著者
宮沢 孝幸 下出 紗弓 中川 草
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.21-30, 2016-06-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
56
被引用文献数
2

ネコ(Felis catus)の内在性レトロウイルスであるRD-114ウイルスは,1971年にヒト横紋筋肉腫細胞から発見されたガンマレトロウイルスである.RD-114ウイルスは,およそ数百万年前に地中海沿岸でヒヒ属の祖先動物の内在性レトロウイルスが,ネコ属の祖先動物に感染し内在化,その後,数百万年もの間,感染性の内在性レトロウイルスとして維持されてきたと考えられてきた.RD-114関連ウイルスのネコゲノムの座位を精査した結果,感染性のRD-114ウイルスをネコはもっておらず,感染性をもたない内在性レトロウイルス(RDRSと命名)の組換えによって感染性が復活したRD-114ウイルスが生じることがわかった.さらに,感染性が復活しうるタイプのRDRS(新しいRDRSと命名)は,ネコが家畜化されたおよそ1万年前以降にネコのゲノムに侵入したと考えられた.新しいRDRSの保有率は,欧米とアジアのネコの間で大きく異なり,染色体上の位置もネコの品種によって異なった.本研究によって,これまで不明であった家畜化後のイエネコの移動経路を明らかにするための指標として,RDRSが有用であることがわかった.
著者
今西 規 木村 亮介 瀧 靖之 安藤 寿康 中川 草
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

一卵性双生児は非常に類似した顔をしていることから、ヒトの顔形状はほぼ遺伝的に決定されていると考えられる。そこで本研究では、双生児を中心とする約250組の日本人ボランティアからゲノム情報と顔形状データを取得し、計算機による大規模な関連解析を実施することにより、顔形状の個人差を規定する遺伝要因を解明する。これと並行して、東北メディカル・メガバンクが収集した約1000人分の頭部MRIデータとゲノム情報を解析し、顔形状に関わるゲノム多型の特定を試みる。以上の結果を利用して、個人のゲノム情報から顔形状を予測するためのソフトウエア「ゲノム・モンタージュ」を開発し、生命情報学における新分野の開拓をめざす。平成29年度は【課題1】顔形状の遺伝性推定と関連ゲノム多型の探索について、前年度に引き続いてゲノム情報と顔形状データの収集を進め、その解析に着手した。慶應大学、琉球大学、東海大学が参加して、双生児ボランティアに対する測定会を3回にわたり開催した。その結果、前年度の68名に加えて新たに94名の測定を完了し、合計で162名の顔形状データおよび口腔内細胞試料を取得できた。得られた顔形状データについては琉球大学でのデータ解析を開始し、口腔内細胞試料については東海大学でDNA抽出およびSNP解析を開始した。【課題2】MRIデータを用いた頭顔部形状解析と全ゲノム関連解析については、東北大学、琉球大学、東海大学が参加して解析の準備を進めている。このほか、【課題3】「ゲノム・モンタージュ」の開発についても、テストデータを用いた解析ソフトの開発を進めている。
著者
宮沢 孝幸 下出 紗弓 中川 草
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.21-30, 2016
被引用文献数
2

ネコ(<I>Felis catus</I>)の内在性レトロウイルスであるRD-114ウイルスは,1971年にヒト横紋筋肉腫細胞から発見されたガンマレトロウイルスである.RD-114ウイルスは,およそ数百万年前に地中海沿岸でヒヒ属の祖先動物の内在性レトロウイルスが,ネコ属の祖先動物に感染し内在化,その後,数百万年もの間,感染性の内在性レトロウイルスとして維持されてきたと考えられてきた.RD-114関連ウイルスのネコゲノムの座位を精査した結果,感染性のRD-114ウイルスをネコはもっておらず,感染性をもたない内在性レトロウイルス(RDRSと命名)の組換えによって感染性が復活したRD-114ウイルスが生じることがわかった.さらに,感染性が復活しうるタイプのRDRS(新しいRDRSと命名)は,ネコが家畜化されたおよそ1万年前以降にネコのゲノムに侵入したと考えられた.新しいRDRSの保有率は,欧米とアジアのネコの間で大きく異なり,染色体上の位置もネコの品種によって異なった.本研究によって,これまで不明であった家畜化後のイエネコの移動経路を明らかにするための指標として,RDRSが有用であることがわかった.
著者
今川 和彦 中川 草 草間 和哉
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-10, 2016-06-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
52
被引用文献数
7

生命の進化上,哺乳類の胎盤は比較的新規に獲得された器官である.本稿では,哺乳類が獲得した胎盤の形態や構成細胞に多くの違いがあることやその違いが今まで考えられていた哺乳動物種の一連の進化と異なることを示した.そして,生体や他の器官や細胞群とは異なり,胎盤を構成する胚トロホブラスト細胞では,内在性レトロウイルスやLTR型レトロトランスポゾンに由来する遺伝子の高い発現が見られる.特に,Peg10,Peg11,さらに胚トロホブラストの融合や胎盤の形態の違いに寄与したenv遺伝子に由来するSyncytinについて紹介する.最後に,同一種において同様の機能を発揮するレトロウイルスの内在化が複数回起こっていること,新しく内在化したレトロウイルスが転写因子など以前に使用されていた発現制御機構を取り入れている事実から,既存の遺伝子から新規の内在性レトロウイルスに由来する遺伝子への機能の譲渡(バトンパス)が起こっていることを紹介したい.
著者
宮沢 孝幸 中川 草 目堅 博久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

レトロウイルスの一種であるフォーミーウイルスは、宿主に終生持続感染するものの、いかなる疾病を引き起こさない。本研究は、フォーミーウイルス由来miRNAの抗腫瘍ポテンシャルに着目し、このウイルスがいかにして宿主にがんを引き起こすことなく宿主と共存しているのかを明らかにする。また、フォーミーウイルスが宿主のmiRNA産生系を乗っ取り、大量のmiRNAを産生するメカニズムを明らかにする。そしてこれらの知見を利用して、腫瘍抑制性miRNAを強力に発現しうる新規ウイルスベクターを開発し、家畜や伴侶動物を対象とした新規がん治療法へ道を拓く。