著者
岡田有司 大久保智生 半澤礼之 中井大介 水野君平 林田美咲 齊藤誠一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨 学校適応に関する研究は近年ますます活発になり,小学校・中学校・高校・大学と各学校段階における学校適応研究が蓄積されてきている。学校段階によって学校環境や児童・青年の発達の様相は異なるといえ,学校適応研究においても学校段階を意識することが重要だといえる。こうした問題意識から,企画者らは2017年度は小学校段階に焦点をあてて学校適応について検討を行った(大久保・半澤・岡田,2017)。本シンポジウムでは,中学校段階に注目し,主に友人関係の観点から学校適応にアプローチする。 先行研究では中学生の学校適応に影響を与える様々な要因について検討されてきたが,その中でも友人やクラスメイトとの関係は学校への適応に大きなインパクトがあることが示されてきた(岡田,2008;大久保,2005など)。 中学校段階は心理的離乳を背景に友人関係の重要度が増すとともに,同性で比較的少人数の親密な友人関係である,チャムグループを形成する時期であるとされる(保坂・岡村,1986)。そして,この時期の友人関係では,内面的な類似性が重視され,排他性や同調圧力が強くなるといった特徴のあることが指摘されている。このような友人関係を形成することは発達的に重要な意味がある一方で,中学校段階において顕在化しやすい学校適応上の諸問題と密接に関連していると考えられる。 以上の問題意識から,本シンポジウムでは友人という観点を含めながら中学生の学校適応について研究をされてきた登壇者の話題提供をもとに,この問題について理解を深めてゆきたい。中学生の「親密な友人関係」から捉える青年期の学校適応中井大介 近年,青年期の友人関係に関する研究では青年が親密な関係を求めつつも表面的で希薄な関係をとることや状況に応じた切替を行うといった複雑な様相が指摘されている(藤井,2001;大谷,2007)。その中で,依然として「親友」と呼ばれるような「親密な友人関係」が青年期の学校適応や精神的健康に影響することも指摘されている(岡田,2008;Wentzel, Barry, & Caldwell, 2004)。 一方で,このように重要とされている青年期の親密な友人関係であるが,そもそも青年にとって,このような親密な友人関係がどのようなものであるかを検討した研究は少ない(池田・葉山・高坂・佐藤,2013;水野,2004)。その中でこのような青年期の親密な友人関係をとらえる枠組みの一つとして,近年,青年期の友人に対する「信頼感」の重要性が指摘されている。 しかし,この青年期の友人に対する「信頼感」については,質的研究は行われているものの量的研究が少ないため未だ抽象的な概念である。この点を踏まえれば青年期の親密な友人関係について主体としての青年自身が信頼できる友人との関係をどのように捉えているのかを量的研究によって検討する必要があると考えられる。 加えて上記のように中学生にとって親密な友人関係が学校適応や精神的健康に影響を及ぼすことを踏まえれば,友人に対する信頼感と学校適応の関連を詳細に検討する必要性があると考えられる。しかし,これまで友人に対する信頼感が学校適応とどのような関連を示すかその詳細は検討されていない。そのため生徒の学年差や性差などによる相違についても検討する必要がある。 そこで本発表では中井(2016)の結果をもとに,第一に,「生徒の友人に対する信頼感尺度」の因子構造と学年別,性別の特徴を検討し,第二に,友人に対する信頼感と学校適応との関連を学年別,性別に検討する。これにより中学生の学校適応にとって「親密な友人関係」がどのような意味を持つかについて今後の研究課題も含め検討したい。スクールカーストと学校適応感の心理的メカニズムと学級間差水野君平 思春期の友人関係では,「グループ」と呼ばれるような同性で,凝集性の高いインフォーマルな小集団が形成されるだけでなく(e.g., 石田・小島, 2009),グループ間にはしばしば「スクールカースト」という階層関係が形成されることが指摘されている(鈴木, 2012)。