著者
加来 浩平 田嶼 尚子 河盛 隆造
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 = Journal of the Japan Diabetes Society (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.325-331, 2006-05-30
被引用文献数
7

日本人2型糖尿病における日常のメトホルミン治療の有用性を検討するため,全国74施設で2002年にメトホルミンを新たに投与開始した1,197症例を対象に観察研究(Melbin Observational Research study: MORE study)を行い,その有効性および有害事象の発現状況について解析した.その結果,開始時,3, 6, 12カ月後のグリコヘモグロビン(HbA<sub>1C</sub>)の平均値は8.2, 7.3, 7.3, 7.3%, 空腹時血糖は168.9, 146.6, 150.4, 145.2 mg/d<i>l</i>と,いずれも開始時に対して有意に低下した.体重は有意に減少し,脂質代謝の異常変動は認められなかった.メトホルミン単剤投与症例においても同様の結果が得られた.メトホルミンの1日用量を500 mgから750 mgまで増量した40例において,増量後のHbA<sub>1C</sub>に有意な改善が認められた.副作用発現症例率は118/1,175例(10.0%)であり,乳酸アシドーシスの発現は認めなかった.メトホルミンは日本人2型糖尿病治療において有用であり,血糖コントロールの十分な改善が得られていない症例に対しては,増量によってより良い血糖コントロールが得られる可能性が示唆された.
著者
永井 成美 坂根 直樹 森谷 敏夫
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 = Journal of the Japan Diabetes Society (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.761-770, 2005-11-30
被引用文献数
12

本研究は, 朝食欠食や食事中の三大栄養素の比率が食後の血糖値, 満腹感, エネルギー消費量, および自律神経活動に及ぼす影響を肥満関連遺伝子多型とともに比較検討したものである. 若年健常者8名に, 各被験者の体重1kgあたり22kcalに調整した総摂取エネルギーが等しい4試行の朝食と昼食の組み合わせ (CC : ご飯を主食とする高糖質食+高糖質食, SC : 欠食+高糖質食2食, FF : パンを主食とする高脂肪食+高脂肪食, SF : 欠食+高脂肪食2食) を4日間でランダムな順序で負荷し, 朝食前および朝食後6時間まで30分間隔で, 血糖値, Visual analog scaleによる満腹感, 呼気ガス, 心拍変動解析による自律神経活動を測定した. CC試行ではFF試行よりも朝食後3時間の血糖値, 満腹感, エネルギー消費量が有意に高く, 6時間の熱産生も4試行中最も高値であった. 高い満腹感や熱産生には有意差はなかったが自律神経系の関与が推察された. 朝食欠食 (SC, SF) 試行では熱産生が低く, 昼食後に心拍数の著増を認めた. また, UCP 1遺伝子のhomo変異 (GG) を有する者では熱産生が低い傾向が認められた. 以上の結果は, 耐糖能正常者において糖質を主体とする朝食の摂取が肥満予防に寄与する可能性とともに, 遺伝的背景へ配慮した予防の必要性を示唆するものである.
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.S-106-S-110, 2015
著者
根本 昌実 杉沢 勇人 西村 理明 田嶼 尚子 宇都宮 一典
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.98-102, 2011-02-28
被引用文献数
1

日本人成人1型糖尿病患者におけるハネムーン期発現に関与する臨床的因子を明らかにする目的で検討を行った.新規発症後のインスリン量が0.5単位/kg体重/日未満をハネムーン期と定義し,30症例(18~76歳,男:女=13:17)を,ハネムーン期を示す1型糖尿病(H群)と示さない1型糖尿病(NH群)に分類し,身体的及び検査所見を検討した.H群は19症例(63.3%)を占め,NH群と比較して尿中CPR高値(p=0.0022),LDL-コレステロール高値(p=0.01),自己免疫性甲状腺疾患の合併が多い(p=0.0002),退院時のインスリン必要量が少ない(p=0.004)特徴を認めた.発現までの期間は1.9±2.0ヶ月,持続期間は16.0±4.9ヶ月であった.ハネムーン期発現には残存膵インスリン分泌能,脂質代謝,自己免疫疾患合併の関与が示唆された.<br>
著者
佐々木 英継 佐野 隆志 小山 勝一 阿部 正和
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.402-409, 1975

