著者
中村 浩志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-114, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
62
被引用文献数
8 22

このモノグラフは,日本に生息するライチョウLagopus mutus japonicusに関するこれまでの研究からわかっていることを整理し,今後の課題について検討を加えることを目的としたものである.日本に生息するライチョウの数は,20年以上前に実施された調査から3,000羽ほどであることを示し,分布の中心から外れた孤立山塊から絶滅が起きていることを示唆した.日本の高山帯には,ハイマツが広く存在するのが特徴であり,ライチョウの生息に重要であることを示唆した.ライチョウの食性に関する知見を整理し,今後は各山岳による餌内容の違い,また食性の量的な把握が必要たされることを指摘した.高山における年間を通しての生活の実態について,これまでの知見を整理し,まためた.春先の4月から秋の終わりの11月にかけてのライチョウの体重変化を示し,ライチョウの高山での生活との関連について論じた.ミトコンドリアDNAを用いた多型解析から,近隣の亜種との関係および大陸から日本に移り棲んで以降の日本における山岳による集団の隔離と分化に関する知見をまとめた.ライチョウを取り巻くさまざまな問題点について,最近の個体数の減少,ニホンジカ,ニホンザルといった低山の野生動物の高山帯への侵入と植生の破壊,オコジョや大形猛禽類といった古くからの捕食者の他に,最近では低山から高山に侵入したキツネ,テン,カラス類,チョウゲンボウといった捕食者の増加がライチョウを脅かしている可能性,地球温暖化問題等があることを指摘した.20年以上前のライチョウのなわばりの垂直分布から,温暖化の影響を検討し,年平均気温が3°C上昇した場合には,日本のライチョウが絶滅する可能性が高いことを指摘した.これまでの低地飼育の試みを評価し,野生個体群がまだある程度存在する今の段階から,人工飼育による増殖技術を確立し,増えた個体を山に放鳥する技術を確立しておくことの必要性を指摘した.
著者
中村 浩志 小林 篤
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.34-40, 2014-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

Carcasses of 22 species of migrant birds were observed at the alpine area of Mt. Norikura in early spring (late April to middle May). These migrants died by snowstorms that they encountered during spring migration when they passed over the alpine area.
著者
中村 浩志 北原 克宣 所 洋一
出版者
信州大学教育学部
雑誌
志賀自然教育研究施設研究業績 (ISSN:03899128)
巻号頁・発行日
no.40, pp.1-8, 2003
被引用文献数
1 1

The Mt. Hiuchi (2462m) is an isolated mountain from the North Alps (Hida Mountains). The Rock Ptarmigans on this mountain is the northernmost population in Japan. The distribution of territories and the number of the ptarmigans living on the mountain were examined on 23 and 24 June, 2002. A total of 8 territories were estimated. The estimated total number was 13 males and 8 females. Eight of 13 males were mated males with territory and the rest were single. The estimated number was about the same number estimated 35 years ago by Haneda et al. (1967). Why the small size population could continue so long time on the isolated mountaintop? The mechanism was discussed from the standpoints of carrying capacity, travel ability between mountains and the geographical location.
著者
中村 浩志
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-18, 1990-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
40
被引用文献数
44 45

文献調査および野外調査により,日本でカッコウに托卵された記録のある宿主,本州中部におけるカッコウの托卵率,および新しい宿主オナガとの托卵関係成立過程についての調査を行った.1)日本ではこれまでにカッコウの宿主は計28種記録されている.宿主の数は,本州中部が20種と最も多かった.2)本州中部の長野県では,主要宿主6種の托卵率はいずれも10%以上であった.最も高い托卵率は,新しい宿主オナガの79.6%であった.3)カッコウ宿主との托卵関係は,過去60年間に大きな変化がみられた.本州中部ではカッコウは約15年前からオナガに托卵を開始したが,托卵率は急速に高まり,現在ではオナガの繁殖分布域のほぼ全域にカッコウの托卵が広がった.逆に,今から60年前の主要宿主であったホオジロは,現在ではまれな宿主に変った.4)新しい宿主オナガへのカッコウの托卵は,最近両者が分布を拡大し,分布が重った結果開始された.カッコウの托卵は,分布が重なってすぐに開始されたのではなく,多くの地域では本格的に開始されるまでには10年から15年かかっていた.5)長野県におけるカッコウの托卵にみられる特徴と新しい宿主オナガとの托卵関係成立過程についての論議を行った.
著者
羽田 健三 中村 浩志
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.20, no.88, pp.41-59, 1970-12-25 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13
被引用文献数
5 3

