著者
鈴木 雅博
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.47-67, 2016-11-30 (Released:2018-03-26)
参考文献数
14

本稿は,教師たちが曖昧な校則下での組織的で厳格な指導をどのように/どのようなものとして論じたのかをエスノメソドロジーの方針により解明することを目的とする。ここでは中学校の登校用バッグの色指定をめぐる議論を対象とする。対象校にはバッグの色に関する細則規程はなかったが,生活指導担当者はそれを黒に限定する指導を行っており,保護者からのクレームを機に教師間で議論となった。教師たちの度重なる議論からは,彼/女らが「規程にはないが指導対象となる事項(=不文指導事項)」というカテゴリーを共有していることが確認された。この中間的カテゴリーは,「共通理解による共同的指導は明文規程による義務的なそれに優先する」との規範によって支えられており,こうした規範があることで,不文指導事項は曖昧な校則と厳格な指導との間に折り合いをつけるための妥協の産物ではなく,教師たちの主体的協働の証として積極的な評価を与えられ得るものとなっていた。 他方で,相互行為のなかでは,文書主義・反管理教育といった規範や,指導の歴史的経緯が参照されていた。しかし,文書に拠らない管理教育的な指導が否定されていないこと,また,指導の歴史が遡及的に構築されていたこと等は規範や歴史が人びとの議論を規定するとの説明が不十分なものであることを示している。むしろ,それらは文脈のなかで参照されることで,それとして表出しながら,その場の議論を構成するという相互反映的なものとして見ることができるだろう。
著者
鈴木 雅博
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.27-47, 2019-11-30 (Released:2021-07-10)
参考文献数
13

教師が無境界的な仕事に献身的に取り組むことについては,熱心さを重視する文化や際限のないリスク管理を求める言説の作用,法制度の問題等によって説明されてきた。ただし,こうした説明は教師を文化・言説・制度に係る諸規範に従う受動的な存在として位置づけ,教師の実践が持つゆたかさを取り逃がしてしまうおそれがある。そこで本稿は,教師たちが時間外の仕事に規範を結びつけてそれとして解釈していく,あるいは解釈するように求めていく実践を明らかにすることを試みる。調査対象は,勤務時間短縮にともなって下校時刻の扱いをどうするかが話し合われた公立中学校での会議場面である。 原案は「教師は部活動に懸ける子どもの思いに応えるべき」との規範を論拠に下校時刻繰上げを一部にとどめていたが,会議参与者は学習指導や生活指導,リスク管理に係る諸規範を下校時刻に結びつけることや,問題を「教育」ではなく「労働」の枠組みで捉えることで原案がもたらす時間外労働の増加を回避しようと試みていた。そこでは,諸規範の「正しさ」ではなく,どの規範や枠組みがその場にとってレリヴァント(適切)となるかが争われた。教師は単に規範に従うのではなく,しかも,労働者ではなく教師に結びつけられた,学習指導/生活指導/リスク管理という「子どものため」の指導規範を参照することで,勤務時間短縮という「果実」を不完全にではあれ取り戻していた。
著者
玉木 直文 松尾 亮 水野 昭彦 正木 文浩 中川 徹 鈴木 雅博 福井 誠 谷口 隆司 三宅 達郎 伊藤 博夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.316-321, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
19

糖尿病や腎機能と歯周病との関連についての研究は数多く行われてきたが,これらの疾患のバイオマーカーと歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーとの関連についての研究は少ない.本研究では,歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーと糖尿病・腎機能マーカーとの関連性について検討を行うことを目的とした. 市民健診参加者と糖尿病治療の患者を対象とした.対象者の歯肉溝液を採取し,アンチトリプシンとラクトフェリン濃度を測定した.また,糖尿病コントロール指標として糖化ヘモグロビン(HbA1c),腎機能マーカーとしてクレアチニンと推算糸給体濾過量(eGFR)を測定し,これらを従属変数とした重回帰分析を用いて,それぞれの関連性を検討した. その結果,炎症関連歯肉溝バイオマーカーと血清のすべての検査項目において,年齢・性別調整後の平均値は市民健診受診者と糖尿病患者の間で統計学的な有意差があった(p<0.001).また,糖尿病などに強く関連する交絡因子である年齢や性別などの調整後でも,歯肉溝中の炎症関連バイオマーカーは糖尿病・腎機能マーカーとも関連することが認められた.本研究の結果から,客観的に評価された歯肉溝バイオマーカーと糖尿病や腎機能マーカーとの間には有意な関連があることが示され,医科−歯科連携における健診ツールとして,歯肉溝液中のバイオマーカーの測定の有用性が示唆された.
著者
山脇 一郎 鈴木 雅博 小川 和男
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
Chemical & pharmaceutical bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.963-971, 1994-04-15

