著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.75-88, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
50

自尊心の研究はさまざまな自尊心調節機制が相互に代替可能であることを示唆している。人はある領域で自尊心が脅かされてもその領域とは関連しない領域でその脅威に対処することができる。このことから,能力次元における自尊心への脅威は,集団成員性の活性化および所属集団の実体性を高く認知することによる所属感の強化を引き起こしうると考えた。この予測を検討するため,大学生を対象に,想起法(研究1)と課題フィードバック法(研究2)を用いて自尊心への脅威の水準を操作する2つの実験を行った。実験1では,能力次元における自己評価が脅威を受けると,脅威を受けない場合に比べて,個人がかかわるあらゆる集団の実体性評価を高めることが,高特性自尊心者についてのみ示された。一方,実験2ではそのような集団実体性評価の高揚が特性自尊心の水準にかかわらず示された。これらの結果から,自尊心維持機制における領域間補償の一般化可能性が論じられた。
著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.47-54, 2011

The present research tests the hypothesis that if people face threats to self-worth in one domain, they will elevate their self-evaluation in another domain as compensation, and that this cross-domain compensation is more likely to occur among those with high relative to low trait self-esteem. Two studies were conducted with undergraduates using a reliving task to manipulate levels of threat to the self. Participants whose academic selves were threatened exhibited self-enhancement in the interpersonal domain regardless of the level of trait self-esteem (Study 1). However, participants whose social selves were threatened did not exhibit self-enhancement in the domain of intelligence regardless of the level of trait self-esteem (Study 2). Results are discussed in terms of the asymmetry in compensation between the intellectual and social domains.
著者
田端 拓哉 向井 有理子 宮崎 弦太 池上 知子
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.14, pp.70-79, 2012-03

都市社会学の知見によれば, 都市に暮らす人々は多様な社会的アイデンティティを持ちうることが推測される。本研究は, 多様なアイデンティティをもつことが, 個人の精神的健康にどのような影響を及ぼすかを, 大都市部の大学生を対象に検討した。先行研究では, アイデンティティ相互の関係が調和的な関係にあれば, アイデンティティ数の増加は精神的健康を促進するが, 葛藤を引き起こすような不調和な関係にあれば, 逆に精神的健康が阻害されることが示されている。しかし, それがどのようなメカニズムによって支えられているのかについては, まだ不明な点が残されている。本研究では, 自己複雑性理論の観点から, 多くのアイデンティティをもつことは, 自己の諸側面が相互に分化し数が増えることであるととらえ, その結果, ネガティブな事象に対する精神的回復力(レジリエンス)が高められるのではないかと考えた。自己複雑性が高ければ, ネガティブな出来事によって自己のある側面が傷ついても, その影響が自己の他の側面に波及しにくく, 残された側面の資源を動員することによって困難に対処しやすくなると考えられるからである。ただし, それはアイデンティティ相互の関係が葛藤を起こすことのない調和的な場合に限られる。189名の大学生が質問紙調査に参加した。調査の結果, 主要なアイデンティティ相互の関係が調和的であれば, アイデンティティ数の増加はレジリエンスを高めるが, 不調和であれば, アイデンティティ数の増加は, レジリエンスを低下させることが示された。主観的幸福感は, アイデンティティ数と調和性によって影響を受けることはなかった。したがって, アイデンティティの数が増えれば, 幸福感が高められ精神的健康が促進されるという単純な関係にあるのではなく, アイデンティティ数の増加は, ネガティブな事象の影響を緩和し精神的健康の悪化を予防するといった間接的なプロセスによって精神的健康の維持に寄与しているのかもしれない。最後に, 都市的環境と精神的健康の関係に関する研究の今後の方向性について言及した。