著者
船山 道隆
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1194-1196, 2013-12-15

カプグラ症候群とフレゴリの錯覚 人物誤認の代表として,カプグラ症候群とフレゴリの錯覚がある。いずれも統合失調症に出現した典型的な症例から命名された2,4)。カプグラ症候群は,自分の周囲の既知であるはずの人たちを,そっくりであるが本物ではない人によって置き換えられたと確信する現象である。カプグラ症候群はソジーの錯覚ともいわれるが,ソジーとはフランス語である人に生き写しの他人という意味である。多くの場合,親しい既知の人物に出現する。一方で,フレゴリの錯覚は,他者を別の他者の変装であると確信するものであり,たいていの場合は自分を迫害する,あるいは恋心を抱いてくるなどという妄想を伴う。この両者が混在する症例10,14)がしばしば認められるため,両者の機序を統合して捉える立場がある。Vié15)や加藤9)は,カプグラ症候群を同一性の欠損や同一性の低下,フレゴリ症候群を無媒介な同一性や同一性の過剰と考えている。また,人物誤認全般を妄想知覚からみる考え方8)もある。 近年はカプグラ症候群,フレゴリ症候群,相互変身症候群,自己分身症候群をまとめて,妄想性誤認症候群として論じる論調があり3),その後は脳血管障害,頭部外傷,レビー小体型認知症,アルツハイマー病などの脳器質疾患によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚の報告が相次いでいる。しかし,統合失調症と脳器質疾患に出現する人物誤認では,背景にある症状がかなり異なる。本論では,この背景にある症状の違いを中心に考えていく。
著者
中島 明日佳 船山 道隆 小嶋 知幸 稲葉 貴恵 川島 広明 青木 篤美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.439-448, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

語義失語は, 井村 (1943) が, 日本語の特性を考慮した上で超皮質性感覚失語を捉え直した失語型であり, (1) 良好な復唱能力, (2) 言語理解障害, (3) 語性錯語を伴う発話障害, (4) 特徴的な漢字の障害, などを特徴とする。近年, 前頭側頭葉変性症の 1 亜型である意味性認知症 semantic dementia (SD) に伴う失語型として論じられることが多いが, 語義失語と意味記憶障害との関連は十分には調べられていない。今回われわれは, 静脈性の脳梗塞によって左側頭葉を前方から広範に損傷した後, 語義の理解障害と喚語困難を中核とする語義失語 (超皮質性感覚失語) を呈した 1 例について, 意味記憶の検討を行った。その結果, われわれが調べ得た範囲で, 意味記憶障害を示唆する所見は認められなかった。以上より, (1) 語義失語=SD ではないこと, (2) 記号である語彙項目とリファレントである意味記憶との間の相互の記号変換 (coding) の障害が存在すれば, 語義失語の定義を満たす失語像が出現することを指摘した。
著者
船山 道隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.301-310, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
26
被引用文献数
2

前脳基底部健忘は, 前向性健忘, 逆向性健忘に加えて, しばしば, 作話, 注意障害, 人格変化が出現する。側頭葉内側部の損傷による健忘と比べると, 自発性作話が特徴的である。本論では, 慢性的な自発性作話の責任病巣を検討した。1 年以上慢性的に自発性作話が続いた前脳基底部健忘 8 例の病巣を重ねた結果, 自発性作話が持続する場合の責任病巣は, 前脳基底部に加え, 前頭葉眼窩面, 前頭葉腹内側に広がり, 若干右半球優位であった。自発性作話の機序として, 過去の記憶の再体験, 肯定的に歪曲, 以前に提示された記憶痕跡を抑制できないこと, 記憶再生時に記憶の断片が混合することが考えられた。
著者
船山 道隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.98-105, 2021-06-25 (Released:2021-07-17)
参考文献数
23

前頭葉損傷によるコミュニケーション障害の背景には,非流暢性失語,作話,遂行機能障害,脱抑制,社会的認知の障害などさまざまな要因が挙げられる.本論では「言っていることとやっていることが違う」といった,前頭葉損傷にて時に認められる言葉と行動の乖離という症候に焦点を当てた.家族が同伴した脳卒中後の高次脳機能障害の61例の患者を対象とし,各種認知機能を含む要因を検討したところ,言葉と行動の乖離は脱抑制と関連することが明らかになった.病巣としては右前頭葉腹内側部の損傷がこの症状に関連する可能性が考えられた.さらにこの言葉と行動の乖離は介護負担度に大きく影響する結果となった.
著者
船山 道隆 前田 貴記 三村 將 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.40-48, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

