著者
佐野 洋子 宇野 彰 加藤 正弘 種村 純 長谷川 恒雄
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.323-336, 1992 (Released:2006-06-23)
参考文献数
30
被引用文献数
12 11

発症後3年以上を経過した失語症者72名にSLTAを施行し,いわば到達レベルの検査成績を,CT所見により確認した病巣部位と発症年齢の観点から比較検討した。SLTA評価点合計の到達レベルは,基底核限局型病巣例,前方限局損傷症例が高い値を示し,これに後方限局損傷例が続き,広範病巣例と基底核大病巣例は,最も低い値であった。発症年齢が40歳未満群は,軽度にまで改善する症例が多い。40歳以降発症例と,未満発症例で,到達レベルに有意な差が認められたのは,広範病巣例と,後方限局損傷例であった。前方限局損傷では,発症年齢での到達レベルの有意差はみられず,失語症状はいずれも軽減するが構音失行症状は残存する。これに対し,後方限局損傷例では,聴覚経路を介する課題や語想起の課題で発症年齢による到達レベルの差が認められる。このことから脳の,機能による可塑性が異なることが示唆される。また基底核損傷例は病巣の形状で到達レベルに差異が著しく,被殻失語として一括して予後を論ずることは難しい。
著者
佐野 洋子
出版者
日本ロシア文学会
雑誌
ロシア語ロシア文学研究 (ISSN:03873277)
巻号頁・発行日
no.34, 2002

何世紀にもわたってロシヤの農民が語り継いできた,チョルトの形象についての考察。チョルトは,様々な時代の様々な地方の民衆のイメージが入り組み,絡み合いながら創りあげられた総合体であり,民衆の中から生まれたロシヤ的なるものの中にキリスト教的なるものがより分けることができないほど複雑に入り混じっている複合体である。チョルトヘの真の信仰はすでに19世紀後半に薄れ始めてはいたが,チョルトに関する諺や呪文が無数あることからもわかるように,ロシヤ人は日常生活の中で,普段の言い回しの中で,チョルトのобразを描き続け,自分の左側にいるチョルトの存在を常に意識して生きている。他の精たちと比べて,チョルトが登場するフォークロアのジャンルは非常に広範囲に渡っている。легенла,прелание,быличка,бывалыцина,сказка,анеклотなどである。信仰のあるジャンル,быличкаやбывалыцина,またлегенлаやпреланиеに出てくるチョルトは,神に対立するものであったり,赤ん坊をさらう,自殺に追い込むなどの悪のシンボルで,誘惑者的要素が濃く,信仰の失われたジャンル,сказкаやанеклотでは,兵士や女を怖がり,まずい立場に陥って,人間にさえも負けてしまうコミカルな馬鹿チョルトの性格が前面に押し出されている。が,信仰のあるジャンルの方でも,抽象的絶対悪というサタンや悪魔などというイメージからは決して感じられない要素,情けないチョルト,魔法使いごときの人間にこき使われたりする姿がよく見られ、сказкаに強調されるチョルトの性格が,ここでもうっすらと見え隠れしている。例えば,以前は天使だったのだから,天使の歌を調えるはずだと,空のクルミの中にいたチョルトに十字を切って天使の歌を無理やり歌わせる隠者についてのлегенлаは,この隠者の嘲笑的ないたずらによってとてもユーモラスに語られている。このように,どのジャンルにも濃い、薄いの違いはあるにせよ,悪の誘惑者から馬鹿チョルトに至るまでのチョルトの性格が現れている。日本語ではすべて悪魔という訳で片付けられてしまうСатана,Льявол,бесとの違いを農民は,「чёртはうろたえさせ,бесは挑発し,Льяволは無理強いし,Сатанаは信仰厚き人の心の迷いを認知する」と断言する。チョルトと他の悪魔たちの関係を考えるに,両者は共に悪という点では共通するが,その悪という概念だけでは説明できないロシヤ土着の要素がチョルトには多く見られる。そのため,チョルトはキリスト教国教化以前のロシヤにもともと存在していた形象であったと推定される。結局,「神には祈り,チョルトとは駆けずり回る」と言うように,チョルトは人生の伴侶のようなもの,避けがたい必要不可欠な人生の道連れであり,キリスト教の善悪という概念では捉えきれない広さの持ち主,善悪と単純に割り切れない人生のすべてを含んだ存在ではなかろうか。
著者
村上 美代子 佐野 洋子 永江 春江
出版者
園田学園女子大学
雑誌
園田学園女子大学論文集 (ISSN:02862816)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.9-15, 1975-12-20

1.ジューサー処理によるジュース中の主な栄養構成をしらべてみた所, 殆んどの成分は混合した原料成分の約2/3程度がジュース中に移行し粗繊維でさえもとの1/3程度はジュース中に含まれていた。しかしビタミンCのみは完全に破壊されていた。2.ビタミンC結晶の水溶液中に, ジュースに用いられている代表的な種々材料のジューサー処理汁液を混合した場合のビ ミンC量の動静を観察した所, アスコルビナーゼを含まない大根ジュースを混しても何ら変化を認めなかったが, アスコルビナーゼを含むきゅうりのジュースを加えるとビタミンCは速かに破壊された。ポリフェノールオキシダーゼを含むりんごのジュースを加えても, きゅうりの場合と同様にビタミンCは破壊された。この場合, 味にさしつかえの無い0.5%食塩を加えてみたが, その効果をあまり認め得なかった。つぎに, アスコルビナーゼ作用の強い生人参のジュースを混じた場合, きゅうりやりんごのジュースの場合と同様の結果をみた。しかし この人参をあらかじめ電子レンジ処理(2分間加熱)した後, ジュースとし添加した場合には大根の場合と同様ビタミンCは破壊されなか3.以上の結果, ジューサーを用いてジュースをつくる場合, 原料の栄養構成の損失は案外少い。しかし素材によってはジュースからビタミンCを期待することは無理のように思われる。ビタミンCを期待するならば, まず素材中のビタミンCを破壊する酵素の存否を確認し場合によってはその前処理を適切に行った後ジュースをつくるべきである。
著者
中川 良尚 佐野 洋子 北條 具仁 木嶋 幸子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.373-383, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
20
被引用文献数
4 2

