著者
高倉 祐樹 中川 良尚 橋本 竜作
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.316-320, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
13

臨床現場に出て数年の初学者にむけ, 失語症状に対する分析的な視点と, 失語症状の長期的な回復を考慮した視点から, 失語症者本人とその家族への対応について述べた。第 1 章では, 失語症状のメカニズムを推定し, 治療的介入の手がかりを得るためには, 数量的な評価 (正答数) だけでなく, 質的な評価 (誤りの特徴) が重要であることを解説した。第 2 章では, 病棟で受ける失語症者と家族からの質問に, どのように答えるのか, 専門家として寄り添いつつ, 納得を得るための対応について解説した。
著者
中川 良尚 小嶋 知幸
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.257-268, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
11
被引用文献数
4 3

失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例の病巣別回復経過を検討した。また言語機能に低下を示した 37 症例の SLTA 総合評価法得点各因子の機能変遷を検討した。その結果, 1) 失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが, 少なくとも 6 ヵ月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと, 2) SLTA 総合評価法得点上回復しやすい機能は, 比較的簡単な言語情報処理である理解項目および漢字・仮名単語文字からの音韻想起能力であること, 3) 回復後維持されやすい機能は, 理解項目および漢字・仮名単語文字からの音韻想起能力であること, 4) 構文の処理や書字能力などより複雑な言語情報処理を必要とする機能は低下しやすいこと, 5) 言語訓練後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと, 6) 各症例に応じてメンテナンスが必要な言語症状に対しては長期的な言語訓練の継続が必要であること, などが考えられた。以上の結果に基づき, 失語症にとっての慢性期について再考した。
著者
中川 良尚
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.251-261, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
57

言語機能(失語症)の改善は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが,少なくとも6カ月以上の長期にわたって改善を認める症例が多いことや,言語訓練後に改善を示した機能は脆弱である可能性が高いことが明らかとなっている.しかし,どのような訓練が,どのような言語機能の改善に適しているのかという点については,まだ結論は出ていない.近年,rTMSやCI療法が失語症の治療にも応用されるようになった.一方,言語訓練では直接的言語刺激の付与が重要なことは普遍的であると思われる.今後,言語刺激の質や量の充実を考慮した上で,さらにrTMSやCI療法などとの併用が可能となれば,言語機能の改善がより期待できるのではないかと考える.
著者
中川 良尚 佐野 洋子 北條 具仁 木嶋 幸子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.373-383, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
20
被引用文献数
4 2

失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 失語症例の超長期的言語機能回復後の経過, および言語機能に低下を示した症例の特徴について検討した。対象は, 右利きの左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例中, 2 年以上経過を追跡することができ, かつフォローアップの最終評価時年齢が 70 歳以下であった 151 例。言語機能回復訓練実施中あるいは訓練終了後に, SLTA 総合評価法合計得点が低下した症例が 151 例中 37 例 (24.5%) 存在した。内訳は, 最高到達点から 1 点低下した症例が 19 例, 2 点以上低下した症例が 18 例であった。     SLTA 総合評価法得点を合成項目別に検討すると, 約 90% の症例で訓練によって回復した合成項目に低下を認めたことから, 訓練により回復した機能は必ずしも保持されるのではなく, 脆弱であるとことが示唆された。
著者
中川 良尚
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.19-28, 2020-03-15

失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として,右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した270例の病巣別回復経過と,その中で言語機能に低下を示した37症例のSLTA総合評価法得点各因子の機能変遷の既報告を俯瞰した.次に,2年以上適切な言語訓練を行った失語症121例について,SLTA総合評価法得点に影響を及ぼす要因を調査した.その結果,1)失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが,少なくとも6か月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと,2)言語訓練後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと,3)発症年齢,Wernicke領野を含む上側頭回の病変の有無,発症3か月時SLTA総合評価法得点などが予後に重要な因子であること,が示唆された. 以上のことから,失語症の訓練においては,1)長期にわたって変化しうる失語症状そのものに着目する必要があること,2)病院外来における訓練実施が望ましいこと,が考えられた.
著者
北條 具仁 船山 道隆 中川 良尚 佐野 洋子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.434-444, 2009-12-31 (Released:2011-01-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

脳損傷後に距離判断が困難となった症例の報告は非常に少ない。今回われわれは,脳損傷後に距離判断が困難となった 2 症例 (1 例目は右頭頂-後頭葉の脳出血,2 例目は両側頭頂-後頭葉の脳梗塞 )を報告する。本 2 症例は,Holmes の提唱したvisual disorientation (1 例目は不全型)を呈し,その1 症状として距離判断の障害が出現していた。過去の報告例における距離判断の障害の根拠は主に主観的な訴えであったが,われわれはより客観的な距離判断の障害を検出する目的で,1 例目の症例に対して,大型車や 2 種免許を取得・更新する際に用いられる距離判断の検査機種 (KowaAS-7JS1) を用いて距離判断の検査を行った。その結果,健常者群および左半側空間無視群と比較して有意な成績の低下を認めた。本 2 症例および過去の報告例から,距離判断の神経基盤は,右側を中心とした頭頂-後頭葉の後方,すなわち,上頭頂小葉,下頭頂小葉後部,楔部にある可能性が考えられた。