著者
今井 正司 今井 千鶴子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1098-1104, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

本論では,Wellsが開発したメタ認知療法(Metacognitive Therapy:MCT)の理論的背景とその技法について概観した.はじめに,MCTの中核的な理論である自己調節実行(Self-Regulatory Executive Function:S-REF)モデルについて論じた.S-REFモデルは,メタシステム(metasystem unit),下位処理ユニット(low-level processing unit),S-REFユニット(S-REF unit)で構成されており,すべての感情障害に関連してみられる認知注意症候群(Cognitive Attention Syndrome:CAS)と呼ばれる非適応的な認知処理様式について説明するモデルである.CASへの主要な介入としては,メタ認知的信念を変容させる方法と,注意の柔軟性を向上させる方法がある.メタ認知的信念に介入する方法については,全般性不安障害の患者さんを例に,「心配の内容」ではなく「心配の機能」に着目する必要があることを論じた.注意の柔軟性に介入する方法としては,注意訓練(Attention Training:ATT)の理論的背景とその技法について,S-REFモデルを用いて論じた.最後に,MCTの効果的な適用とその基礎モデルの発展に関して考察がなされた.
著者
今井 正司 今井 千鶴子 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-15, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

行動分析的な観点に基づくアセスメントと支援は、児童の行動を環境に適応させる効果的な方法であることが確認されている。しかしながら、従来型の行動アセスメントにおいては、多面的な問題行動を体系化する方法が確立されていないという問題点がある。そこで本研究では、システム構造分析を用いたアセスメント(システム行動分析)を適用し、多面的な問題行動を"反応階層"や"連鎖構造"からとらえることを試みた。その結果、問題行動の多面性を数量的に把握することが可能となり、効率的な支援を行うためのポイントが示された。最後に、従来型の行動アセスメントの知見を参照しながら、本研究で得られた知見の重要性について考察された。
著者
今井 千鶴子 今井 正司 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1-2, pp.309-316, 2007-04-30 (Released:2017-01-26)

本研究の目的は,心身ともに健康な女子大学生を対象に,不安感受性(anxiety sensitivity)が痛み経験(痛みの閾値,痛みの耐性の程度,痛みの主観的評価,痛みへの恐怖感,痛みへの認知的対処方略)に及ぼす影響について実験的に検討することであった.実験参加者31名は,日本語版不安感受性尺度によって,不安感受性低群(n=12)ならびに不安感受性高群(n=19)に分けられ, 3℃の冷水に手を浸す課題(コールドプレッサーテスト)に取り組むことが要求された.コールドプレッサーテスト中に閾値,耐性の程度の測定を行うとともに,コールドプレッサーテスト終了後には,ペインスケール(痛みの主観的評価),多面的痛み尺度(痛みへの恐怖感),日本語版coping strategy questionnaire (痛みへの認知的対処方略)を実施した.その結果,不安感受性高群は不安感受性低群に比べて,痛みの主観的評価が高いことや,自分自身を励ますといった肯定的な自己教示の対処方略を多く用いていることが示された.以上の結果から,不安感受性は痛みの主観的評価や痛みへの認知的対処方略に影響を与える重要な変数であることが示唆された.
著者
今井 千鶴子 今井 正司 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.474-480, 2007
被引用文献数
1

本研究の目的は,一般大学生を対象として,日常的に経験する痛みに関する実態把握を性差の観点から検討することであった.対象者は,408名(男性196名,平均年齢2128±1.76歳;女性212名,平均年齢20.77±1.49歳)であり,質問内容は,過去1カ月における「痛み経験の有無」「痛みの部位(複数回答可)」「最も強い痛みの部位と痛みの主観的評価」「痛みが原因による鎮痛薬服用の有無(市販薬,あるいは医師からの処方薬)」「痛みが原因による通院の有無」「痛みによる日常生活への支障の程度」「痛みへの対処方略」であった.調査の結果,男女ともに,6割以上が日常的な痛みを経験していることが確認された.また,わが国の青年期における痛み経験の性差はみられにくいことが示された.さらに,痛みに対して破局的に対処してしまう傾向と主観的な痛みとの関連が示されたことから,従来の身体的対処(薬物療法)に加えて,心理的対処(痛みに対する心理教育や認知の変容)を行うことが,青年期の痛みに対するマネジメントを行う際に有用な技法になることが示唆された.