著者
戸髙 南帆
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.59-74, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
35

本稿では、子どもに家事を教えることに着目して、性別役割分業意識を平等化する可能性を検討する。「子どもの生活と学びに関する親子調査」のペアデータを用いて、親子それぞれの性別役割分業意識をふまえながら、小学校高学年から中高生の子どもを対象に、母親が家事のしかたを教えるという行為の効果を探った。その結果、女子と比較して、男子は「男性は外で働き、女性は家庭を守るほうがよい」という性別役割分業を支持する傾向にあるものの、母親に家事を教えてもらった経験がある男子ほど、性別役割分業を支持しない傾向がみられた。この傾向は母親の性別役割分業意識などを考慮しても確認された一方で、女子については有意な効果が認められなかった。このことから、子どもが男子である場合、性別役割分業に沿わない家事という行為を教えること自体が、ジェンダー意識を問い直す契機となり、意識の平等化を促す効果をもっていることが示唆された。
著者
大森 美佐
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.109-127, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
19

日本では、晩婚・未婚化現象、それと連動して起こる少子化の傾向を問題視してか、人々に恋愛や結婚を意識させるような話題がメディアを媒介に世間を賑わせている。しかし、依然として結婚前の「恋愛」を中心的に扱った調査研究は少ない。本稿では、1983年から1993年生まれ、現在20歳代の未婚男女で異性愛者24名を対象にフォーカス・グループディスカッションと半構造化インタビュー調査を行い、若者たちが「恋愛」をどのように語るのかというレトリックに注目し、その論理構造をジェンダー視点から考察した。考察の結果、「付き合う」という契約関係は性関係を持つことの承認を意味するが、「付き合う」ことが必ずしも「恋愛」と同義ではないということがわかった。特に女性からは、結婚に結びつく恋愛を「恋愛」であるとする語りがみられ、ロマンティック・ラブを忠実に体現しようとすればするほど、「恋愛」から遠ざかるということが示唆された。
著者
平森 大規 釜野 さおり 小山 泰代
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.5-25, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
18

本稿では、これまで筆者らが従事してきた研究を題材に、日本ではまだほとんど進められていない量的調査を通じた性的指向・性自認のあり方(SOGI) と家族研究の可能性を探った。日本の無作為抽出調査においてSOGIを測定する際の課題と測定方法を検討した研究、同性パートナーの有無の把握における課題を検討した研究、回答者のSOGIおよびカップルタイプ(女性間、男性間、男女間) 別に世帯・家族構成やジェンダー・家族意識等について検討した研究という3つの研究事例を提示した。日本では数少ない回答者のSOGIをたずねた無作為抽出調査である「大阪市民調査」およびその準備調査を用いてこれらの研究事例を検討した結果、既存研究の課題を乗り越えるべく、SOGIを分析軸にした家族研究を進めていくことの社会的・学術的意義が示された。
著者
工藤 豪
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.57-73, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
46

本稿は、隠居制家族が現代日本の家族構造を理解するにあたって重要な意義をもつという立場から、これまでの研究が隠居制家族をどう捉えてきたのかを整理するとともに、隠居制家族を「同質論」・「異質論」という議論の枠組みの中にどのように位置づけるべきなのかについて考察を試みたものである。     社会学、民俗学、社会人類学において展開されてきた研究を踏まえて、清水と上野による整理を土台としながら新たな視点を加えて考察を行ったところ、家族構造・社会構造および隠居制家族と東北日本型・西南日本型に関する六つの考え方が存在することが明らかになった。以上の結果、隠居制家族の位置づけにおいて、家族構造についての捉え方が同質論か異質論か、隠居制家族について重点をおく部分は相続か生活単位か、そして「西南日本型」に関する理解と用い方、この三点が重要な指標になってくるのではないかとの結論に達した。
著者
石田 沙織
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.59-76, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
30

本稿は、腐女子を自認する女性達に見られる、家族に対してなされる腐女子であることの隠蔽ないし表明に関連した彼女達のふるまいに着目し、腐女子達にはどのような規範が重視され、それはまたどのように日常生活に反映されているのかを明らかにすることを目的とする。先行研究においては、女性は子どもの頃から将来的な妻・母役割を意識した家族規範を示されてきており、それに抑圧を感じた者が腐女子となったと指摘されてきた。だがインタビュー調査の結果、今日家族規範は腐女子にとって抑圧的なものでも、妻・母役割と直結したものではないことが明らかにされた。女性達が家族に対し腐女子であることを表明する際には、家族成員同士の情緒的な関係性を重視する家族規範が反映されている一方で、隠蔽しようとする際にも異性愛規範・性規範を前提にした家族規範が影響していることが示された。
著者
大貫 挙学
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-56, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
50