肥満の病因論の観点から, 肥満における代謝異常と脂肪細胞の形態的変化との関連性を検討することが本論文の目的である.<BR>ヒトの脂肪細胞の形態的変化を観察する目的で, 手術時に得た腹壁皮下脂肪組織片を2%四酸化オスミウム液を用いて脂肪細胞を分離固定し, 脂肪細胞の数と大きさを決定した.対象者の脂肪細胞の数は, 体脂肪量を脂肪細胞の脂質含量で割ることによって求めた.体脂肪量はMartinssonの用いた式を利用して計算によって得た.その結果, 軽度および中等度の肥満は, 脂肪細胞の大きさとの関連があるという成績を得た.<BR>なお, 脂肪細胞の大きさから肥満を分類すると, 2つのタイプに大別された.その一つは<BR>脂肪細胞の肥大型であり, 他は正常型であった.後者は肥満の発症が幼若年代であり, 脂肪細胞の数の増加していることが明らかになった.脂肪細胞肥大型肥満では, 脂肪細胞正常型肥満とは対照的に, ブドウ糖負荷後の高インスリン反応, 耐糖力低下および空腹時血中遊離脂肪酸の増加を伴っていた.<BR>脂肪細胞の肥大と高インスリン反応および代謝異常との因果関係については不明であり, 今後の検討を要するが, 目下のところでは脂肪細胞の肥大は, 過剰に分泌されたインスリンの作用によってひき起こされた2次的なもののように思われる.
著者
山下 哲二 岡田 震一 河本 順子 河本 紀一 肥田 和之 國富 三絵 土山 芳穂 杉本 光 和田 淳 四方 賢一 槇野 博史
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.319-323, 2002-05-30
被引用文献数
13 10

症例は71歳, 男性. 45歳時に糖尿病と診断された. 64歳時よりsulfonylurea剤を, 70歳時よりインスリンによる治療を開始した, 1998年1月, 糖尿病性ケトアシドーシスを発症し近医に入院となった. 経静脈的にインスリンが投与されケトーシスは改善した. 皮下インスリン注射による強化療法に変更し, 投与量を漸増したところ早朝低血糖および日中高血糖傾向が強まった. 抗インスリン抗体陽性であり, 精査目的にて当科入院となった. euglycemic hyper insulinemic clamp study にて血糖を100 mg/d<I>l</I>にクランプし0.5 mU/kg/minから10 mU/kg/minへとインスリン注入率を増量したところ, ブドウ糖注入率は2.O mg/kg/minから3.5 mg/kg/minに上昇するのみであった. Total IRiは著明に上昇したが, free lRl はわずかな上昇にとどまった. インスリン減量により, 早朝低血糖は消失し, さらにステロイドホルモン内服投与により, 日中高血糖も改善した. 抗インスリン抗体が早朝低血糖および日中高血糖に関与した症例と考えられた.
著者
華房 順子 工藤 寛 千葉 陽一
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.751-757, 1999-09-30
被引用文献数
1

症例1は58歳男性.7年前に糖尿病と診断されるも放置.初診時高血糖 (血糖705mg/d<I>l</I>, Hb A1c 14.8%) と高血圧あり, 糖尿病性網膜症, 腎症, 神経障害を認めた. 入院後血糖, 血圧改善するも, 突然, 左上下肢にchorea発現. CTで右被殻に高吸収域を, MRI T1強調画像で右被殻-尾状核に高信号を認めた. 3ヵ月後より症状改善し始め, 画像所見も減弱した. 症例2は46歳男性. 6年前に高血糖指摘受けるも放置. 突然右上下肢にchorea発現. 糖尿病 (Hb A1c 12.1%) と高血圧指摘され2週間入院加療受けるも, 改善不十分なため, 当院受診. 高血圧動脈硬化性眼底変化とともに尿蛋白陽性, 神経障害を認め, 左被殻にCTで高吸収域, MRI T 1強調画像で高信号を認めた. ハロペリドールを使用し発症より2ヵ月後に症状消失し, 5ヵ月後のMRI所見は消失していた. 2例とも糖尿病, 高血圧による臓器障害を有しており, 病因として虚血, 神経伝達物質の乱れなどの関与が考えられた.
著者
寺田 愛 安藤 仁 野川 麻紀 櫻井 勝 野原 えりか 山下 治久 早川 哲雄 宮本 謙一 小林 健一 篁 俊成
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 = Journal of the Japan Diabetes Society (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.463-467, 2003-06-30
被引用文献数
5

