著者
李 熙馥 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.527-538, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
27

ナラティブ(Narrative,語り)には,ある出来事をどのように組織化し,意味づけるのかに関する構成の側面と,聞き手となる他者にどう伝えるのかに関する行為の側面がある。本研究は,空想のストーリーであるフィクショナルナラティブ(Fictional Narrative:以下FN)に注目し,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)児の構成と行為の側面における特性について検討を行った。その結果,ASD児のFNは典型発達児と比べて,FNの組織化において登場する人や場所,時間,行動的状況に関する言及である「セッティング」や,ストーリーの結末を明確にする「結果」に関する言及が少ない,登場人物の言動と心的・情動的状態との因果関係に関する言及が少ない,言動の主体を明確にし,主人公の一貫した観点からFNを構成することが少ないことが示された。一方,行為の側面においては,参照的工夫の言及においては典型発達児との間に有意な差はなく,参照的工夫の行動においては小学生のASD児の方が小学生の典型発達児よりFNを行う際に聞き手をみる行動が多かったことが示され,ASD児は聞き手に伝えようとする意識を有していた可能性が考えられた。今後は,聞き手の状態や働きかけに対し,どのようにナラティブを調整するのかに関する検討が必要であると考えられる。
著者
田中 真理 長阪 朱美
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.108-121, 2009-08-31

本研究では,なぜライティング評価の一致が難しいのか,その原因について検討する.ライティング・パフォーマンス・テストは真正性は高いが,人間が介在するアセスメントである.主観的になりうる評価の信頼性確保のためには,評価基準の共有と評価者のトレーニングが必要だとされている.田中ほか(2009)では,第二言語としての日本語ライティング評価のためのマルチプル・トレイト評価表を開発し,その講習会を実施した.その後,講習会に参加した8名の日本語教師に2種類各26編の小論文を評価してもらった.その結果,評価の内的一貫性はあったが,個々の小論文では,評価が一致している小論文もある一方で,ずれの大きな小論文も認められた.そこで,原因を探るために,評価者を対象にアンケート調査と評価者間ミーティングを行った.本稿では,そこから得られた示唆をもとに,ライティング評価の不一致の原因について,トレイト,プロンプト,レベル,ライティングの潜在能力,評価者の個人的要因の観点から分析する.本研究において,真正性は高くとも,人間によるパフォーマンス評価には限界のあることが示唆されたが,評価基準の改善,評価プロセスの分析,評価者間ミーティングの活用等によって,ライティング評価一致の難しさの問題は解決できるものと考える.
著者
滝吉 美知香 鈴木 大輔 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.63-73, 2017 (Released:2019-06-20)
参考文献数
24

本研究は,社会性の発達において重要な指標となる「気まずさ」の認識について,典型発達(TD)者の発達段階,ならびに自閉スペクトラム症(ASD)者の特徴を明らかにすることを目的とした。TD者214名とASD者111名に「あなたが“気まずい”と感じるのはどういうときですか」と質問し回答を12のカテゴリーに分類し分析した。TD者において,小学生は自己の信念や感情が他者のそれとは異なることへの気づきにより生じる気まずさ(不都合,想定外の言動,ネガティブ感情,感情のズレ),高校生は生活空間や人間関係の広がりにより認識されやすい気まずさ(性・恋愛,他者の存在)に,それぞれ言及しやすいことが示された。ASD者においては,会話で共有される話題や雰囲気を瞬時に把握したり,自分と対照させて関係性をとらえることで引き起こされる気まずさ(雰囲気を乱す,他者の存在)について,年齢発達に伴う認識の増加が示されず,高校以上における言及率がTD者よりも少ないことが示された。また,自分が何をすべきかわからないときや対処できないときに言い出せない気まずさ(不都合)や,失敗に対する気まずさ(想定外の言動)の認識が多いことが示された。ASD者の気まずさ認識の特徴と発達について,TD者と比較検討し,ASD者の気まずさの認識に添った対人関係支援について考察した。
著者
永瀬 開 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.123-134, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
28