「言語論的転回」以降のフェミニズム理論において、性別カテゴリーやセクシュアル・アイデンティティは、言説による構築物とみなされるようになっている。J. バトラーによれば、主体は、言語行為によってパフォーマティヴに構築されるものである。 しかし、こうした理論的傾向に対しては、「文化的」次元のみが過度に強調され、「物質的」不平等の問題が軽視されているとの批判がある。一方、性差別の物質的側面を重視してきたのが、マルクス主義フェミニズムであった。とはいえ、マルクス主義フェミニズムにおいては、性的主体化の言説的機制が適切に理論化されていない。     そこで本稿では、主体の言説的構築を前提とする立場から、マルクス主義フェミニズム理論の再検討を行いたい。とくに、社会の内部/外部の非決定性が、物質/文化の相互還元不可能性を示していることを主張する。
著者
鹿目 久美
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.5-13, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)

結婚後、自然豊かな福島で家族とともに暮らしていた生活は、東日本大震災後の原発事故であっけなく失われた。事故後の放射能による娘の健康不安から、私は神奈川へと母子避難を決意した。被害にあったこと、避難することで、家族のつながり、友人とのつながり、地域とのつながりを失いかけていた避難先の生活で、福島の子どもを招く保養キャンプの活動に参加するようになった。自分たちのためにも福島の子どもたちのためにも、この活動を続けていきたいと考えている。
著者
齋藤 直子
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.5-20, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
21

この論文では、未婚化社会における被差別部落の青年たちの恋愛・結婚の現状について考察する。     まず、議論の前提として、部落出身者の定義の問題について述べた。次に、部落出身者に対する結婚差別の状況について述べた。日本社会が、見合い婚から恋愛婚に変化したことによって、結婚差別の状況も変化した。     そして、「未婚化社会」における部落青年たちの恋愛・結婚について論じた。部落青年の結婚に関する最大の悩みは、全国の青年とまったく同じで、適当な相手にめぐり会わないことである。だが、差別に対する不安もある。恋愛関係において、つきあったり別れたりを繰り返すことができる現在、相手の心変わりの理由は無数にあり、別れの理由が部落差別かそうでないのかを見分けることは難しくなった。これを「恋愛差別」と名付けた。     また、部落青年が結婚できないのは、日本社会の未婚化の影響なのか、差別のせいなのか、就職や学力の不利が間接的に影響を与えているのか、理由を断定することは難しい。結婚できないことを、本人の責任にされてしまいかねない状況がある。     最後に、未婚化社会における結婚・恋愛差別への対処について、考察をおこなった。
著者
坪井 節子
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.5-16, 2014 (Released:2015-03-31)

子どもシェルターは、虐待などのために避難を必要とするおおむね15歳から19歳の子どもの緊急避難場所である。本稿では、まず「今晩帰る場所がない」子どもたちを救うために子どもシェルター「カリヨン子どもの家」を設立した経緯とその活動を概観する。次に、シェルターへの入居に際して、親権者から子どもを保護するために弁護士が果たす役割とその法的根拠について述べる。さらに、どのような子どもたちがシェルターに逃げてくるのか、その虐待の内容や具体的な状況を紹介する。子どもの権利擁護の場面では、しばしば「親権」がその支援に立ちはだかってきた。2012年に親権制度が改正されたものの、現場での課題の解決には、まだまだ結びつかないことも多い。これからも子どもの権利保障のために制度改善の道を探っていかなければならない。そのことを通して、子どもたちに寄り添い続けていきたい。
著者
早野 俊明
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.73-80, 2012-07-10 (Released:2018-05-18)
参考文献数
19
著者
和泉 広恵
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.37-53, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
16

本論文は、岩手県の親族里親等支援事業の実践を通して、震災支援における「支援者-被支援者」の関係性のあり方について追究することを目的としている。この事業は、岩手県里親会が震災以降に親族養育者となった人に対して、被災地でサロンを開催する事業である。2011年10月から始まり、現在も継続している。     本論文では、里親会会長へのインタビューと事業のフィールドワークを元に、この事業の意義について、分析を行った。調査から示されたのは、里親が近親者の死という親族養育者の「痛み」に衝撃を受けたことと親族養育者に対して控えめな支援を行っていることであった。控えめな支援とは、震災ボランティアとも当事者同士とも異なる、親族養育者の「痛み」にただ寄りそうという支援である。また、支援の背景には、震災後に生じた「岩手」という領域の構築と支援を行う過程で示された子どもの受け皿としての「里親」の役割があることが明らかになった。
著者
小沢 修司
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-20, 2018-03-30 (Released:2019-03-13)
参考文献数
4

