著者
髙井 美智子 上條 吉人 井出 文子
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-29, 2015-02-28 (Released:2015-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

救急医療の現場には,自殺企図や故意の自傷により受傷した患者が頻繁に搬送され,その多くが急性薬物中毒によるものであり,特に向精神薬の過量服薬が大部分を占めている。本研究では,北里大学病院救命救急センターに搬送された急性薬物中毒患者81名(男性:18名,女性:63名)を対象に質問紙調査を実施し,向精神薬の過量服薬の実態および関連する心理社会的要因について検討を行った。80名(98.8%)が何らかの精神障害に罹患していた。自殺念慮の有無における過量服薬した向精神薬の量に違いが認められなかったが,数時間以上前から過量服薬を考えていた患者は,衝動的に過量服薬した患者に比べて,摂取する量が有意に多かった。患者の心理社会的背景として,無職で家族・恋人・友人といった身近な人間とのトラブルを契機に衝動的に過量服薬する傾向が認められた。今後,精神障害の治療に加え心理社会的介入の必要性が示唆された。
著者
浜中 聡子 上條 吉人
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.271-276, 2007-07-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
38

抗精神病薬は, 統合失調症をはじめとする精神障害の治療薬として広く用いられている。欧米では以前より, クロルプロマジンを中心とする従来型抗精神病薬のみならず, クロザピンを中心とした非定型抗精神病薬服用症例に発症する肺血栓塞栓症 (pulmonary thromboembolism, PTE) の報告が多数みられ, 近年ではPTEの治療ガイドラインでも抗精神病薬服用がPTEの危険因子として記載されるようになった。一方本邦では, 抗精神病薬服用がPTEの危険因子のひとつであることは, いまだ十分に認知されていない。しかし最近の研究報告から, 本邦もその例外ではなく, むしろPTE症例の中で抗精神病薬服用症例の割合が非常に高いことが示されている。抗精神病薬服用がPTEの危険因子となるメカニズムは明らかではないが, 血小板の5-HT2A受容体を介した血小板凝集能の亢進や, 薬剤性の全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus, SLE) などの関与が指摘されている。今後この分野の研究が進み, 抗精神病薬服用症例の突然死の原因となるPTEの具体的な予防策がもたらされることを期待する。
著者
浜中 聡子 上條 吉人
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.856-859, 2006-05-01

ヒステリー性(神経)症は,解離性(転換性)障害(ICD-10)に相当する.解離性障害では症状の原因になる身体的障害がないこと,ストレス負荷となる心理的要因が存在する,などの条件が診断上必要である.意識障害との鑑別が問題となる「ヒステリー」は,その多くが解離性昏迷と解離性痙攣である.解離性昏迷はアピール性が高く,被暗示性が高く,弛緩性昏迷の形をとることが多い.意識障害を伴っていても軽度で,昏睡状態との鑑別が重要である.解離性痙攣は,一見てんかん発作に類似するが,いくつかの特徴で鑑別可能である.発作症状は本人の現実逃避手段だったり,疾病利得と絡んでいたり,通常の不安発作よりも難治である
著者
上條 吉人 増田 卓 堤 邦彦 西川 隆 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.7, pp.297-305, 1997-07-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
27

常用量のベンゾジアゼピン系薬剤によって,血中濃度が中毒域となった68歳から72歳の高齢者の3症例を経験した。各症例のベンゾジアゼピン系薬剤の体内薬物動態を分析し,高齢者の薬物動態の特徴と投薬上の問題点について検討した。症例1と症例3は食物誤飲による窒息で搬送され,症例2はうっ血性心不全の治療中に意識障害を生じて入院となった。ベンゾジアゼピン系薬剤として,症例1はロフラゼプ酸エチル(Lof) 2mg錠を1日1回とエチゾラム0.5mg錠を発症前に1回のみ服用,症例2はLof 2mg錠を1日1回,症例3はLof 1mg錠を1日3回服用していた。3症例のベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度は,ガスクロマトグラフィおよびベンゾジアゼピンレセプターアッセイを用いて経時的に測定した。来院時のLofの血中濃度は,症例1は256ng/ml,症例2は363ng/ml,症例3は425ng/ml,血清ベンゾジアゼピン受容体結合活性はジアゼパム当量で,症例1は1,800ng/ml,症例2は1,400ng/ml,症例3は2,200ng/mlであり,いずれも血中濃度は中毒域であった。Lofの消失半減期(T1/2)は,症例1は124時間,症例2は212時間,症例3は121時間であり,症例2においてT1/2の著明な延長を認めた。3症例はいずれも高齢者で,青壮年と比較して肝腎機能の低下から薬物クリアランス(CL)が低下し,症例2では心不全のためCLがより低下していたことが考えられる。さらに,脂肪組織の減量による分布容積(Vd)の減少も加わって,ベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度が上昇したものと思われた。また,多剤の服用は遊離型ベンゾジアゼピン系薬剤の濃度を上昇させるため,中毒症状が出現しやすかったものと考えられる。以上から,高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤の投与に際し,肝腎機能,血清蛋白濃度,体重変動,併用薬剤に注意して,ベンゾジアゼピン中毒を未然に防ぐ必要がある。