著者
池上 知子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.133-146, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
75
被引用文献数
2

社会から差別をなくそうという長年の取り組みにもかかわらず, 現代においても依然として差別に苦しむ人たちは存在する。本稿では, この問題にかかわる社会心理学の理論や研究パラダイムの変遷を追いながら, なぜ事態が改善しないのかを考察する。その一つの理由として, 差別的行動や偏見に基づく思考は, 人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根ざしていること, その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため, これを統制することがきわめて困難である点を指摘する。そして, それにもかかわらず, 社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが, 問題をさらに複雑にする結果となっていることを議論する。最後に, 最近, われわれに楽観的見通しを与えてくれる新しい観点が登場してきたことに言及する。それらは, 伝統的接触仮説を発展させた研究と潜在認知の変容可能性を検討している研究の成果に基づいている。本稿では, これらの新しい方向性についても考察する。
著者
池上知子 高史明# 吉川徹 杉浦淳吉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

企画趣旨 2015年6月に公職選挙法が改正され,選挙権が得られる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ,2016年夏の参議院選挙から適用された。選挙運動を行うことのできる年齢も同様に引き下げられている。これを機に若者に投票所に足を運んでもらうにはどのようにすればよいか各方面で議論されている。また,受験勉強や部活動に追われている高校生や大学生に政治参加を促す主権者教育が教育現場の大きな課題となっている。一方,半数近い若者が「政治のことはよくわらない」という理由から政治参加に対して不安や戸惑いを感じているという調査結果もある。わが国の将来を担う若者が社会や政治のあり方を変える大きな力となることは歓迎すべきことではあるが,そのためには,若者自身の問題意識の深化や判断能力の向上をはかることが必要である。問題に対する表面的理解,近視眼的判断が国や社会の指針を左右することがあってはならないからである。本シンポジウムでは,日本の若者が現代社会に内包されている問題(格差・貧困・差別等)をどのように認識しているかを探り,社会の深層構造の理解と変革への動機を促す手立てについて考えてみたい。インターネット世代のレイシズム高 史明 近年の日本では,在日コリアン(日本に居住する韓国・朝鮮人)をはじめとする外国籍住民に対する差別的言説の流行が大きな社会問題になっている。こうした流行は2000年代を通して進展してきたが,2013年頃から社会的な関心も向けられるようになり,2016年の「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行をもたらしている。報告者はこうした在日コリアンに対するレイシズム(人種・民族的マイノリティに対する偏見・差別)の問題について,特にインターネットの使用との関連性に注目して,実証的な研究を行ってきた。本報告ではその成果を踏まえて,「若者はいかにして社会・政治問題と向き合うようになるのか」という問いの中でも,「インターネットが日常となった現在において,若者はどのような経路で社会・政治についての情報と接触するのか,それはどういった内容のものなのか,その結果若者はどのような政治的態度を持つのか」について論じる。 まず,若者層の情報獲得手段の変化,つまり新聞を読む習慣の減少とインターネットへの傾斜について,既存の調査および発表者の持つデータにもとづき紹介する。次に,インターネット上の2つのコミュニティ(TwitterとYahoo!ニュースのコメント欄)における言説の特徴についての研究を紹介し,インターネットを通じた情報接触が若者の政治的態度に及ぼしうる影響について論じる。最後に,報告者がこれまで行ってきた調査データを,「若者とインターネットとレイシズム」という観点から再分析した結果をもとに,若者は他の世代と比べてどの程度レイシズムを受容しているのか,またインターネットの利用はどのような影響を若者に及ぼしているのかを論じる。