著者
植田 拓也 柴 喜崇 畠山 浩太郎 中村 諒太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EaOI1038, 2011

【目的】<BR> 脊柱後彎変形(以下,円背)は加齢に伴い進行する高齢者特有の姿勢であり(Milne,1974),高齢者の約60%に認められると報告されている(川田,2006).高齢者の円背の増加はバランス能力低下(坂光,2007),呼吸機能の低下(草刈,2003)などと関係があり,円背の定量的測定の開発が求められている.また,円背進行予防運動の効果を検討するためにも,時間的な制約のある臨床現場ではより効率的で簡便な円背の測定が必要であると考えられる.<BR> 現在,円背の定量的測定のGold standardとして脊柱矢状面レントゲン画像から算出するcobb角がある(Kado,2009).また,自在曲線定規による円背指数(Kyphosis Index(%):以下,KI)が最も安価で簡便な測定方法であるとされている(Lumdon,1898).<BR> そこで本研究の目的は臨床で使用可能であり,簡便な円背の定量的測定方法の開発を目的とし,小型ジャイロセンサーを用いた円背の定量的測定の妥当性及び再現性を検討することとした.<BR>【方法】<BR> 参加者は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集した56歳~86歳の地域在住中高齢者96名(男性50名:平均年齢70.1±5.0歳,女性46名:平均年齢72.7±6.2歳)であった.<BR> 姿勢測定は((株)ユーキ・トレーディング社製,ホライゾンKS08010:以下,姿勢測定装置)を使用し,脊柱後彎角度(Kyphosis Angle;以下,KA)を算出した.本装置は小型ジャイロセンサーが内蔵された測定器(±0.7°の精度)であり,三次元的な角度の測定が短時間かつ正確に可能である.KAは,第7頸椎棘突起(以下,C7)と脊柱の最大後彎部を結ぶ線,脊柱の最大後彎部と両側上後腸骨棘の中点(以下,PSIS中点)を結ぶ線のなす角度である.また,外的基準として円背の程度の測定をKIにて算出した.KIは身体に非侵襲的であり,高値になるほど円背が重度と判断される指標である.また,Cobb角との高い相関が確認され(Milne,1974),検者内,検者間の再現性のある測定方法である(Lundon,1998).KIの算出は,測定を立位にて実施した.C7と両側上後腸骨棘を触診し,C7からPSIS中点までの脊柱アライメントを自在曲線定規で型どりそのアライメントを紙にトレースした後,C7からPSIS中点を結ぶ線との交点までの長さL(cm)と直線Lから彎曲頂点までの高さH(cm)を記録し,H/L×100で算出した.<BR> 統計解析は姿勢測定装置による円背測定の妥当性について,KIとKAの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した.また,2回及び3回連続測定の再現性について,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下 ICC(1,1),ICC(1,2),ICC(1,3))を算出し,適切な測定回数を検討した.なお,有意水準は1%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には事前に書面及び口頭で本研究について十分な説明を行い,書面にて自署において同意を得た.<BR>【結果】<BR> 参加者全体のKA及びKIの平均値はKA:163.8±6.8°,KI:8.4±2.6%であった.KAとKIの間には,全参加者(r=-.63,<I>P=.00</I>,n=96),男性(r=-.64,<I>P=.00</I>,n=50),女性(r=-.62,<I>P=.00</I>,n=46)において統計学的有意な中等度の相関が確認された.<BR> KAの連続測定の再現性の検討では,2回連続ではICC(1,1):0.967(99%Confidence interval(99%CI);0.935-0.983),ICC(1,2):0.983(99%CI;0.966-0.991),3回連続ではICC(1,1):0.958(99%CI;0.9267-0.9766),ICC(1,3):0.985(99%CI;0.974-0.992)であった.<BR>【考察】<BR> 本研究では姿勢測定装置による円背の定量的測定の妥当性と再現性を検討した.結果,姿勢測定装置による円背測定の妥当性が確認された.また,ICCは0.9以上で"優秀"と定義されていること(Shrout,1979)から,2回及び3回連続測定の高い再現性が確認された.これは3回の連続測定の再現性に関しては,本装置による体幹前傾角度の計測法を検討した先行研究(Suzuki,submission)とも一致する結果となった.姿勢測定装置による円背測定の回数はKAのICC(1,1)が0.95以上であったことから1回の測定でも十分再現性は高いといえる.つまり,姿勢測定装置による円背の測定は1人の検者が1回測定すれば十分であるということができる.以上のことから,姿勢測定装置による円背測定は,妥当性,連続測定の再現性が高く,臨床現場において簡便に実施可能な円背の定量的測定方法であることが示唆された.<BR> しかし,本研究では姿勢測定装置での日の違いによる検者内再現性及び検者間再現性は検討しておらず,今後はこれらについても検討する必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 現在,求められている科学根拠に基づく理学療法の確立には治療効果を定量的,客観的に測定することが必要である.また,その測定方法は簡便であり,時間に制約のある臨床場面で容易に使用できることが前提となるべきである.本研究において,効率的かつ正確に円背の定量的測定が可能になることで,円背の進行予防に対する効果的な訓練方法の確立につながると考えられる.
著者
田村 博康 平田 大 栗林 喬 久米 一規 五島 徹也 中村 諒 渡邊 健一 赤尾 健 下飯 仁 水沼 正樹
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.12, pp.820-826, 2015
被引用文献数
1

今現在,大吟醸酒に代表される高級清酒の醸造には,広くカプロン酸エチルを高生産する酵母が使用されているが,様々な変異処理をほどこしているために,発酵が緩慢となり,さらには目的以外の変異がはいるというリスクもあった。筆者はそのリスクを取り除くための自然発生的な方法で目的株を分離することに成功し,遊離脂肪酸を測定することで迅速に識別する方法まで示した大変興味深い解説文である。ぜひご一読願いたい。