失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 失語症例の超長期的言語機能回復後の経過, および言語機能に低下を示した症例の特徴について検討した。対象は, 右利きの左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例中, 2 年以上経過を追跡することができ, かつフォローアップの最終評価時年齢が 70 歳以下であった 151 例。言語機能回復訓練実施中あるいは訓練終了後に, SLTA 総合評価法合計得点が低下した症例が 151 例中 37 例 (24.5%) 存在した。内訳は, 最高到達点から 1 点低下した症例が 19 例, 2 点以上低下した症例が 18 例であった。     SLTA 総合評価法得点を合成項目別に検討すると, 約 90% の症例で訓練によって回復した合成項目に低下を認めたことから, 訓練により回復した機能は必ずしも保持されるのではなく, 脆弱であるとことが示唆された。
著者
伊藤 永喜 佐野 洋子 小嶋 知幸 新海 泰久 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.187-194, 2005 (Released:2006-07-14)
参考文献数
17

閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群 (obstructive sleep apnea hypopnea syndrome : 以下, OSAHS) に対する治療目的に導入した経鼻的持続陽圧換気療法 (nasal continuous positive airway pressure : 以下, nCPAP) が, 言語機能回復に奏効したと考えられる失語症例を経験した。症例は43歳, 右利き男性。脳静脈洞血栓症に対するシャント手術後に脳内出血を発症, 右半身の不全麻痺と重度失語症が残存。発症8ヵ月後に江戸川病院にて, 本格的な言語訓練開始となる。病前より夜間無呼吸・いびきがあり, 終夜睡眠ポリグラフィ (PSG) の結果, 中等度閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群と診断された。失語症に対する言語訓練が開始されてから約2年経過した時点よりnCPAPを開始したところ, 失語症状の中でも回復に困難を示していた標準失語症検査での発話の項目などで検査上顕著な改善を認めた。また日常の発話においても流暢性が増して意思疎通性が大幅に改善した。以上より, nCPAP治療がOSAHSを合併する失語症者の言語機能回復に奏効する可能性が示唆された。
著者
三村 將 佐野 洋子 立石 雅子 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.42-52, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
8
被引用文献数
5 4

わが国の失語症言語治療研究を総覧した。エビデンスレベルを評価したところ,無作為条件配置研究は見いだされず,後ろ向きの対象者を統制した研究が 1,統制が行われていない臨床連続例の検討が 35 見いだされた。さらに,効果サイズを算出できる 20 研究について評価したところ,多くの研究において高いレベルの効果が認められた。本邦の失語症言語治療の研究では,実際に高い言語治療成果を挙げているが,科学的に高い水準のエビデンスを挙げ得ていない,と評価された。
著者
佐野 洋子
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
人文科学 (ISSN:09117210)
巻号頁・発行日
no.23, pp.151-176, 2008

はじめに1. セミーク・トロイツァ祭2. 白樺編み・白樺ほどき3. カッコウの洗礼4. 契りの儀式
著者
北條 具仁 船山 道隆 中川 良尚 佐野 洋子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.434-444, 2009-12-31 (Released:2011-01-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

脳損傷後に距離判断が困難となった症例の報告は非常に少ない。今回われわれは,脳損傷後に距離判断が困難となった 2 症例 (1 例目は右頭頂-後頭葉の脳出血,2 例目は両側頭頂-後頭葉の脳梗塞 )を報告する。本 2 症例は,Holmes の提唱したvisual disorientation (1 例目は不全型)を呈し,その1 症状として距離判断の障害が出現していた。過去の報告例における距離判断の障害の根拠は主に主観的な訴えであったが,われわれはより客観的な距離判断の障害を検出する目的で,1 例目の症例に対して,大型車や 2 種免許を取得・更新する際に用いられる距離判断の検査機種 (KowaAS-7JS1) を用いて距離判断の検査を行った。その結果,健常者群および左半側空間無視群と比較して有意な成績の低下を認めた。本 2 症例および過去の報告例から,距離判断の神経基盤は,右側を中心とした頭頂-後頭葉の後方,すなわち,上頭頂小葉,下頭頂小葉後部,楔部にある可能性が考えられた。
著者
下馬場 かおり 小嶋 知幸 佐野 洋子 上野 弘美 加藤 正弘
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.224-232, 1997 (Released:2006-05-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

失語症状の長期経過を追跡する研究の一環として,失語症者の発話障害の長期経過を自発話,復唱,音読のモダリティ別に調査した。対象は,発症後16ヵ月以上最高287ヵ月経過した失語症者61例の文水準の標準失語症検査 (SLTA) 発話成績である。    〈結果〉SLTA でみる限り, (1) 3モダリティのなかで復唱はもっとも到達水準が低かった。 (2) 各モダリティの最高到達時の成績パターンは,本研究では6種に類型化が可能であった。 (3) 最高到達時の成績パターンは,発症初期には必ずしも同一のパターンではなかった。    〈結論〉(1) 失語症者にとって,文の復唱はもっとも難易度が高いと考えられた。 (2) 発話3モダリティは,発症年齢,病巣などの要因の関与により,異なる過程を経て特定のパターンに到達することが示唆された。(3) 以上の点は,発話障害の予後推測や,訓練の刺激モダリティ選択において有用な情報を提供すると考えられた。