理想のインスリン注入器を追求する目的で, 新型タイマー式注入器の使用感や外観を従来の万年筆型注入器との対比において評価した. 当科通院中のインスリン使用糖尿病患者89人 (男性49人, 女性40人) に, アンケート調査を行った. タイマー式は単位の合わせやすさ (7896) や注入ボタンの押しやすさ (6296) など操作性が評価された (数値はタイマー式の支持率). 一方, 外観は形 (2896), めだたなさ (2996) と万年筆型が優っていた. これらを年代別に解析したところ, 操作性は各年代ともタイマー式を支持したが, 外観は若年層ほど有意に万年筆型を支持した, 今後使用したい注入器としては, 若年層ほど万年筆型を, 高齢層ほどタイマー式を選択し, 若年層では外観を, 高齢層では操作性を重視することが判明した. インスリン注入器に求める条件は年齢層によって異なり, タイマー式は高齢者が求める条件をより満たした注入器であることが明らかとなった.
著者
大谷 敏嘉 八尾 建史 佐藤 麻子 岩崎 直子 樋上 裕子 笠原 督 平田 幸正
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.8, pp.739-746, 1987
被引用文献数
1

1980~1984年に東京女子医科大学糖尿病センター通院中の25歳未満発見NIDDM 97名 (男51名, 女46名, 発見年齢18.4+4.2歳 [mean±SD], 罹病期間7.1±6.4年) について, 糖尿病の遺伝歴と肥満および細小血管症との関係を検討した. 同期通院中の25歳未満発症IDDM 127名 (男60名, 女67名, 発症年齢11.8±5.9歳, 罹病期間10.5±7.2年) を対照とした.<BR>第一度近親に糖尿病を認める発端者は, NIDDM 49.0%, IDDM 11.9%であった (p<0.005). NIDDMで, 三世代にわたってNIDDMの遺伝を有し, 同胞のうち半数以上にNIDDMを認める発端者をMODY, MODY以外のNIDDMをNIDDYと規定したところ, 11.5%にMODYがみられ, 20歳未満発見発端者では19.2%, 20歳以上25歳未満発見発端者では2.3%にMODYを認めた (p<0.025).<BR>過去に肥満を認めたものは, NIDDM 30.9%, IDDM 3.9%であった (p<0.005). 肥満はMODYでは1人もなく, NIDDYでは34.9%にみられた.<BR>網膜症は, NIDDM 36.8%(単純22.1%, 増殖14.7%), IDDM 53.2%(単純43.7%, 増殖 9.5%) にみられた。MODYは41.7%(単純25.0%, 増殖16.7%), NIDDYは36.1%(単純21.7%, 増殖14.5%) に網膜症を認めた. 腎症は, NIDDM 14.7%, IDDM 10.3%にみられた. MODYは16.7%, NIDDYは14.5%に腎症を認めた. 若年発症NIDDMであってもIDDMと同様に重症細小血管症がみられ, また, MODYもNIDDYも細小血管症をおこしやすいものから, おこしにくいものまで幅広いheterogencityを有するものと推論した.
著者
河原 玲子 雨宮 禎子 古守 知典 吉野 正代 平田 幸正
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.585-590, 1984
被引用文献数
1

