著者
西川 青季 上野 慶介 井関 裕靖
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は,調和写像の無限遠境界値問題を一般の負曲率等質リーマン多様体に対して研究することである.このような空間の中で,カルノー群とよばれる巾零リー群の1次元可解拡大として得られる「カルノー空間」は,対称空間の一般化として重要なカテゴリーをなす.本研究の目標は,このカルノー空間のカテゴリーにおいて,理想境界として現れる巾零リー群上の幾何学・解析学と,内部領域として現れる可解リー群上の幾何学・解析学の相互関係を,「調和写像の無限遠境界値問題」を通して調べることであり,そのためにはまず,解として得られる調和写像の無限遠理想境界の近傍での正則性(微分可能性)を詳しく調べる必要がある.昨年度の研究において,研究分担者・上野は,「複素双曲型空間形から実双曲型空間形への固有な調和写像で,無限遠境界まで連続的可能性をもって延びるものは存在しない」ことを証明したが,その際調和写像の無限遠境界での正則性は,カルノー空間の不変計量の無限遠境界の近傍での発散のオーダーと密接に関係することが明らかになった.今年度は,この点に関してさらに考察し,次の結果を得た.1.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも小さい場合(例えば,複素双曲型空間形から実双曲型空間形への場合),無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じであっても,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全には決定できない.2.定義域のカルノー空間のステップ数が,値域となるカルノー空間のステップ数よりも大きいか等しく,かつ無限遠境界の近傍での不変計量の発散のオーダーが同じである場合には,固有な調和写像の無限遠境界の近傍での漸近挙動は,その境界値から完全に決定される.西川はこの結果を,上海で開催された国際研究集「International Conference on Modern Mathematics」において,招待講演として発表した.
著者
井関 裕靖
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は離散距離空間の高次元的な構造を見出すことにより離散距離空間の「形」を捉え、さらにこれを離散群の剛性理論等へ応用することを目標としていた。離散距離空間の「高次元的な構造」を満足な形で捉えることは叶わなかったが、その研究過程で得られた観察や結果から、ある種のランダム群が非正曲率空間に対する強い固定点性質をもつことを示すことができた。また、離散距離空間の非正曲率距離空間への埋め込みに対するスペクトルギャップの幾つかの評価を与えることにも成功した。
著者
小谷 元子 塩谷 隆 新井 仁之 熊谷 隆 井関 裕靖 納谷 信 楯 辰哉 石渡 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

幾何学と確率論の異なる分野の関わりを通じて、これまで扱えなかった特異性のある空間や離散的な空間の幾何学の新たな研究方法を開拓することを目的とし、ランダムウォークの量子版である量子ウォークや、非対称ランダムウォークの長時間挙動の幾何学的理解、ランダム群の固定点性質、Alexandrov空間のBishop-Gromov型の不等式、ランダムグラフの収束性などに関する結果を得て、発表した。