著者
王 洪剛 弦間 洋 大垣 智昭
出版者
japan association of food preservation scientists
雑誌
日本食品低温保蔵学会誌 (ISSN:09147675)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.89-94, 1988-09-10 (Released:2011-05-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

スモモ果実'大石早生'のチルド貯蔵における最適貯蔵温度や低温障害の有無を明らかにする資料を得ることを目的として本研究を行った。その結果, 低温障害の発生が認められたので, その様相を明らかにし, 発生機構に考察を加えた。(1) 7℃で貯蔵3週間後には果実が軟化して商品性を失った。-1℃貯蔵では貯蔵25日以後になると低温障害を起こして貯蔵性がなくなった。一方, 0℃貯蔵では貯蔵40日後までは果実が全般的に良好であり, 7℃貯蔵に比べて貯蔵期間がほぼ2倍に延長された。すなわち, スモモ果実の最適貯蔵温度は0--1℃の温度域にあると考えられたが, -1℃では低温障害を起こす恐れがある。(2) 7℃で貯蔵では果実の追熟に伴うACCの蓄積があり, それがEFEによってエチレンに変換されるのに対して, 0℃以下の貯蔵ではEFE活性は7℃貯蔵に比べても十分認められたが, 組織内のACC含量が少なかった結果としてエチレン生成が少なかったものと考えられた。また, 貯蔵中におけるEFE活性はいずれの貯蔵温度でも低下した。(3) K+漏出速度におけるアレニウスプロットを求めたところ, break温度は-0.9℃であり, 低温障害の臨界温度とほぼ一致した。スモモ果実を-1℃に貯蔵すると, 25日経過後に明らかな低温障害がみられた。症状は果肉にまず白斑点が現れ, 次第に褐変軟化するものであった。電解質漏出速度の急増は白斑点発生との前後関係については明らかではなかったが, 褐変発生前に現れた。また, 白斑点の発生前に総フェノール物質の顕著な増加が認められた。
著者
Syeda Shahnaz PARVEZ Mohammad Masud PARVEZ 藤井 義晴 弦間 洋
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.243-249, 2003-12-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
36

バングラデシュ, インド, パキスタン, フィリピン, タイの5力国から収集したタマリンド成熟果実の成分分析を行った.可食部の水分含量は約20%で, 乾物100g当たり粗タンパク質は8.5~9.1g, 脂質は2.7~3.1g, 繊維は2.8~3.4g, 炭水化物は82.1~82.69, カロリーは1, 539~1, 581KJの範囲を示し, 全糖質含量は46.5~58.79であった.構成無機質のうち, 高含量はMg (25.6~30.2mg) とNa (23.8~28.9mg) で, Cu (0.8~1.2mg) とZn (0.8~0.9mg) の含量は低かった.活性酸素ラジカル消去能 (ORAC) と総フェノール含量を計測したところ, それぞれ乾物1g当たりTrolox当量で59.1~66.3μmol, 乾物100g当たり没食子酸当量で626.6~664.0mgを示した.両者間には強い相関が見られた (>0.99, 1%レベル) ことから, 高フェノール含量のタマリンド果実は, 活性酸素ラジカルによる生体の酸化障害から保護する機能を有すると思われた.このようにタマリンド果実はミネラル補給, さらには高フェノール含量に基づく抗酸化性など貴重な食料資源であることが明らかにされた.本報はタマリンド, とくに東南アジア周辺国で収集した果実の抗酸化性に言及した初めての報告であり, 今後, タマリンド果実あるいはその加工食品が, 生体調節機能をもつ機能性食品として利用されるであろう.
著者
弦間 洋 小松 春喜 伊東 卓爾 中野 幹夫 近藤 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

