著者
堅田 香緒里
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.117-134, 2019

<p> 1980 年代以降,現代福祉国家の多くでは「新自由主義的な」再編が進めら</p><p>れてきた.規制緩和と分権化を通して,様々な公的福祉サービスが民営化・市</p><p>場化されていったが,福祉の論理は一般に市場の論理とは相容れないため,福</p><p>祉サービスを市場経済のみにおいて十分に供給することは難しい.このため,</p><p>次第に福祉サービス供給の場として「準市場」が形成され,その受け皿として</p><p>NPO 等の市民福祉が積極的に活用されるようになった.また近年では,市民</p><p>福祉が,さらに「地域」の役割と利用者の「参加」を強調するような新たな政</p><p>策的動向と結びつけられながら「制度化」されつつある.</p><p> 生活困窮者支援の領域においても同様の傾向がみられる.その際,頻繁に用</p><p>いられるキーワードが「自立支援」であり,そうした支援の担い手として市民</p><p>福祉への期待がますます高まっているのである.本稿は,このことの含意に光</p><p>を当てるものである.そこでは,「市民福祉」の活用が公的責任の縮減と表裏</p><p>一体で進行していること,そして貧者への「再分配」(経済的給付)が切り縮</p><p>められる一方で,「自立支援」の拡充とともに経済給付を伴わない「承認」が</p><p>前景化しつつあり,両者が取引関係に置かれていることが論じられる.</p>
著者
堅田 香緒里
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.16-28, 2005

「脱工業化」社会の貧困の多くも,従来の貧困同様,社会的要因に起因するものであるが,それへの社会的対応の一つとしての再分配が十全には行われていない.こうした状況が許される背景として,特定の言説の影響が考えられる.本稿ではまず,そうした言説の一つとしてアンダークラス言説を取り上げ,それが再分配に与える影響について考察している.その結果,アンダークラス言説は,アンダークラスをアブノーマルなものとして構成することによって,再分配を脱正当化しているということが明らかになった.続いて,今日,十全な再分配を要求し得るアプローチの一つとして,ナンシー・フレイザーの「再分配と承認」アプローチを検討している.その結果,彼女のアプローチは,経済的な再分配と象徴的な承認という二側面を包含している点および承認の対象を地位に求めている点において,十全な再分配の要求ないし貧困の政治にとって有用であることが確認された.
著者
堅田 香緒里 佐々木 宏 山内 太郎 大岡 華子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、1940年代後半以降、長年、貧困/生活困窮当事者による社会保障運動として全国各地で活動を続けている「生活と健康を守る会」(以下、守る会)に光を当て、貧困当事者の<声>の政治の一端を明らかにしようとするものである。そのために、守る会による発行物の分析、そして「守る会」運動に深くコミットしてきた関係者への聞き取り・語りの分析を行う。これらの作業を通して、戦後日本において、とりわけ貧困/生活困窮当事者の手になる運動が、①どのように当事者の組織化を行い、②ボトムアップ型の社会保障政策形成を促し、③貧困当事者中心のソーシャルワーク実践に影響を与えたのかの三点を実証的に明らかにしたい。
著者
堅田 香緒里
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

フェミニストのベーシック・インカム(基本所得)に対する評価は両義的である。そこで本研究では、ベーシック・インカムをめぐるフェミニズムの二つの立場―女の解放のための「解放料」と捉える立場/抑圧のための「口止め料」と捉える立場―の主張について整理した。両者を分かつ論点は多岐にわたるが、その主要な対立点は、ベーシック・インカムが性別役割分業に与える影響に関する見立てに求めることができる。そこで続いて、ベーシック・インカムが性別役割分業に与え得る影響について、これに類似した二つの所得保障政策―ケア提供者手当と参加所得―との対比を通して検討した。
著者
金子 充 平野 寛弥 堅田 香緒里
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イギリスにおける批判的社会政策論、すなわちマイノリティ等のヴァルネラブルな人々の差異・アイデンティティに配慮した社会政策を構想する研究潮流を支える視点および鍵概念(「普遍主義」「互酬性」「シティズンシップ」)の整理と再検討をおこなった。近年のわが国および先進諸国の社会政策(公的扶助制度や失業者・生活困窮者支援策)では就労自立を重視した政策展開がなされているが、これらは能力に応じて就労または活動への従事を求める給付としての性格が強く、限定的な意味での普遍性や、個人単位において権利と義務を対応させる互酬性に依拠した政策展開をしていることが考察された。
著者
小沢 修司 山森 亮 平野 寛弥 堅田 香緒里 鎮目 真人 久保田 裕之 亀山 俊朗 小林 勇人 村上 慎司 村上 慎司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、研究者と市民のネットワーク形成から生み出された議論を通じて、ベーシック・インカムに関する三つの目的を総合的に検討した。第一に、生存権・シティズンシップ・互酬性・公共性・フェミニズム思想といったベーシック・インカムの要求根拠を明らかした。第二に、ベーシック・インカムに関する政治的・財政的実現可能性を考察した。第三に、現行の年金や生活保護のような所得保障制度の問題点とベーシック・インカムにむけた改良の方向性を議論した。
著者
堅田 香緒里
雑誌
科学研究費助成事業 研究成果報告書
巻号頁・発行日
pp.1-4, 2016-05

研究成果の概要 (和文) : フェミニストのベーシック・インカム(基本所得)に対する評価は両義的である。そこで本研究では、ベーシック・インカムをめぐるフェミニズムの二つの立場―女の解放のための「解放料」と捉える立場/抑圧のための「口止め料」と捉える立場―の主張について整理した。両者を分かつ論点は多岐にわたるが、その主要な対立点は、ベーシック・インカムが性別役割分業に与える影響に関する見立てに求めることができる。そこで続いて、ベーシック・インカムが性別役割分業に与え得る影響について、これに類似した二つの所得保障政策―ケア提供者手当と参加所得―との対比を通して検討した。
著者
堅田 香緒里
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-33, 2018-03-30 (Released:2019-03-13)
参考文献数
43