両側前頭葉損傷後,強制的に人物とりわけ人の眼を中心に凝視ないしは注視 (forced gazing) を続ける2 症例を報告した。この2 例では,人が視界に入れば必ず凝視ないしは注視が誘発され,人が視界から消えるまで持続した。すなわち,この行動は,外部環境刺激に対して戸惑うことなく駆動され継続した。  forced gazing は,能動性がほとんどみられない患者に出現する,外部の環境刺激に対して視線が自動的に反応する被影響性が亢進した現象と考えられ,また前頭葉の損傷による抑制障害のため頭頂葉の機能が解放された結果,これらの行為/行動が出現したと考えた。本2 症例は前頭眼野を含む広範な両側前頭葉損傷であった。本2 症例に随伴した把握現象や道具の強迫的使用から両側前頭葉内側面損傷がforced gazing の責任病巣の中で最も重要と考えられ,前頭眼野も責任病巣の1 つと考えられた。
著者
船山 道隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.215-224, 2019-12-25 (Released:2020-01-08)
参考文献数
39
被引用文献数
1

前頭側頭葉変性症ほど頻繁に観察されるものではないものの,脳血管障害や外傷性脳損傷などの後天性脳損傷後に繰り返しの行為や行動である常同行為/行動,あるいは過剰なこだわりが出現することがある.本稿では最初にこれらの症状と強迫性障害との症候学的な違いを明らかにする.次に,後天性脳損傷後にこれらの症状が出現した自験例と過去の例を挙げ,その病巣と特徴を検討した.常同行為/行動は前頭葉を中心としたかなり広範な損傷後にまれに出現し,保続との関係が考えられた.こだわりは外傷性脳損傷にときどき認められ,その背景には言語理解の低下やワーキングメモリの低下などの認知面の低下があるかもしれない.
著者
中島 明日佳 船山 道隆 中村 智之 稲葉 貴恵
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.328-337, 2020-09-30 (Released:2021-10-01)
参考文献数
33
被引用文献数
1

過去における左視床損傷後の失語の症例報告では, 理解の障害は軽度で失構音はなく復唱は良好であるが, 発話では喚語困難や語性錯語を認める例が多く, なかでも無関連錯語の出現が特徴的であるとされている。しかし, 実際に無関連錯語の出現が多いか否かは明らかではなく, その出現機序も調べられていない。今回われわれは, 無関連錯語を手がかかりとして視床失語の背景に迫ることを試みた。その結果, 全誤答数に占める無関連錯語の割合および有関連錯語と無関連錯語との比は, 視床失語群が非視床失語群に比べていずれも高い結果となった。われわれが過去に報告した視床失語の 1 例からは, 無関連錯語と選択性注意機能の関連性が示唆された。   過去に提唱された視床失語の機序も考慮すると, 左視床損傷によって目的の語と関連する意味野を活性化できず, 関連しない語彙を不活性化できないことで目的の語彙が選択できず, 視床失語に特徴的な発話に至る可能性が考えられた。
著者
船山 道隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.263-272, 2017-12-25 (Released:2018-01-11)
参考文献数
50

「人となり」は広範な神経基盤に支えられているが,その中でも前頭葉眼窩面の役割は大きい.前頭葉眼窩面損傷後は一般的な神経心理検査では異常が認められなくとも,程度の差はあれ病前の「人となり」から変化することが多い.前頭葉眼窩面損傷後には,浪費,余計な口出し,衛生観念の喪失,病的収集行動など行動における脱抑制や衝動的な行動が出現する.作話が出現することもある.しかし一方で,社会不安障害や治療抵抗性うつ病が改善する場合もあり得る.前頭葉眼窩面の機能の仮説には,現実世界と内的世界の照合が困難であることや,イメージした行動に対する情動が惹起されないことなどが挙げられる.
著者
船山 道隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.326-330, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
34

