著者
平田 構造 中西 正恵 中井 昌子 安坂 友希 吉田 美奈子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

衣服の快適性には吸湿性能が重要な因子である。吸湿性の高い衣服では、蒸発した汗の吸湿に伴って衣服が吸着を発生することが布吊を用いた実験結果でよく知られている。しかし、吸着熱が衣服を着用する人体に及ぼす温熱生理的な影響に関する研究は極めて少なく、これまで皮膚温、体温と主観的申告(温冷感)の測定に限られていた。そこで本研究では、汗の吸湿に伴う吸着熱が体温調節反応にどのように影響するのかについて、検討を行うことを目的とした。実験はできるだけ類似の物性値を示すが、吸湿性の高い綿100%(C)と、吸湿性の低いポリエステル100%(P)を用いた衣服を着用した健康な成人女子を被験者として行なった。被験者は室温27.2℃、湿度50%の人工気候室で椅座安静にして、水温35℃の水槽内に下肢を10分間浸漬した後、水温を41℃まで15分かけて上昇し、その後は同温を45分間維持した。この間の温熱生理反応を測定した。実験中、衣服内水蒸気圧、衣服表面水蒸気圧、全身水分蒸発量はCとPの間に有意な差は認められなかったが、衣服に覆われた部位の平均皮膚温、皮膚血流量、服表面温度、衣胆内温度はCとPの間に発汗開始後に有意な差が観察された。別に行った実験衣服のみの吸着熱を測定した結果では、室温27.2℃不変の状態で湿度のみ50%から95%まで上昇させて衣服表面温度を測定したところ、では2.3℃の上昇を示したがPでは0.4℃であり、吸湿によりCがPより有意に大きな吸着熱を示した。以上の結果から吸湿性の高い衣服は水蒸気を吸湿することにより多量の吸着熱を発生しすることが明らかとなった。着用実験でもヒトが発汗を開始すると皮膚から蒸発する多量の汗を吸湿してC衣服に吸着熱が発生するため、皮膚血流量の増加、皮膚温の上昇、温冷感が暑い側の申告をするなどの体温調節反応が明らかに生じることが判明した。
著者
中西 正恵 丹羽 雅子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.251-264, 2001-03-15
被引用文献数
2

本論文では, ワンピースドレスの布の動きの美しさTAV(total appearance value)に及ぼす布の力学パラメータの影響を紹介する.歩行を模擬する動くマネキンに25種の布でつくったルーズなワンピースをランダムに着せ替えていって, 40人の女子学生がTAVを評価した.布の力学特性を, KES-FBシステムにより婦人薄手布用の標準化された条件で測定した.より密接にTAVを布の力学特性と結び合わせるためには, 測定条件を歩行中のドレスの布のかかる力レベルに近づけるよう見直すべきと考え, 我々は, 引張り・せん断測定用のKES-Labo modelを原型とした新しい測定装置を試作した.この装置を用いて, KES-FB1の条件よりも小さい力レベルでの引張り特性, および, 布に負荷する一定引張り荷重を着用時の布の自重とほぼ等価のより小さい値とし, 微小せん断ひずみ領域でのせん断特性を測定した.布の基本力学特性, 衣服の外観に関わる基本力学特性値から誘導されるパラメータのTAVへの寄与が, 重回帰分析により調べられた.これまでの婦人服の動きの美しさについての研究では, 曲げとせん断特性が主として議論されてきたが, TAVには布の引張り特性も密接に関連していることが示された.本研究での知見は, イメージした服づくりのための布の選別や新素材の開発などに応用できるだろう.
著者
中西 正恵
出版者
神戸女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

