- 著者
-
北崎 幸之助
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:13479555)
- 巻号頁・発行日
- vol.75, no.4, pp.161-182, 2002-04-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 36
本研究は,戦後開拓地が現在まで農業集落として維持・発展している大八洲開拓農業協同組合地区を研究対象地域として取り上げ,アクターネットワーク論を用いて,開拓集落の維持・発展の要因を明らかにすることを目的とした.満蒙開拓団出身者らによって建設された大八洲開拓農業協同組合地区は,加藤完治の直接的な指導を受けた初代組合長の佐藤孝治が地域スケールのグレートアクターとなって,満蒙開拓団時代の紐帯や加藤から受けた農業指導を活かしながら共同経営を開始した.高度経済成長期以降,入植2代目の多くは日本国民高等学校や農業試験場などから最新の農業技術を学び,地域の営農に活かしていった.地域内に形成された水稲作や酪農における機能集団の外的なネットワークは,国家や地方スケールの補助事業を積極的に導入しながら営農の集団化を進め,水稲の請負耕作や集団転作などに対応した.また,開拓組合員に求心力を持たせる相互扶助や土地売買に関する内的なネットワークも形成され,組合員の離脱を防ぐ役割を果たしていた.このように,大八洲開拓農業協同組合地区内には,外的・内的なネットワークが重層的に形成されるとともに,国家や地方スケールの垂直的なネットワークとの連繋も図られていたため,戦後開拓地を農業集落として維持・発展させることができた.