スクールカーストは,生徒の学校適応やいじめに関係することが指摘されている(森口, 2007;鈴木, 2012)。中学生を対象にした水野・太田(2017)では学級内での自身の所属グループの地位が高いと質問紙で回答した生徒ほど,集団支配志向性という集団間の格差関係を肯定する価値観(Ho et al., 2012;杉浦他, 2015)を通して学校適応感に関連することを明らかにした。このように,スクールカーストに関する心理学的・実証的な知見は未だに少ないことが指摘されているが(高坂, 2017),スクールカーストと学校適応の心理的プロセスが少しずつ示されてきている。 また,個人内の心理的プロセスだけでなく,学級レベルの視点を取り入れた研究も必要であると考えられる。なぜなら,学校適応とは「個人と環境のマッチング」(近藤, 1994;大久保・加藤, 2005)と言われるように,個人(児童や生徒)と環境(学級や学校)の相性や相互作用によって捉える議論も存在するからである。さらに,近年のマルチレベル分析を取り入れた研究から,学級レベルの要因が個人レベルの適応感を予測することや(利根川,2016),学級レベルの要因が学習方略に対する個人レベルの効果を調整すること(e.g., 大谷他,2012)のように,日本においても学級の役割が実証的に示されてきているからである。 本発表では中学生のスクールカーストと学校適応の関連について,スクールカーストと学校適応の関連にはどのような心理的メカニズムが働いているのか,またどのような学級ではスクールカーストと学校適応の関係が強まってしまう(反対に弱まってしまう)のかを質問紙調査に基づいた研究を紹介して議論をすすめたい。友人・教師関係および親子関係と学校適応感林田美咲 従来の学校適応感に関する多くの研究では,友人や教師との関係が良好であり,学業に積極的に取り組む生徒が最も学校に適応していると考えられてきた。しかし,学業が出来ていない生徒や教師との関係がうまくいっていない生徒が必ずしも不適応に陥っているとは限らない。そこで,今回は学校適応感を「学校環境の中でうまく生活しているという生徒の個人的かつ主観的な感覚(中井・庄司,2008)」として捉え,検討していく。 友人関係や教師との関係が学校適応感に及ぼす影響については,これまでも検討されてきている (例えば,大久保,2005;小林・仲田,1997)。さらに,家族関係も学校適応感と関連することが示されており,学校適応について検討する際には家族関係やクラス内にとどまらない友人関係も考慮するという視点が必要であると指摘されている (石本,2010)。人生の初期に形成される親子関係は,後の対人関係を形成する上での基盤となることが考えられる。そこで,親への愛着を家族関係の指標とし,友人関係,教師との関係と合わせて,学校適応感にどのような影響を及ぼすのかについて検討した(林田,2018)。 その結果,愛着と学校内の対人関係はそれぞれに学校適応感に影響を及ぼすだけでなく,組み合わせの効果があることが示唆された。親子関係が不安定なまま育ってきた生徒であっても,友人関係や教師との関係に満足していることが補償的に働き,学校適応感が高められることや,友人関係や教師との関係に満足できていない場合,親への愛着の良好さに関わらず,高い学校適応感が得られにくいことが示唆された。つまり,学校適応感を高めるためには,友人関係や教師との関係が満足できるものであることが特に重要であると考えられる。 本発表では,親への愛着や友人関係,教師との関係といった中学生を取り巻くさまざまな対人関係が学校適応感にどのような影響を及ぼしているのかについて,研究結果を紹介しながら考えていきたい。
著者
中井 大介
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.78-90, 2020-09-09 (Released:2020-09-09)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

