著者
柴田 悠
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.116-133, 2014 (Released:2015-07-04)
参考文献数
30
被引用文献数
2

日本では, 1998年以降, 貧困や孤立といった社会的状況によって自殺に追い込まれる人々が増えた. 憲法第13条において「国民の生命の権利を最大限尊重すべき」とされている日本政府には, 社会政策によってそのような状況を改善し, 不本意な自殺を予防する責務がある. では, どのような社会政策が自殺の予防に有効なのか.本稿では, 公的な職業訓練・就職支援・雇用助成を実施する「積極的労働市場政策 (ALMP)」に着目した. ALMPは, 「孤立した貧困者」を他者 (支援スタッフや訓練参加者) や労働市場へと繋ぎとめ, 社会経済的に包摂する機能をもつ. 自殺にもっとも追い込まれやすいのが「孤立した貧困者」であるならば, 日本においてALMPは彼らの自殺を予防できるのだろうか. あるいは逆に, 彼らを自殺へとますます追い込んでしまうのだろうか. そこで本稿は, この問いに対して実証的に答えることを目的とした.先行研究よりも広範なデータと比較的精緻な推定モデルで分析した結果, 自殺率の増減の一部は, 失業率上昇率の増減 (貧困者の増減) と, 離婚率の増減と新規結婚率の減増 (孤立者の増減), ALMP支出の減増 (孤立した貧困者の放置/包摂) によって説明できた. またそれらの要因は, 日本での1991~2006年の自殺率変動 (前年値からの変化) のおよそ10~32%を説明した. 他方でALMP以外の社会政策は, 有意な自殺予防効果を示さなかった.
著者
柴田 悠
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.130-149, 2010-09-30 (Released:2012-03-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

社会の近代化に伴って,親密性やその意味は,いかに変化するのか.先行研究によれば,特定の条件に依存しない「再帰的親密性」(親族・近隣・職場以外での友人関係など)は,社会の近代化に伴って普及し,個人にとって一定の重要性を帯びたと考えられる.しかし未検証の仮説として,社会が近代化すると,(1)「再帰的親密性の数や割合が変化する」,(2)再帰的親密性の重要度が「上昇する」,(3)「必ずしも上昇せず,上限未満の一定の高さを得た後で上昇しなくなりうる,または下降しうる」(特定条件に再埋め込みされた親密性もまた次第に重要になる),との3つの仮説が想定できた.検証方法としては国と個人のマルチレベル分析が必要であったため,それを採用した.まずISSPデータ(2001年)で「再帰的に選択された友人の数と割合」を分析すると,国レベル近代化変数「総就学率」が効果を示した.また再帰的友人関係の「幸福度に対する貢献度」(一般的重要度)を分析すると,国レベル近代化変数「一人当たりGDP」の上昇に伴って,一般的重要度は低下した.さらにWVSデータ(1990年と2000年)で,友人と家族の主観的重要度の比を分析すると,「一人当たりGDP」の上昇に伴って「友人関係(比較的再帰的な親密性)の相対的重要化」がある程度は進行するが,それ以上は進行しなくなった.以上の結果は,仮説(1)を支持するとともに,仮説(2)よりも仮説(3)のほうを支持した.
著者
柴田 悠
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-07-25

新制・課程博士(人間・環境学)
著者
柴田 悠
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

全国郵送質問紙調査を実施し、公的サポートである「保育」(保育所への通園)と、私的サポートである「家庭育児」(先行研究によれば親の社会経済地位によってその質は異なる)の、交互作用に考慮に入れながら、それらが成人後の幸福感やその諸要因に与える長期的影響を、保育所通園の傾向スコアを用いた因果推論によって検討した。その結果、「不利な家庭」(社会経済地位:下位1/2)出身の20~44歳回答者では、保育所に通うと(幼稚園のみに通う場合と比べて)、将来、非正規雇用になりにくくなる、有配偶者の確率が高まる、対面交流の頻度が増えるなどの傾向が見られ、さらにそれらの結果として主観的幸福感が高まる傾向が見出された。
著者
小室 優也 柴田 悠希 安 俊杰 伊藤 仁志 入江 寿弘 新宮 清志
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会 ファジィ システム シンポジウム 講演論文集 第31回ファジィシステムシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.131-134, 2015 (Released:2016-02-26)

近年、ロボットが活躍する環境が広がりつつある。特に、災害現場のような人間が立ち入ることができない危険な場所において遠隔操作によって動作するロボットが使用される。しかし、遠隔操作は通信途絶などによってロボットが帰還できなくなることがあるため、自律移動が可能なロボットの研究が進められている。本研究では、深度センサとロータリエンコーダを用いて周辺環境と自己位置・姿勢を認識させ目的地への最適な経路計画を行う方法としてダイクストラ法の利用を検討する。
著者
柴田 悠
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.116-133, 2014
被引用文献数
2

