著者
安芸 菜奈子 松下 玲子 三浦 順之助 柳沢 慶香 佐倉 宏 八辻 賢 橋本 悦子 白鳥 敬子 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.771-776, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
12

症例は55歳女性.19歳時,下垂体腺腫摘出術を施行.術後,ホルモン補充療法が行われたが,数年後に治療中断.48歳時,糖尿病を指摘されたが放置.55歳時,再度HbA1c 10.8%とコントロール不良の糖尿病を指摘され当科入院.入院時,高脂血症,肝機能障害の合併および,内分泌検査で成長ホルモン分泌不全,中枢性性腺機能低下症,甲状腺機能低下症を認めた.画像診断では,肝の変形,脾腫,脾腎シャントを認めた.肝機能障害の原因は,ウイルス,自己免疫,アルコール性は否定的であり,肝生検を施行し非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH), 肝硬変と診断した.血糖コントロールは超速効型インスリンの投与で改善した.本症例は下垂体腺腫摘出術後GH分泌不全状態にあったが,長期間にわたりホルモン補充療法が行われなかったため,NASHを発症し,肝硬変まで進展したと推測された.
著者
長谷川 夕希子 春日 崇臣 奥山 尚美 三浦 順之助 大屋 純子 内潟 安子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.449-455, 2017-06-30 (Released:2017-06-30)
参考文献数
13

症例は46歳男性である.13歳時に1型糖尿病を発症し,インスリン治療を開始された.10代より運動時の低血糖のためインスリンを減量し,30代より糖質制限を行い持効型溶解インスリン1回法に変更,HbA1c 7 %前後で経過した.45歳,当科に入院時,我々は1型糖尿病における糖質制限の有効性,安全性に関する報告は少なく動脈硬化性疾患のリスクとなること,インスリン減量がケトアシドーシス発症の危険となることを繰り返し説明し,炭水化物比50~60 %の食事を勧めた.しかし,現時点では動脈硬化性疾患やケトーシスの既往はなく,患者の強い意向に沿った糖質制限食とインスリン1回法を容認せざるを得なかった.その危険性を十分に患者に説明するとともに,慢性合併症やケトーシスのモニタリング等,慎重に経過観察する必要がある.厳密な糖質制限と持効型インスリン1回法を長期間継続した1型糖尿病の症例は希少であるため,報告する.
著者
田中 昌一郎 粟田 卓也 島田 朗 村尾 敏 丸山 太郎 鴨井 久司 川崎 英二 中西 幸二 永田 正男 藤井 寿美枝 池上 博司 今川 彰久 内潟 安子 大久保 実 大澤 春彦 梶尾 裕 川口 章夫 川畑 由美子 佐藤 譲 清水 一紀 高橋 和眞 牧野 英一 三浦 順之助 花房 俊昭 小林 哲郎 日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.65-75, 2011 (Released:2011-03-29)
参考文献数
19
被引用文献数
8

日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会の緩徐進行1型糖尿病分科会(旧日本糖尿病学会緩徐進行1型糖尿病調査委員会)では委員会委員の所属する施設において発症から5年以内の新規受診糖尿病687例を前向き(2004年4月~2009年12月)に登録し膵島関連自己抗体(glutamic acid decarboxylase[GAD]抗体,insulinoma-associated protein 2[IA-2]抗体およびinsulin autoantibodies[IAA])の測定を行った.2型糖尿病と思われる症例で膵島関連自己抗体が一種でも陽性の場合には緩徐進行1型糖尿病:slowly progressive IDDM(以下SPIDDM)と病型区分した.その結果,1)2型糖尿病と思われる症例の10%(49/474, 95%信頼区間:8-13%)にSPIDDMが認められた.2)膵島関連自己抗体陰性の2型糖尿病に比しSPIDDM例の自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度,HbA1c値,初診時のインスリン治療の頻度は有意に高く,BMIは有意に低かった.3)SPIDDMではGAD抗体の頻度(69%,34/49)はIA-2抗体の頻度(39%,19/49)やIAA(29%,14/44)の頻度に比し有意に高かった.4)SPIDDMでは急性発症1型糖尿病に比し膵島関連自己抗体の単独陽性例が高頻度だった.以上の結果から2型糖尿病と思われる症例に高頻度にSPIDDM症例が含まれる可能性があること,SPIDDMは2型糖尿病や急性発症1型糖尿病と異なる臨床的特徴を呈することが全国規模調査で明らかとなった.
著者
三浦 順之助 内潟 安子 岩本 安彦
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.E78-E84, 2011-03-31