社会意識論から見た現代日本の若者-社会的なものにかかわりたがらない若者たち-吉川 徹 若者論は社会学のなかでも常に活況を呈している分野である。90年代に制服少女を語った宮台真司から,数年前の古市憲寿の幸福な若者に至るまで,若年層の新しく繊細な文化的動向は,「失われた20年」と形容される同時代の見通しにくさを端的に論じてきた。その反面,冷静に見極めると,日本社会における若者のプレゼンスはかつてないほど低下している。これは第一に,若年人口の量的な縮小による。現在の日本の若者の同年人口は,70年安保当時の若者であった団塊の世代のおよそ半数にすぎない。第二に,若者の年齢拡大がある。社会的役割や地位が未確立なアイデンティティ形成期,あるいはモラトリアム期を若者のメルクマールと考えると,非正規化,晩婚化,パラサイト・シングルなどの実態は青年期を長期化させている。政府統計や官庁の公式文書においても,かつては20歳前後であった若者の年齢幅が,いつしか35歳までとされるようになり,現在では40歳未満という見方が定着しはじめている。40歳といえば,一昔前ならば若者の親の世代にあたる。第三に,若者の集団としての画一性が失われ,ひとまとまりの文化現象を呈さなくなっていることがある。浅野智彦らはこれらの動向を受け,若者が「溶解」していると指摘する。 そんななかで,社会に対する広い視野や,人生の長いパースペクティブをもたず,自己利益だけをコンサマトリーに考える傾向が若年層で浸透している。合わせて就労,文化,政治,消費などの社会的活動の積極性も他世代より低い。さらに詳しくデータを見ていくと,これは現在の若年層に一様にみられる傾向ではなく,性別,学歴(社会的地位),地域による分断を確認できる。政治的な関心や政治的な行動には,若者内でのセグメントの分断がとりわけ顕著に表れる。一例を挙げるならば,若年・非大卒層は社会的な積極性が他の層と比べて著しく低い。しかし,かれらこそが,雇用条件の悪化や,経済的困窮,非婚化,晩婚化の当事者として政策上の支援を必要としている人びとに他ならない。本企画においては,このような若者の政治参加をめぐる不整合を検討したい。格差問題への理解を促すゲーミング杉浦淳吉 社会には様々な格差が存在している。経済格差をはじめ,学校教育には「スクールカースト」のような問題もある。格差が生じるプロセスとその葛藤および解決策をゲームによって体験しながら理解する実践的研究を紹介する。ゲーミング・シミュレーションは現実社会の問題構造を現実と切り離された安全な空間で再現し,それを体験できる環境を用意することが可能である。格差問題を扱ったゲーミングとして仮想世界ゲーム(広瀬,1997)が挙げられる。初期条件として優位な集団と劣位な集団を設定し,集団間の葛藤とその解決の学習が可能である。また,階層間移動ゲーム(大沼,1997)では,ゲーム内で階層格差を作り出し,いったん格差が生じると,それぞれの立場から問題をとらえるようになっていく。この2つのゲーミングは,格差による葛藤に対して参加者全体の合意にもとづくルール変更というオプションが用意されている点が特徴として挙げられるが,大多数にとって納得のいく提案でなければルール変更は実現されず,格差を解消するルールの導入は困難となる。これらのゲームは30~40名の規模で長時間にわたる演習が必要であるが,ここでは5~6名のグループ単位で簡便なルール設定による格差の拡大と解消,及びルールの改訂に焦点をあてるゲームの活用方法を提案する。 大富豪というトランプゲームはルールの設定の仕方により格差拡大およびその葛藤と解決を学習する演習に展開できる (杉浦・吉川,2016)。大富豪は様々なルールのバリエーションが存在するが,格差拡大のルールは実際に順位の変動を小さくし,また逆転機会を提供するルールは順位の変動を大きくしており,ルール設定の仕方次第で格差の固定化・流動化が可能となる。グループ間でルールの異なるゲームを設定した演習を行うと,各々体験したゲームが表す社会が閉鎖的か否かといった評価に違いがみられた。ルール改正の話し合いにおいて,リーダーと認識されたプレーヤのリーダーシップタイプと新ルールの評価の関連を検討したところ,リーダーが民主的であると認識されていたグループの方が,リーダーが放任的あるいは専制的であると認識されていたグループよりも,ルール変更により逆転のチャンスが増えたと評価していた。若者の多くによく知られ楽しまれているカードゲームを格差問題の理解につなげる学習ツールとして展開するための方法と効果について討論する。
著者
森永康子 大渕憲一# 池上知子 高史明# 吉田寿夫 伊住継行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