本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)者におけるユーモア体験について,構造的不適合を説明する手がかり(手がかり情報)がユーモア体験にかかわる認知処理に与える影響及び,ユーモア体験の強さに与える影響について検討を行うことであった。ASD者12名,典型発達者20名を対象に手がかり情報のある条件(手がかり有り条件),手がかり情報のない条件(手がかり無し条件)のユーモア刺激を用いて,ユーモア体験の強さに影響を与える「分かりやすさの認知」と「刺激の精緻化」の2つの認知的な処理の特性と「ユーモア体験の強さ」について比較検討を行った。その結果,主に以下の2点が認められた。1)典型発達者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)典型発達者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。以上の結果から,典型発達者とASD者とでユーモア体験の強さに影響を与える認知的な処理の内実が異なることが示された。
著者
滝吉 美知香 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.215-227, 2011-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究は,思春期・青年期における広汎性発達障害(以下,PDD)者が自己をどのように理解しているのかを明らかにすることを目的とする。22名のPDD者と880名の定型発達者を対象に,自己理解質問(Damon & Hart,1988)を実施し,得られた回答を自己理解分類モデル(SUMPP)に基づき,領域,対人性タイプ,肯否の3つの側面において分類した。その結果,(1)PDD者は,他者との相互的な関係を通して自己を否定的に理解し,他者の存在や影響を全く考慮せずに自己を肯定的に理解する傾向にあること,(2)PDD者は,「行動スタイル」の領域における自己理解が多く,その中でも障害特性としてのこだわりに関連する「注意関心」の領域がPDD者にとって自己評価を高く保つために重要な領域であること,(3)PDD者は,自己から他者あるいは他者から自己へのどちらか一方向的な関係のなかで自己を理解することが多く,Wing(1997/1998)の提唱する受動群や積極奇異群との関連が示唆されること,(4)社会的な情勢や事件への言及がPDD者の自己理解において重要である場合があることなどが明らかにされた。
著者
坪根 由香里 田中 真理
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.111-127, 2015-09-30 (Released:2017-05-03)

本稿の目的は,第二言語としての日本語小論文の「内容」「構成」の評価が,評価者によって異なるのか,もしそうならどのように異なるのかを検討し,その上で「いい内容」「いい構成」がどのようなものかを探ることである.調査では,「比較・対照」と「論証」が主要モードの,上級レベルの書き手による6編の小論文を日本語教師10名に評価してもらった.その結果を統計的手法を用いて分析したところ,「内容」「構成」ともに,異なる評価傾向を持つ評価者グループのあることが分かった.そこで,上位4編の評価時のプロトコルから「内容」「構成」に関する部分を抜き出し,それを実際の小論文と照合しながら,各評価者グループの評価観の共通点・相違点について分析した.その結果から,「いい内容」の要因は,1)主張の明確さ,2)説得力のある根拠を分かりやすく示すこと,3)全体理解の助けになる書き出し,4)一般論への反論であることが分かった.視点の面白さと例示に関しては評価が分かれた.「いい構成」は,1)メタ言語の使用,2)適切な段落分けをし,段落内の内容が完結していること,3)反対の立場のメリットを挙げた上で反論するという展開,4)支持する立場,支持しない立場に関する記述量のバランスが要因として認められた.本研究で得られた知見は,第二言語としての日本語に限らず,第一言語としての日本語小論文の評価にも共有できるであろう.
著者
北 洋輔 田中 真理 菊池 武剋
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.163-174, 2008-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 2

発達障害に対する正しい認識と適切な支援を導くために、広汎性発達障害児と注意欠陥多動性障害児を中心にして、発達障害児の非行行動発生にかかわる要因について研究動向を整理し、問題点と今後の改善点を指摘した。先行研究からは、個体の障害特性に密接にかかわる非行行動の危険因子と障害を取り巻く環境の危険因子が指摘された。だが、危険因子に着目した取り組みは、非行行動にかかわって発達障害児本人と親・関係者に対する支援を進める際の社会的意義を十分に達成できない問題点がある。その改善点として、非行行動の保護因子の導入と発達障害児の内面世界への着目が挙げられた。
著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.193-205, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本研究は, 注意欠陥/多動性障害児・者(以下, AD/HD者)の自己認識について, 自分のパフォーマンスに影響を与えた要因をどのように自身がとらえているのかという原因帰属スタイルの様相に焦点をあてた研究動向について検討することを目的とした。原因帰属は自己統制感や効力感に関する自己認識のひとつの側面であり, 抑うつ状態などの二次障害への心理的支援において重要な知見を提供している。研究方法としては, 呈示された項目についてどのような原因帰属をするかを対象者自身が評定していく質問紙による調査と, 対象者がある課題を実際に遂行しそのパフォーマンスについて自分自身がどのような原因帰属をするかを評定する実験的調査とに分類された。原因帰属については統制性, 安定性, 特殊性, 内在性の複数の次元にわたり検討されており, 定型発達者との比較検討の結果, 児童・思春期のAD/HD者では, 失敗状況に対しては安定的・全体的および外在的原因帰属スタイルがみられ, 成人期では安定的・全体的・内在的な原因帰属スタイルがみられたことが共通して示された。最後に, AD/HD者にとっての適応的な原因帰属スタイルと学習性無力感との関連が議論された。
著者
中山 奈央 田中 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.103-113, 2008-07-31

