著者
安間 了 山本 由弦 下司 信夫 七山 太 中川 正二郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.Supplement, pp.S101-S125, 2014-08-31 (Released:2014-12-26)
参考文献数
65
被引用文献数
1 3

世界自然遺産・屋久島の生物多様性を支えるのは海洋性の環境の中に現出する高山地形である.多くの海洋島が火山からなるのに対して,屋久島の基盤を構成するのは四万十帯の砕屑性堆積岩類と屋久島花崗岩である.本巡検では高山を形成する屋久島花崗岩の貫入機構を,正長石巨晶の定方向配列,岩脈の分布,貫入に伴う母岩の変形と接触変成作用の観察を通して議論する.母岩の四万十帯の地層や枕状溶岩の産状,付加体中での圧密,メランジュやデュープレックス構造の形成,地震による液状化構造がどのような順序で発達したかを観察し,付加体の変形史とメランジュの認定基準について議論する.また鬼界カルデラの噴火に伴う火砕流堆積物の産状,噴火による地震が引き起こした液状化などの構造を観察し,海中における爆発的噴火がもたらしうる災害のシナリオを検討する.
著者
七山 太 渡辺 和明 重野 聖之 石井 正之 石渡 一人 猪熊 樹人
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.413-433, 2018-06-15 (Released:2018-08-18)
参考文献数
66
被引用文献数
3 4

千島海溝沿岸域は本邦屈指の地震多発地帯である.この地には未開の原野も多く,手つかずの自然が残されており,400~500年間隔で繰り返し発生した超巨大地震(17世紀型)によって生じた離水地形や津波堆積物が観察できる唯一無二の地域と言える.また北海道東部には偏西風によってもたらされた完新世テフラが1000年オーダーの頻度で挟在し,地震津波イベントの同時性を議論するうえで有用である.津波堆積物の自然露頭は北海道東部太平洋沿岸でも限られるが,この巡検で最初に議論する根室市西端部のガッカラ浜地域には小規模な沿岸湿原が存在し,その太平洋側には湿原堆積物の断面である泥炭層が,高さ約2m程度の海蝕崖が連続して露出している.この露頭では,6層の完新世テフラと過去4000年間に発生した12層の津波堆積物を確認することができる.一方,根室海峡に面する風蓮湖と野付半島には,我が国には珍しい現在も活動的なバリアーシステムが認められている.これらの沿岸地形を特徴づける分岐砂嘴(バリアースピット)の相互の分岐関係と7層の完新世テフラとの対比によって,過去5000年間の地形発達史が解読され,このうち過去3回分の離水(強制的海退)については,超巨大地震(17世紀型)に伴う数mオーダーの広域地殻変動が大きく寄与している可能性が示唆される.
著者
吉岡 敏和 苅谷 愛彦 七山 太 岡田 篤正 竹村 恵二
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.83-97, 1998-07-03 (Released:2010-03-11)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

The Hanaore fault is a right-lateral strike-slip active fault about 48km long in central Japan. We carried out comprehensive surveys including trench excavations on the Hanaore fault to evaluate the seismic risk of the highly populated area, such as Kyoto City, along this fault. Three trenches were excavated on the fault. On the exposure of the northernmost Tochudani trench, a fault cutting fluvial sediments and humic soil beds appeared. The youngest age of displaced sediments is 460±60 14C yBP, and the sediments covering the fault is 360±60 14C yBP. This faulting event may be correlated to the historical 1662 Kambun earthquake. The southernmost Imadegawa trench was excavated on the road in the urban area of Kyoto City. A thrust fault cutting humic soil with pottery fragments of the Late Jomon period (about 3, 500 years ago) was observed on the trench walls. It was difficult to detect the age of the last faulting event due to lack of younger sediments and artificial modifications of the surficial materials. However, the southern part of the fault might not move during the 1662 earthquake because the damage in this area was much less than in along the northern and middle part of the fault. The historical documents recorded that the land along the Mikata fault which is located at the north of the Hanaore fault was uplifted, and the land along the western shoreline of Lake Biwa where is the east of the Hanaore fault was subsided during the 1662 earthquake. This means that the 1662 earthquake might be a multi-segment event caused by these three faults, the Mikata fault, the northern part of the Hanaore fault, and the faults along the western shoreline of Lake Biwa.
著者
横山 芳春 七山 太 安藤 寿男 大塚 一広
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.7-17, 2003-09-20 (Released:2017-10-03)
参考文献数
30