社会心理学分野でも学校現場でも,「差別」をなくそうという試みは長い間続いている。しかしながら,「差別」はそうした努力をあざ笑うかのように,時代とともにそのターゲットや形を変えながら,連綿と存在している。このシンポジウムでは,今一度,基本に戻り,そもそも人はなぜ公正になれないのか,そして,なぜ差別がなくならないのかを考え,形を変えた現代の差別の特徴をもとに,「差別」を学校現場でどのように扱うことができるのかを考えてみたい。公正感の起源と差別大渕憲一 心理学では,自己利益を基本的動機付けと仮定する合理的人間観に立って仮説を立て,研究を進めてきたが,人間の感情や行動がこれ以外の関心によっても規定されることを示す証拠は少なくない。例えば,報酬分配の経済行動ゲームにおいて「好きなように分配していい」と言われているにもかかわらず,分配者は自分の取り分を減らしてまでパートナーと半々に分けようとするし,パートナーもまたそれを期待する。こうした行動は,人々が「人は公平に扱わなければいけない」「自分も人から公平に扱われたい」という公正関心を持っていることを示唆している。子どもたちに対して経済行動ゲームを模した実験を実施した発達心理学者たちは,学童期の子どもたちの行動には公正関心の実質的影響が見られることを示してきた(Fehr et al., 2008)。更に,近年は霊長類を被験体にした類似の実験も試みられ,普段から群れを成して暮らし,採食や防御に協力しあう種においては公正感に基づくと解釈される行動が観察されるとの報告がある(Horner et al., 2011)。これらの知見は,仲間を平等に扱おうとし,また自分が不平等に扱われることには反発するという公正関心がかなり原初的なものであることを示唆している。公正関心の起源を探るこうした研究者たちは,これを仲間同士の協力関係の形成・維持のために進化した心的特性であるとみなしている(Brosnan & de Waal, 2014)。人間や霊長類には血族関係を超えた協力行動が見られ,それは個体の生存と種族の保存にとって有益なものである。しかし,協力関係の維持には資源の適正配分が必要で,コストを負担せず利益だけを享受(ただ乗り)しようとする利己的個体は協力関係から排除される。排斥を避け,協力的であるとの評判を維持するために,個体には協力行動が必要とされる場面以外でも仲間を公平に扱おうとする志向性が発達したとされる。この論に従うなら,公正関心は本来,協力関係を形成しうる仲間に対して向けられるものである。実際,Fehrたちによると,スイスの子どもたちは,同じ施設の顔見知りの子どもたちに対しては平等分配を選択する割合が高かった。このことは,子どもたちが仲間以外を不平等に扱うことには余り抵抗を感じないことを示しており,そこに差別的行動を生み出す心理的素地を見て取ることができる。しかし一方で,公正関心は,他者の期待や不満を察知するという認知能力の発達を基盤にしており,それは仲間という社会的範疇を超えて公正関心が拡張される可能性を示唆するもので,差別を乗り越えるこうした観点からの実証研究と議論が期待される。差別はなぜなくならないのか:平等主義のパラドクス池上知子 2016年7月に起きた相模原事件は,社会に遍在するさまざまな差別・偏見問題の解消をめざして,これまで積み上げてきた営みを根底から覆されたような暗澹たる思いをわれわれにもたらした。それは,半世紀を優に超えるはるか以前に明確に否定されたはずの思想,差別の正当化につながりかねない危うい思想を彷彿させる事件であったからであろう。また,人権教育が行き届き,平等主義的価値観が共有されているはずの現代社会においても,ことあるごとに物議を醸す差別的言動が日常的に頻発している。このような現実を前にすると,人間社会から差別をなくすこと,もしくは人々の心の中から差別意識や差別感情を取り除くことがいかに困難であるかを痛感させられる。 社会心理学は,その黎明期より差別・偏見問題にさまざまな角度からアプローチしてきたが,そこで示される知見も総じて悲観論が優勢である。池上(2014)は,これまでの社会心理学が差別・偏見問題にどのように向き合ってきたかを振り返り,なぜ悲観論に傾きがちになるのかを考察している。