1. This study of the breedingbiology of Japanese Greenfich Chloris sinica minor was conducted during March 1966 and August 1968, in an area of 660 ha of farmlands in Nagano prefecture, 400 m of altitude. 2. The study is based on breeding records of 262 nests, eleven all-day observations on breeding pairs and 824 marked individuals.3. The breeding procedure cousisted of five periods: preparatory-nest-building-egg-laying-incubation-chick-raising and famiy-life periods.4. Pair formation is advanced through the male's series of behaviors which are: courtship song-coutship posture to an attracted female-leading the female into a selected nest-tree-following after the female. After pair is formed the female selects the nest site.5. When the female fails to find the nest site within the male's territory, she would wander out of it for seardh of a good site, fllwed by the male. Therefore, the first territory is abandoned.6. Early in the breeding season, before middle April, they work for nest-building only in the morning and diappear in the afternoon to join the flock.7. The female only builds the nest and the male follows her closely.8. The nest-building period varies from about 14 days in the earlier part of the season, before 5 April, to as short as 4 days after entering May.9. This is due to the situation that in early season they feed on seeds left from the previous year and need time in foraging, their nest-building and egg-laying are prolonged. Later in the season, they can efficiently feed on rich source of new grass seeds and therefore finish neting in a short time and lay eggs at onde.10. The egg is usually laid one each day early in the morning. There were three exceptions (out of 68 caseg) in which eggs were laid in less than 24 hours.11. Day incubation is commenced after laying the first egg of clutch but true or night incubation sets in after the clutch has been completed.12. The female only incubates and is fed by the male. This feeding is usually (76.9%) performed at exposed places outside of the nest (The female may remain to be fed in the nest when she is conscious of observer) and never in the nest-tree. The feeding spots are concentrated along the territory border 20-40m from the nest and at least 8m it. Judging by the observer's personnal experience this has advantage to protect the nest from predator.13. The incubation period varied between 12 and 15 days but 40.6% were 12 days and 46.9 % 13 days.14. A clutch hatched in 1-3 days, with 89.4% in 2 days.15. Both sexes engaged in feeding the chicks and the frequency was 11 times a day This very low rate as compared with those in insect-eating passerines is due to the presence fo the crop in which the parents carry and chickc store the food.16. The chicks' growth of body weight slown in later stage and slightly decrease before nest-leavin, but the quills grow continuously. The tail is still short on flying.17. Teh feeding period of nestlings was 12-17, usually 14-15 (51.7%), days. After flying chicks were fed by both parents for 7-10 days and a few pairs commenced the second brood.
著者
中村 浩志
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.最近日本でカッコウがオナガに托卵を開始した。オナガへの托卵がその後各地で急速に広がったのは、オナガが卵識別能力やカッコウへの攻撃性を十分もっていなかっためであることを、托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から明らかにし、論文にした。2.托卵歴の長さの異なる地域での比較調査から、オナガは托卵されてから10年という短期間に、卵排斥行動や攻撃性といった対抗手段を発達させたため、オナガへの托卵は初期の頃のようにはいかなくなっていることを明にし、両者の関係は適応と対抗適応を通しダイナミックに変化することを論文として発表した。今年度の調査からは托卵が始まる前や始まった直後に比べとオナガの生息密度は著しく低下していることを過去の資料と現在の密度調査との比較から明らかにできた。3.一昨年カルフォルニア大留学中知り合ったカナダ、McMaster大学のGibbs氏との共同研究は、昨年計91個体のカッコウの成鳥と雛から血液サンプルを集めることができ、彼の研究室で現在分析中である。DNAフィンガ-プリント法などの血液分析で、カッコウの性関係、異なる宿主に托卵するカッコウどうしの遺伝的関係などの重要な問題が解明されることになった。また、京大理学部の重定氏らと2年前から共同研究の形で進めてきている、カッコウと宿主の相互進化の数理モデルによる解析を論文としてまとめることができた。4.カルフォルニア大学のRothstein教授とともに、昨年の8月京都で開かれた国際動物行動学会(IEC)で、「托卵における相互進化」をテ-マにしたラウンド・テ-ブルを開催するとともに、その後長野県の軽井沢と信大教育学部に会場を移し、3泊4日のサテライト・シンポジュウムを開いた。シンポは、世界の托卵鳥研究者のほぼ全員にあたる外国から16名、日本から6名が参加し、本格的な国際会議となった。この会議で、これまでの我々の一連の研究内容を発表し、高い評価を得た。また、日本でのカッコウとオナガの関係は、生物進化の事実を目で確認できるまたとないチャンスにあることを参加者に認識していただいた。さらに、今後ヨ-ロッパのカッコウとの比較調査などの共同研究を進めていく話しがまとまった。
著者
小林 篤 中村 浩志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.69-86, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
37
被引用文献数
4

亜種ライチョウLagopus muta japonica(以下ニホンライチョウ)の生活史を生活環境が厳しい冬期間も含め年間を通して理解することは,世界の最南端に分布するこの亜種の日本の高山環境への適応や生活史戦略を明らかにし,温暖化がこの鳥に与える潜在的な影響を理解する上で重要である.本研究では,群れサイズやその構成,標高移動,観察性比の季節変化などを年間通して調査し,その生活史の変化や特徴が日本の高山環境の特徴とどのように対応しているかを明らかにするための調査を乗鞍岳で実施した.群れサイズおよび群れの構成,季節的な標高移動,観察された個体の性比は,繁殖地への戻り,抱卵開始,孵化,雛の独立,越冬地への移動により,それぞれ季節的に大きく変化することが示された.それらの変化は,高山環境の季節変化と密接に関係しており,ニホンライチョウの生活史は,日本の高山環境の季節変化と密接であることが示唆された.また,冬期にはすべての個体が繁殖地である高山帯から離れ,森林限界より下の亜高山帯に移動していたが,雄は森林限界近く,雌は雄よりも繁殖地から遠く,標高の低い場所にと,雌雄別々に越冬していることが明らかにされた.さらに,ニホンライチョウでは,外国の個体群や近縁種でみられる育雛期に繁殖した場所より雪解けの遅い高標高地への移動は見られないが,日本の高山特有の冬の多雪と強風がもたらす環境による積雪量の違いと雪解け時期のずれが,同じ標高の場所での育雛を可能にしていることが示唆された.年間を通して実施した今回の調査結果から,ニホンライチョウの生活史の区分は,従来の繁殖期の「なわばり確立・つがい形成期」,「抱卵期」,「育雛期」の区分に加え,非繁殖期は「秋群れ期」と「越冬期」に分けるのが適当であることが指摘された.ニホンライチョウは,行動的にも生理的にも日本の高山環境に対し高度に適応しているが,日本では高山の頂上付近にしか生息できる環境が残っていないため,この種の中で最も温暖化の影響をうける可能性の高い個体群であることが指摘された.