伊予灘海域で採取された下灘コアの層相および軟体動物化石群を検討した結果は, 以下の4つにまとめられる.1.下灘コアの層相およびこれに含まれる軟体動物化石の解析結果に基づき, DU-A〜Eの5つの堆積ユニットを識別した.このうち最下位のDU-Aを除く上位4ユニットには, 海成粘土層が発達する.2.下灘コア中に認められる軟体動物化石群は, 松島(1984)の区分した感潮域, 干潟, 内湾停滞域, 内湾泥底および沿岸砂泥底の5つの群集の構成種からなる.さらに土石流堆積物には複数の群集構成種が混合した化石群が認められる.3.堆積ユニットごとに見ると, DU-Bには感潮域化石群, DU-Cには感潮域化石群および干潟化石群が認められ, 縄文海進に伴って感潮域〜干潟が拡大したことを反映しているものと解釈される.DU-Dは内湾停滞域化石群が認められ, 水塊の交換に乏しい内湾の停滞水域下で堆積したものと考えられる.DU-Eには内湾泥底〜沿岸砂泥底化石群が認められ, 下位より潮通しの良い内湾環境下で堆積したものであろう.4.下灘沖において海水が侵入し, エスチュアリー〜干潟環境が成立, 感潮域群集の構成種が出現した年代は約12000〜11000年前以前であろう.約10000年前には急激な相対海水準上昇が生じたため, 感潮域群集および干潟群集が内湾停滞域群集へ急速に群集変化したのであろう.これは地震イベントに伴って, 下灘沖の地溝帯が急激に沈降したことによる可能性が高い.約10000年〜8000年前には, 内湾停滞域群集が発達する閉鎖的な内湾停滞域が形成され, 周囲の河川から流入した細粒物質が大きな堆積速度をもって沈積していた.約8000年前以降は内湾泥底〜沿岸砂泥底群集が生息する潮通しの良い内湾環境へと変化したが, これは地溝帯の埋積と同時に瀬戸内海の成立に伴ったものである可能性が示唆される.
著者
七山 太 中里 裕臣 大井 信三 中島 礼
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

平成22-25年度に産総研・地質調査総合センターによって5万分の1地質図幅「茂原」の調査が実施された.このポスター発表においては,その試作版を提示し,各位から幅広く意見を徴収する予定である.茂原図幅の区画は,千葉県房総半島中東部に位置し,北緯35°20’ 11.8”-35°30’11.8”,東経140°14’48.2”-140°29’48.1”(世界測地系)の範囲を占める.本地域の全域が千葉県に属し,茂原市,千葉市,市原市,大網白里市,長生郡長南町,同長柄町,一宮町,長生村,いすみ市の各自治体が所轄している.図幅内の地形は大きく丘陵,台地及び低地に区分される.本図幅の西域を占める上総丘陵は,房総丘陵の北東部にあたる.台地は,図幅の北西端部に下総台地が小規模に分布している.両者の間は太平洋に注ぐ一宮川水系と東京湾に注ぐ村田川水系の分水界となっている.また,図幅の南東部には夷隅川水系が小規模に認められる.上総丘陵を構成する地質は下部-中部更新統の上総層群であり,下位から大田代層,梅ヶ瀬層,国本層,柿の木台層,長南層,笠森層および金剛地層に区分されている.本層群は深海-浅海成の泥岩砂岩互層,砂質泥岩,泥質砂層等の半固結堆積物からなり,下位は深海底,上位は陸棚で堆積したと解釈されている.地層は北東-南西方向の走向を持ち,北西方向に0-5°緩く傾斜し,北西に向かって地層が新しくなっている.一方,下総台地にはMIS5eに形成された上位段丘が分布し,下総層群木下層を段丘構成層として,その上位にHk-KlP群の軽石層より上位のテフラ群を挟む下末吉ローム層をのせる.また,木下層の砂層とローム層の間に常総粘土と呼ばれる粘土層が堆積している場合もある.この台地面は,本図幅内では60m前後から130m前後までの高度で分布し,台地の南端部で高く約130mを示し北に行くに従って高度を下げている.
著者
七山 太 山口 龍彦 中西 利典 辻 智大 池田 倫治 近藤 康生 三輪 美智子 杉山 真二 木村 一成
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.9, pp.493-517, 2020-09-15 (Released:2020-12-15)
参考文献数
93
被引用文献数
3

