- 著者
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木村 光江
前田 雅英
亀井 源太郎
- 出版者
- 東京都立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究は,強姦罪,強制わいせつ罪の他,児童買春等処罰法,ドメスティック・バイオレンス防止法(DV防止法),ストーカー規制法,さらに人身売買罪を含む,主として女性を被害者とする犯罪行為を取り上げ,その実態並びに法整備についての検討を行ったものである。まず,強姦罪・強制わいせつ罪については,本研究実施期間中の平成16年に,刑法典改正により重罰化が実施された。本研究では,このような重罰化の背景には,性犯罪に対する国民の意識の変化があることを明らかとした。すなわち,このような変化は,単に性犯罪を「性的自己決定に対する罪」「性的自由に対する罪」とする考え方から,女性の尊厳に対する重大な侵害を伴う「性的暴行・脅迫罪」とする理解へと変化したことの現れであると理解すべきなのである。このような理解の変化は,児童買春等処罰法,DV防止法,ストーカー規制法という一連の特別法制定の延長線上にある。これらの特別法は,従来,「犯罪」とはみなされてこなかった行為類型について,明確に処罰化したものである。女性を被害者とする行為に対して,国民は,より厳格な処罰を求めるようになってきたのである。本研究では,特に,特別法についてその実態を踏まえて分析・検討を行った。その結果,DV防止法,ストーカー規制法においては,刑罰以上に,その前段階としての接近禁止命令や退去命令,警察による警告が極めて有効であることが明らかとなった。ストーカー規制法に基づく,警察による援助も急増しており,これらが効果を発揮していることが分かる。刑罰以前の手段が有効であることは,人身売買に関する分析・検討からも窺われる。すなわち,人身売買罪の制定自体が諸外国に向けたわが国の姿勢を示すものとして重要であることは明白である。しかし,実質的には,特に風俗営業適性化法の改正などにより,人身売買の温床となる営業事態を取り締まることの重要性が明らかとなった。