人間の体温調節や快適な寝心地には、ふとんわたの熱・水分・空気の移動特性が関与する。体積の大半を占める空気と繊維、水分からなるふとんわたの熱・水分・空気の移動特性は、構成繊維の性質とその集合状態により、様々に変化するが、本研究では、快適なふとんわた材料の性能設計に必要な熱・水分・空気の移動特性の基礎データを提出することに主眼をおき、各種の繊維充填材料の通気性、みかけの熱伝導率、さらに、着用状態を模擬したモデル実験により、充填材料を通しての熱・水分同時移動特性を測定し、充填繊維素材や充填密度の影響を調べた。その結果、通気抵抗では、特に繊維の太さの影響が顕著にみられ、繊維が均一にランダム配向する繊維塊では、繊維直径の2乗の逆数と通気抵抗との比例関係がみられた。みかけの熱伝導率では、繊維が細いほど小さいが、同じ繊維直径でも羊毛よりもポリエステルのほうがみかけの熱伝導率は大きく、繊維を粒状に絡ませた羊毛は、同一直径の均一なランダム配向する羊毛よりも大きいなど、繊維の熱伝導率、繊維集合構造なども影響を及ぼすことがわかった。また、ふとんわたでは、充填密度が大きくなるほど熱伝導率が小さくなることや、熱板面の放射率を変化させた実験の熱伝導率の比較から輻射熱移動の寄与が大きいことなどもわかった。熱・水分移動特性では、繊維形態、繊維の熱伝導率や吸湿性などの繊維特性も関与し、たとえば、真綿〔絹〕では、顕熱移動は小さいが、水分移動を伴う場合の熱移動量は大きいなど、各種繊維素材の特徴がみられることがわかった。透湿性の測定は、サーモラボIIによる水分蒸発熱の測定による方法をとったが、さらに精密なデータを得るために湿度勾配法による透湿性の測定を検討中である。本研究では、現在のところ、実験結果の整理にとどまっているが、今後、繊維特性及び集合構造をパラメータとした、熱・水分・空気の移動特性の予測へと発展させる予定である。
著者
丹羽 雅子 中西 正恵
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

衣服の外観の美しさ、着やすさを含む人間の感性と適合した高品質衣服を設計するに当って、衣服の形成能、仕立て映え等に関する布の客観的性能評価法の確立が重要である。しかし、これまで、衣服設計は主としてデザイナ-の感性に基づき、その経験と勘によってなされてきている。衣服が工業生産される今日、特に婦人服は、従来からの天然、人造繊維による多岐にわたる素材に加えて、高度な繊維集合体製造技術を駆使した合成繊維織物"新合繊"や新世代ウ-ル等が開発され、これまでの衣服素材とは異なる全く新規な素材の出現をみるに至っている。しかし、これらの新しい素材の衣服の最適なシルエットデザイン、ならびに可縫性を見きわめた縫製システム制御に関しては、従来の経験を適用することが不可能で、多くのリスクのもとに衣服生産がなされ、そのリスクを背負った消費生活が強いられている。本研究は、より快適な衣生活の実現を目指し、高品質衣服の生産と消費のサイクルを資することを目標として、布の基本力学特性から衣服の最適シルエットをデザインする方法を開発し、その実用性については国内外のこれらに関連する研究分野の技術者の協力を得てフィールドワークによって確認した。他方、高品質衣服を構成するに際して、布の基本力学特性に基づいて最適な縫製の工程設計ならびに工程制御が必要とされることから、シームパッカリング、縫目破損、縫目滑脱の生じない最適な縫目を形成するための縫糸、縫針、ミシンの調整などを選定し、制御する方法等について以下の基礎的知見を得た。(1)布の基本力学特性に基づく高品質衣服のための最適シルエットデザインとそれぞれの最適シルエットの得られる高品質布地の持つ力学的性質の範囲を明確化。(2)高品質衣服生産のための縫製システム制御の基礎的研究として、レーザ光を利用した試作パッカリング検出装置によるパッカリングの客観的評価法の開発と、最適縫目を得るためのミシンの動的上下糸張力の測定法の開発と理論的解析に基づく縫製条件の設定、制御のための基礎的資料の整備。(3)布の基本力学特性に基づく高品質衣服生産のための縫製工程のシステム化とフィールドワークによるその妥当性の検証。