著者
柴田 悠
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.13-28, 2022-07-16 (Released:2022-12-25)
参考文献数
30

少なくとも社会学では、社会関係の潜在的機能や意図せざる結果を考慮に入れるので、家族関係のもたらす「幸福」だけでなく「不幸」にも着目する。その上で、「その不幸を公的支援によっていかに軽減できるか」という問題意識で研究することも多い。筆者も同様の問題意識で、「社会的に不利な家庭に生まれた子どもが、その不利によって成人後に被る不利(幸福感の相対的低さなど)、つまり『不利の親子間連鎖』を、公的支援によっていかに軽減できるか」を研究している。 日本での先行研究によれば、「不利の親子間連鎖」の端緒は 0~2歳時点ですでに見られる。そこで本稿では0~2歳での保育・幼児教育」という公的支援に着目する。0~2歳時の保育・幼児教育が成人後に与える長期効果は、通園傾向スコアと共変量を揃えた上での「通園群」と「非通園群」のアウトカムの比較によって分析できる。本稿では、国内初となるその分析の試みについて紹介する。
著者
堅田 香緒里
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-33, 2018-03-30 (Released:2019-03-13)
参考文献数
43

本稿では、私的領域=家庭内で女が一般に担ってきた家事やケアといった不払い労働/再生産労働との関わりから、ベーシックインカムという政策構想について検討する。 第一に、従来の福祉政策が前提/維持してきた標準家族という政策単位に代わって、近年注目されているケアユニットについて概観し、第二に、そうした新たな政策単位に基づいて提案されている政策構想―ケア提供者手当―を取り上げ、それが家事やケア等の不払い労働に対して持ち得る含意と課題を検討する。第三に、そもそも家事やケアのような不払い労働の範囲は同定可能なのかどうかをめぐり、不払い労働の測定ないし経済的評価をめぐる議論を再検討する。第四に、ケア提供者手当の諸課題を克服し得る政策構想の一つとしてベーシックインカムを検討し、最後に、それが依存とケアを中心に据えた社会正義にかなうものであることを論じる。
著者
佐々木 てる
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.21-34, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
10

これまで在日コリアンの2 世、3 世にとって恋愛そして結婚における「民族的な違い」とは大きな壁であったことは報告されてきた。すなわち「朝鮮人との結婚はゆるされない」「日本人ではなく同胞と結婚すべきだ」という言説はよく聞かれるものであった。     これに対して近年では、通名であった人々も民族名で生活するケースも増えてきた。 そうなると名前だけではオールドカマーか、ニューカマーなのか、さらには出身国が中国か韓国か台湾かなどの区別もつかないことがあり、最初から「違い」を前提としたつきあい、そして結婚に至るケースがある。グローバリゼーションが進展するなか、民族的な差異は他の多くの差異(年収、出身地域、学歴、文化資本など)の一つに解消されている感もある。     では未婚社会と言われる現代において、(旧来的な)「民族的差異」は本当に婚姻を疎外する要因になっていないのか。そもそも在日コリアンの若者世代は、恋愛において民族の違いに意味付けをするのか。ここでは聞き取り調査の結果をもとに、昨今の在日若者世代の結婚、恋愛観について述べていくことにする。
著者
阪井 裕一郎
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.75-90, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
28

明治期から現在まで日本社会を描く際に、たびたび「家族主義」という言葉が使用されてきた。本稿の目的は、この言葉が登場した明冶から大正期における知識人の言説の分析を通じて、その意味を探究することである。最初に、明治期における家族主義を称揚する言説を分析し、この時期の家族主義が封建批判や救済事業とともに語られていた事実を確認し、その意味と目的を明らかにする(第2 節)。続いて、社会主義者や民主主義者といったいわゆる「革新」の側から提唱された、「家族主義」や「家庭」の言説を検討する。そこから家族主義批判が内包していたある種の逆説を明らかにする(第3節)。続いて、近年の政治哲学の議論を参照しつつ、社会統合の基盤としての「情念」に着目することで、家族主義と民主主義の関係を理論的に問い返す(第4節)。家族主義と民主主義を対立的に捉える従来の見方では看過されてしまう問題を明らかにし、そのうえで家族主義を克服する新たなつながりの可能性を展望する(第5節)。
著者
府中 明子
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-57, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文は、結婚意欲のある未婚女性たちが実際に特定の相手と結婚するかどうか悩み、結婚に踏み切らない状態でいることについてインタビューし、その内容を分析・考察したものである。結婚に関する領域では、これまで意欲の側面、出会いの側面、恋人の有無やコミュニケーションに関する側面、そして結婚後の夫婦間の平等や家事分担、男性の育児参加について研究、検討されてきた。結婚において経済的な側面と恋愛感情の2 点が重要視される点について変化はないが、それに追加して「男性の子どもに対する態度や意識」が未婚女性たちに問われているという点が浮かび上がってきた。その意識が、恋愛感情に関係する魅力として認識されていることも示唆された。そこでは子育てに従事するかどうかは問われていない。「役割意識の個人化」として「男性の子どもに対する態度や意識」が結婚前に問われ、未婚女性の結婚の決め手の一つの条件となっている可能性が示唆された。
著者
本多 真隆
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.59-76, 2015 (Released:2015-12-11)
参考文献数
47

有賀喜左衛門は、「家」についての実証的研究で名が知られるが、その政治的立場に着目されることは少ない。しかし有賀は、戦後の革新陣営や保守陣営とは違うかたちで、「家」と「民主主義」について多くの議論を展開していた。本稿は、有賀の「家」と「民主主義」についての議論を、彼の「家」に対する問題意識と照らし合わせながら分析し、またその議論が戦後の家族研究においてどのような立ち位置にあるかを探る。 検討の結果、「家」が「民主化(近代化) 」していくという、有賀の問題意識と視座が明らかになった。結論部では、有賀が提示した視座を「家族」の民主化ではなく、「家」の民主化と位置づけ、その展望について論じた。
著者
本多 真隆
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.129-146, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
42

本稿は、日本の家族研究における、M・ヴェーバーの「ピエテート(Pietät)」概念の受容のあり方を、戸田貞三と川島武宜の著作を中心に検討する。M・ヴェーバーの「ピエテート」概念は現在、「家」制度における権威服従関係を支える意識として理解されている。戸田と川島はそれぞれ、家族研究における「ピエテート」概念の受容の先駆者であった。検討の結果、戸田と川島は「ピエテート」概念を、戦前の「家(家族制度)」の権威服従関係と情緒的関係の関連を論じるために用いていたこと、そしてその関係は、「近代家族」の情緒的関係とは性質を異にすることが明らかになった。結論部では、「日本型近代家族」を「家」と「近代家族」の二重構造と捉えて分析する場合は、情緒概念が歴史的変遷を含め、多義的であることを認識することが必要であることを示した。