Piperazinealkanol ester derivatives of indomethacin were prepared and tested for inhibitory activities against 5-lipoxygenase (5-LO) and cyclooxygenase (CO). They inhibited 5-hydroxyeicosatetraenoic acid (5-HETE) formation by the cytosol of guinea pig polymorphonuclear leukocytes and thromboxane B_2 (TXB_2) formation by washed rabit platelet suspension. Of the test compounds, 2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]-1-phenylethyl 1-(4-chlorobenzoyl)-5-methoxy-2-methyl-3-indolylacetate dimaleate (II-8) was found to be the most active dual inhibitor of 5-LO and CO, and its inhibitory potency was higher than that of 2-[4-(3-hydroxypropyl)-1-piperazinyl]-ethyl [1-(4-chlorobenzoyl)-5-methoxy-2-methyl]-3-indolylacetate (CR-1015) (I), the lead compound.
著者
鈴木 雅博 田中 博道 宮坂 貞
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
Chemical & pharmaceutical bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.35, no.10, pp.4056-4063, 1987-10-25

Several 5-carbon-substituted 1-β-D-ribofuranosylimidazole-4-carboxamides were synthesized via the direct C-5 lithiation of a protected 4-carboxamide derivative as the key reaction step. Wittig reaction of a 5-formyl derivative was also examined.
著者
鈴木 雅博
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.145-167, 2012-06-15 (Released:2013-06-17)
参考文献数
21
被引用文献数
3

本稿は,生活指導事項の意思決定における教師間相互行為を,クレイム申し立てによる〈問題〉の構築過程として捉え,そこで語られる日常言語的資源としての慣用語化したレトリックに着目し,その特質を明らかにすることを目的とする。 ここでは社会問題研究に倣い,クレイム申し立てを生徒の「状態のカテゴライズ」とその「解決法の提示」と位置づけ,各々に関するレトリックを検討した。 観察では,生徒の現状を〈問題〉とカテゴライズする際には,荒れるリスクを強調するレトリックが,解決法である指導事項を提示する際には,〈共同歩調〉のレトリックが用いられる点が確認された。〈共同歩調〉レトリックの効力は〈荒れ〉への有効な処方であったとの〈経験〉に由来する。教師はレトリックの説く因果関係を枠組として〈経験〉を解釈するが,これにより構築された〈経験〉が再帰的にレトリックの効力を強化するという相乗的循環構造が生起している。 〈荒れ〉発生時の責任問題はクレイムへの抵抗を困難にする一方,学年等を特定するクレイムへの反発を引き起こす。他方で,教師はクレイムメイカーによる状態のカテゴライズに必ずしも同意しておらず,また逸脱生徒にはクレイムが説く管理的教育を適用していない。つまり,レトリックを用いたクレイム申し立て活動は「集団としての生徒」を対象とした管理教育的な生活指導の提案・要請に対する,メンバーの沈黙と決議の調達を到達点としている。
著者
山脇 一郎 鈴木 雅博 小川 和男
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.963-971, 1994-04-15 (Released:2008-03-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

