著者
倉掛 重精 中路 重之 熊江 隆
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究計画は、別府大分毎日マラソン大会に参加した選手を対象者としている。平成17年の別府大分毎日マラソン大会は、2月6日に開催された。調査は大会当日のレース前とレース終了直後の2回行った。調査項目はアンケート、鼓膜温、体重、採尿および採血を行い、現在統計学的検討を行っている。そこで今年の対象者の結果ではなく、昨年度の結果について報告する。対象者41名の成績は、完走者29名、途中で棄権およびタイムオーバーのために関門を通過できず失格となった選手(以後非完走群)19であった。レース中の温熱環境条件は、風も強くなく、気温も好条件であった。選手の体重はレース後に2.1kg減少、途中で走るのを中止した非完走群でも1.7kgの減少で、完走した選手群は2.3kg減少が認められ、多量の発汗と血液の濃縮が示唆された。総蛋白値を用いて血液濃縮率を算出した。完走群の血液濃縮率は103.9%、非完走群では103.2%、全員の結果は103.7%の濃縮が認められ、発汗による体重の減少と血液の濃縮が認められた。完走群中には、レース後に脱水のために採尿できない選手がみられた。平成14年度の研究では、多量の発汗による脱水の影響したのか、血液生化学成分と尿中成分との間には、統計学的に有意の相関は認められなかった。完走した選手はレース後に筋逸脱酵素群の有意の増加が認められたが、尿中成分との間ではいずれの項目も有意の相関は認められなかった。そこで15年度は運動後に変動が見られる尿中ミオグロビンの項目を新たに加え、筋逸脱酵素群との関連について検討した。尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群は、いずれもレース後に有意の増加が認められた。そこで尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群との関連性について検討した。レース後のCKおよびLDHの値は、レース後の尿中ミオグロビン値と間で、それぞれ相関が認められた。そこでレース前後の変動について検討した。尿中ミオグロビンとGOT(r=0.347)、CK(r=0.684)、LDH(r=0.511)の間で、いずれもレース前後の差に相関が認められた。また発汗量が多く、レース後に脱水が認められ、発汗の影響を避けるため、レース後に水分を補給した選手を除いた完走群選手11名について検討した結果、CKと尿中ミオグロビンの間で高い相関(r=0.906)が認められた。これらの結果から尿中ミオグロビンが、筋逸脱酵素群の疲労評価の指標になりえる可能性を示唆しているものと考えた。平成16年度の調査においては、尿中ミオグロビンと筋逸脱酵素群の関連について、尿中ミオグロビンが疲労評価の指標となりえるか検討中である。
著者
福田 眞作 下山 克 坂本 十一 菅原 和夫 棟方 昭博 中路 重之
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

食物繊維が人の消化吸収機能に及ぼす影響を以下のように検討した。(1)まず、小腸液灌流法を用いて回腸末端部の小腸液の食物繊維(難消化性澱扮とペクチン)含有量を測定し経口摂取したそれと比較した。(2)大腸内の発酵によるカロリー摂取状況を評価するために食物繊維(難消化性澱粉、ペクチン、セルロース、ラクツロース)摂取後の呼気ガス(水素とメタン)を測定した。(3)^<13>Cにより標識された中性脂肪をペクチンとともに摂取させ、呼気中の^<13>CO_2と^<12>CO_2を測定してペクチンの中性脂肪吸収に及ぼす影響を評価した。本研究で得られた主要な結果を列挙すると以下のようになる.1.内視鏡的逆行性腸管挿管法を用いた小腸液灌流法による食物繊維の回収実験で,食物繊維の一種である難消化性澱粉の回収率は平均値±標準偏差値で345±9.7%であった。これは難消化性澱粉の食物繊維としての価値が平均でわずか34.5%しかないことを示唆した。また個体差が非常に大きく約20%の幅がみられた。2.同様方法で同じく食物繊維の一種であるペクチンの回収実験を行ったところ,平均値±標準偏差値は88.4±10.5%であった。以上よりペクチンは難消化性澱粉に比較し,食物繊維としての価値はほぼ90%と高かった。しかし,難消化性澱粉と同様に20%以上の個体差がみられた.以上より食物繊維はその種類によって真の食物繊維としての価値は大きく異なり,また個人差が大きいことが明らかになった。このことは食物繊維の真の値がin vivo系で明らかにされるべきであることを示唆し,また個人によって異なる消化吸収システムが食物繊維の真の値に大きく影響するものと考えられた.3.食物繊維の大腸内における発酵パターンにはいくつか存在することが明らかになった。この相違は腸内細菌叢の種類と量、食物繊維の小腸通過時間・通過率及び食物繊維の種類に依存していると考えられた。4.短時間における食物繊維の脂肪の消化吸収に及ぼす影響は,想定されているほど大きくないことが明らかになった。食物繊維は1971年のバーキットの繊維仮説の提唱以来注目を浴びてきた。しかし,それは根拠のない健康ブームに乗っかった側面もあった。近年,食物繊維の種類分け,測定法が厳密化し,食物織維と健康に関する研究そのものも,より厳密化してきた。したがって,食物繊維の厳密な評価による,さらなる説得力のある研究が始まりつつある.本研究は食物繊維の評価を科学的に厳密に追及したものであり,今後のより成熟した食物繊維の研究に資するところ大であると信じる。