糖尿病におけるglycosylated hcinoglobin (HbAI) の増加がヘモグロビン酸素解離能 (P<SUB>50</SUB>) に障害をおよぼし酸素親和性低酸素症 (hypoxia) をひきおこすか否かを検討した.対象はHbA<SUB>I</SUB>の増加している未治療糖尿病37名でアシドーシスや腎不全は含まなかった.37名中14名に非増殖性網膜症を有したがその他は網膜症を有しなかった.正當対照には糖尿病のない健常ボランチア31名を用いた.ヘパリン加静脈血を採取後直ちに酸素解離能とpHを測定した.また同時血液で赤血球2, 3-Diphosphoglyccrate (2, 3-DPG), HbA<SUB>I</SUB>, 血漿無機リン (Pi) を測定した.糖尿病群のP<SUB>50</SUB> <I>in vivo</I> pHは25.1±1.4mmHgで対照群の23.9±1.9mmHgに比し有意に増加した (p<0.01).P<SUB>50</SUB> pH7.4, Vcnous pH, 2, 3-DPGもそれぞれ糖尿病で有意に増加したがヘモグロビン濃度とPiは両群間で差がなかった.糖尿病群における2, 3-DPGはP<SUB>50</SUB> <I>in vivo</I> pHとr=0.42, P<0.01, P<SUB>50</SUB> pH7.4とr=0.46, p<0.001で各々有意な相関がみられた.また2, 3-DPGは両群でそれぞれヘモグロビン濃度と有意な負の相関があった.一方全例でみた場合にはHbA<SUB>I</SUB>はpH, 2, 3-DPG, P<SUB>50</SUB> <I>in vivo</I> pHとそれぞれ軽度ではあるが有意の相関関係があった.以上より細小血管症をもたないかまたは非増殖性網膜症を有する糖尿病でHbAIの高い未治療の時には, 2, 3-DPGの増加に伴うP<SUB>50</SUB>値の高値がみられ酸素放出能の低下はないと考えられた.
著者
松浦 信夫 藤枝 憲二 福島 直樹 三上 裕平 原田 正平
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.225-231, 1987

IDDM小児35例に半合成ヒトインスリン100単位製剤を使用し, その臨床鮪用性, 安全齢よび免疫原性にっいず検討した.ヒトインスリン使用前のインスリン製剤により対照を2群に分けて検討した.A群 (n=15) にブタ純化インスリン (モノタード, アクトラピットインスリン), B群 (n=20) はU-100レントインスリンおよびアクトラピットインスリン使用群であり, ヒト純化インスリン治療に変更後に比較して以下の結論が得られた.<BR>1.同じ組成, 単位のU-100レントインスリンまたはブタ純化インスリンとヒトインスリン注射後の血糖変化, 血漿Total, Free insulinの変化には差がみられなかった.<BR>2.U-100レントインスリン治療群 (B群) のIgG型抗インスリン抗体価はブタ純化インスリン群 (A群) に比し有意な高値を示した.<BR>3.ヒトインスリン変更後, 特にIgG型抗インスリン抗体価は有意に低下した.<BR>4.ヒトィンスリン変更後, A群ではインスリン使用量に大きな変化はみられなかったが, B群では有意にその使用量が低下した.<BR>5.U-100レントインスリンからヒトインスリンに変更するときには低血糖発生の確率が非常に高く, 充分な注意が必要であり, ほぼ20%減のヒトインスリンで変更するのが安全と思われた.
著者
山口 日吉 清野 弘明 三崎 麻子 坂田 芳之 北川 昌之 山崎 俊朗 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.211-215, 2003

Imagawaらは, ケトアシドーシスにて発症し, 発症時のHbA1cが正常かもしくは軽度の上昇にとどまり, 膵β細胞の自己抗体が陰性で発症時にインスリン分泌能の著しく低下している例を非自己免疫性劇症1型糖尿病として疾患概念を提唱した. 当院において, この劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たす7例の臨床像と6例のインスリン分泌能を経年的にグルカゴン負荷試験にて検討してきた. 発症時にグルカゴン負荷試験を検査しえた6例中5例で, グルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下であり, 発症時に膵臓β細胞の完全破壊が示唆された. さらに, 発症後約6ヵ月ことにグルカゴン負荷試験を施行し, インスリン分泌能を経年的に最長7年間検討してきたが, 6例全例でグルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下でありインスリン分泌能の回復を認めた例はいなかった.
著者
清野 弘明 大久保 健太郎 山口 日吉 木村 美奈子 宮口 修一 山崎 俊朗 三崎 麻子 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.333-335, 2003-04-30
参考文献数
8
被引用文献数
3

