著者
宮澤 研人 大村 嘉人 山岡 裕一 岡根 泉
出版者
The Editorial Board of The Journal of Japanese Botany
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.37-41, 2023-02-20 (Released:2023-02-20)
参考文献数
19

静岡県伊豆半島のブナ樹皮上やブナ樹皮上のコケ上と長野県大阿原湿原のコケを伴う岩上から採集された標本に基づき,ダイダイサラゴケ科ダイダイサラゴケ属の Coenogonium isidiatum (G.Thor & Vězda) Lücking(ト ゲダイダイサラゴケ,新称)を本州から初めて報告する.本種は国内(北方領土を含む)ではこれまで色丹島のみから報告されていた.得られたITS rDNA領域の配列は本種の既知配列と高い相同性を示した.本種は地衣体上に長さが最大0.5 mm の単一からわずかに分枝する裂芽を生じることで,日本産の類似種から容易に区別することができる.
著者
田留 健介 大村 嘉人
出版者
The Editorial Board of The Journal of Japanese Botany
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.198-204, 2023-08-20 (Released:2023-08-20)
参考文献数
38

国立科学博物館に収蔵されている南極大陸産コフキシロムカデゴケPhyscia caesiaの標本から,南極大陸新産および南極大陸東方地域新産の地衣生菌3種を発見したので報告する.南極大陸新産種であるDidymocyrtis epiphysciaは黒褐色で直径100–120 µmの分生子果を有し,分生子形成細胞は亜球形からびん形で単室,透明,分生子は楕円形で(4.3–)4.7–5.5(–6.4) × (2.0–)2.3–2.7(–3.2) µmであった.Tetramelas phaeophysciaeの子器はレキデア型で大きさは200–300 µm,子嚢の先端はK/I+ 青色,子嚢胞子は楕円形で2室,褐色で湾曲していた.南極大陸東方地域新産種であるLichenostigma alpinumは,かつて南極大陸西方地域のキングジョージ島で採集された地衣類のニクイボゴケ属の一種Ochrolechia frigida上で見つかっていた.
著者
望月 昂 中濵 直之
出版者
The Editorial Board of The Journal of Japanese Botany
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.98, no.5, pp.227-232, 2023-10-20 (Released:2023-10-20)
参考文献数
21

兵庫県宝塚市において,タチカモメヅルとスズサイコの雑種が見出されたため,Vincetoxicum glabrum (Nakai) Kitag. × V. pycnostelma Kitag.(新和名イマズミカモメヅ ル)として報告する.本種は茎葉および花において推定親種の中間的な形質を示すが,タチカモメヅルからは,直立する茎をもつこと,葉の幅が狭いこと,副花冠が三角形でなく長楕円形であり,背軸面が丸みを帯びていることで区別でき,スズサイコからは,茎の先端が弱くつる状になること,葉は針形でなく披針形であること,花弁の幅がより広く,副花冠の幅がより狭いことから区別ができる.核ETS領域の配列を比較したところ,本種には6箇所に親種由来の塩基重複がみられたため,本種がタチカモメヅルとスズサイコの雑種であることが支持される.また,親種からは記録されていない訪花昆虫がイマズミカモメヅルで観察されたことから,雑種形成が新たな送粉者の獲得につながった可能性があり,カモメヅル属の多様化プロセスにおける雑種形成の重要性が示唆される.
著者
内貴 章世 仲宗根 忠樹 大井・東馬 哲雄 米倉 浩司 阿部 篤志
出版者
The Editorial Board of The Journal of Japanese Botany
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.98, no.3, pp.134-139, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
15

国内では沖縄県与那国島にのみ分布するヤエヤマハシカグサExallage auriculariaが約40年ぶりに再発見されたので報告する.近縁種を含めた分子系統解析を行ったところ,先行研究と同じく本種は単系統ではないことが示唆され,与那国のものはタイやフィジーに分布するものと近縁であることが示された.本種は形態が多型的で種内分類群が提唱されたことがあり,種内および近縁種との関係性を明らかにするためにはさらなる解析が必要である.