著者
ブラジル マーク
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.52-53, 1988
被引用文献数
1

筆者は,1987年7月12日,小笠原諸島父島出港2時間以内の北帰航路でオオシロハラミズナギドリ<i>Pterodroma externa cervicalis</i>1羽を100m以内の矩離で確認した。これは名古屋への迷鳥記録(1962年)以後日本領海初記録となる。小笠原航路は海鳥観察に好適で他に7種を記録した。
著者
ブラジル マークA シャーガリン イェフゲニ
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.162-199, 2002

オオハクチョウ(<i>Cygnus cygnus</i>)の生息域の大半は,ロシアおよびその周辺の旧ソ連邦共和国の境界内に含まれている。従来,本種に関する研究の多くは,ヨーロッパと日本で行なわれてきたが,1980年以降,ロシアでもかなりの量の研究が行なわれるようになった。これらの研究の大半はロシア国内の論文誌,それも地方の論文誌で発表されることが多いため,ロシア以外の研究者がこれらの文献に接したり,入手したりする機会は非常に限られている。このたび私たちは,本種を対象とした,ロシア国内の4地域における文献を整理,検討した。<br>そして,これら4地域:1)ロシア西部(ウラル山脈の西側)2)シベリア西部(ウラル山脈東側からエニセイ川まで)3)シベリア中東部(エニセイ川からレナ川まで)4)ロシア極東部(レナ川からベーリング海まで)における本種の個体数,繁殖生態,越冬地の範囲,渡り,換羽行動についても,おおよその全体像を求めてみた。この4地域の面積はいずれも,ヨーロッパ個体群が占有する面積とほぼ同じ,あるいははるかに上回っているかである。また,現在,個体群の大きさに関する正確な情報が入手できるのは,この4地域のみである。なお,本号ではロシア西部とシベリア西部,次号ではシベリア中東部とロシア極東部を報告する。<br>ロシアのオオハクチョウ個体群は大きく,おおむね安定している。また,北に向かって生息域を拡大しつつあると推定される。これらの個体群は,生息環境の撹乱や悪化,生息地の消失,狩猟などさまざまな人為的影響に悩まされているが,場所によっては,先に述べたような否定的影響が減少して,繁殖地を取り戻しつつあるところもある。ロシアのオオハクチョウは,北西部のコラ半島から東部のチュコト半島のアナディル渓谷とカムチャツカにかけて分布している。繁殖域の北限は通常,北緯67~68度付近であるが,場合によっては北緯70度まで,まれに北緯72度まで北上して繁殖した例があり,繁殖域の北限が徐々に北上しつつあるという状況証拠にもなっている。ヨーロッパロシア西部におけるオオハクチョウの繁殖域の南限は北緯62度であるが,サハリンやカムチャツカでは北緯50~55度まで南下する。西部のオオハクチョウは北緯47~50度付近まで南下して越冬するが,最も南の越冬地は日本にある。これは気候的な理由によるもので,日本では北緯35~40度にかけての低緯度地域に多数の個体が越冬しているのが観察される。ロシアではオオハクチョウは,タイガ北部と森林ツンドラおよびツンドラの一部で繁殖する鳥である。オオハクチョウの個体数と生息域は,20世紀半ばに生じた人為的影響により,一部の地域,特に西部で,19世紀から20世紀初頭のレベルにまで減少した。しかしながら,20世紀後半になるとオオハクチョウはかつての分布域を取り戻し始めた。<br>推定個体数は同一地域でも報告によって大幅に異なる.例えば,ロシア西部とシベリア西部の地域での個体数は1万羽程度から10万羽以上と推定されている(Ravkin 1991, Rees <i>et al</i>.1997)。このため,全個体数を推定することは事実上不可能である。最大のオオハクチョウ生息地であるこの地には,かなりの研究の余地がある。カムチャツカ,日本,朝鮮半島および中国における越冬個体数から推定すると,ロシア極東部には約6万羽が生息していると考えられる。世界のオオハクチョウの大多数はロシア国内で繁殖を行なうが,そのほとんどはロシア国境を越え,バルト海,カスピ海,日本海周辺などの近隣の国々で越冬する。渡りの時期は地方によって異なるが,少なくとも秋の渡りは,急激な気温の降下,特に日中の気温が5&deg;Cから0&deg;Cに降下することが引き金になっているらしい。ロシア各地で得られた記録からは,春と秋の渡りにいくつかの波があることがわかる。春の渡りでは,前半はつがいや家族が優勢で,後半は非繁殖個体が多くなる。秋には非繁殖個体のほうが繁殖個体より早めに渡り始める。これは,初期の渡りの群れには幼鳥が少なく,後半になるとつがいや家族,ヒナ連れの群れが多くなることからもわかる。生息域の西側では,オオハクチョウが,コブハクチョウ(<i>Cygnus olor</i>)やコハクチョウ(<i>Cygnus columbianus bewickii</i>)と一緒に渡りをしているのが観察されることもある。また東側では,コハクチョウと同じ中継地点を利用することが多い。<br>現在のロシア国境内におけるオオハクチョウ繁殖地は広く,在住のハクチョウ研究者は少ない。そのうえ,交通の便の悪い地域が大半という条件下では,最低限の基礎情報すら得られない地域があっても驚くに値しない。それにもかかわらずここ数十年の間にロシア国内で多数の論文が発表されていることは,素晴らしいことである。
著者
浅川 満彦 中村 茂 ブラジル マークA
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.200-221, 2002-10-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
98
被引用文献数
14 16