本稿では、私的領域=家庭内で女が一般に担ってきた家事やケアといった不払い労働/再生産労働との関わりから、ベーシックインカムという政策構想について検討する。 第一に、従来の福祉政策が前提/維持してきた標準家族という政策単位に代わって、近年注目されているケアユニットについて概観し、第二に、そうした新たな政策単位に基づいて提案されている政策構想―ケア提供者手当―を取り上げ、それが家事やケア等の不払い労働に対して持ち得る含意と課題を検討する。第三に、そもそも家事やケアのような不払い労働の範囲は同定可能なのかどうかをめぐり、不払い労働の測定ないし経済的評価をめぐる議論を再検討する。第四に、ケア提供者手当の諸課題を克服し得る政策構想の一つとしてベーシックインカムを検討し、最後に、それが依存とケアを中心に据えた社会正義にかなうものであることを論じる。
著者
堅田 香緒里
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.117-134, 2019-05-31 (Released:2019-10-10)
参考文献数
21

1980 年代以降,現代福祉国家の多くでは「新自由主義的な」再編が進められてきた.規制緩和と分権化を通して,様々な公的福祉サービスが民営化・市場化されていったが,福祉の論理は一般に市場の論理とは相容れないため,福祉サービスを市場経済のみにおいて十分に供給することは難しい.このため,次第に福祉サービス供給の場として「準市場」が形成され,その受け皿としてNPO 等の市民福祉が積極的に活用されるようになった.また近年では,市民福祉が,さらに「地域」の役割と利用者の「参加」を強調するような新たな政策的動向と結びつけられながら「制度化」されつつある. 生活困窮者支援の領域においても同様の傾向がみられる.その際,頻繁に用いられるキーワードが「自立支援」であり,そうした支援の担い手として市民福祉への期待がますます高まっているのである.本稿は,このことの含意に光を当てるものである.そこでは,「市民福祉」の活用が公的責任の縮減と表裏一体で進行していること,そして貧者への「再分配」(経済的給付)が切り縮められる一方で,「自立支援」の拡充とともに経済給付を伴わない「承認」が前景化しつつあり,両者が取引関係に置かれていることが論じられる.
著者
岡部 卓 室田 信一 久保 美紀 西村 貴直 新保 美香 安藤 藍 三宅 雄大 杉野 昭博 金子 充 堅田 香緒里 圷 洋一 布川 日佐史 和気 純子 小林 理 乾 彰夫 長沼 葉月
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、貧困・低所得者対策である生活保護・生活困窮者自立支援・関連施策による方策(制度・政策およびソーシャルワーク)が「包摂型社会」構築にどのように寄与しているかを理論的・実証的研究を通じて検証し、今後とりうる方策を検討することである。以上の研究目的設定のもと、本年度は、フィリピン・マニラでの海外調査の実施である。欧米モデルとは異なるフィリピンでの貧困対策・社会的包摂の取組みの実際を検討するべく、St. Mary’s College Quezon CityのImelda Macaraig教授にインタビューした。また、海外での学会参加及び報告を行った。具体的には、福祉レジームと若者の移行に関する研究報告(Welfare Regime and Young people’s Transition to Adulthood: A Frame-work for Five Countties’ Comparasion)をJournal of Youth Studies Conference(オーストラリア、ニューカッスル)で実施した。その他、支援者へのインタビュー調査を次年度以降の本調査に向けてのプレ調査として、貧困、障がい、女性関連の施設職員(支援者)へのインタビュー調査を実施した。フィリピン調査、学会報告は、研究成果として報告書にまとめた。
著者
堅田 香緒里
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.16-28, 2005-07-31 (Released:2018-07-20)

「脱工業化」社会の貧困の多くも,従来の貧困同様,社会的要因に起因するものであるが,それへの社会的対応の一つとしての再分配が十全には行われていない.こうした状況が許される背景として,特定の言説の影響が考えられる.本稿ではまず,そうした言説の一つとしてアンダークラス言説を取り上げ,それが再分配に与える影響について考察している.その結果,アンダークラス言説は,アンダークラスをアブノーマルなものとして構成することによって,再分配を脱正当化しているということが明らかになった.続いて,今日,十全な再分配を要求し得るアプローチの一つとして,ナンシー・フレイザーの「再分配と承認」アプローチを検討している.その結果,彼女のアプローチは,経済的な再分配と象徴的な承認という二側面を包含している点および承認の対象を地位に求めている点において,十全な再分配の要求ないし貧困の政治にとって有用であることが確認された.
著者
堅田 香緒里
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.85-96, 2010-12-20 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
2

ベーシックインカム(以下,BI)をめぐる議論は近年盛んになりつつあるが,その多くは未だにジェンダーに無自覚だと指摘される。他方でフェミニズムの側も,BIを「家事労働への支払い」と綾小化して捉え,さほど検討しないまま批判的に捉えている向きが多い。こうした事情を反映してか,BIとフェミニズムの交差はこれまであまり論じられてこなかった。その一つの理由に,「口止め料か,解放料か」と言われるような,BIの女にとっての両義性を挙げることができる。それは,性別分業,自律的な所得保障へのアクセス権,女の劣等なシティズンシップ等,多岐にわたって論じられてきた。本稿では,これら多岐にわたる論点を整理し,BIとフェミニズムという二つの主張が生産的に交差していくための予備的考察を提出している。とりわけ,性別分業に対するBIの含意を,BIの類似政策であるケア提供者手当および参加所得との対比において明らかにした。