そこでは,差別・偏見の解消がむづかしいのは,「差別的行動や偏見に基づく思考は,人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根差していること,その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため,これを統制することがきわめて困難」(133頁『要約』より)であるからだと指摘している。加えて,「それにもかかわらず,社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが,問題をさらに複雑にする結果となっている」(133頁 『要約』より)と論じている。換言すれば,偏見や差別は,人間にとって根源的欲求である認識論的欲求や自尊欲求の充足のために,また情報処理の効率化のために編み出された種々の心理機制(社会的カテゴリー化や集団自己同一視,二重処理システム等)の必然的帰結とも言える。このことは,個人の倫理観や道徳感情に訴えかける平等主義教育には限界があり,場合によっては,逆効果すらもたらしかねないことを意味している。本報告では,そうした議論を踏まえつつ,それでもなお,問題の解決に向けて前へ進むためにはどのような手立てがあるかを考えてみる。池上(2014)では,楽観的見通しを与えてくれる研究動向として,潜在認知の変容可能性と間接接触の功用を挙げているが,それらに共通するのは,人間の本性に抗うことなく自然に寄り添う形での介入の有効性を示唆している点である。本報告では,差別・偏見研究が悲観論から楽観論へ転換する契機について,報告者自身がかかわっている研究例を交えながら議論したい。引用文献池上知子(2014)差別・偏見研究の変遷と新たな展開-悲観論から楽観論へ- 教育心理学年報, 53, 133-146.新しい偏見とヘイトスピーチ(差別扇動表現)高 史明 近年の日本では,在日コリアン(日本に居住する韓国・朝鮮籍の人々)など外国籍住民に対するヘイトスピーチ(差別扇動表現)が氾濫し,深刻な社会問題となっている。こうした事態を受けて,2016年には「ヘイトスピーチ対策法」(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」)が成立・施行された。この法律は,国および地方公共団体に対して,「本邦外出身者に対する不当な差別的言動を解消するための教育活動を実施するとともに,そのために必要な取組を行うよう努める」ことを課している。こうした状況において,教育に携わる者には,外国籍住民に対する偏見や差別がどのような形で表れるのか,どのように獲得されあるいは伝達されるのかといった知識が今まで以上に求められるようになっている。 そこで発表者はまず,アメリカでの黒人に対する人種偏見の研究の中で提唱された「現代的レイシズム」に特に注目し,現代社会における人種・民族偏見の様相を論じる。このレイシズムは,①差別は既に存在しない,②したがって黒人が低い経済的地位に留め置かれているのは差別のためではなく本人たちの努力不足によるものである,③にもかかわらず黒人はありもしない差別に対する抗議を続け,④不当な特権をせしめている,という4つの相互に関連する信念にもとづいている。こうしたレイシズムは,人権教育の場面でおそらく想定されている種類の露骨なレイシズム(「黒人は劣っている」といった信念にもとづくもの)とは異なるものである。 また,「現代的レイシズム」は黒人に対する偏見を捉えるために提唱された概念であるが,その後,女性や性的マイノリティに対してもそれに相似する偏見が存在することが示されている。「現代的偏見」と総称されるこれらの偏見は,低い地位に置かれてきた様々なマイノリティの権利が伸張したときにマジョリティが抱く反感と,それにもとづく差別的言説を捉える上で非常に有用である。 これらの現象についての先行研究を踏まえた上で,ヘイトスピーチの問題に対して学校教育は何ができるのかを論じる。
著者
鈴木 文子 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.183-190, 2015-03-20 (Released:2015-06-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