本研究では,青年期の恋愛関係の形成・維持プロセスを,恋愛関係への動機づけと現在の恋人に対する信頼感および親密性との関連から検討した。大学生509名のうち,現在恋人がいると回答した185名を対象に質問紙調査を実施した。第一に,探索的因子分析の結果,恋愛関係への動機づけ尺度は「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子,恋人に対する信頼感尺度は「役割遂行評価」「安心感」「不信」「付き合いづらさ」の4因子が抽出された。第二に,各変数の関連では男女とも「内的調整」が「安心感」を媒介し,「親密性」を高めていた。この結果から,親密性という自我発達にとっては,ただ恋愛関係を形成・維持すれば良いのではなく,恋愛関係への自律的動機づけや現在の恋人に対する安心感が重要であることが示唆された。また,各変数の関連の様相には性差が認められることも明らかになった。
著者
杉本 希映 遠藤 寛子 飯田 順子 青山 郁子 中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.149-161, 2019-09-30 (Released:2019-11-14)
参考文献数
39
被引用文献数
4

本研究の目的は,“保護者による教師の信頼性認知”を測定できる尺度を作成し,その尺度と関連が予想される要因について検討することであった。目的1において,予備調査により原案34項目の尺度が作成された。その尺度を用いて,小学生と中学生の子どもを持つ保護者516名を対象に因子分析を行った。その結果,「教師の役割遂行能力」,「規律的指導」,「子どもに合わせた指導」,「子どもが示す好意」の4下位因子と1つの上位概念から構成される「保護者による教師の信頼性認知」尺度が作成された。目的2において,学校,子ども,保護者の各側面と「保護者による教師の信頼性認知」との関連を検討した。その結果,子どもにトラブルが生じたときの学校対応に対する満足度が「保護者による教師の信頼性認知」にも関連していることが明らかにされた。さらに,「保護者による教師の信頼性認知」が低く,トラブル時の学校対応満足度も低いと,教師に援助を求めることへの心配が高いことも明らかとなり,「保護者による教師の信頼性認知」は,保護者と教師の協働に関与している可能性が示唆された。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.453-463, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
20 3

本研究では, 中学生の教師に対する信頼感の内容を尺度を作成する中で明らかにし, 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因について検討した。中学生345名を対象に調査を実施した。分析1では, 生徒の教師に対する信頼感尺度を作成し, 信頼性と妥当性を検討した。その結果,(1) 生徒の教師に対する信頼感尺度には「安心感」,「不信」,「正当性」の3つの下位尺度があること,(2)「安心感」,「不信」,「正当性」については, 学年によって有意に得点が異なることが明らかになった。分析2では, 生徒の教師に対する信頼感とその規定要因について検討した。その結果,(1) 各学年とも「基本的信頼感」「保護者の信頼感」が「不信」に影響しており, 生徒の教師に対する信頼感には家庭の要因も関連すること,(2)「安心感」「正当性」においては, 各学年とも共通して「ソーシャル・サポート」が影響を与えており, 生徒の教師に対する信頼感には教師からのソーシャル・サポートが重要な要因であること,(3)「不信」には,「STT尺度」のポジティブな2因子である「安心感」「正当性」と比べ, より多くの要因が関連していること, などが明らかになった。
著者
中井 大介
出版者
The Japanease Society for the History of Economic Thought
雑誌
経済学史研究 (ISSN:18803164)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.46-62, 2006-06-30 (Released:2010-08-05)
参考文献数
37

While Henry Sidgwick may be best known as a moral philosopher and the author of The Methods of Ethics (1874), he made notable contributions spanning economics and other fields as well, one of them being The Principles of Political Economy (1883). Even now The Methods and its treatment of utilitarianism is recognized as an authoritative model for ethical theory, but his conclusion that there is a “dualism of practical reason” has generated a great deal of controversy. The relationship between these two works has not yet been fully analyzed in the scholarly and critical literature. In this paper I demonstrate that the structure of the argument in The Principles is closely related to The Methods.Sidgwick distinguishes economics as a Science (what is) from economics as an Art (what ought to be) based on two moral principles, egoism and utilitarianism, both explicated in The Methods. Sidgwick's Science/Art distinction is instantiated by his distinction between “economic man” and “ordinary man.” Economic man is an abstraction signifying economic behavior based on self-interest. In Sidgwick's argument, Science can employ the idea of economic man to objectively analyze a society where self-interested economic behavior is the norm. Ordinary man, on the other hand, is the ideal of economic behavior motivated by moral rules based on both self-interest and utilitarianism. Art defines those governmental activities desired in a society consisting of “ordinary men.”Self-interested economic activity does not necessarily achieve the preferred results. When it leads to monopoly, for example, it works to reduce social production. The dilemma of Sidgwick's “dualism of practical reason” is the generation of conflict between the outcome of economic man's behavior and the desired results of behavior by ordinary man. As I attempt to show here, in The Principles Sidgwick constructed a role for government that would resolve that problem. Furthermore, using the distinction between Science and Art, and introducing egoism and utilitarianism, Sidgwick tried to resuscitate the ideas of the classical school of political economy.
著者
中井 大介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.57-68, 2008-05-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
18

