著者
中野 幹夫 本杉 日野
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

わが国では一般に,同じ果物でもより大きな果実が好まれるため,生産者は果実肥大に努める.しかし,果実の肥大を促すと,モモでは核割れを誘発し,生理落果や品質低下を招く.これまでに,1.核割れは果肉組織の発育に伴って生じた引張力が核を引き裂くことによって起こり,2.未熟な種皮は外気に晒されると大量のエチレンを急速に生成することから,3.果柄基部にまで及ぶ激しい核割れを生じた場合は,大気の流入によりエチレン生成が起こり,落果が誘導される恐れがあるが,4.通常の核割れではエチレン生成、はみられないが,成熟は促され,収穫期直前落果がやや多くなること,等を明らかにした.本研究では,果実発育に伴う果肉と核の物理的強度の変化を調査し.肥大促進した果実の特性を明らかにした.核の硬度は果実発育第1期から第3期に掛けて増し続けたが,核割れの起こる第2期には,弾性が小さく脆いため,外圧が加わると核は破壊され易く,果実肥大を促すとその特性が助長されることを明らかにした.果実基部から核内腔へ色素溶液を加圧注入して核割れ症状を人為的に起こしたところ,核の耐圧力は果実発育に伴って一増加し続けたが,肥大促進区の第2期の耐圧力は対照区のそれに比べ低く,また,果実径と耐圧力との間には負の相関が認められた.摘蕾を主体とした管理によって果実肥大の促進を図ったところ,商品として十分な大きさの果実が得られた.若干の核割れは発生したものの従来の摘果主体の管理に比べて,核割れの発生を大幅に減らすことが出来た.以上から,第2期初めに摘果するよりも,摘蕾や摘花によって細胞数の増加に努め,核の硬化が完了した第2期後期に摘果して肥大を促す方が得策であると判断した.なお,摘蕾を行うと奇形化した種子が増え,胚のうの核DNA量に異常が認められた.その原因究明と生理落果との関係を精査する必要がある.
著者
弦間 洋 小松 春喜 伊東 卓爾 中野 幹夫 近藤 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

暖地での高品質果実生産のための指針を得る目的で、果皮着色機構、成熟制御機構並びに分裂果等の障害発生機構の解明を行い、一定の成果が得られた。すなわち、リンゴ及びブドウ果実のアントシアニン生成経路の詳細な調査を基に、暖地産果実の色素発現生理の一部を解明することができた。例えば、ブドウ'巨峰'の場合、適地である長野産はアントシアニン含量が高く、暖地産のものは低含量であったが、熊本産はプロアントシニンやフラポノール含量が高く、前駆体のフラバノノールからアントシアニンに至る経路が高温によって阻害され、一方、和歌山、広島産ではこれらの含量が低く、フラパノノール合成以前の過程で阻害された可能性が推察された。ジャスモン酸アナログのn-プロピルジハイドロジャスモン酸(PDJ)とABA混用処理をベレゾーン以前に行うと、不適環境下での着色改善に効果があった。暖地リンゴの着色に及ぼす環境要因について、紫外線(UV)吸収及び透過フィルムで被袋し、さらに果実温を調節して検討したところ、低温(外気温より3〜4℃低い)によってアントシアニン畜積が認められ、内生ABA含量も増加する傾向にあった。しかし、UVの影響については明らかにし得なかった。リンゴ品種には貯蔵中に果皮に脂発生するものがあり、'つがる'果実で検討したところ暖地産(和歌山、熊本、広島)は'ふじ'同様着色は劣るが、適地産(秋田)に比べ脂上がりが少ないことが認められた。果実成熟にABAが関与することがオウトウ及びブドウ'ピオーネ'における消長から伺えた。すなわち、ブドウでは着色期前にs-ABAのピークが観察され、着色に勝る有核果で明らかに高い含量であった。また、種子で生産されたs-ABAは果皮ABA濃度を上昇させるが、t-ABAへの代謝はないことを明らかにした。モモの着色機構についても、無袋果が有袋果に着色が勝ることから直光型であることを認めた。さらに裂果障害を人為的に再現するため、葉の水ポテンシャルで-3.0MPa程度の乾燥処理を施したが裂果は起こらなかったものの、糖度が向上すること、フェノールの蓄積があることなどを認めた。これらの知見は暖地における品質改善への指針として利用できる。