南海トラフ巨大地震によって沈降が予測されている宿毛臨海低地において沖積コアを採取し,LGMの開析谷を埋積する沖積層の特徴と堆積シークエンスの検討をした.松田川開析谷はLGMに形成され,その後の後氷期海進により,9.8kaに標高-30mに海水が到達し,エスチュアリー環境へと変化した.その後も海水準は上昇し続けて内湾泥底環境となり,7.5kaに最高水深時となった.7.3kaに起こった南九州の鬼界カルデラ噴火により,給源に近い宿毛湾周辺においてもK-Ah火山灰が厚く降灰し,その直後に大規模なラハールが発生した.その結果,水中二次堆積物が急激に堆積した.7.0ka以降にデルタの成長が他の地域に先行して活発化したが,これは大規模なK-Ah火山灰の影響と考えられる.SKMコアから得られた過去1万年間の海面変動情報に基づくならば,宿毛湾地域は南海トラフ巨大地震によって一時的に沈降するものの,長期的に見るとそれらの沈降量は相殺されると理解される.
著者
安藤 寿男 七山 太 近藤 康生 嵯峨山 積 内田 康人 秋元 和実 岡田 誠 伊藤 孝 大越 健嗣
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日本各地の白亜系~現世カキ化石密集層や現生カキ礁において,産状や堆積構造の観察,カキ類の形態・生態調査から,個々の密集層や礁の形成過程を復元し,形成要因を考察した.道東の厚岸湖では現世カキ礁を含む完新世バリアーシステムの堆積史や海水準変動を復元し,パシクル沼では縄文海進初期の津波遡上による自生・他生カキ化石密集互層を認定した.また,九州八代海南部潮下帯のカキツバタ礁マウンドの地形や生態を調査した.
著者
吉本 充宏 古川 竜太 七山 太 西村 裕一 仁科 健二 内田 康人 宝田 晋治 高橋 良 木下 博久
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.595-606, 2003-10-15
被引用文献数
5 18

鹿部冲の海底に分布する北海道駒ヶ岳火山1640年の岩屑なだれ堆積物を調査した音波探査の結果,海底岩屑なだれ堆積物の分布の末端部を確認することに成功したこれらは溶岩流などに認められる急勾配の末端崖は示さないものの,傾斜の変化を示す海域に分布する流れ山は岩屑なだれ堆積物分布末端部では存任せず,流走距離に反比例して規模・分布頻度が小さくなる傾向を示す海域における岩屑なだれ堆積物の分布は,主方向が北東方向と東方向の双頭状の分布を示し,給源からの最大水平流走距離は約20km,最大幅は約15km,分布面積は約126km^2であるH/L比は0.06であり,海底を流走した岩屑なだれは同規模の陸上岩屑なだれより流動性が高い傾向がある実際に海中に流入した体積は,探査から求めた海底地形データによって見積もった体積に,薄く広がった部分と流れ山の体積を加えた0.92〜120km^3と見積もられた
著者
石川 智 鹿島 薫 七山 太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100124, 2012 (Released:2013-03-08)