本研究の目的は,学校教育における教師と生徒の信頼関係の重要性と,思春期における特定の他者との信頼関係の重要性を踏まえ,中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を実証的に検討することであった。中学生457名を対象に調査を実施し,「生徒の教師に対する信頼感尺度」と「学校生活適応感尺度」との関連を検討した。その結果,(1)生徒の教師に対する信頼感は,生徒の「教師関係」における適応だけではなく,「学習意欲」「進路意識」「規則への態度」「特別活動への態度」といった,その他の学校適応感の側面にも影響を及ぼすこと,(2)各学年によって,生徒の教師に対する信頼感が各学校適応感に与える影響が異なり,1年生では教師に対する「安心感」が一貫して生徒の学校適応感に影響を与えていること,(3)一方,2年生,3年生では「安心感」に加えて,「不信」や「役割遂行評価」が生徒の学校適応感に影響を与えるようになること,(4)各学年とも,生徒の教師に対する信頼感の中でも,教師に対する「安心感」が最も多くの学校適応感に影響を及ぼしていること,(5)「信頼型」「役割優位型」「不信優位型」「アンビバレント型」といった生徒の教師に対する信頼感の類型によって生徒の学校適応懸か異なること,といった点が示唆された。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.49-61, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
26
被引用文献数
8 4

本研究では, 中学生の教師に対する信頼感の規定要因を検討するため, 中学生の過去の教師との関わり経験と教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生374名を対象に調査を実施した。その結果, (1) 生徒の教師に対する信頼感のポジティブな側面である「安心感」「正当性」と, 「教師からの受容経験」「教師との親密な関わり経験」が正の関連を示すこと, (2) 生徒の教師に対する信頼感のネガティブな側面である「不信」と, 「教師との傷つき経験」が正の関連, 「教師からの受容経験」が負の関連を示すことが明らかになった。また, 「教師との関わり経験尺度」の下位尺度得点で調査対象者を類型化し, 教師に対する信頼感との関連を検討したところ, (3) ポジティブな経験をしている群は教師に対する信頼感が高いこと, (4) ネガティブな経験のみしている群, ポジティブな経験・ネガティブな経験共に少ない群は教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から, 生徒の教師に対する信頼感には, 従来指摘されてきた教師の信頼性の側面だけではなく, 生徒側の個人的な心理的要因も関連している可能性が明らかになった。
著者
原田 宗忠 中井 大介 黒川 雅幸
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.50-60, 2020-08-04 (Released:2020-08-04)
参考文献数
20
被引用文献数
2

これまでの研究では,いじめ被害と自己像の不安定性がいじめ加害と関係する可能性が示唆されているものの,いじめ被害と自己像の不安定性の因果関係は示されてこなかった。そこで,本研究では3時点の縦断調査によってこれらの関係を示すことが主な目的であった。調査対象者は,小学校5, 6年生420名,中学校1, 2, 3年生942名の計1,362名であり,1年間において3回の質問紙調査を実施した。質問紙では,自己像の不安定性,いじめ被害経験,いじめ加害経験の測定を行った。いじめ被害経験と加害経験については,1回目の調査では現在の学年になってから,2, 3回目の調査では前の調査からのことを尋ねた。交差遅延モデルによる分析の結果,一部有意な傾向のパスを含むが,中学生においてのみ,自己像の不安定性が高いことがいじめ被害経験を高め,いじめ被害経験がいじめ加害経験を予測することが示唆された。
著者
中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.263-275, 2018-12-30 (Released:2018-12-27)
参考文献数
23
被引用文献数
5

本研究では,教師との関係の形成・維持に対する動機づけと,教師への援助要請場面における利益とコストの予期,および相談行動との関連を検討した。中学生288名を対象に質問紙調査を実施した。第一に,担任教師との関係の形成・維持に対する動機づけが担任教師に対する相談行動の利益・コストの予期を媒介し,担任教師に対する相談行動に及ぼす影響を性別に検討した。その結果,(a)「内的調整」「同一化」といった自律的動機づけが主に相談実行の利益の予期と正の関連,「取り入れ」「外的調整」といった統制的動機づけが主に相談実行のコストの予期と正の関連を示すこと,(b)その関連の様相は性別によって異なること,(c)主に自律的動機づけである「内的調整」が相談行動と正の関連,相談回避の利益の予期である「問題の抱え込み」が相談行動と負の関連を示すことが明らかになった。(d)また,動機づけで調査対象者を類型化した結果,すべての動機づけが高い「高動機型」は,他の類型に比べ相談実行の利益の予期が高い傾向にあるだけでなく,相談実行のコストの予期も高い傾向にある中で,より相談行動の得点が高いなど,類型によって援助要請の特徴が異なる可能性が示唆された。
著者
中井 大介
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.10-25, 2016
被引用文献数
5