本総説では,まず緒論で感染症と非感染症の性質の違いについて述べ病原生物は人工的な中毒物質とは異なり,自然界で増殖することが可能なため,根本的な解決がより難しいことを指摘した。また,アヒルペスト,ニューカッスル病,鳥コレラなどが北米で発生し,非常に多数の野生のガン•カモ類やハクチョウ,ウを死滅させたが,その遠因として環境の人為的改変であることも指摘した。日本の自然環境は,明治維新以降,著しい改変が進行しており,飛来する水鳥類や野鳥の個体数は急減したが,最近,増加傾向に転じている。しかし,同時に,日本の飛来地において多数個体の一極集中化,高密度化を引き起こしている。これは,感染症の発生という点からみると,非常に危険な状態にある。東アジアを主分布域にしているガンカモ類やツル類では,その個体群の大部分が日本で越冬する種も少なくないことから,種の保全活動において,日本での対策が希求される。よって,日本およびその周辺地域で報告されている,あるいは発生するであろう野生鳥類の感染症と寄生虫症の発生状況把握と病原体の生態などは保護活動において重要な知見である。そこでこの総説では,これまでに日本で発生した,あるいは将来,発生が懸念される鳥類の感染症あるいは寄生虫症について,病原生物(ウイルス,細菌,真菌,原虫,蠕虫および節足動物)別に分け,概要を述べることにした。第2節では,日本産鳥類相の変化について概略を紹介した。ここ半世紀ほどで,約50種の鳥類が,新たな日本における分布種として追加されたが,今後,同様に東アジア,太平洋地域,北米などからの種の流入が予想される。また,地球温暖化現象やアジア地域における急激な経済活動活性化に伴う人為的な環境改変などが作用して,個々の種の地理的分布なども変化していくことも考えられる。このような鳥類相の変化は新たな病原生物の日本への侵入も引き起こすことも考えられるので,警戒が必要である。第3節以降では,病原生物の分類群ごとに総説を展開した。まずウイルスは,DNAウイルスとRNAウイルスとに大別され,前者にはガンカモ類に病原性の高いヘルペスウイルス科のアヒルペストウイルスが知られる。日本では未報告であるが,北米,アジア,ヨーロッパなどのカモ類(家禽含む)からの感染が懸念される。このほかのヘルペスウイルス科としては,マレック病ウイルスやツル類の封入体病ウイルスなどが含まれ,いずれも日本での発生が知られる。特に,前者は養鶏業に多大な被害を与える感染症として知られるが,その感染により腫瘍を形成し死亡したマガンが2001年10月,北海道宮島沼で発見された。日本でもある種の病原体が野鳥から検出されることは稀ではないが,その死亡例が確認されることは少なく,貴重な症例となった。RNAウイルスでは,ニューカッスル病ウイルスとインフルエンザAウイルス(鳥ペストウイルス)が重要である。特に前者により北米では,1990年代,数万のオーダーの水鳥類が死滅した。日本では,野鳥の大規模な死亡例はないが,動物園飼育種や野外のドバトなどで散見されている。この他のウイルスについては,Appendix 1に分類群ごとに列挙した。なお,最近,北米を中心に問題となっている西ナイルウイルス(Flaviviridae: Appendix 1の「RNA virus(3)ssRNA+virus参照」)の我が国における疫学調査は,空港における蚊の調査を厚生労働省が,またカラスなどの鳥類の調査を国立感染症研究所や東京都が主体となり実施中である。細菌性疾患としては,まず,2000年10月に韓国で発生した鳥コレラ(あるいは家禽コレラ)によるトモエガモ11,000羽以上の死亡例が注目される。この種は絶滅が危惧される種の一つであり,今後の個体数の回復が懸念されるが,日本との地理的近接性を考慮した場合,無視できない事例であった。ボツリヌス菌による中毒死亡例は,東京や埼玉などのカモ類で知られているものの,多くは野鳥が何らかの細菌の媒介者であることを前提に調査される例が多い(Appendix 2)。中には,人で問題となるオウム病クラミジアやサルモネラ菌などが不顕性感染しているので注意が必要である。最近,我が国で悪性水腫菌の一種Clostridium感染と考えられる急性出血性腸炎によるカラスの複数の死亡例が報告されている。真菌性疾患としては,アスペルギルス症が良く知られるが,ほかの属としてはCandida, Cryptococcus, Microsporum, Trichophyton, Fusarium, Ochroconis, Absidiaなどが鳥類に疾患を起こすものとして報告されている。原虫性疾患としては,鞭毛虫やアメーバのグループ(肉質鞭毛虫門)であるTrypanosoma, Hexamita, Histomonas, Parahistomonas, Monocercomonas, Trychomonas, Tetratrichomonas, Chilomastix, Entamoeba, Endolimaxの各属が知られ,日本では(家禽•ペットを除けば)飼育下のライチョウでヒストモナス症やトリコモナス症による死亡例が知られる。