症例は31歳の男性, 2002年5月12日より口渇感, 全身倦怠感が出現し5月15日に初診した. 初診時血糖値778mgd<SUB>l</SUB>, 尿ケトン体強陽性, 動脈血分析ではpH7.249, HCO<SUB>3</SUB>13.6mmo<I>l</I>, 血中総ケトン体9800μmol<I>l</I>で糖尿病性ケトアシドーシスと診断した. 入院時のHbA<SUB>1c</SUB>は6.1%であった.入院中3回測定した尿中CPRは (3.4, <1.0, <1.0μg/day) でグルカゴン負荷試験でも負荷前・負荷6分後の血清CPRは検出限界の0.2ng/m<I>l</I>以下でβ 細胞の完全破壊が示唆された. 以上より本例は劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たしたが, 2回測定した抗GAD抗体は, 11.6Um<I>l</I>, 10.2Um<I>l</I>と陽性であった. 本例は劇症1型糖尿病と考えられるが, 抗GAD抗体が陽性であったことより自己免疫の関与が示唆される劇症1型糖尿病であり, 興味ある症例である.
著者
神田 勤 岩崎 誠 和田 正彦 黒飛 万里子 志水 洋二 上松 一郎
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.429-435, 1992

Hypotonia, hypomentia, hypogonadism, obesityを主徴とするPrader-Willi症候群において, 高浸透圧非ケトン性糖尿病性昏睡 (HNKC) およびrhabdomyolysisを合併した本邦第1例を経験した.<BR>症例は21歳, 女性. 1986年5月II型糖尿病と診断され, 食事療法にて治療されていた. 1989年11月頃より鶴歯のためジュースを多飲.同12月6日糖尿病性昏睡を発症し, 某院入院. 治療を受けるも改善せず, 翌日当院へ転院となった. 転院時に筋脱力, 尿路感染症を認め, 血糖値736mg/d<I>l</I>, 血漿pH7.449, 血漿浸透圧485mOsm/<I>l</I>, LDH1682IU/<I>l</I>, CPK981IU/<I>l</I> (MM型98%), 血清ミオグロビン (MG) 1370ng/m<I>l</I>, 血清Na188mEq/<I>l</I>を示しHNKCと診断した. 治療開始半日後に意識清明となり, 4日後に筋脱力回復し, 10日後にはLDH, CPK, MGは正常値に復した. 以上より本症例ではII型糖尿病に過食と感染症を契機としてHNKCが発症し, 高Na血症, 脱水, インスリン不足が持続・進行したため, rhadbomyolysisが併発したものと思われる.
著者
神内 謙至 橋本 善隆 新美 美貴子 山下 亜希 山内 光子 四井 真由美 西田 なほみ 山崎 徹 早川 太朗 中山 英夫 槻本 康人 並河 孝 笹田 侑子 前林 佳朗 高橋 正洋 磯野 元秀
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.256-263, 2014

50歳女性.平成4年に糖尿病を指摘され平成16年より当院にて加療中.低血糖で救急搬送された既往あり.インスリン治療で血糖コントロール不良,また低血糖も起こすため,平成23年2月教育入院となった.入院中,血糖正常であるものの低血糖症状のためパニックになることがあった.翌日のスケジュールを説明しても当日になると忘れる,糖尿病教室でテキストを忘れる,と言う出来事があった.そのため,注意欠如/多動性障害(ADHD)を疑い本人の同意の上で滋賀医科大学精神神経科に紹介しADHDの診断となった.抽象的な情報を処理する能力は低く,簡潔で具体的な手本を示し,時間的余裕が必要な症例であると判断された.全成人の4.7 %の有病率とされるADHDであるが,今のところADHDと糖尿病の合併にかかわる報告は極めて少ない.血糖コントロールが極めて悪化することが考えられ,適切な治療方法が必要である.
著者
紅粉 睦男 工藤 ひとみ 豊島 哲子 松本 啓 関口 雅友 真尾 泰生
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.867-871, 2008

