- 著者
-
伊藤 奈緒
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.4, pp.797-814, 2006-03-31 (Released:2009-10-19)
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
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集合目標へ同調した個々人が, 運動参加/不参加へと分岐する要因はどこまで探ることが出来るのか.資源動員論以降の運動研究はフリーライダーの不参加理由を詳細に検討する必要性を訴えてきた.近年では, この選択過程に対し心理的要因を再導入して分析する傾向がある.これらの動向は, 運動を集団内在的に捉えず, 周辺の不参加者や傍観者にも注目し, 運動と社会の関係そのものを考察する必要性を示している.こうした先行研究を受け, 本稿は運動参加/不参加理由の再検討に質的調査を通じて取り組む.事例としてアイヌ民族の権利獲得をめざす非アイヌ民族の運動を取り上げ, 運動参加者と不参加者の双方にインタビューを行った.また安立清史による問題提起に着想を得て, 集合目標への賛意や敵対に回収されない意味構築の場面を考察した.両者による意味構築は, 以前のアイヌ民族の権利運動で支援者が依拠した自己否定の規範意識に関連している.自己否定の理念は, 一般に現在有力な動員資源だと認識されていないが, さらにこの規範意識が参加障壁をも形成している点が明確になった.つまり「軽い参加」を懐疑する不参加者, そして文化的関心と集合目標への共鳴という二重の運動参加動機を保とうとする参加者の姿勢が見出されたのである.ここから, 両者とも自己否定の理念を動員資源として認めていない一方で, 自分と無関係なものとして無視しているのではないという状況が明らかになった.