From the perspective of social identity theory, some social psychologists have suggested that heterosexual men espouse negative attitudes toward gay men as a defensive mechanism against threats to their gender self-esteem. The purpose of the present study is to examine whether this gender self-esteem defense theory of sexual prejudice applies among heterosexual men and women in Japan. Our results in principle supported the gender self-esteem defense theory for heterosexual men. For heterosexual women, however, the results tended to be contradictory to the theory. The more positive heterosexual women’s gender self-esteem was, the less negative was their attitude toward lesbians. But this link tended to disappear when they were informed that no biological differences exist between heterosexuals and homosexuals. Our findings suggest that heterosexual men and women maintain their gender self-esteem in different manners: Heterosexual men maintain positive gender self-esteem by embracing negative attitudes toward gay men, but heterosexual women do not. Heterosexual women’s gender self-esteem may be related to expressing tolerance for sexual minorities.
著者
宮崎 弦太 矢田 尚也 池上 知子 佐伯 大輔
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.61-72, 2017-12-25 (Released:2017-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

This study investigated the determinants of exchange anxiety in close relationships—generalized worries that one’s partner will replace him/her with a more suitable person. We hypothesized that exchange anxiety would increase when individuals compare themselves with others who are more competent (experiencing upward social comparisons), especially in environments where they cannot easily find alternative relationships (environments with low relational mobility). By experimentally manipulating the type of social comparison, the results from Study 1 revealed that undergraduates (n=299) living in environments with low relational mobility felt stronger exchange anxiety when they experienced upward social comparison than downward social comparison. In Study 2, an online survey was conducted with a sample of adults living in either urban or rural areas (n=1000). The results showed that the frequency of upward social comparison was positively associated with exchange anxiety and that this tendency was moderated by the combined effect of relational mobility and trait self-esteem. These results suggest that the characteristics of one’s interpersonal environments affect the impact of the perceived risk of being replaced on exchange anxiety in one’s close relationships.
著者
谷口 友梨 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1609, (Released:2017-09-05)
参考文献数
27

本研究では,解釈レベル理論に基づき,(1)観察された行為事象との心理的距離によって生起しやすい自発的推論が変化するか,(2)その結果,特性に基づく行為者の将来の行動予測がどのような影響を受けるのかについて検討した。4つの実験を通じて,特性の推論は観察事象との心理的距離が近い場合より遠い場合のほうが生起しやすく,目標の推論は観察事象との心理的距離が遠い場合より近い場合のほうが生起しやすいことが示された。加えて,心理的距離が遠い行動を行った行為者の方が近い行動を行った行為者に比べて推論された特性に基づいて将来の行動が予測されやすいことが窺われた。これは,行為事象との間に知覚された心理的距離に応じて,駆動する情報処理の抽象度が変化し,距離が遠いほど行為事象は抽象的に解釈され,特性の観点から行動が解釈されやすいのに対し,距離が近くなると行為事象は具体的に解釈され,一時的な行為目標の観点から行動が解釈されやすくなることを示唆している。以上の結果から,潜在レベルで生起する推論が文脈の影響を受けやすい性質をもつこと,潜在レベルの推論が顕在レベルの判断を一定程度規定することが考察された。
著者
宮崎 弦太 佐伯 大輔 矢田 尚也 池上 知子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.89.16074, (Released:2018-03-10)
参考文献数
30
被引用文献数
2

Previous findings regarding the effects of living in urban environments on residents' subjective well-being have been inconsistent. The present study developed a scale to measure the multifaceted nature of urban living environments and investigated the aspects of urban environments that enhance or reduce residents' life satisfaction. We conducted two online surveys in which adults living in urban or rural areas in Japan (1,000 participants for each survey) completed the Multifaceted Urban Living Environment Scale and the Life Satisfaction Scale. Results indicated that urban living environments are characterized by quality of facilities, life convenience, life unpleasantness, and easy accessibility to public transportation. Of importance, each of these aspects affected residents' life satisfaction differently. Specifically, the quality of facilities was positively associated with life satisfaction, whereas life convenience was negatively associated. However, life unpleasantness and easy accessibility to public transportation had no effect on life satisfaction. These results suggest that it is important to measure the multifaceted nature of urban living environments to gain a deeper understanding of the effects of urbanization on residents' subjective well-being.
著者
宮崎 弦太 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.219-226, 2011