インスリン自己免疫症候群(IAS)は,インスリン自己抗体に関連した自発性低血糖を来す疾患である.今回,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)にて発症した特異なIASの1例を経験した.症例は44歳,女性.減量目的でαリポ酸摂取を2006年6月より開始.同年7月下旬,感冒様症状に引き続きDKAを発症.入院時血糖431 mg/d<i>l</i>, 尿ケトン(4+)で膵酵素の上昇も認めた.インスリン治療開始前の血中IRI: 5,644 μU/m<i>l</i>, インスリン抗体結合率:99%と著明高値を示した.HLAはDRB 1*0406を有しており,αリポ酸が誘因のIASと診断した.DKA治癒後早期にインスリン注射は中止でき,αリポ酸中止によりインスリン抗体結合率も低下した.本例では抗体のインスリン結合能が高度で,血中遊離インスリンが枯渇した状態に,ウイルス感染・膵炎を併発したためにDKAを発症したと推察された.健康食品ブームの中,安易なサプリメント摂取への注意喚起が必要である.
著者
武田 則之 安田 圭吾 林 慎 後藤 忍 青山 かおり 伊藤 康文 堀谷 登美子 北田 雅久 野津 和巳 岡 暢之 加藤 譲 三浦 清
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.767-771, 1989

症例は23歳女性.1983年9月一過性のthyrotoxicosisで受診.禰漫性の甲状腺腫を認め, 抗甲状腺マイクロゾーム抗体 (MCHA) 陽性.759経口糖負荷試験で血糖前値137mg/d<I>l</I>, 2時間値271mg/d<I>l</I>.1年後妊娠し, 1984年12月帝王切開で女児出産.妊娠中free thyroxine値は正常でMCHAの抗体価は低下した.妊娠中インスリンを使用したが, 産後にSU剤に変更出産3ヵ月後にpostpartum thyroiditisによると考えられるthyrotoxicosisと糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) を同時に発症.DKA改善後も1日30単位以上のインスリンを必要とした.抗ラ氏島細胞抗体 (ICA) は妊娠中も出産後も持続性に陽性.血中C-peptide基礎値は妊娠18週0.4ng/m<I>l</I>, 26週0.7ng/m<I>l</I>であったが, DKA発症以後は測定感度以下で, グルカゴン試験時のC-peptide反応頂値も0.7ng/m<I>l</I>と低値HLADR4を有していた.本例はNIDDMの病像で発見され, 産後にIDDMの病像が顕性化した症例と考えられた.妊娠, 出産に伴う免疫機能の変動と, IDDMの進展との関連, が示唆された.
著者
古川 祥子 藤原 和哉 尾本 美代子 村山 友樹 呉 龍梅 笹木 晋 熊谷 亮 五十野 桃子 秋根 大 小林 浩幸 高屋敷 典生 鈴木 浩明 島野 仁 野牛 宏晃
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.913-920, 2014

症例は21歳女性.2年前から繰り返す発熱,倦怠感,頭痛,動悸,嘔気が1ヶ月前より増悪し来院.血圧186/133 mmHg,脈拍106/分,体温38.5 ℃,血液検査上HbA1c 8.2 %,血糖356 mg/d<i>l</i>と糖尿病を認め,CRP 40.21 mg/d<i>l</i>, IL-6 100 pg/m<i>l</i>と高値だった.画像上<sup>123</sup>I-MIBGシンチグラフィーで集積のある7 cm大の左後腹膜腫瘤を認め,カテコラミン・メタネフリン高値であり褐色細胞腫と診断した.ドキサゾシン,プロプラノロールの他,発熱,炎症反応高値に対しナプロキセンを使用した結果,CRP 0.15 mg/d<i>l</i>, IL-6 1.7 pg/m<i>l</i>まで低下した.同時に耐糖能は改善し,インスリン療法を術前に中止し得た.IL-6高値を伴う褐色細胞腫では,ナプロキセンが二次性糖尿病を改善し,高血糖による手術リスクを減少し得ることが示唆された.