日本では, 1998年以降, 貧困や孤立といった社会的状況によって自殺に追い込まれる人々が増えた. 憲法第13条において「国民の生命の権利を最大限尊重すべき」とされている日本政府には, 社会政策によってそのような状況を改善し, 不本意な自殺を予防する責務がある. では, どのような社会政策が自殺の予防に有効なのか.<br>本稿では, 公的な職業訓練・就職支援・雇用助成を実施する「積極的労働市場政策 (ALMP)」に着目した. ALMPは, 「孤立した貧困者」を他者 (支援スタッフや訓練参加者) や労働市場へと繋ぎとめ, 社会経済的に包摂する機能をもつ. 自殺にもっとも追い込まれやすいのが「孤立した貧困者」であるならば, 日本においてALMPは彼らの自殺を予防できるのだろうか. あるいは逆に, 彼らを自殺へとますます追い込んでしまうのだろうか. そこで本稿は, この問いに対して実証的に答えることを目的とした.<br>先行研究よりも広範なデータと比較的精緻な推定モデルで分析した結果, 自殺率の増減の一部は, 失業率上昇率の増減 (貧困者の増減) と, 離婚率の増減と新規結婚率の減増 (孤立者の増減), ALMP支出の減増 (孤立した貧困者の放置/包摂) によって説明できた. またそれらの要因は, 日本での1991~2006年の自殺率変動 (前年値からの変化) のおよそ10~32%を説明した. 他方でALMP以外の社会政策は, 有意な自殺予防効果を示さなかった.
著者
柴田 悠
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.13-28, 2022-07-16 (Released:2022-12-25)
参考文献数
30

少なくとも社会学では、社会関係の潜在的機能や意図せざる結果を考慮に入れるので、家族関係のもたらす「幸福」だけでなく「不幸」にも着目する。その上で、「その不幸を公的支援によっていかに軽減できるか」という問題意識で研究することも多い。筆者も同様の問題意識で、「社会的に不利な家庭に生まれた子どもが、その不利によって成人後に被る不利(幸福感の相対的低さなど)、つまり『不利の親子間連鎖』を、公的支援によっていかに軽減できるか」を研究している。 日本での先行研究によれば、「不利の親子間連鎖」の端緒は 0~2歳時点ですでに見られる。そこで本稿では0~2歳での保育・幼児教育」という公的支援に着目する。0~2歳時の保育・幼児教育が成人後に与える長期効果は、通園傾向スコアと共変量を揃えた上での「通園群」と「非通園群」のアウトカムの比較によって分析できる。本稿では、国内初となるその分析の試みについて紹介する。
著者
柴田 悠
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.59, pp.179-193,L17, 2008-04-01 (Released:2010-07-01)

The aim of this paper is to answer the following two questions: (Q1) How valid is the widely believed proposition that each agent (i. e. an individual or a social group functioning as an agent) should adapt to its environment? and, (Q2) If this proposition needs revision, in what way should we revise it? In order to answer Q1, we trace the historical lineage of thinking about evolution-ethics from Galton through Darwin, Spencer, and Huxley to early Dewey. This survey reveals that the widely believed proposition appeared first in that lineage in the early Dewey's ‘Evolution and Ethics’ (1898), and that it depends on the following two un-evolutionary premises: first, that if X is an agent, what is desired by X is ethically good to X (P1: a familiar form of ethical naturalism), and second, that the responsibility for X's adaptation (or adjustment) to X's environment should be attributed only to X (P2: the principle of self-responsibility).Whether P1 is valid or not is too large a question to address in this paper, so we will suppose for the sake of argument that P1 is acceptable. However, it is possible to argue, both from evolution itself and from P1, that P2 is not tenable, and that a premise more appropriate than P2 is that whether the responsibility for X's adaptation to X's environment should be attributed to X alone, or to both X and X's social environment (i. e. other agents concerned with X), should depend on whether X prefers to take the whole responsibility or to share it with the social environment (P3: the principle of the agent's choice of responsibility scope).Thus we can say, in response to Q1, that the widely believed proposition is not valid (at least as we have it from the early Dewey) because it depends on P2. And we can say, in response to Q2, that a more appropriate version of it will be based on evolution, P1 (perhaps), and P3 (probably)-though within the confines of the present paper, P1 and P3 obviously remain conjectural.
著者
柴田 悠
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

まず、1.研究課題「現代社会における他者援助」の公的な典型形態である「所得再分配」(一般政府による公的支出)に関する研究として、(1)所得再分配の規定要因について、歴史社会学的研究と計量社会学的研究を、国内研究会での発表と議論をつうじてさらに精緻化し、ワーキングペーパーと博士論文(2011年7月京都大学大学院人間・環境学研究科受理)にまとめた。また(2)再分配政策の(自殺率・出生率・経済成長に対する)効果についての計量社会学的研究を、国際会議や国内学会での口頭発表と議論をつうじてさらに精緻化し、博士論文(同上)と投稿論文(投稿中)にまとめた(結果の詳細は博士論文などを参照)。つぎに、2.「現代社会における他者援助」の私的な典型形態である「親密性」に関する研究として、とりわけ今後の日本社会で活性化が必要と考えられる(幼児と高齢者の間の非血縁の世代間ケアが生じうる)「多世代コミュニティ」に着目し、国内先進事例に関する文献調査と現場調査(子育て支援施設と高齢者の居場所を兼ね備えたボランティア運営施設での参与観察とインタビュー)を行い、「多世代コミュニティの活性化条件」に関する理論仮説を得ることができた(その成果は現在、論文として執筆中である)。また、東アジアでの国際的な質問紙調査のマイクロデータ(日本・韓国・中国・台湾・バンコク・ハノイ)を用いて、「親子間ケア」(家事援助と金銭援助)のパターンを統計的に分析し、ベトナム・ハノイでの国際研究会で発表した(成果は論文として執筆中)。さらに研究計画にはなかった追加的研究として、子どもと高齢者に対する公的援助(ケアサービス)と私的援助(ケア行動)に関して、東アジア諸国(日本・韓国・中国・台湾・シンガポール・タイ・ベトナム)のマクロデータを、海外研究者たちの協力のもとで、先行研究を上回る規模で収集し、集計した(成果は論文として執筆中)。