From the perspectives of interdependence theory and sociometer theory, we tested the hypothesis that greater costs of relationship loss lead to heightened sensitivity to rejection cues and to increased motivation to behave in more relationship-constructive ways. We conducted a questionnaire study in which 319 undergraduates listed activities they shared with their closest same-sex friend and indicated how they would feel and behave if they were rejected. As predicted, a greater amount of shared activities with a friend led individuals to experience stronger negative self-relevant feelings following imaginary rejection by that friend, which in turn generally promoted relationship-constructive behaviors (and inhibited relationship-destructive ones). The results suggest that state self-esteem effectively functions as a relationship maintenance mechanism.
著者
宮崎 弦太 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.164-174, 2015-03-20 (Released:2015-06-07)
参考文献数
26

Commitment and expectations of acceptance in relationships promote relationship-repairing behaviors in response to interpersonal rejection. The present study examined differences between these factors in the mediation process, and the moderating role of attachment orientation in the process. One hundred and seventy-eight undergraduate students participated in a questionnaire study, in which they reported their attachment orientation, rated their degrees of commitment and expectations of acceptance by a close friend, and indicated how they would feel and behave if that friend rejected them. Mediational analyses revealed that self-regard feelings partially mediated the association between commitment and relationship-repairing behaviors. Further analyses also showed that mediation effects disappeared among those with high attachment avoidance. There were only direct effects of expectations of acceptance on relationship-repairing behaviors regardless of attachment orientation. These results suggested that there are multiple pathways for promoting relationship-repairing behaviors in response to interpersonal rejection. In addition, this study discussed the implications of these findings for relationship-repairing mechanisms.
著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.75-88, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
50

自尊心の研究はさまざまな自尊心調節機制が相互に代替可能であることを示唆している。人はある領域で自尊心が脅かされてもその領域とは関連しない領域でその脅威に対処することができる。このことから,能力次元における自尊心への脅威は,集団成員性の活性化および所属集団の実体性を高く認知することによる所属感の強化を引き起こしうると考えた。この予測を検討するため,大学生を対象に,想起法(研究1)と課題フィードバック法(研究2)を用いて自尊心への脅威の水準を操作する2つの実験を行った。実験1では,能力次元における自己評価が脅威を受けると,脅威を受けない場合に比べて,個人がかかわるあらゆる集団の実体性評価を高めることが,高特性自尊心者についてのみ示された。一方,実験2ではそのような集団実体性評価の高揚が特性自尊心の水準にかかわらず示された。これらの結果から,自尊心維持機制における領域間補償の一般化可能性が論じられた。
著者
鈴木 文子 池上 知子
出版者
The Japanese Society of Social Psychology
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.183-190, 2015

From the perspective of social identity theory, some social psychologists have suggested that heterosexual men espouse negative attitudes toward gay men as a defensive mechanism against threats to their gender self-esteem. The purpose of the present study is to examine whether this gender self-esteem defense theory of sexual prejudice applies among heterosexual men and women in Japan. Our results in principle supported the gender self-esteem defense theory for heterosexual men. For heterosexual women, however, the results tended to be contradictory to the theory. The more positive heterosexual women's gender self-esteem was, the less negative was their attitude toward lesbians. But this link tended to disappear when they were informed that no biological differences exist between heterosexuals and homosexuals. Our findings suggest that heterosexual men and women maintain their gender self-esteem in different manners: Heterosexual men maintain positive gender self-esteem by embracing negative attitudes toward gay men, but heterosexual women do not. Heterosexual women's gender self-esteem may be related to expressing tolerance for sexual minorities.
著者
宮崎 弦太 佐伯 大輔 矢田 尚也 池上 知子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.50-60, 2018 (Released:2018-04-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2