ベーシック・インカム(以下、BIと記す)の概略を説明したうえで、BI構想が登場する背景について、戦後「福祉国家」のもとでの社会保障制度が機能不全を起こしていること、なかでも「福祉国家」における社会保障制度が拠って立つ社会経済の基盤である雇用や家族の姿が変化してきたという背景があることを指摘し、雇用や家族の変化がどうしてBIを要求し、BIが家族をどのように変えるのか、を論じた。その際、今日税制改正で焦点化している所得控除方式の見直しと家族のあり方の関係に着目し、所得控除方式を維持しようとする税制改正に対して「社会保障と税の一体改革」の性格を持つBIが所得控除を廃止しようとすることの意義を論じた。
著者
中臺 希実
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.75-92, 2014

本稿では、近世中期における都市部の民衆が持った「家」に対する集合心性を、明らかにすることを目的とする。近世中期において民衆から支持された近松門左衛門脚本の世話物11作品を分析史料として取り上げ、男性主人公に共通した入聟や養子という立場に着目し分析を行った。男性主人公が共通して抱えた「家」に対する葛藤や自身の立場への否定的な態度を分析することで、近松世話物に表象された民衆の「家」に対する集合心性を明らかにすることを試みた。 <BR>    本稿の試みによって、当該期における民衆の「家」に対する心性の複雑性を提示することが出来た。さらに、近世中期における都市部の民衆が持った「家」に対する心性は肯定的または否定的であったというような二元論で語れるものではなく、複雑な感情を内包していたことを、メディアにおける表象から示した。
著者
松井 由香
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.55-74, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本稿は、従来の家族介護研究において不可視化される、あるいは問題化される傾向にあった男性介護者に注目し、彼らが語る「男性ゆえの困難」について考察することを目的とする。具体的には、彼らが日々直面している介護をめぐる困難について、自らを「男性」あるいは「夫/息子」であることに関連づけて言及したトピックスを抽出し、彼らにとっての「男性ゆえの困難」の内実と意味づけを分析することをとおして、家族介護をめぐるジェンダー規範のありようについて考察した。調査対象者は、「仕事と介護の両立困難」「家事役割遂行の困難」「身体接触をともなう介護の困難」「介護の『仕事化』とそれにともなう困難」を「男性ゆえの困難」として語った。それらの困難は、彼らが介護や家事を女性が担うべきジェンダー化された役割として捉えていることを逆説的に示した。
著者
夏 天
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.75-89, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
39

家族の多様化とその子どもへの影響に関する先行研究からは非婚・離婚などの家族行動は低い学歴層に生じやすいこと、ひとり親世帯の子どもは教育達成が低いことが明らかにされている。中国における親の不在は親の離婚よりも「外出労働」に起因することが多く、その「外出労働」は低い学歴層に生じやすいことから、子どもの「分岐する運命」は「留守児童」経験によって生じていることが予想できる。高校進学以降のトラッキングはその後の社会経済的地位達成を大きく規定するため、本研究は「留守児童」経験とトラッキングの入り口にある普通科高校進学との関連について検討する。China Family Panel Studies(CFPS) データを使用し傾向スコアマッチング法による分析を行った結果、「留守児童」経験のある者は普通科高校に進学しにくいことが明らかになった。「留守児童」経験がライフコース上の長期的な不利を生み出す可能性がある。
著者
藤間 公太
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.91-107, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
51
被引用文献数
4

本稿では、社会的養護施設をめぐる2つの論争―ホスピタリズム論争、津崎哲夫vs 施設養護支持派論争―を分析し、「家庭」を支配的なロジックたらしめる言説構造について考察する。分析からは、かつてはあった「家庭」への批判的視角が徐々に失われ、反施設論者だけでなく、施設養護支持派も「家庭」をケアの場の支配的モデルと前提するようになったことが明らかになった。こうしたなか、個別性や一貫性の保障という小規模ケアのメリットを「家庭的」な形態に結び付ける言説構造が維持、強化されてきたと考えられる。以上を踏まえ、考察部では、「家庭」を理想的なケア環境として措定する言説構造が持つ問題と、今後の脱家族化論の課題について議論を行う。