Piperazinealkanol ester derivatives of indomethacin were prepared and tested for inhibitory activities against 5-lipoxygenase (5-LO) and cyclooxygenase (CO). They inhibited 5-hydroxyeicosatetraenoic acid (5-HETE) formation by the cytosol of guinea pig polymorphonuclear leukocytes and thromboxane B2 (TXB2) formation by washed rabit platelet suspension. Of the test compounds, 2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl]-1-phenylethyl 1-(4-chlorobenzoyl)-5-methoxy-2-methyl-3-indolylacetate dimaleate (II-8) was found to be the most active dual inhibitor of 5-LO and CO, and its inhibitory potency was higher than that of 2-[4-(3-hydroxypropyl)-1-piperazinyl]-ethyl [1-(4-chlorobenzoyl)-5-methoxy-2-methyl]-3-indolylacetate (CR-1015) (I), the lead compound.
著者
鈴木 雅博
出版者
常葉大学外国語学部
雑誌
常葉大学外国語学部紀要 = TOKOHA UNIVERSITY FACULTY OF FOREIGN STUDIES RESEARCH REVIEW
巻号頁・発行日
no.34, pp.1-24, 2017-12-31

本稿は,学校組織に関する社会学的アプローチによる諸研究への検討を通して,教師の実践を記述するエスノメソドロジー研究の可能性を展望することを試みる。これまでに,法社会学,教員文化,ミクロ・ポリティクス等の視点から社会学的アプローチによる学校組織研究が蓄積されてきたが,これらは制度・文化を教師の行為を規定する要因として捉えるものであった。エスノメソドロジーはこうした因果論的説明ではなく,組織や文化がそれとして成し遂げられる人びとの実践を描出することを試みる。
著者
鈴木 雅博 酒井 博士 孕石 孝平 六郷 恵哲
出版者
公益社団法人日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次論文集 (ISSN:13477560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.121-126, 2001-06-08

耐衝撃部材は,安全性を確保するために衝撃作用下の部材の靱性を向上あるいは変位復元性を向上させる必要がある。これを実現するため,短繊維補強PCはりを提案した。本研究では,その衝撃特性を把握するために,短繊維の有無及びプレストレス量を変化させた部材を作製し,落下高さを漸増させる重錘落下試験を実施した。その結果,短繊維補強PCはりは,(1)短繊維補強をしていないPCはりと比較して最大支点反力が増加し,かつ,塑性域でのはりの残留変位が小さくなり高い復元性を示すこと,(2)部材損傷を小さくする効果があること,等が認められ,耐衝撃性能の向上が認められた。
著者
津志田 藤二郎 鈴木 雅博 黒木 柾吉
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.611-618, 1994-09-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
35
被引用文献数
16 77

リノール酸の自動酸化物がβ-カロチンを退色させることを利用し,その退色の防止活性を指標とした抗酸化性の測定法を用いて, 43種の野菜の80%メタノール抽出液の抗酸化活性を測定し,以下の結果を得た.(1) BHAの抗酸化活性と比較し検討したところ,シュンギクやショウガ,アスパラガス等13種は, BHAが生鮮重100g当たり25mg以上含有されていることに相当する程の活性を示すことが分かった. BHA 5mg/100g以下に相当するものは,カボチャやキウリ,カブ,キャベツ等13種であった.(2) 野菜抽出液のポリフェノール含量と抗酸化性の相関性を検討したところ, 43種の野菜でr=0.7694となり,相関性があることを明らかにした.(3) 比較的抗酸化性の強い3種の野菜の抗酸化性成分をHPLCで分取し,質量分析計等で解析したところ,アスパラガスではルチン,ショウガではヘキサヒドロクルクミンとジンジェロールが同定された.一方シュンギクでは, 3, 5-ジカフェオイルキナ酸および新規のジカフェオイルキナ酸誘導体と推定される成分が得られた.
著者
丁 海文 河野 広隆 渡辺 博志 鈴木 雅博
出版者
公益社団法人日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次論文報告集 (ISSN:13404741)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1117-1122, 1999-06-21
被引用文献数
1 4

自己収縮の温度依存性を調べるために高温の一定温度養生の供試体と水和熱による温度履歴を受けるコンクリートブロック供試体で検討を行った。自己収縮ひずみは各温度履歴に対し依存する傾向を示した。始発から一定温度で養生した条件では養生温度が高くなるほど初期の膨張が大きく,自己収縮の終局値は小さくなる傾向を示した。また,水セメント比が小さくなるほど高温の影響が大きかった。ブロック供試体は水和熱による高温の温度履歴にもかかわらず初期の膨張がなく,自己収縮も大きくなった。自己収縮ひずみのマチュリティによる表現は難しいと考えられた。