Previous findings regarding the effects of living in urban environments on residents' subjective well-being have been inconsistent. The present study developed a scale to measure the multifaceted nature of urban living environments and investigated the aspects of urban environments that enhance or reduce residents' life satisfaction. We conducted two online surveys in which adults living in urban or rural areas in Japan (1,000 participants for each survey) completed the Multifaceted Urban Living Environment Scale and the Life Satisfaction Scale. Results indicated that urban living environments are characterized by quality of facilities, life convenience, life unpleasantness, and easy accessibility to public transportation. Of importance, each of these aspects affected residents' life satisfaction differently. Specifically, the quality of facilities was positively associated with life satisfaction, whereas life convenience was negatively associated. However, life unpleasantness and easy accessibility to public transportation had no effect on life satisfaction. These results suggest that it is important to measure the multifaceted nature of urban living environments to gain a deeper understanding of the effects of urbanization on residents' subjective well-being.
著者
宮崎 弦太 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.194-204, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
21
被引用文献数
6 1

本研究は関係へのコミットメントと関係相手からの受容予期が社会的拒絶への対処行動に及ぼす影響を検討した。219名の大学生が質問紙調査に参加した。参加者は,親友または知人との関係におけるコミットメントと相手からの受容予期の程度,そして,その相手からの拒絶場面における感情状態と行動傾向を評定した。その結果,知人よりも親友のほうが,関係相手からの受容予期は強く,関係へのコミットメントが強いことが明らかとなった。また,知人よりも親友のほうが,拒絶に対する関係志向的行動が促進され,関係破壊的行動は抑制されることが示された。媒介分析とパス解析の結果,コミットメントと受容予期はそれぞれ直接,拒絶への関係志向的行動を促進し,関係破壊的行動を抑制すること,そして,受容予期はコミットメントを強めることで間接的にも拒絶への対処行動に影響することが明らかとなった。これらの結果は,拒絶への対処行動を規定する要因は,相互依存理論とリスク制御システム理論という観点から統合的に理解する必要があることを示唆している。
著者
宮崎 弦太 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.219-226, 2011-03-25 (Released:2017-02-21)

From the perspectives of interdependence theory and sociometer theory, we tested the hypothesis that greater costs of relationship loss lead to heightened sensitivity to rejection cues and to increased motivation to behave in more relationship-constructive ways. We conducted a questionnaire study in which 319 undergraduates listed activities they shared with their closest same-sex friend and indicated how they would feel and behave if they were rejected. As predicted, a greater amount of shared activities with a friend led individuals to experience stronger negative self-relevant feelings following imaginary rejection by that friend, which in turn generally promoted relationship-constructive behaviors (and inhibited relationship-destructive ones). The results suggest that state self-esteem effectively functions as a relationship maintenance mechanism.
著者
宮崎 弦太 佐伯 大輔 矢田 尚也 池上 知子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.50-60, 2018
被引用文献数
2

<p>Previous findings regarding the effects of living in urban environments on residents' subjective well-being have been inconsistent. The present study developed a scale to measure the multifaceted nature of urban living environments and investigated the aspects of urban environments that enhance or reduce residents' life satisfaction. We conducted two online surveys in which adults living in urban or rural areas in Japan (1,000 participants for each survey) completed the Multifaceted Urban Living Environment Scale and the Life Satisfaction Scale. Results indicated that urban living environments are characterized by quality of facilities, life convenience, life unpleasantness, and easy accessibility to public transportation. Of importance, each of these aspects affected residents' life satisfaction differently. Specifically, the quality of facilities was positively associated with life satisfaction, whereas life convenience was negatively associated. However, life unpleasantness and easy accessibility to public transportation had no effect on life satisfaction. These results suggest that it is important to measure the multifaceted nature of urban living environments to gain a deeper understanding of the effects of urbanization on residents' subjective well-being.</p>
著者
谷口 友梨 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.78-92, 2018

