著者
猪瀬 優理
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-18, 2010
被引用文献数
1

現代日本では,若者の性行動・性意識に変化が生じており,これを「乱れ」として懸念する声も強い。しかし,若者の意識をより実質的に理解するには「乱れ」という否定的な解釈だけでは不十分である。若者たちが自分自身やその周囲の人びととのかかわりの中で形成する性意識の文化的背景を知る必要がある。本稿は思春期にあたる中学生,高学生(以下,中高生)の月経観・射精観に着目してこの問題に取り組む。射精に関する先行研究は月経に比して少ないため,射精観に関する議論は意義がある。<br> 北海道の都市における中高生を対象とした調査票調査とインタビュー調査をもとにして,⑴射精に対するイメージが月経より希薄であること,⑵月経/射精と生殖の結びが漠然としたものである可能性,⑶射精が罪悪感・羞恥心を伴うものであること,⑷射精経験が月経経験よりも公的に語られにくいものであること,を明らかにした。<br> この背景には,⑴性的欲望や性的欲求について公的に語ることに対するタブー視が根強く,特に子どもに対して顕著であること,⑵女性の身体は特別なケアが必要なものとみなすが,男性の身体には特別なケアの必要を認めないこと,⑶生殖とのつながりについて特に女性の身体を重視する文化があること,⑷性的欲求や性的欲望が主にポルノグラフィとして語られる文化があること,が挙げられる。射精はその現象の性質から性的欲求との関わりが強いために,公的に語られにくいことが指摘できる。
著者
古口 真澄
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-20, 2012

孫の養育責任を担う祖父母の事例を通し,「家」制度の持続・変容面がどのように表れているかについて,先駆的に考察を試みた。家族の段階的推移として家族縮小期,家族再構築期,家族再縮小期を設定しているが,分析の中核は,祖父母が主に孫の養育にかかわる家族再構築期である。<br> 家族縮小期では,(1)子世代(長男)の結婚年齢が早いと,親世代(祖父母)の方に,夫婦家族規範意識が強くみられていた。<br> 家族再構築期には,(2)明治民法の「家」制度的要素が,親権問題では払拭されている。(3)「直系家族」的であるという「縦」の系譜・「父子継承ライン」は,祖父母の中に現在でも根強く維持されている。その内実を精査すると,祖父(父)―息子―孫息子という継承ラインではなく,祖母(母)―息子,祖母―孫息子というように,祖母が認知する「子の可愛さ」と「継承意識」が二重になり直系家族の「連続性」が強化されていた。(4)「家」制度の持続面と変容面から,孫息子と孫娘の養育責任を担う父方祖母には,父系血統の存続へのこだわりが表出しやすいと捉えることができる。<br> 家族再縮小期では,(5)「1960年代生まれには,結婚時の核家族化,中途同居の傾向がみられ,なおかつ同居にもっとも強く働いているのは,夫の続柄(長男)と持家の相続という伝統的な要因である」ということが確認された。本稿からは,長男の転職による近居が,祖父母の「継承意識」を強めていたと考えられる。
著者
亀野 淳
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-15, 2005

本稿は日本的雇用システムの変化が若年雇用や学歴・学校歴に及ぼす影響について考察したものである。<BR>日本的雇用システムの変化は,そのメリットを否定したわけではなく,むしろメリットを維持するための修正とみるべきである。変化の方向性としては,新規学卒者の採用人数の絞込み,遅い選抜方法の見直し,人材育成における対象者の絞込みや自己啓発への期待などがあげられる。新規学卒者の採用人数の絞込みは,単純に若年者の雇用環境の悪化だけではなく学歴や学校歴による格差が大きくなると見込まれる。また遅い選抜方法の見直しは,選考基準として学校歴がより重視される傾向になると見込まれる。さらに人材育成における対象者の絞込みや自己啓発への期待は,ビジネススクールなどの専門職大学院の対する社会的ニーズは高まると予想されるが,大卒者の相対的地位の低下を招き新たな若年者の雇用問題を発生させるおそれもある。<BR>このように日本的雇用システムの変化は,若年者の雇用環境の悪化や学歴・学校歴による格差を拡大させるおそれがある。したがって今後は正規社員と非正規社員の処遇格差の是正や非正規社員に対する人材育成やマネジメントの必要性が高まる。
著者
李 賢京
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.77-99, 2010

本稿の目的は,海外における日系新宗教信者の信仰深化過程を考察することである。多くの先行研究では,日系移民社会内における日系人の信仰継承が注目されてきた。だが,本稿では,日系移民社会内ではなく,過去に日本によって植民地支配された韓国における,韓国人信者の信仰継承に焦点を当てる。<br> 第2次世界大戦後,多くの日本の宗教教団は朝鮮半島から撤退していったが,天理教は韓国人信者たちによって存続され,現在まで受け継がれている。本稿では,天理教の「3世信者」のライフヒストリーに基づき,彼らの信仰における深化過程を明らかにした。特に本稿では,「日常」あるいは「非日常」における「教団内他者」・「教団外他者」との関わり・相互行為・相互活動が,「3世信者」の信仰に,どのような影響を与えているのかについて分析し,韓国に特徴的な日系新宗教信者の信仰深化過程を明らかにした。<br> 韓国天理教の「3世信者」における信仰の深化過程への考察から,以下の2点の知見が得られた。⑴韓国は日本植民地経験に起因する反日感情が強く(反日感情を現しているのが日系宗教に対する「似而非宗教」「倭色宗教」という呼称である),そうした感情を持つ「教団外他者」は,「3世信者」の信仰生活の「弱化」に強く影響を与えていた。⑵「教団内他者」である同輩の信者と,親の寛容な宗教教育態度は,「3世信者」の信仰の維持および深化に影響を与えていた。
著者
竹中 健
出版者
Hokkaido Sociological Association
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.39-59, 2010

ボランティア組織を政策的な意図をもって立ちあげ,そのなかへ人びとを動員しようとする様ざまな行政によるしかけと,その網に乗って真に他者のために活動したいと望む人びとの諸行為の連関を明らかにすることは重要である。それにより日本における相互扶助の社会関係が,制度的・非制度的な両面において今後どのような展開をもって進んでいくのかを予測し,より好ましい福祉社会のありかたを検討できるからである。<br> 多くの病院ではボランティア組織が導入されて 10年以上が経過している。それにもかかわらず,日本においては必ずしも十分に定着や拡大をしていない状況があるとするならば,その実態をていねいに把握し,分析する必要がある。<br> 本稿においては,行政主導によって 90年代後半以降に設立された病院ボランティアの典型として長野県にあるひとつの市立病院に存在する2つのボランティア組織と1つのボランティアグループの定着過程をみる。それにより,病院におけるボランティア組織導入後の展開可能性および病院内にボランティア組織が存在することの意義をもう一度実証的な見地から捉え直し,考えていく。行政による誘導後の病院ボランティアに展開の可能性はあるのか。そしてどのようなかたちで,定着または衰退していくと予想されるかを論じる。