本研究では,量的研究が限られている中学生の友人に対する信頼感の因子構造を実証的に明らかにし,友人に対する信頼感が生徒の学校適応感とどのように関連するかを検討した。中学生563名を対象に調査を実施した。第一に,生徒の友人に対する信頼感尺度(STS尺度)を作成し,信頼性と妥当性を検討した。その結果,(1)STS尺度は「友人への安心感」「友人への不信」「友人への頼もしさの感覚」の3因子構造からなり,信頼性と妥当性があること,(2)STS尺度の得点は,1年生が3年生に比べ,女子が男子に比べ高く,学年差・性差があることが明らかになった。また,生徒の友人に対する信頼感が生徒の学校適応感に及ぼす影響を検討したところ,(3)「友人への安心感」「友人への不信」「友人への頼もしさの感覚」のそれぞれが生徒の学校適応感に異なる影響を及ぼしていること,(4)また,その関連の様相も生徒の学年別,性別によって異なる可能性が示唆された。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.57-68, 2008
被引用文献数
1

本研究の目的は,学校教育における教師と生徒の信頼関係の重要性と,思春期における特定の他者との信頼関係の重要性を踏まえ,中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を実証的に検討することであった。中学生457名を対象に調査を実施し,「生徒の教師に対する信頼感尺度」と「学校生活適応感尺度」との関連を検討した。その結果,(1)生徒の教師に対する信頼感は,生徒の「教師関係」における適応だけではなく,「学習意欲」「進路意識」「規則への態度」「特別活動への態度」といった,その他の学校適応感の側面にも影響を及ぼすこと,(2)各学年によって,生徒の教師に対する信頼感が各学校適応感に与える影響が異なり,1年生では教師に対する「安心感」が一貫して生徒の学校適応感に影響を与えていること,(3)一方,2年生,3年生では「安心感」に加えて,「不信」や「役割遂行評価」が生徒の学校適応感に影響を与えるようになること,(4)各学年とも,生徒の教師に対する信頼感の中でも,教師に対する「安心感」が最も多くの学校適応感に影響を及ぼしていること,(5)「信頼型」「役割優位型」「不信優位型」「アンビバレント型」といった生徒の教師に対する信頼感の類型によって生徒の学校適応懸か異なること,といった点が示唆された。
著者
中井 大介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
29
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。
著者
中井 大介
出版者
Japan Society of Developmental Psychology
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.539-551, 2013

本研究では,これまで思弁的論考が多く,同一の構造とされてきた,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感の因子構造を明らかにし,それぞれに対する信頼感が生徒の学校適応感に及ぼす影響を検討した。中学生563名を対象に調査を実施した。第一に,中学生の母親に対する信頼感尺度(STM尺度)と父親に対する信頼感尺度(STF尺度)を作成し,信頼性と妥当性を検討した。その結果,(1)STM尺度は「母親への役割遂行評価」「母親への安心感」「母親への不信」の3因子構造であること,(2)STF尺度は「父親への安心・信用」「父親への不信」「父親への親近感」の3因子構造であることが明らかになった。また,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感が生徒の学校適応感に及ぼす影響を検討したところ,(3)母親に対する信頼感,父親に対する信頼感のそれぞれが生徒の学校適応感に影響を及ぼし,その影響の様相は母親と父親の対象別,生徒の学年別・性別によって異なることが明らかになった。これらの結果から,中学生の母親に対する信頼感と父親に対する信頼感は異なる因子構造であること,それぞれに対する信頼感が学校適応感に及ぼす影響には発達差や性差が見られることが明らかになった。
著者
中井 大介
出版者
近畿大学
雑誌
生駒経済論叢 (ISSN:13488686)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.249-272, 2008-03

ヘンリー・シジウィックは,ベンサムやJ.S.ミルに続く「功利主義の伝統の直接的系譜にある最後の哲学者」として知られている。彼の『倫理学の諸方法』についてはこれまでに多くの研究がなされているが,『経済学原理』,『政治学要論』およびこれら著作の相互関係については十分検討されていないのが現状である。本稿の目的は,以上の三著作を通じてシジウィックの功利主義を考察すること,さらには倫理学・経済学・政治学から構成されるシジウィックの哲学体系のパースペクティブを描くことである。