<p>本研究では,解釈レベル理論に基づき,(1)観察された行為事象との心理的距離によって生起しやすい自発的推論が変化するか,(2)その結果,特性に基づく行為者の将来の行動予測がどのような影響を受けるのかについて検討した。4つの実験を通じて,特性の推論は観察事象との心理的距離が近い場合より遠い場合のほうが生起しやすく,目標の推論は観察事象との心理的距離が遠い場合より近い場合のほうが生起しやすいことが示された。加えて,心理的距離が遠い行動を行った行為者の方が近い行動を行った行為者に比べて推論された特性に基づいて将来の行動が予測されやすいことが窺われた。これは,行為事象との間に知覚された心理的距離に応じて,駆動する情報処理の抽象度が変化し,距離が遠いほど行為事象は抽象的に解釈され,特性の観点から行動が解釈されやすいのに対し,距離が近くなると行為事象は具体的に解釈され,一時的な行為目標の観点から行動が解釈されやすくなることを示唆している。以上の結果から,潜在レベルで生起する推論が文脈の影響を受けやすい性質をもつこと,潜在レベルの推論が顕在レベルの判断を一定程度規定することが考察された。</p>
著者
宮崎 弦太 矢田 尚也 池上 知子 佐伯 大輔
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.61-72, 2017

<p>This study investigated the determinants of <i>exchange anxiety</i> in close relationships—generalized worries that one's partner will replace him/her with a more suitable person. We hypothesized that exchange anxiety would increase when individuals compare themselves with others who are more competent (experiencing upward social comparisons), especially in environments where they cannot easily find alternative relationships (environments with low relational mobility). By experimentally manipulating the type of social comparison, the results from Study 1 revealed that undergraduates (<i>n</i>=299) living in environments with low relational mobility felt stronger exchange anxiety when they experienced upward social comparison than downward social comparison. In Study 2, an online survey was conducted with a sample of adults living in either urban or rural areas (<i>n</i>=1000). The results showed that the frequency of upward social comparison was positively associated with exchange anxiety and that this tendency was moderated by the combined effect of relational mobility and trait self-esteem. These results suggest that the characteristics of one's interpersonal environments affect the impact of the perceived risk of being replaced on exchange anxiety in one's close relationships.</p>
著者
池上 知子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.133-146, 2014

社会から差別をなくそうという長年の取り組みにもかかわらず, 現代においても依然として差別に苦しむ人たちは存在する。本稿では, この問題にかかわる社会心理学の理論や研究パラダイムの変遷を追いながら, なぜ事態が改善しないのかを考察する。その一つの理由として, 差別的行動や偏見に基づく思考は, 人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根ざしていること, その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため, これを統制することがきわめて困難である点を指摘する。そして, それにもかかわらず, 社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが, 問題をさらに複雑にする結果となっていることを議論する。最後に, 最近, われわれに楽観的見通しを与えてくれる新しい観点が登場してきたことに言及する。それらは, 伝統的接触仮説を発展させた研究と潜在認知の変容可能性を検討している研究の成果に基づいている。本稿では, これらの新しい方向性についても考察する。
著者
田端 拓哉 池上 知子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.47-54, 2011

The present research tests the hypothesis that if people face threats to self-worth in one domain, they will elevate their self-evaluation in another domain as compensation, and that this cross-domain compensation is more likely to occur among those with high relative to low trait self-esteem. Two studies were conducted with undergraduates using a reliving task to manipulate levels of threat to the self. Participants whose academic selves were threatened exhibited self-enhancement in the interpersonal domain regardless of the level of trait self-esteem (Study 1). However, participants whose social selves were threatened did not exhibit self-enhancement in the domain of intelligence regardless of the level of trait self-esteem (Study 2). Results are discussed in terms of the asymmetry in compensation between the intellectual and social domains.