暖地での高品質果実生産のための指針を得る目的で、果皮着色機構、成熟制御機構並びに分裂果等の障害発生機構の解明を行い、一定の成果が得られた。すなわち、リンゴ及びブドウ果実のアントシアニン生成経路の詳細な調査を基に、暖地産果実の色素発現生理の一部を解明することができた。例えば、ブドウ'巨峰'の場合、適地である長野産はアントシアニン含量が高く、暖地産のものは低含量であったが、熊本産はプロアントシニンやフラポノール含量が高く、前駆体のフラバノノールからアントシアニンに至る経路が高温によって阻害され、一方、和歌山、広島産ではこれらの含量が低く、フラパノノール合成以前の過程で阻害された可能性が推察された。ジャスモン酸アナログのn-プロピルジハイドロジャスモン酸(PDJ)とABA混用処理をベレゾーン以前に行うと、不適環境下での着色改善に効果があった。暖地リンゴの着色に及ぼす環境要因について、紫外線(UV)吸収及び透過フィルムで被袋し、さらに果実温を調節して検討したところ、低温(外気温より3〜4℃低い)によってアントシアニン畜積が認められ、内生ABA含量も増加する傾向にあった。しかし、UVの影響については明らかにし得なかった。リンゴ品種には貯蔵中に果皮に脂発生するものがあり、'つがる'果実で検討したところ暖地産(和歌山、熊本、広島)は'ふじ'同様着色は劣るが、適地産(秋田)に比べ脂上がりが少ないことが認められた。果実成熟にABAが関与することがオウトウ及びブドウ'ピオーネ'における消長から伺えた。すなわち、ブドウでは着色期前にs-ABAのピークが観察され、着色に勝る有核果で明らかに高い含量であった。また、種子で生産されたs-ABAは果皮ABA濃度を上昇させるが、t-ABAへの代謝はないことを明らかにした。モモの着色機構についても、無袋果が有袋果に着色が勝ることから直光型であることを認めた。さらに裂果障害を人為的に再現するため、葉の水ポテンシャルで-3.0MPa程度の乾燥処理を施したが裂果は起こらなかったものの、糖度が向上すること、フェノールの蓄積があることなどを認めた。これらの知見は暖地における品質改善への指針として利用できる。
著者
菅谷 純子 弦間 洋 瀬古澤 由彦
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度は、果実発育および成熟時の内生ABA量とその代謝産物であるファゼイン酸(PA)およびジヒドロファゼイン酸(DPA)の定量を行い、ABA生合成遺伝子である9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED)遺伝子、PpNCED1とPpNCED2について、その果実と樹体における発現特性について詳細に検討し、果実発育、成熟時のABAの機能について解析した。その結果、前年度も確認された内生ABA量の果実成熟時における増加とそれに続く減少は、ABAの代謝、すなわちABA→PA→DPAという速やかな変化により制御され、それによりABAの一過的な上昇が認められることが強く示唆された。また、PAは果実発育の初期に多く、その後減少することが示された。さらに、定量PCRによりNCED遺伝子の発現解析を行った結果、ABAの上昇はPpNCED1遺伝子の発現上昇を伴って起こることが示された。その上昇は、エチレン生合成酵素遺伝子の前に認められ、果実の成熟開始の初期にPpNCED1遺伝子が関わる可能性が示された。また、PpNCED1遺伝子の樹体における発現量を比較したところ、PpNCED2は茎で発現量が高いのに対して、PpNCED1遺伝子は茎頂や葉での発現に比較して成熟果実における発現が著しく高いことが明らかになった。ABAの生合成は乾燥ストレスにより誘導されることが知られているため、葉に乾燥ストレスを与えた際のPpNCED1遺伝子の発現量を調べた結果、約50倍の著しい発現上昇が認められ、本遺伝子が乾燥ストレス誘導性の遺伝子であることが明らかになった。また、プロモーター領域をクローニングした結果、複数の重要なシス因子の存在が示された。これらの研究により、果実におけるABAの生合成の制御様式について遺伝子レベルの制御機構が存在することが示され、成熟シグナルとの関与が示唆されたと考えられた。