著者
酒井 才介 小寺 剛 荒木 大惠 中澤 正彦 石川 大輔 中沢 伸彦 神代 康幸
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.1507, 2015-07

リーマンショック以降、金融政策がゼロ金利制約に直面する中で、財政政策の役割が再び注目されている。財政政策の効果については、標準的なRBCモデルやニューケインジアンモデルでは政府支出ショックに対して民間消費が減少してしまい、Blanchard and Perotti (2002) 等による実証結果と矛盾することが知られている (「政府支出パズル」)。政府支出と民間消費の関係について、Karras (1994)、Okubo (2003)、Iwata (2013) 等は、政府消費が民間消費の限界効用に影響を与えるモデルを構築し、政府消費と民間消費との間に補完性 (エッジワース補完性) があるとの実証分析を行っている。また、Fiorito and Kollintzas (2004) はヨーロッパ各国のデータを用いて、政府消費のうち医療等のメリット財の支出が民間消費との間に強い補完性があることを示している。日本における政府消費については、今後高齢化に伴い医療や介護等の社会保障支出 (メリット財支出) が大きく増加することが見込まれており、上記の先行研究を踏まえれば、エッジワース補完性を考慮した上で政府支出の効果を分析する意義は大きいと考えられる。本稿では、廣瀬 (2012) のモデルに非リカード的家計、政府投資の社会資本効果、政府消費と民間消費のエッジワース補完性を導入したDSGE (Dynamic Stochastic General Equilibrium) モデルを用いて、日本の政府支出増加の効果を実証的に分析する。特に、政府消費についてはメリット財支出と公共財支出に区分し、それぞれの支出を増加させた場合の政策効果の違いを検証する。MCMC (Markov Chain Monte Carlo) 法によるベイズ推定の結果、Fiorito and Kollintzas (2004) と同様、メリット財支出の増加が民間消費に対して正の影響を与え、メリット財支出をGDP比で1%増加させた場合の乗数が1を上回ることを示す。本稿の分析は、エッジワース補完性の存在が「政府支出パズル」の解決に向けて一定の示唆を与えること、また政府支出の類型によって経済変数への影響が異なることを示している。
著者
小嶋 大造
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.1606, 2017-02

本稿では, 法律と裁量を分析視座に, 農業政策に不安定性をもたらす仕組みや, それが政策形成に与える影響について, 財政学的な観点を中心に検討する. 農業政策では, 1970年代前後の米生産調整を中心に, 根拠法をもたない予算措置と, 法的作用をもつ通達とが組み合わされる形で, 基本法の枠組を逸脱した行政裁量を可能とする仕組みが形成されてきた. これが, 今日まで, 所得対策を中心に農業政策の基本形として続いてきた (例えば, 基本法の枠組から逸脱し, 本来の目的と異なる目的が紛れ込んだ予算措置など). 今後, 行政裁量に対する統制のあり方が問われて然るべきである.
著者
郭 秋薇
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.1510, 2015-11

本稿は『平成21年度日本人の就業実態に関する総合調査』の個票データを利用して、雇用形態が仕事の割り当てに及ぼす影響を調べ、その影響が雇用形態による訓練格差を説明できるかを統計的に検証した。その結果、雇用形態は訓練に直接的影響を及ぼすだけでなく、仕事の割り当てを通じても影響することが明らかになった。非正規労働者は訓練機会の少ない低技能の仕事に就く確率が有意に高く、正規労働者との問の訓練格差の28% はこの影響によって説明される。また、サンプル数が十分でないこともあって有意ではないものの、非正規雇用の各雇用形態 (パート、アルバイト、派遣社員、契約社員) によって正規雇用との問の訓練格差をもたらす原因も異なることが分かった。派遣社員と比べて、パートやアルバイトは雇用形態の直接的影響より、仕事の割り当てを通じた間接的影響による訓練格差が大きい (契約社員については有意な格差が見られない)。本稿の結果から得られた主な政策的含意は、仕事の割り当てを通じて間接的に形成された訓練格差を解消するためには、非正規労働者が正規労働者と同等の訓練機会がある仕事に就けるように企業の雇用管理の在り方を変える必要があることである。
著者
Murata Yasusada Nakajima Ryo Okamoto Ryosuke Tamura Ryuichi
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.763, 2011-03

We develop a new approach to localized knowledge spillovers by incorporating the concept of control patents (Jaffe, Trajtenberg and Henderson 1993) into the distancebased test of localization (Duranton and Overman, 2005). Using microgeographic data, we identify localization distance while allowing for cross-boundary spillovers, unlike the existing literature where the extent of localized knowledge spillovers is detected at the state or metropolitan statistical area level. We revisit the recent debate by Thompson and Fox-Kean (2005) and Henderson, Jaffe and Trajtenberg (2005) on the existence of localized knowledge spillovers, and find solid evidence supporting localization, even when finer controls are used.
著者
磯部 昌吾 中澤 正彦 米田 泰隆
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.1402, 2014-06

中央銀行による国債買入は、非伝統的な金融緩和政策の実施手段の1つである。日米英の中央銀行の国債保有残高は、2013年12月までに、日本銀行では96.7兆円、米国連邦準備理事会(FRB)では1.7兆ドル、イングランド銀行(BOE)では3,750億ポンド増加している。中央銀行による国債買入の効果については、既に様々な分析が行われているが、金融市場に与えた影響を国際的に比較した分析は少ない。また、中央銀行が買入れた国債の残存期間に着目した分析は皆無である。そこで本稿では、日本・米国・英国の残存期間別の国債買入額を用いて、3力国において、中央銀行による国債の買入が、金融市場に与えた影響を分析した。その結果、3力国とも共通して株価に対しては、中央銀行による残存期間3年超の国債の買入が有意に正の効果を持つとの結果が得られた。他方、国債利回りと為替レートに対しては、有意に影響が推定されるものもあるが、共通した結果は得られない。株価に対する正の効果は、ポートフォリオ・リバランス効果や、期待インフレ率が高まったことによる株価上昇を捉えている可能性が考えられる。
著者
Watanabe Ryoichi Furukawa Masakazu Nakamura Ryota Ogura Yoshiaki
出版者
Institute of Economic Research, Kyoto University
雑誌
KIER Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.626, 2006-12

This paper focuses on the drastic increase observed in the Japanese male suicide rate in the late 1990s and early 2000s and confirms unemployment and personal bankruptcy to be the associated socioeconomic factors behind the male suicide variation. Personal bankruptcy is also confirmed to be significant in the female suicide variation. The relationship is confirmed through a pooled data analysis by a middle-aged group and by prefecture. Further, the paper focused on the association between the unemployment rate and suicide mortality by incorporating the reasons for unemployment in the monthly regression. Next, we identified a significant association between male suicide variations and changes in some of the reasons for being unemployed. The interpretation of the results implies that the risk of unemployment among men has been mitigated by the unemployment insurance rather than the bias in the reasons reported and/or mental disorder in Japan.