はじめに東北地方太平洋沖地震による津波発生以降、各地の陸上・海底における津波堆積物の記載が行われている(たとえば、Goto et al., 2011;Abe et al., 2012など)。陸上に残された堆積物については、遡上方向に向かって層厚と粒径の変化が確認されている。津波堆積物は、陸上では風雨や人為によって消失してしまうが、水に覆われる湖沼や湿地ではよく保存される。湖沼流入型の古津波堆積物についてはBondevik (1997)によって記載され堆積ユニットが明らかにされている。現世の湖沼流入型の津波堆積物の特徴を明らかにすることによって、北海道東部太平洋側などの沿岸湖沼で認められる津波痕跡への応用が可能となる。本研究では宮城県七ヶ浜町に位置する阿川沼とその周辺に遡上した津波堆積物を扱う。阿川沼は宮城県七ヶ浜町に位置し海岸線に直行する方向に細長い形状の堰止湖である。東北地方太平洋沖地震による津波発生時には、阿川沼周辺においては海岸付近で浸水高10 mを記録し、内陸2 km地点まで到達した。この沼に関する研究例は非常に少なく、水質分析とプランクトン調査報告があるのみである(田中 1993など)。この阿川沼において湖沼の存在が津波堆積物の分布とどう関わるのか検討する。研究手法海岸から阿川沼を通り、浸水域最奥部までの測線を設定する。阿川沼の海側湖岸・沼中・内陸側湖岸と最奥部でそれぞれ柱状試料を採取し、層相観察と帯磁率測定、測色、珪藻分析を行う。観察の結果と今後海側湖岸と内陸側湖岸、浸水域最奥部における柱状試料を観察したところ、これまでの研究と同じく海側ほど砂層が厚く、内陸に向かって細粒化し薄くなっていく傾向が見られた。表層は植生が繁茂しており土壌化も見られた。現在各試料の層相ごとに珪藻分析を進めており、津波が淡水湖に流入した際にその周辺に残される珪藻種構成の変化や珪藻殻の破片化について考察予定である。謝辞GPS測量は産業技術総合研究所の機器をお借りし、渡辺和明氏にデータ解析していただいた。ここに記して感謝いたします。
著者
七山 太 村上 文敏
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

1998年以来行われてきた北海道東部太平洋沿岸の巨大津波痕跡研究において,未だ不明確であった根室地域において,2008年6月,根室市西尾建設(株)の協力を得て,根室市南部沼中央の沿岸低地でメガトレンチを掘削し,過去5500年間に堆積した泥炭層中に16層の巨大津波堆積物の層序が確認された.翌2009年11月,第一産業(株)の協力を得て,南部沼西部,桂木採石場において,幅100mにも達するメガトレンチ断面における巨大津波堆積物の側方層相変化を観察することが出来た.2010年11月,我々はこれら2つのメガトレンチの側壁上面に地中レーダー探査測線を設定し,巨大津波堆積物の側方層相変化をイメージングすることを試み,その実用性を検討した.今回のGPR探査には Sensors & Software社のpulseEKKO100(200MHzアンテナ)とNoggin 250MHzを併用して行った.この際,観測点間隔はpulseEKKO100が0.25m,Noggin 250MHzが0.05mとした.探査深度は湿原環境の場合約6~8m以浅と限定されたが,記録の解像度は15-20cmと高く層相のイメージは可能となった.
著者
安原 盛明 入月 俊明 吉川 周作 七山 太
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.633-643, 2002-10-15
被引用文献数
5 23

大阪平野南部の堺市で掘削されたボーリングコアから採取した33試料中から少なくとも72種群の貝形虫化石が産出した.クラスター分析の結果これらの試料は大きく6個のbiofaciesに区分された(PS,SBm,LS,PL,CL,LC).本研究では完新世における堆積環境と相対的海水準の変化を貝形虫群集に基づいて復元した.大阪平野南部では,約9,000-6,000年前(暦年)に急激に海水準が上昇し,その後,現在の海水準まで下降した.最高海水準期は約6,000-5,600年前(暦年)であった.この海水準変動の傾向は大阪平野中央部や大阪湾海域での海水準変動によく類似しているため,これらの傾向は大阪堆積盆地で高い普遍性を持つと考えられる.また,塩分濃度,海岸線からの距離,沿岸流や波浪による影響は相対的海水準変動と良く対応して変化する.