1型糖尿病は、膵β細胞が破壊されることによりインスリンの絶対的欠乏が生じて発症する病型であるが、自己免疫機序が関与する1A型と、発症機序の明らかでない特発性の1B型に亜分類される。1A型糖尿病の診断には、Islet cell antigen (ICA)をはじめとして、インスリン自己抗体(insulin autoantibody : IAA)、抗Glutamic acid decarboxylase (GAD)抗体、および抗Insulinoma-associated antigen- 2 (IA-2)抗体が主要抗体として知られており、病型診断に利用されている。また、これらは発症以前からの予知因子としても重要である。,IAAはインスリンの投与を受けていない人の血中に存在する抗インスリン抗体である。1型糖尿病の発症5年以上前から血中に出現し、若いほど抗体価が高値になる傾向がある。GADは、γ- aminobutyric acid (GABA)を合成する酵素であるが、発症早期の1型糖尿病患者の血清中に、GADに対する抗体の存在が確認されたのは1990年であった。65kDaと67kDaのisoformがあり、現在国内では、リコンビナントGAD65を抗原として使用したコスミック社のキットを用いて測定されている。日本人1型糖尿病患者での発症早期の抗GAD抗体陽性率は、約70%である。IA-2は1994年ヒトインスリノーマの外科切除組織からcloning された、979個のアミノ酸、約106kDaの膜貫通型タンパクであり、protein tyrosine phosphatase (PTP)ファミリーに属している。抗IA-2抗体の陽性率は、海外で55〜75%、本邦では急性発症の早期では60%程度、5年以上経過した症例では40%程度との報告がある。最近、zinc transporter-8に対する新規自己抗体が発見された。白人1型糖尿病患者の60%程度に陽性であり、本抗体単独陽性患者は4%であった。他に抗VAMP-2 (Vesicle associated membrane protein -2)抗体、抗NPY (Neuropeptide-Y) 抗体があり、我々はそれぞれ21%、9%程度存在することを確認している。新規膵特異的自己抗体の検出は、1型糖尿病のサブタイプの診断に有用な情報となりうる。
著者
馬殿 恵 今川 彰久 阿比留 教生 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 及川 洋一 大澤 春彦 梶尾 裕 川﨑 英二 川畑 由美子 小澤 純二 島田 朗 高橋 和眞 田中 昌一郎 中條 大輔 福井 智康 三浦 順之助 安田 和基 安田 尚史 小林 哲郎 花房 俊昭 日本人1型糖尿病の成因診断病態治療に関する調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.37-46, 2019-01-30 (Released:2019-01-30)
参考文献数
34
被引用文献数
5

抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病について,日本糖尿病学会員への調査と文献検索を行い22症例を検討した.初回の薬剤投与日から発症までの平均期間は155日,発症時の平均年齢63歳,平均血糖値617 mg/dL,平均HbA1c8.1 %,尿中C-ペプチド4.1 μg/日(中央値),空腹時血中C-ペプチド0.46 ng/mL(中央値)であった.31.6 %に消化器症状,27.8 %に感冒様症状,16.7 %に意識障害を認め,85.0 %でケトーシス,38.9 %で糖尿病性ケトアシドーシスを発症した.50.0 %が劇症1型糖尿病,50.0 %が急性発症1型糖尿病と診断された.膵外分泌酵素は52.6 %で発症時に,28.6 %で発症前に上昇した.1例でGAD抗体陽性であった.抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病は,劇症1型糖尿病から急性発症1型糖尿病まで幅広い臨床病型を呈し,高頻度に糖尿病性ケトアシドーシスを発症するため,適切な診断と治療が不可欠である.
著者
徳永 あゆみ 今川 彰久 西尾 博 早田 敏 下村 伊一郎 阿比留 教生 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 及川 洋一 大澤 春彦 梶尾 裕 川﨑 英二 川畑 由美子 小澤 純二 島田 朗 高橋 和眞 田中 昌一郎 中條 大輔 福井 智康 三浦 順之助 安田 和基 安田 尚史 小林 哲郎 花房 俊昭 日本人1型糖尿病の成因診断病態治療に関する調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.840-849, 2018-12-30 (Released:2018-12-30)
参考文献数
29
被引用文献数
2

劇症1型糖尿病は急激な発症と重症代謝異常が特徴である.本委員会では膵臓MRIのうち水分子の拡散制限を反映する拡散強調画像に注目し,劇症1型糖尿病発症早期における診断への有用性を検討した.画像データが存在する劇症1型糖尿病症例14例について,拡散の定量化指標であるADC(Apparent Diffusion Coefficient)値を算出し,非糖尿病対照例21例と比較した.劇症1型糖尿病症例では膵臓の全領域でADC値が有意に低下し,膵全体にわたる単核球浸潤による細胞密度上昇が示唆された.ADC値の最良のカットオフ値を用いると,診断感度86 %,特異度71 %であり,非典型例2例の診断にも有用であった.また,劇症1型糖尿病症例におけるADC値は血糖値および動脈血pHと有意に相関し,発症後経過とともに上昇傾向であった.以上より,膵臓MRI拡散強調画像は劇症1型糖尿病の効率的な診断の一助となることが示唆された.
著者
田中 昌一郎 粟田 卓也 島田 朗 村尾 敏 丸山 太郎 鴨井 久司 川崎 英二 中西 幸二 永田 正男 藤井 寿美枝 池上 博司 今川 彰久 内潟 安子 大久保 実 大澤 春彦 梶尾 裕 川口 章夫 川畑 由美子 佐藤 譲 清水 一紀 高橋 和眞 牧野 英一 三浦 順之助 花房 俊昭 小林 哲郎 日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.65-75, 2011-01-30
参考文献数
19
被引用文献数
2

日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会の緩徐進行1型糖尿病分科会(旧日本糖尿病学会緩徐進行1型糖尿病調査委員会)では委員会委員の所属する施設において発症から5年以内の新規受診糖尿病687例を前向き(2004年4月~2009年12月)に登録し膵島関連自己抗体(glutamic acid decarboxylase[GAD]抗体,insulinoma-associated protein 2[IA-2]抗体およびinsulin autoantibodies[IAA])の測定を行った.2型糖尿病と思われる症例で膵島関連自己抗体が一種でも陽性の場合には緩徐進行1型糖尿病:slowly progressive IDDM(以下SPIDDM)と病型区分した.その結果,1)2型糖尿病と思われる症例の10%(49/474, 95%信頼区間:8-13%)にSPIDDMが認められた.2)膵島関連自己抗体陰性の2型糖尿病に比しSPIDDM例の自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度,HbA1c値,初診時のインスリン治療の頻度は有意に高く,BMIは有意に低かった.3)SPIDDMではGAD抗体の頻度(69%,34/49)はIA-2抗体の頻度(39%,19/49)やIAA(29%,14/44)の頻度に比し有意に高かった.4)SPIDDMでは急性発症1型糖尿病に比し膵島関連自己抗体の単独陽性例が高頻度だった.以上の結果から2型糖尿病と思われる症例に高頻度にSPIDDM症例が含まれる可能性があること,SPIDDMは2型糖尿病や急性発症1型糖尿病と異なる臨床的特徴を呈することが全国規模調査で明らかとなった.<br>