- 著者
-
実吉 峯郎
川口 健夫
山口 十四文
- 出版者
- 西東京科学大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1994
申請時に提出した研究計画に基づき、まず、アラビノフラノシルシトシン-5′-モノりん酸(アラCMP)を出発材料とし、N4,2′,3′位の水酸基を無水プロピオン酸を用いてアシル保護した後、ピリジン中、塩化トリイソプロピルベンゼンスルフォニルと、対応するアルコール又は、フェノールと反応させ、脱保護、ダウエックス1(ぎ酸型)カラムクロマトグラフィーで精製し、a)フェニル、b)オルトクロロフェニル、c)パラノニルフェニル、d)フェノキシエチル、e)フェニルプロピルの各エステルを合成した。まず、3′→5′エキソヌクレアーゼ(ホスホジエステラーゼ)による酵素的水解に対する挙動を吟味したところ、いずれも、短鎖直鎖アルキルエステル(メチル、エチル、プロピル)と比較して、相対的に、水解速度は速く、その順番は、abcedであった。従って、芳香環に直結した水酸基を有するエステルが、この酵素にたいする親和性が高いと思われる。耐性細胞では、細胞膜の透過性が低下し、かつ、第1次りん酸化過程(salvage酵素)が欠落している可能性が示唆されているので、第一に細胞膜の透過を良くし、内部でエキソヌクレアーゼによってエステルの水解による、アラCMPの放出が行われることが望ましい。ついで、アラC感受性および耐性の培養ヒト癌細胞であるKB細胞を用いて上記化合物の検定を行ったところ、化合物cのみが、耐性株に対して増殖阻害を示した。cはアルキルフェノールエステルであり、側鎖ノニルグループによって、透過性とエステル酵素分解のかねあいがうまくいき、他の化合物にない挙動を示したと思われる。今後は、同様にアラC耐性に白血病細胞を用いて検定を行う予定である。膜透過性すなわち、細胞外からの取り込みには膜のトランスポートが関与しているので、その補助薬を開発することも耐性克服には有用であり、フェネチルデオキシウリジンとFUdRの系をモデルとしてその有効性を明らかとした。(発表論文)。さらに、りん酸エステルの類似体としてのホスホネートヌクレオシドについても一般的な合成法を確立しつつある。