著者
宮澤 研人 大村 嘉人 山岡 裕一 岡根 泉
出版者
The Editorial Board of The Journal of Japanese Botany
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.37-41, 2023-02-20 (Released:2023-02-20)
参考文献数
19

静岡県伊豆半島のブナ樹皮上やブナ樹皮上のコケ上と長野県大阿原湿原のコケを伴う岩上から採集された標本に基づき,ダイダイサラゴケ科ダイダイサラゴケ属の Coenogonium isidiatum (G.Thor & Vězda) Lücking(ト ゲダイダイサラゴケ,新称)を本州から初めて報告する.本種は国内(北方領土を含む)ではこれまで色丹島のみから報告されていた.得られたITS rDNA領域の配列は本種の既知配列と高い相同性を示した.本種は地衣体上に長さが最大0.5 mm の単一からわずかに分枝する裂芽を生じることで,日本産の類似種から容易に区別することができる.
著者
升屋 勇人 山岡 裕一
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.433-445, 2009 (Released:2011-03-28)

菌類が関連していないキクイムシは存在しない。キクイムシ関連菌の中には子嚢菌類や担子菌類といった非常に多様な菌類が含まれる。その中で経済的、生態的重要性からオフィオストマキン科、クワイカビ科の菌類に関する研究が進んできた。アンブロシア菌は養菌性キクイムシと絶対的共生関係にあるが、系統的に異系のグループであることが近年になって判明してきた。またオフィオストマキン科、クワイカビ科にそれぞれ近縁であることも明らかになってきた。両科は樹皮下穿孔性キクイムシの主要な随伴菌としても知られ、直接的、間接的にさまざまな共生関係を樹皮下キクイムシと結んでいる。キクイムシは進化の過程で養菌性を複数回進化させてきたが、菌類は自身の系統とは無関係にキクイムシと共生関係を結んできたと考えられる。そして結果的に、キクイムシ随伴菌はキクイムシの主要栄養源として機能する絶対的共生関係から、宿主樹木に対する病原力をもってキクイムシの繁殖戦略に貢献する共生関係まで、非常にさまざまな関係を結ぶことになったと考えられる。
著者
宮澤研人 大村嘉人 山岡裕一
出版者
植物研究雑誌編集委員会
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.154-157, 2020-06-20 (Released:2022-10-22)

生葉上地衣類の一種Aulaxina microphana (Vain.) R. Sant.(ヨウジョウクロフチゴケ属ツブヨウジョウクロフチゴケ,新称)が,西表島で採集されたクロツグ(ヤシ科)の生葉上から確認された.本種は日本新産であり,属としても日本新記録であるため,日本産採集標本に基づく形態情報を報告する.本種の地衣体は薄く(約10 µm),半透明な初生菌糸を伴う.はっきりとした黒色の縁をもつ微小な円形の裸子器(直径0.12–0.28 mm)があり,子器盤は淡黄灰色.子嚢胞子は3つの横断隔壁で仕切られており,隔壁部位にわずかなくびれがあり,大きさは (8.0–)10.6 ± 1.2(–12.5) × (3.0–)3.7 ± 0.6(–5.0) µm.共生藻はトレボクシア様の緑藻.化学成分は薄層クロマトグラフィーでは検出されなかった.非常に微小な地衣類であるために見落とされてきた可能性があり,国内における本種の分布については今後同様な生育環境で詳細な調査を行う必要がある.
著者
山岡 裕一 岡根 泉
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-21, 2019-05-24 (Released:2019-07-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Melampsora idesiae は,イイギリ(Idesia polycarpa)に寄生し夏胞子・冬胞子世代を経過するが,精子・さび胞子世代は不明であった.本菌の冬胞子堆が多数形成されたイイギリ落葉に隣接するムラサキケマン(Corydalis incisa)上でcaeoma型のさび胞子堆を確認した.ムラサキケマン上のさび胞子とイイギリ上の冬胞子を発芽させて得た担子胞子を用いた接種試験の結果,M. idesiae がムラサキケマンを精子・さび胞子世代宿主として異種寄生していることを明らかにした.
著者
出川 洋介 勝山 輝男 田中 徳久 山岡 裕一 細矢 剛 佐久間 大輔 廣瀬 大 升屋 勇人 大坪 奏 城川 四郎 小林 享夫 原田 幸雄 松本 淳 勝本 謙 稲葉 重樹 佐藤 豊三 川上 新一 WALTER Gams
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

労力と時間を要すために研究が遅れてきた菌類のインベントリー調査を、博物館を介して専門研究者と市民とを繋ぐ3者連携体制を構築して実施した。多様な世代の70名以上の市民により5千点を超す標本が収蔵された10年に及ぶ事前調査を踏まえ、約50種の菌類を選定し、研究者の指導のもとに市民が正確な記載、図版を作成し菌類誌を刊行、デジタルデータを公表した。本研究事例は今後の生物相調査の推進に有効な指針を示すと期待される。
著者
徳増 征二 山岡 裕一 佐藤 大樹 出川 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究期間中、メンバー全員がタイ北部においてそれぞれの担当分野の菌類あるいはその分離源を採集、持ち帰って観察、分離、同定を行った。また、マレーシアの熱帯湿潤地域からも同様な方法で菌を収集した。熱帯との比較を行う目的で、同じ季節風の影響を受けるが気温的に暖温帯に属する南西諸島において同様な調査を行った。現在分離・同定を継続申であるが、アジア季節風の影響下にある熱帯と暖温帯を微小菌類の種多様性という観点から比較した場合、以下のような傾向が確認できた。マツ落葉に生息する腐生性微小菌類の種多様性は明らかに熱帯が暖温帯より高かった。また、両者に共通する種の割合は低かった。マツの穿孔虫に随伴する菌類では、温帯から熱帯季節風地域にまで連続して分布する種の存在が確認され、それら菌類はそれぞれの地域に適応している宿主を利用していることが明らかになった。昆虫寄生性の菌類はタイ北部において多くの冬虫夏草を採集した。その多くの種が本邦では梅雨の末期に子実体形成するものであった。熱帯季節風帯の長い雨季はこうした菌類に感染、子実体形成に好ましい環境であると推測できた。また、トリコミケーテスの一新種を発見した。接合菌類の調査ではタイ北部で40種、マレーシアで24種採集した。出現菌の中で13種は分類学的に新種あるいは詳細な再観察を要するものであった。加えて、菌類地理学的観点から新しい知見を加えることができた種が多数記録された。全体に結果を総括すると、この地域の菌類群集の種多様性が熱帯湿潤地域、暖温帯に比べて高いことが示唆された。この地域の多様性の高さは最終氷期以降の気候変動による植生の南北移動、温帯性植物が逃避できる高地や高山の分布という地史的、地形的要因に、乾季雨季によってもたらされる季節性という気候的要因、さらに耕作、焼畑などの撹乱という人間による要因が重なって成立していると考えられる。