著者
小林 亜津子
出版者
鳥取環境大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

G.W.F.ヘーゲルの「宗教哲学」の新資料に関する図書や、その他の関連書籍等を購入し、また、ヘーゲル研究会等に出席して「宗教哲学」資料についての情報収集を行ないながら、研究を進めた結果、つぎの二点を明らかにすることができた。1.全四回の講義のうち、1821年「宗教哲学」草稿の記述には、キリスト教精神の世俗世界での実現と言う思想的モティーフガ展開され、キリスト教の歴史を世俗史のなかに移し入れるという発想が登場してくる。こうした発想は、キリスト教救済史の時間性を損なう可能性がある。なぜならキリスト教の聖なる歴史を世俗史に移し入れてしまうことによって、ヘーゲルはキリスト教固有の救済史観を骨抜きにしてしまうことになるからである。21年草稿にみられるへ一ゲルの歴史意識を検討することによって、ヘーゲルの歴史意識と現代終末論によって再興されたキリスト教救済史の時間意識とのあいだに現前している埋めがたい決裂点が浮かび上がってくる。2.ヘーゲルもルターも共に、聖餐における神との直接的で、主体的な接触を介して初めて宗教性がなりたつという核心を共有しながら、その核心の内部では、神との直接的な一体感を享受するという神秘主義そのものと、否定を媒介することで神との合一に達するという神秘主義の精神化といった、二つの対立する態度を示している。これらの研究成果のうち、1については、4月に日本哲学会の学会誌『哲学』上に論文として発表した。2については、京都哲学会の学会誌『哲学研究』に掲載された。
著者
遠藤 辰雄 高橋 庸哉
出版者
鳥取環境大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究目的と同じ内容の北極圏スバルバールのニーオルセン(北緯79度東経12度)で行った観測結果が未解析で残っていたので、その解析を詳細に進め、その結果から標題の目的の研究を行うことにした。この期間は1998年12月16日から1999年1月9日までの間であり、この地方は完全な極夜であり、大気化学的条件としては、光化学反応は考慮する必要がないという興味ある環境であった。また、この時期はこの地方では比較的降雪が見られ、この時期を過ぎると全く降雪がないとされている。その降雪も量が少なくかつかなりの強風であるといわれていたのであるが、この年は大雪に恵まれ、しかも余り強風でない状態続いた。解析によって得られた知見は以下の通りである。(1)降雪試料に含まれている化学成分はかなり低濃度ではあるが、これまでの観測結果の傾向が再確認された。それは、雲粒付の雪結晶と雲粒の全く付かない雪結晶雄である雪片は硫酸塩と硝酸塩を夫々卓越して含んでいた。(2)雲粒の付かない雪片だけが観測された時間に環境大気の硝酸塩はエアロゾルの粗大粒子よりは微粒子の方で枯渇した状態が発見された。(3)また雲粒無しの雪結晶が降る時の降雪試料にかなりの高濃度の硝酸塩が検出され、それと同時に同じ濃度の水素イオンが測定された。このことから、雲粒の付かない雪結晶の表面では硝酸ガスそのものを物理吸着の形でとりこんでいるものと考察される。(4)3日間に亘る長時間の連続する降雪の途中から硝酸塩が枯渇するする現象が発見された。これも光化学反応が起こらないためであると考えられる。以上のことを総合的に考察すると硝酸塩もまた長距離輸送される大気汚染物質であると考えることが出来る。
著者
山田 協太
出版者
鳥取環境大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本年度は、昨年度の成果を踏まえ、研究の焦点となるインドの3つの植民都市、ゴアGoa、ディウDiu、ダマンDamaoにおいて、臨地調査をおこなった。調査は、街路網、街区、施設分布、広場、敷地割、建造物など都市組織を構成する物理的諸要素に着目しておこない、それぞれの都市空間の特質とその構成原理を把握することができた。また、各都市の都市型住居の基本的構成を把握することができた。研究をつうじて、これらの植民都市は、18世紀中頃から19世紀初頭にかけて一様に大きな変容を経験し、現代都市へと至っていることが明らかとなった。その意味でこの時期に都市内外に生じた一連の変化は近代化として理解し得るものである。考察をつうじて、こうした変化は、周辺状況に加えて同時期の宗主国でおこなわれた政策と密接な関連を持って進行したこと、宗主国の都市建設の伝統が色濃く反映されていることが明らかとなった。研究の成果は、論文、学会発表をつうじて順次公開している。また、昨年度から引続いて宗主国および調査地域の双方において文献・地図資料の収集をおこない、アジアにポルトガルが建設した植民都市について市街の状態が詳細に描かれた都市図を網羅的に収集することができた。双方の研究者、研究機関との交流を深めることができたことも成果である。こうした成果をもとに、アジアにおけるポルトガル植民都市の形成と変容という、より大きな枠組で研究を展開できる可能性が見えつつある。
著者
浅川 滋男 西山 和宏 東樋口 護
出版者
鳥取環境大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

東アジアから東南アジアにかけて広範囲に分布する家船居住の実態をあきらかにするための前提として、これまでの研究史を整理し、この地域における家船の分布図と家船呼称の分布図を作成した。一方、山口県の見島、マレーシアのペナン島とケタム島、ベトナムの香河、カンボジアのトンレサップ湖などで水上居住に関するフィールドワークを進めた。ベトナムのフエには約2万艘の家船が現存する。すてに相当の研究が蓄積されており、関係論文2篇を入手し、これを翻訳した。最も集中的な調査をおこなったのは、カンボジアのトンレサップ湖である。トンレサップは東南アジア最大の淡水湖であり、雨期と乾季で水位が約6メートル上下する。ここにチョンクニアスという大規模な水上集落が形成されており、そこにはおびただしい数の家船・筏住居・杭上住居が共存している。水上居住民の陸地定住化のプロセスを考察するにあたって、きわめて示唆にとむ。また、湖岸のスクウォッターとしての杭上住居だけでなく、一般農村の高床住居についても調査し、両者の構造・間取りを比較した。トンレサップ湖には、クメール人だけてなく、ベトナムからの難民が多数流入している点も興味深い。東南アジアでは、日本・中国では消滅しつつある家船居住が現在なお迫力をもって息づいており、これらの調査研究成果を中心にして、報告書を刊行した。