うつ病とアパシーの鑑別は, 予後や治療の観点から重要である。脳卒中や外傷性脳損傷などの後天性脳損傷や変性疾患に伴ううつ病やアパシーは, いずれも予後に大きなマイナスの影響を与え, 治療法も異なる。鑑別の重要なポイントは, うつ病では気分の落ち込みやネガティブな思考パタンとなるが, アパシーでは気分や思考パタンはネガティブではなく中立的である。脳イメージング研究からは, うつ病では前頭葉腹内側部を中心として機能が亢進している部位を認めることがあるが, アパシーでは機能が亢進している部位を認めない。後天性脳損傷者に伴ううつ病の治療においては薬物療法や心理療法や社会的介入のみならず, 個々の症例に合わせたリハビリテーションの方針によって達成可能な目標をもたせていくことで病態が改善することがある。アパシーの場合も同様に, 個々の症例に合わせた達成可能な目標をもたせることで多少なりとも改善につながることがありうる。
著者
中島 明日佳 船山 道隆 中村 智之 稲葉 貴恵
出版者
認知リハビリテーション研究会
雑誌
認知リハビリテーション (ISSN:24364223)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-39, 2021 (Released:2021-10-11)
参考文献数
8

・Real-time support with Internet of Things might be practical for cognitive dysfunction, e.g. an automatic reading-out system for dyslexia and a remainder with smart speaker for attention/executive dysfunction.・Rehabilitation with Internet of Things might have great potential for supporting patients with cognitive dysfunction.
著者
船山 道隆 小嶋 知幸 山谷 洋子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌 = Higher brain function research (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.329-341, 2008-09-30
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

&nbsp; 症例は56 歳右利きの男性である。50 歳から英語が読みづらくなり,52 歳より喚語困難が出現し,徐々に音韻からの意味理解障害や顕著な表層失読や表層失書を伴う語義失語を呈するに至った。言語によるコミュニケーションに支障をきたし仕事から退いたが,日常生活は自立している。物品使用の障害を認めず,人物認知の障害は軽度にとどまった。視覚性の意味記憶検査では生物カテゴリーと加工食品では成績低下を認めたが,それらのカテゴリーで日常生活に支障をきたすことはほとんどなかった。非生物カテゴリーでは意味記憶障害は認めなかった。頭部MRI では左側頭葉の前部から下部を中心に萎縮が認められた。<br>&nbsp; 少なくとも現時点での本症例において,非生物カテゴリーでの意味記憶は保たれており,語彙の理解および表出の障害は失語の範疇で捉えることが妥当であると考えた。一方で生物カテゴリーにはわずかながら意味記憶障害が存在した。また,語義失語は語彙の貯蔵障害という見解が多いが,本症例の障害の中核は,語彙と意味記憶の間の両方向性のアクセス障害にあると考えた。
著者
船山 道隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.77-87, 2019-06-25 (Released:2019-07-04)
参考文献数
50

前頭葉機能の解明は症例報告から得られた知見が多く,前頭葉損傷による症例報告は実臨床に重要である.本稿では前頭葉眼窩部を中心とした損傷後に病的収集行動が出現した例,ゴミ屋敷症候群が出現した例,治療抵抗性うつ病が消失した例,顕著な誤認が出現した例など特徴的な例を挙げ,それぞれの機序を推測していく.これらの症状の背景にはさまざまな要因が考えられるが,一度価値があったものに対する保続,イメージした状況とそれに対して惹起されるべき情動が合致しないこと,外界と内界の区別が困難となることが可能性として挙げられた.
著者
船山 道隆 三村 將
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.845-853, 2008-07-01