本研究は、小学校高学年におけるAD/HD児の自己評価と自尊感情を定型発達児との比較から明らかにすることを目的とした。調査では、子どもの自己認知尺度(Harter,1985)をもとに作成された日本語版自己認織尺度(Tanaka,Wada,&Kojima,2005)を使用した。自己評価とは特定領域(学業、運動、容貌、社会性、振る舞い)に関する自身の能力や適性に対する評価をいい、自尊感情とは人間としての全体的な自己の価値をいう。調査の結果、AD/HD児は、振る舞いと社会性において、定型発達児よりも低い自己評価を行っていた。加えて、AD/HD児および定型発達児において、各領域の自己評価が自尊感情に与える影響について検討した。その結果、定型発達児では運動を除く全領域の自己評価が自尊感情に影響していたのに対し、AD/HD児では自尊感情に影響を与える領域が学業と容貌のみであり、定型発達児よりも少なかった。
著者
田中 真理 長阪 朱美
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.108-121, 2009-08-31 (Released:2017-05-01)
被引用文献数
2

本研究では,なぜライティング評価の一致が難しいのか,その原因について検討する.ライティング・パフォーマンス・テストは真正性は高いが,人間が介在するアセスメントである.主観的になりうる評価の信頼性確保のためには,評価基準の共有と評価者のトレーニングが必要だとされている.田中ほか(2009)では,第二言語としての日本語ライティング評価のためのマルチプル・トレイト評価表を開発し,その講習会を実施した.その後,講習会に参加した8名の日本語教師に2種類各26編の小論文を評価してもらった.その結果,評価の内的一貫性はあったが,個々の小論文では,評価が一致している小論文もある一方で,ずれの大きな小論文も認められた.そこで,原因を探るために,評価者を対象にアンケート調査と評価者間ミーティングを行った.本稿では,そこから得られた示唆をもとに,ライティング評価の不一致の原因について,トレイト,プロンプト,レベル,ライティングの潜在能力,評価者の個人的要因の観点から分析する.本研究において,真正性は高くとも,人間によるパフォーマンス評価には限界のあることが示唆されたが,評価基準の改善,評価プロセスの分析,評価者間ミーティングの活用等によって,ライティング評価一致の難しさの問題は解決できるものと考える.
著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.427-437, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

本研究では, 知的障害者のメタコミュニケーションの機能の特性について検討した。特に, 伝達相手にとって明確になるように相手の特性に応じて発話内容を構成するためのメタコミュニケーションについて検討した。知的障害者30名 (MA3:9~6:10・CA21:0~53:0の知的障害者15名とMA7:8~10:8・CA15:10~18:2の知的障害者15名) と, 非知的障害児20名 (6歳児10名, 9歳児10名) を対象に比較検討した。課題は同じ物語内容を発達レベルや関係性の異なる複数の他者に伝達することであった。これらの伝達内容の違いを分析した結果, 以下の3点において知的障害者の方が非知的障害児に比べ, メタコミュニケーションがより機能していたことが示唆された。言語的な側面については,(1) 相手の特徴を正確に分析し, 相手の受け止め方を予測することのできる推理力をもち, そうしようとする志向性がある,(2) 相手の特性を今直面しているコミュニケーション場面に適用し効果的に行うという点であった。また, 非言語的な側面については,(3) 相手の注意や関心を自分に向けるための行動要求や伝達内容をわかりやすく伝えるための行動的工夫がみられるという点であった。
著者
松村 暢隆 西村 優紀美 小倉 正義 田中 真理 桶谷 文哲 柘植 雅義
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

発達障害/学習困難児者の、得意・興味等の才能面を活かせる支援の体制・方法と、学校間の連携の在り方に関して、多方面の視点から調査、資料収集、プログラム実施を進めた。(1)シアトル市の教育委員会及び公立小中学校を訪問して、2E教育プログラムの実践研究の実態調査を進めた。2E教育として、才能教育と特別(支援)教育担当部署が連携して、家庭環境や障害の多様性のある児童生徒に公正なプログラムが実施されている様子が見て取れた。発達多様性のある「不協和感のある才能(GDF)児者」の特性を把握するために、自己評定「GDFチェックリスト」を開発して、6因子が見出された。(2)富山大学で発達障害のある高校生に向けた大学進学プログラム「チャレンジ・カレッジ」を開催した。「大学の障害学生支援」について説明を行い、発達障害学生から当事者の視点で大学の授業の一端が説明された。大会シンポジウムで、このような大学体験イベントは、支援ニーズのある高校生・保護者が大学に主体的に繋がれる貴重な場であることが共有された。また発達障害のある生徒の中で病弱や精神的な不調により入院・在宅を余儀なくされる生徒とその家族へのインタビューを行った。学習保障とクラスの仲間意識を育てるための取り組みの必要性を感じた。(3)一昨年度から実施してきた徳島県内の高校での教育相談体制・特別支援教育体制、および鳴門教育大学での体制整備・教職員への啓発・学外連携の在り方の検討を継続して行い、進展が見られた。加えて本年度は読み上げソフトなどのICTの通常学級への導入を促進するための研究、およびGDF児者に関する研究を開始し、一定の成果を得た。(4)大学進学を目指す中学生を対象として、自分の障害特性に関する理解とそれに基づいた事例検討を進めた。自己評価、他者に映る自己評価、他者評価との関連の中で、自己理解の様相を把握していくことの意義が示された。