(20.7%)にDPC4遺伝子変異(5例point mutation,1例frame shift)が認められ、MADR2遺伝子では3例(10.3%)に遺伝子変異(point mutation)が確認された。さらに両遺伝子が位置する染色体18q21のLOH検索をMicrosatellite法にておこなったところDPC4遺伝子異常の認められた症例はすべてLOHが確認された。(informative症例)つぎにDPC4蛋白質に対するモノクローナル抗体を作成し、切除手術を施行した大腸癌64症例から原発巣および正常組織の蛋白を抽出し、Western blot法にてDPC4蛋白質の発現量を検討したところ、大腸癌組織におけるDPC4蛋白の発現量は、大腸正常粘膜と比較して有意に減少していることが認められた。DPC4蛋白量比(癌組織DPC4蛋白量/正常粘膜DPC4蛋白量)と臨床病理学的所見との検討では、肝転移陽性症例のDPC4蛋白量比は肝転移陰性症例の蛋白量比と比較して有意に減少していることが認められた。またDPC4遺伝子変異/欠損とDPC4蛋白発現量比の検討では遺伝子異常の認められた症例においてDPC4蛋白発現量比の減少は高度であった。以上よりTGF-β-DPC4シグナル経路は大腸癌の発生、転移などをはじめ、シグナル伝達解明に重要なpathwayであることが認められた。