はじめに 作話(confabulation)とは,記憶障害を背景に,だまそうとする意図はないが,自己や世界に関する記憶や出来事を作り上げたり,ゆがめたり,誤って解釈して,外界に向けて話をすることである。作話の概念は,Kahlbaum1)が1874年の緊張病論のなかで,意味も脈略もない会話である語唱(Verbigeration)と対比して,空想的かつ生産的な内容である作話(Konfabulation)という語を用いたのに端を発し,Korsakoff2,3)によるコルサコフ症候群の確立によって大きな発展を遂げた。作話にはさまざまな分類があるが,最もよく用いられる作話の生成機転による区分として,促さなくても現れる自発作話(spontaneous confabulation)と,質問に対してのみ受動的に誘発される誘発作話(provoked confabulation)とに大別される。作話は意味記憶領域のもの(例えば「キリンとは何か」に関する作話)もあるが,そのほとんどは自己の生活史と関連した自伝的記憶ないしエピソード記憶領域のものである。 作話の原因疾患は,アルコール性コルサコフ症候群などの中毒性・代謝性疾患,前交通動脈瘤破裂に代表されるくも膜下出血,脳出血,硬膜下血腫,脳腫瘍,脳炎などの感染症,頭部外傷,アルツハイマー病や血管性認知症などの認知症性疾患,低酸素脳症など多岐にわたる。 作話は,妄想や記憶錯誤と類似点があるが,これらとは区別することができる。記憶錯誤は,過去に体験していないのに実際にあったかのように追想することであり,一部の作話は記憶錯誤といえる。妄想は,「主に自己に関する病的な誤った確信であり,訂正不能」であると定義され,基本的には記憶障害に基づくものではない。一方で,作話は背景に記憶障害があり,その確信の程度は低い。作話に基づいて実際に行動してしまう場合も少なくない4,5)が,一般的には妄想に基づく犯罪のような重大な事件に至ることはない。 統合失調症の妄想においては,その形成以前にしばしば離人症が出現し,世界全体の知覚自体にも変化が生じているという考え方6)がある。一方で,作話の場合は,妄想のような世界全体の変容ではなく,記憶障害や現実監視能力の低下といった部分的な欠損から生じているといえる7)。また,嫉妬妄想に代表されるように,妄想性障害は性格や感情の影響が大きいことが知られている。フランスでは恋愛妄想,嫉妬妄想,復権妄想をまとめて熱情精神病と呼んでいる。病的な熱情の上に,強固な信念に支えられ妄想が構築されていき,闘争的で興奮しやすいといわれる。嫉妬妄想の背景には,器質疾患に伴う嫉妬妄想も含めて8),プライドが高い性格や失われたものを取り戻そうとする機制が強く働いている。一方で,作話には性格による影響は少なく,情動的色彩も乏しいと考えられる9)。
著者
船山 道隆 小嶋 知幸 稲葉 貴恵 川島 広明
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.467-477, 2010
被引用文献数
3

左縁上回後部,上~中側頭回後部,角回の皮質下の脳出血後,初期には頻発する新造語ジャルゴンを伴うウェルニッケ失語を呈し,回復とともに伝導失語の臨床像に収束した 1 例を報告した。本症例は,目標語と無関連な新造語が頻出する初期の段階から,改善経過の中で,音韻の断片や,目標語の推測が可能な音韻性錯語の段階を経て,最終的に,音韻の置換や転置を主症状とする伝導失語の臨床像に収束した。また,この間,語性錯語・迂言など,語彙レベルの障害を示唆する症状は観察されなかった。これらの経過から,少なくとも本症例において発症初期に頻出した新造語は,出力音韻辞書 (音韻選択) のレベルの障害に起因するのではないかと考えられた。従来,新造語の出現には,語彙レベル・音韻レベル両水準の関与が指摘され,その発現機序に関してはいまだに意見の一致を見ていないが,少なくとも 1 つの可能性として,語彙以降 (post-lexical) の段階の障害においても新造語が出現しうることが示唆された。
著者
北條 具仁 船山 道隆 中川 良尚 佐野 洋子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.434-444, 2009-12-31 (Released:2011-01-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

脳損傷後に距離判断が困難となった症例の報告は非常に少ない。今回われわれは,脳損傷後に距離判断が困難となった 2 症例 (1 例目は右頭頂-後頭葉の脳出血,2 例目は両側頭頂-後頭葉の脳梗塞 )を報告する。本 2 症例は,Holmes の提唱したvisual disorientation (1 例目は不全型)を呈し,その1 症状として距離判断の障害が出現していた。過去の報告例における距離判断の障害の根拠は主に主観的な訴えであったが,われわれはより客観的な距離判断の障害を検出する目的で,1 例目の症例に対して,大型車や 2 種免許を取得・更新する際に用いられる距離判断の検査機種 (KowaAS-7JS1) を用いて距離判断の検査を行った。その結果,健常者群および左半側空間無視群と比較して有意な成績の低下を認めた。本 2 症例および過去の報告例から,距離判断の神経基盤は,右側を中心とした頭頂-後頭葉の後方,すなわち,上頭頂小葉,下頭頂小葉後部,楔部にある可能性が考えられた。