著者
中東 靖恵
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.461-476, 2018-09-20 (Released:2019-09-20)
参考文献数
72
被引用文献数
1

本稿では,社会言語学研究が発展する中で,言語研究が直面してきた多人数質問調査法における調査対象者の選定方法をめぐり,有意サンプリングの問題点と有効性について,主にランダムサンプリングと比較しながら述べた.言語研究における多人数調査は有意サンプリングによるものが最も多く,有意サンプルの調査は母集団の代表性に問題があるとされる一方,方言研究などそもそもランダムサンプリングが適用できない場合もあり,有意サンプリングによる多人数調査は事例研究として意義あるものと考える.また,近年の社会情勢の変化や法改正に伴い,個人情報保護の問題,外国人住民の増加,エスニシティ,ジェンダーとの関わりなど,今後の言語調査において検討すべき課題についても触れた.
著者
中東 靖恵
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.72-87, 2011-03-31 (Released:2017-05-01)

日本国内では,戦後,全国共通語化をはじめとする言語変化が顕著となったが,日本から遠く離れた海外日系移民社会ではどのように日本語が継承され変容しているのか.本研究は,かつて筆者が行った広島市および山陽地方におけるアクセントの世代的地理的動態に関する一連の調査研究に基づき,パラグアイの日系社会に暮らす広島県人家族を対象に調査を行い,日本語のアクセントの継承と変容の実態と,それに関わる諸要因を明らかにするものである.本稿では,2拍名詞,3拍名詞,4拍名詞,外来語,3拍形容詞を取り上げ,アクセントの世代的動態を中心に考察を行った.調査の結果,移民1世の持つ広島方言の伝統的アクセントは,2世・3世にもよく継承されている一方で,変容も認められた.特に世代的変動が顕著である語の多くが,広島方言で見られる共通語化と同じアクセント変動であり,パラグアイ日系社会の日本語に,日本の日本語と同様な言語変化が認められることは特筆すべき事実である.1980年代以降に始まる日系移住地のインフラ整備や日本との人的交流の活発化,日本語教育環境の充実,メディアを通じての日本の日本語との日常的接触は,移住地における日本語の維持・継承と新しいアクセントの獲得に寄与したものと考えられるが,一方で,アクセントの曖昧化・アクセント型の消失傾向も認められ,この傾向は,今後,スペイン語への言語シフトとともに,進行していくと思われる.
著者
中東 靖恵
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、中国人日本語学習者に対して撥音の読み上げ調査を行い、その結果を学習者音声の音声的バリエーションという観点から考察を行った。インフォーマントは、日本に在住の中国人日本語学習者31人(男12人、女19人)。出身地、民族名、年齢、来日歴、日本語学習歴など学習者の属性のほか、中国で受けた日本語の発音教育や、日本語の撥音を発音する際の意識についても尋ねた。調査は、以下に示すような撥音を含む258の単語と13の短文を用いて行った。(1)両唇鼻音:インパクト、乾杯、看板、コンビニ、あんまり、運命、さんま、専門…(2)歯茎鼻音:簡単、センター、半月、うんざり、金属、団地、本音、訓練、親類、コンロ…(3)硬口蓋鼻音:カンニング、こんにゃく、三人、にんにく、般若、本人…(4)軟口蓋鼻音:アンコール、単価、貧困、案外、音楽、言語、ジャングル、ハンガー…(5)口蓋垂鼻音あるいは鼻母音:安全、本、禁煙、恋愛、神話、男性、チャンス、噴水…調査の結果、学習者に見られる撥音の音声的バリエーションには、音環境ごとに一定の傾向が認められることが明らかになった。多くの場合、日本語母語話者と同様、後続する音の別により実現音声が決まるが、ゆれも見られ、その場合、撥音に先行する母音の別と、先行母音の調音位置が関係するという日本語母語話者にはない別の規則が働いている可能性が示唆された。本研究は、従来、誤用の観点からしかあまり議論されてこなかった日本語学習者の撥音の実現音声について、計量的観察に基づき、音声的バリエーションという観点から考察することにより、これまで漠然としていた学習者音声の実態を明らかにすることができた。今後、他の言語を母語とする学習者にも調査を行い、日本語学習者に共通する規則性が見いだせるかどうか、そしてそれがあるとすれば互いに共通性があるのかどうか、検討する必要がある。
著者
中東 靖恵
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.72-82, 1998-04-30 (Released:2017-08-31)
被引用文献数
1

The aim of this study is to clarify the phonetic features and problems of pronunciation of English and Japanese by Korean native speakers based on the results of listening and pronunciation tests. It is valuable to compare the English pronunciation of Korean speakers with their Japanese pronunciation from the viewpoint of a contrastive analysis of the English, Japanese and Korean languages, as well as to make an analysis using data obtained from both listening and pronunciation tests. Analysis of the data led to the following three conclusions: 1. There is much first language interference when learning a second language; 2. Such interference occurs when the first language differs from the second language not only on the phonological level but also on the phonetic level; 3. Even when the multiple second languages have identical or similar phonological and phonetic features, first language interference does not always occur.
著者
中東 靖恵
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.36-48, 2014-09-30 (Released:2017-05-03)
被引用文献数
4

近年急速に進むグローバル化と国境を超える人々の頻繁な移動により,日本の多言語状況は拡大しつつある.オールドカマーに加え,ニューカマーと呼ばれる南米やアジア諸国からの外国人の増加は1990年代以後顕著となり,多様な言語・文化背景を持った定住外国人の増加は,コミュニケーション問題をはじめ地域社会に様々な課題を生み出した.本稿では,岡山県総社市に集住する南米系ニューカマーであるブラジル人住民を対象に言語生活実態調査を行った結果に基づき,地域で暮らすブラジル人住民の言語生活の実態と日本語学習を行う上での諸問題,その背後にある様々な要因を明らかにした.日常生活におけるブラジル人住民の日本語使用は極めて限定的であり,ブラジル人社会の中でポルトガル語を中心とした言語生活を送り,地域の日本人住民との関係性が希薄であること,話し言葉能力は日常会話程度,書き言葉能力はひらがな・カタカナ程度であること,日本語学習意欲は高く日本語学習の必要性も強く感じながらも,目本語学習を継続して行えない社会生活環境にあることが明らかとなった.ブラジル人住民が抱える問題の解決には日本語能力の向上が重要であるだけでなく,地域の日本人住民との交流と相互理解が不可欠である.地域における日本語学習支援のあり方を考える時,日本語教室を単なる日本語学習の場としてではなく,地域住民同士の交流の場として機能させる必要がある.